283:留守のなごり

 

▽赤の聖地に帰還した。
▽従魔と従者が 出迎える。

「おかえり~~!!」

ドドドドド!
レナが目を丸くする。

「うわっみんな半泣き……!? えっそんなに!? ふ、ふふ。えへへ。ただいま。ご主人様はここにいるよぉおおああああ~!」

一番泣くのはいつだってレナである。
従魔はレナと離れていてどんどん寂しくなっていたし、レナは必要とされて嬉しくて、子離れをしようと思っていてもやはり、どうしようもなく求め合ってしまうのだった。

触れ合っている今だけは主従愛で心がいっぱいになる。
わちゃくちゃと集う。

ぶるぶる震えている元夢組織三人をぎゅっと抱いたレナを、ルーカがじーっと眺めている。

「……うん。おかしなことはなかったみたいだね」

ホッと一息。

当社比、当社比。些細なトラブルは通常運転。
▽魔眼検査は合格!

従魔の人垣をするりとくぐり抜けて、獣型オズワルドがレナの後ろに現れた。くんくんと鼻先を動かす。

『主さん、今、外のにおいがする。んー、洗い流したほうがいいよ……』
『『ざっばーーん!』』

▽レナたちは クジラ型スライムにとりこまれた!
▽ヌメヌメ、とぅるるん
▽ツヤツヤ、しっとり
▽綺麗になりましたーー!

肌はジュエルの輝きをまとっているし、ホコリはひとつ残らず溶かされて、いつも通りのお花とハーブの清潔な香りになった。

「ぷっはぁ……仕事が早い……! びっくりしたぁ」

「ご主人さまっ。血……血ぃ……うう、私の血、吸っても、いいよ……!?」
「シュシュの胸に飛び込んできて!!さあ!!」
「みんな何かをしてくれたいんだね、でも落ちついて!?」

レナがぷははっと笑った。

「ありがと。でも血とかは……」
「「赤い贈り物なのに?」」
「まあそうだけど。気持ちだけいただいとこうかなぁ」

レナがまた笑う。

「今がとっても幸せだから、もうこれ以上、入りきらない」
「『従えてぇぇーーー!』」
「あっごめんあとちょっと入る。もっといける。おいで!!」
「やったーーー!」

▽ハグパーティは続く──

時計の針がぐるりと一周してしまった。
半日も離れていれば、話すことがありすぎて。盛りだくさん。
記録をする護衛たちも大変だ。頭では覚えきれない情報量、記録しているリーカの目がだんだん充血してきている。

レナたちが連れ添ってレッドカーペットを歩くのは、パレードさながらの華やかさ。存在が派手!!!!

「はー。ここ最近主さんと離れてみて、モスラの気持ちが分かったっていうか……」
「そうでしょうそうでしょう」
「そうなんだぁ。エヘヘヘヘへ」

オズワルドとモスラの会話を聞いて、レナが頬を緩める。スキップ。転んだ。ハマルが滑り込んで踏まれた。

『レナ様嬉しそう~。従魔に求めさせてご満悦なんて、なんだかサディスティックでどきどきしちゃう~』
「ハーくんニュアンスがたぶん違う、誤解……!」
「分かるよね~アグリスタ~?」

▽ハマルの デッドボール!

「ひえっ!? わかわかわかるような気がしなくなくも、ないですぅ……?」
「ソコ無理しなくてもいいからね」

レナはそう止めたものの、キョトンとしながら頬を染めるアグリスタの様子が気になる。

(いけない。最近ハーくんのマゾ的布教力がやばい。健全に育って!……でものびのびと成長してほしい! 子育てのジレンマが~)

