281:商店街散歩

レグルスの手の力はどちらかといえばか弱くて、レナがすこし引っ張れば離れてしまいそうなくらい。
力を入れすぎないように気をつけているらしい。
そわそわとレナに「痛くないですか」と聞いてくる。
リードに慣れていないなら、レナの方からぎゅっと必要な分の力を入れてあげたらいい。
ほら、ぽうっと髪が赤く色づいて嬉しそう。
(可愛いねっ……!)

「それではレナ様、どちらに?」
「……ハッ、そ、そうだなぁ。チョココたちを視界に入れながら、ふらっとがいい」
「承知しました」
「レグルスも気になる店があったら教えて〜。あなたの好みも知りたい」

レグルスがふっと目元を和らげて、それから「ふむ」と自分の顎を指先でなぞって前を見渡す。

「……もう少し先、カフェに」
「珍しいねー。楽しそう!」
「きっと楽しんでもらえると思ったので」
「……自分も好きなもの、だよね?」
「ええ」

レグルスが頷いたので、レナはそれ以上は言及しなくて、苦笑して手を引いた。

(多分、自分の嗜好的好みが少なめってことだから)

ご名答。

(それでも、私たちと楽しむことが楽しいっていうならねぇ。可愛いじゃないのー! さっきからめちゃくちゃ可愛さ増してる~! くう〜)
▽ご主人様は嬉しいよ!!!!
▽リラックスレナは 語彙力が低下している。

前方のキサとミディは、あれこれと店先を眺めながら感想を言い合っている。あちらは好奇心旺盛で、レグルスとは対照的である。なんなら好みの違いで言い争いしている始末。

「ええと、どうしたの……?」
「薔薇のアイスキャンディがあってな。ほらアイスの中に薔薇の花びらも入っていて、妾は素敵だと思うのじゃが……」
「コッチは色が綺麗だケド、イヤな感じがするモン。この店の一番ならザクロがイイノヨー!」
「ストップ!」

店の真ん前でそんなことを言うのはマナー違反。
レナは両方買って、あわてて店から離れた。
レグルスが鼻を効かせて薔薇のアイスキャンディを嗅いでみて、一口食べると吐き出した。

「酸味が強め。わずかに苦味。薔薇の品質がおかしいか……これは食用ではなく観賞用の薔薇が使われているようです。こんなものをわざわざ売って商売にするわけがないですから、運送上のトラブルと見るべきでしょうね……」

レグルスが呟いた時には、クドライヤがもう動いていた。
店に赴き事情を説明、運送経路の見直し、経済部への連絡など。
不機嫌そうにしていた店主はサッと青ざめて、後日レナパーティのところに大量のお詫びの品(さまざまなアイスキャンディ型)が届くことになる。

「ミディ、すごいのじゃ」
「勘ナノヨー♪」

悪いことをした、とキサがしょんぼりと謝る。

「キサ、お出かけを楽しもうとしていただけなんだから落ち度じゃないよ。さあ、今からも楽しいことがいっぱいあるはずだから! あなたはワクワクを見つけるのが上手なんだから、私たちを導いてちょうだいな?」
「妾が……!?」

キサがハッと顔を上げた。
しょんぼりしていた表情は、キラキラと眩しいほどの美貌に。
(近寄ってきた不審者たちは護衛部隊が撃退した)

「よぅし起きるのじゃチョココ! お出かけを楽しもうではないかっ」
『ねむむ〜。もーっと眠いですぅ……』
「もったいないぞ? ほらおぬしが好きそうなパン屋におもちゃ屋に菓子屋、弾ける気分でまいるのじゃ!」
『弾けるぅ?』

▽パーーーン!
▽チョココが弾けて分散した!
▽護衛部隊が大慌てで回収した。

(とても人数が足りねぇっすよーー!?)
(増員要請を出すしかないな……俺から連絡をしておこう)
(ぜえはあ……もー全員です! 第三の目ガン開きですよっ)
(リーカ先輩口悪……あっいえなんでもないです)
(全部言ってるわよ)

小競り合いをはじめた部下を置いて、ロベルトが腕いっぱいのミニチョココをレナに届けた。

「ありがとうございます。通りすがりの雪豹さん」
「落し物には気をつけて」

ギクシャクとしたやり取りをしたあと、レナはふうっと肩の力を抜いた。

「なんか……クーイズとアネース王国を旅してた時に似てるかも」
「懐かしいですか? 優しい顔をしています」
「うん。その時よりも安心して無茶ができますねー?」

(やめてくれ!)……とは護衛部隊の悲鳴である。もちろんレナのからかいだ。そのあとはまじめに、レナが慣れた手つきでチョココを抱えている。(一刻も早い増員が望まれる)宰相の元に蝶々型レターが速達で届いた。

そんな時、キサが立ち寄ったのはアクセサリーショップ。
店の奥に女子向けの服も置いてあったので、みんなで中に入ることに。

「んー、ステキなのじゃ」
(……でもやっぱり縫製が甘くて生地の質もね……)