(二人には決定的な性質の違いがあります)
(あっルーカさん?)
(ハマルは叩かれたい、アグリスタは縛られたい)
「んーーーー!」

▽レナの苦悩は続く。

レナをからかってくすくすと笑ったルーカは、パチリと瞬きした。

「レナの中に可能性の芽が一つ。おや」
「いま!?」
「……キラと話し合ってからにしようかな」

ルーカがきゅっと口を閉じてから、キラと目配せをする。眼差しはわずかに鋭く。

▽夜の従魔会議が決定した。

レナの知らないところで従魔たちの交友関係も進んでいる。
レナは静かに従魔の背中を眺めた。

モスラがルーカを小突いた。ものの言い方がわるい、という注意──ゴスッ。

「いたっ。あ、レナ、情報が曖昧なまま出したくないなってだけだから。あとでちゃんと連絡するからね?」
「はーい」
「うわ不満そう。頬が膨らみすぎ」

▽レナのモチモチ頬は ミディとチョココにつつかれて遊ばれた。

「言葉足らずは甘えですよ。ルーカティアス」
「私が文章マナー講座開こうか? ルーカお兄ちゃん」
「僕もマナー講座しましょうか? ルーカお兄ちゃん」
「うわごめんなさい。圧がすごい。え、リオまで乗ってくるの!?」

モスラとアリス、リオとルーカ。珍しい組み合わせの会話が聞けたのは、やはり、レナがいなかったからこそなのだろう。

(私が望んだ、新しい可能性……。みんなの成長)

寂しい、とはなんだか違っていて。
嬉しい、はもちろんあるけれど。仲良くなっているんだし。

(今、モヤっとしたのはなんだろう?)

レナはそっと、自分の胸に手を当ててみた。

(わかんないなぁ)

「レーナ!」
「うわっ」

パトリシアに手を引かれて、レナはガーデンへ。
ルーカたちは館内へ行き、バタバタとスウィーツモムを追いかけて走った。

ガーデンに土俵が用意されている。
なんだこれ、しかしすぐにピンとくるレナはトラブルに慣れっこだ。

「通話で、大運動会とは聞いていましたけどね!?」
「「それですな~」」
「ねーパトリシアちゃん~!」
「いやマッチョマンが繁殖しちゃってさ……大丈夫一代限りだから。逆に、この超速マッチョマンたちはなぁ一世一代の勝負のためにここに咲いたんだよ……熱くねぇ!?」
「なに感激してるのー! しっかり! 常識もって!」

だいぶ前から常識はいない。

土俵を囲むように、ずらりと小さな影が揃っている。

かたや、鮮やかな緑色とかぐわしい花を咲かせた超速マッチョマンフラワーたち。

かたや、色形さまざまであまーい匂いを漂わせるスウィーツモムたち。

無言のにらみ合いが続いている。

(なんてことになってるの……)レナは口の端を引きつらせた。

▽マッチョマンVSスウィーツモムの 陣取りバトル!

……という経緯らしい。

スウィーツモムがガーデンに増えすぎたため、マッチョマンがけん制したところ、モムは「イヤイヤ」と暴れ始めたのだ。
喧嘩を始めたので、従魔たちが「レナの到着を待ちなさい!」と取り成した。

「どうしたいかは、主人の意見が大事だからね」
「まあ、私が言っていたのは”みんな仲良く待ってて”ですからね……。お約束を守れてえらーいですねーちくしょーぅ」

レナがルーカの頭をグリグリとつよめに撫でた。
金髪にパリリと静電気がおきて、レナの手に髪がくっついたことに笑った。

「……で! 私が決めるわけか。んー」
「ちなみに補足。喧嘩しないと気がすまないらしい。マッチョマンやモムは、理性が魔物未満だからね、一度ヤル気になればしばらく昂ぶっているよ」
「ええぇ……実質選択肢ないじゃないですか。うーんまあ、代表二人が腕相撲で勝負! で何とかならない?」

<承知!>

キラがわくわくと異空間からゴングを出す。

「土俵だよねぇ!?」
<作り変えますね。腕相撲にふさわしく。私、上手くなったんですよ♡ きゃっ♡ ダンジョンメイキング……>

▽土俵が半円状に窪んだ。

<コロシアムです。真ん中に腕相撲用の台を作って……と>

▽窪みのドーナツ型コロシアムが 完成した。

<スウィーツに土がつくとまずくなるので、床をコーティングしたいですね>
「妾がやるのじゃ」

クエストクリアで自信をつけたキサが、窪みの表面を[氷結]させた。
見事なうす氷。
ドヤ顔をしていたキサは、やんややんやと褒められて、だんだん照れて赤くなっていき、その耽美な様子がラミアの里に共有されて温泉がうっすら赤く染まるという珍事が起こっていた。

「レディーーー……ファイっ!」

レナが叫ぶと、キラがゴングを鳴らした。
カーーーーン!!

マッチョマンとスウィーツモムたちがコロシアムに駆け込んで行く。
ルール違反ー!

▽マッチョマンの アイアンクロー!
▽マッチョマンの かがやくカラダ!
▽マッチョマンの シャイニングウィザード!
▽スウィーツモムの わたあめのねばり!
▽スウィーツモムの ゼラチン固め!
▽スウィーツモムの チョコドリル!
…………

「コラーーー! 一対一って言ってるでしょーー!?」

カンカンカンカーン!
キラがゴングを打ち鳴らすも、大乱闘は止まらない。

レナの声では、止められない。

留守中に鎮めた時は、従魔が威圧を効かせたという。

「……称号[お姉様][赤の女王様(覇道)][サディスト]セット。脚を折り曲げて頭を垂れて、跪きなさいなっ!」
▽後光!
▽威圧!
▽鞭スパァン!

それはすなわち正座であった。

レナの一喝で、スウィーツモンスターとお花とマリアベルは反省した。(ノリノリで援護していたのでマリアベルは厳重注意となった)

「約束破りはだめですよ」

モムたちは「イヤイヤ」している。

「レ、レナ様……」

ジレたちが震えあがってしまって(あちゃー)とレナは悩み、伝えておくことにした。あとにわだかまりが残らない方がいい。

「私でも怒ることはあるよ。覚えておいてね。どこに怒っているのか、考……いいや言っておこう。喧嘩はできるだけ口頭で、むりなら決闘で、でも大乱闘はだめです。ってこと」
「大乱闘はだめなの?」
「約束破りがだめだったのは分かるけど……」
「せめて決闘?」

ジレたち三人が首を傾げた。
レナはピシリと背筋を伸ばし、教育モード。

「口頭か、決闘なら、誰がなにを不満に思ったのか少しずつ語り合えると思うんだよ。口と拳でね。でも大乱闘はごちゃ混ぜになるでしょう。
みんなの気持ちがまるごと同じってことはなくて、似ていても違うの。ここではせっかく、その細微なところを尋ねる余裕があるんだから……」

レナが「ね」と微笑む。

はー、とジレが感嘆の息を吐いて、毒耐性布の服の袖をそっとつまんだ。アグリスタは首の縄に触れていて、マイラは前髪の間からまん丸の目でレナを見つめる。
ここでなら、一人ずつ、多様でいられて分かり合える。

うんうん、と大人たちは共感して頷く。

子どもからの純粋な質問が飛んできた。

「スウィーツモムはモムですよ~? 脳みその生クリームだってないですもん~。私……うう〜わかりませんよ〜! モムの気持ちも制御もわからないです〜!」

チョココの眉がへにょりと下がって、眉尻からチョコレートが垂れた。初めて、不安と直面したようだ。

(……難しい〜。ここで、上の責任問題だからってチョココとパトリシアちゃんに制御を求めるだけなのは違うと思うんだよね〜)

「一緒に尋ねよう、モムたちに。根気強く」

レナがチョココの横にしゃがみこむ。

「レナ様は、どうやって従魔を束ねているんですか〜? けいやく? まほう? 私もそのうちつかうのでしょうか」
「え」

レナはチョココの甘い目を見つめてから、振り返った。
頼られた!!と嬉しそうに金色の猫耳を揺らすルーカがいる。

「あのね! チョココはスウィーツモンスターの束ね役という立場にいる。種族がスウィーツプリンス、お菓子の王族だからね。これからはコミュニケーションとレベルアップで、統率能力が強化されるはず」
「そっかー♪」

難しそうだからこまったなって思ってました! とチョココがほっとする。ホットチョコレートになってとろけた。

食堂。
従魔たちが卓につく。

「さて」

レナが深妙な表情で切り出した。

▽スペシャルチョコプリン花の彩り がテーブルに鎮座している!

コロシアムをくるんと反転させたようなドーム型、真ん中に腕相撲台の穴。
つまりは先ほどの大乱闘で、できあがってしまったバトルスウィーツ。

「ぷぷ、ふふふ……!」

経緯を思い出してどうしても笑ってしまうルーカが落ち着くのを待ち、みんながしばらく沈黙している。
ルーカがひと笑いを終えて、咳払いした。

「──食べられるよ」
「っあーー!」

レナパーティのほとんどが机に突っ伏した。

食べられなければ廃棄も仕方ない、が、食べられるなら食べるべきなのだから。原材料がアレだけど。

「うう、すまぬレナ様……妾の氷がゼラチンを固めてしまったばっかりにっ」
「いやいやキサのせいじゃないよう……粉々になるまで戦ったモムたちの自己責任だと思ってます」

自己責任、とは悪い意味で使う言葉ではなかっただろうか、とレナが遠い目になる。スウィーツモムたちは結局食べてもらえて嬉しいのだから、なんなんだこれは。食用系マゾのご褒美か。無敵すぎる。

「みんなでこれを食べて、一件落着……でいいのかなぁ……」
「物事にいつだって正解があるわけでもないって」
「心強い。でもねパトリシアちゃん。もとい専属ガーデナーさん」

お花の管理責任をちょっぴりお願いね? と、レナが一口目のフォークをパトリシアに渡す。
チョコプリン(花多め)がぶっ刺さっている。

「うっ。……お花可愛いじゃん」
「ポジティブに気持ち切り替えて頑張ってるのわかるよ」
「妙な同情をせんでいいから。──いただきますっ」

▽パトリシア、食べたーーーー!

「うまいっ!」

口の中でとろけてほどけて、なかなかしっかりした甘みが舌にガツンとくる。つよいプリンだ。芳香はふわっと上品なのが逆に面白い。変態的ハーモニー。

そんなふうにパトリシアに囁かれて笑わされたレナは、手をぷるぷるさせながらスプーンを持ち上げる。

「さあ私たちも食べよーぅ。いただきまーす」
「いただきまーす!」

レナたちがスウィーツに舌鼓を打つ。
変な食品は慣れている。
味と効能が素晴らしいなら、それでいいじゃない。
お花とお菓子、ロマンチックじゃない。
ね!!!!!

チョココが、寄ってきたわたぐもモムと指先で戯れている。
ちいさなゆびでツンツンと弾くと、もこもこと飛び跳ねた。
ふと、チョココがレナのほうを向く。

「ねーレナ様。陣地とりごっこ、しちゃダメなんですか〜?」
「んー。争いになるっぽいしね〜」
「私たち王族にとってはたのしいお遊びなんですが〜」
「そういう種族性? なるほど」

レナを見つめる、従魔や従者の瞳。
それぞれがレナの言葉をひとつ残らず聞こうとしている。
自分を頼ってね、と訴えかけてくるようなきらめく目もある。

自分がとても高いところにいるような感覚だ、とレナは思った。

レナがこくりと喉を鳴らした時、隣に赤い影が横切って、ルージュがすっと、手をあげた。

『ここはレナ様が管理する、赤の聖地。お屋敷と敷地と従う者、全て彼女のもの。それをもうすこし自覚いたしましょう』

普段は静かに家事をこなすルージュが主張したので、全員が驚いた。

ルージュはポッと頬を染めた。

『わたくしも……反省しているのです。レナ様がおられない間に、それぞれの持ち物に名前を刺繍したり勝手なことをしてしまって……ああっ』
「え、それは助かるよ。私たちお揃いでものを買うこと多いから」
『まあ! 寛大なお言葉、感謝申し上げますわ』

ルージュがレナにぴたっと抱きつき、なつき始めたので、それぞれがしだいに食事を再開した。
先ほどとは異なるのは、それぞれが、立ち振る舞い見直してみよっかーと雑談をしていること。

食後、レナはルージュに呼び止められた。
つん、とローブのすそをつまむしぐさが慎ましくて美しい。指先の揃え方はいつもととのっていて、洗練されているとレナは感じた。
ルージュはどのように生きていたのか、まだあまり知らないとふと思う。

ルージュの唇が囁いた。

『レナ様。このあと、秘密のお部屋でナイトティータイムといたしませんこと? わたくしも恋しいのですわ、主人であるあなたのことが』
「わかった」

赤薔薇が寄り添った。

 

 

 

 

 

 

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