感想が厳しくなるのは、贅沢品を日々使っているレナパーティなのでしかたがない。
それでも、この時この場だからこそ出会った品物は、お出かけの雰囲気も相まってちょっぴり特別なのだ。
なにか買っていこう、とレナが言う。

「あ。これいいんじゃない? ハペトロッティ印の布地」
「うむ、肌触りが心地いい。カラフルな色合いも華やかで、妾の好みじゃ」
「よっし! ミディもこれ好きかな?」
「ここはネ~青魚の鱗みたいな銀色デショ? ここは珊瑚みたいな赤デショ? 見てるだけでも美味しくって好きヨー!」
「そ、そっか。いろんな糸が織り込まれているよねぇ。キサとミディはワンピースで、私とレグルスはいまの服の上に羽織れるショールがいいかな……どう?」
「光栄です」
「お揃いで、これください~」
「シリーズ全部ですかぁ!? あの、当店一高額な商品ですが……!?」

店員はレグルスを見上げて交渉している。
なるほど、このメンバーでは、レグルスが支払いをしそう、と見られるらしい。

「問題ないので」
「はぁい、それでは~」

レグルスがレナに断って自分の財布を出す。

「大人だ……」
「ん? そういえば従魔たちはほぼレナ様よりも歳下ですね。ルーカが19歳、モスラは……2歳でしたっけ」

レナが見上げてくる視線に年上を見る尊敬が混ざったような感じがして、レグルスはしゃんと背筋が伸びた。
丸みを帯びた獣耳もひくひくと興奮ぎみに立つ。
レナの手を握るレグルスの手のひらには、ちょうどいい力がこもった。
まあまあ、と店員がにんまりする。
余計なことは言わないが、きっと余計なことを考えている。

一月分ほどの売上が一気にやってきたので、店長がやってきて、にこにこと商品を袋に詰めてくれた。

「あっ。着替えていってもいいですか?」
「歩く宣伝塔になってくださるのー! 是非是非!」

妙なゴマスリをした店長は、レナたちからちょっぴりの苦笑いをもらうと、フィッティングルームを解放してくれた。

袋から衣装を出すと、花飾りがコロンと飛び出す。
オマケしてくれたようだ。

(品質に対して割高なお値段だったけど、店員さんはいい人みたいだね〜)
(レナ様……この辺りは観光地価格なのです。土地代が高め、それから金払いがざっくりした冒険者が多いので)
(あ、私の感想って嫌味っぽかった?)
(大丈夫。小声ですしマナーは十分ですよ。俺としては、生活水準が高い主人は誇らしいです)
(えっへー。みんなのおかげだよ!)

レナは正直に言った。
だってあの赤の聖地に住んでおいて「いやいやまだまだ」なんて謙遜通り越して大馬鹿者の嫌味である。あとレナの従魔はすごいんだから! やったー!

レグルスは実家が炎獅子の伝統家系なので、主人が貧乏人だったらそれこそ面目が立たないだろう。

(レナ様で良かった)

……とあらゆる意味で思いながら、レグルスは尊敬する主人に傅いて、頭に花飾りをつけてもらうのだった。

「一番小さいやつだから。さりげない花飾りならレグルスの服装にも違和感がないよ」
「お揃い嬉しいノヨー!」
「慣れました」

▽えらい!
護衛部隊が物陰からそっと生あたたかく見守った。
あの偏屈だったレグルスが……との感動を含むむずがゆい視線。それを察することができる感覚はレグルスの自信でもあるが──レグルスは服屋の扉を通り抜けざま、ドリューの足を踏んだ。
(いってぇ!?)
(気配を消しきれてない。真剣にやれ)
(ッス。キビシー!)

商店街を歩く、カラフルな服を着た三人と一体。
チョココはレナのショールに包まれている。チョコレート色の瞳で、鮮やかな色を映した。ショールにはふわんと甘い匂いがついた。

しゃなりと歩むキサ、その優雅な動作からは思いもしないすばやさで店舗に吸い寄せられていく。あっちこっちにフラフラと。レナはお金を渡して、欲しいものを金額内で買ってみて、と学びの場にする。

「……んー! 無くなってしまった」
「コインの計算、けっこう難しいよねー。私も最初は苦手だったなぁ。じゃ、この金額分のお手伝いの依頼を受けてみようか。キサの初クエストだね〜。氷魔法を活かせる初級お手伝いがギルド常時依頼にあるんだよ」
「妾の氷魔法が役に立つ!」

▽キサは ドヤ顔!

「獣の肉を瞬間冷凍させるの」
「に、肉……」

▽キサは 微妙な顔。
▽優雅ではない。

とりあえず、この場で買ったガラスビーズカチューシャ(赤)をレナの頭に装着した。

「え?」
「レナ様への贈り物じゃ。初めての依頼金で買うなら、そう使いたい。前借りではあるが……」
「キ〜サ〜!!」

▽レナの抱きつき。
▽柔らかくてあったかくてはちゃめちゃにいい香りがして顔が良い。最高!

「目立っていますよ」

気配を消したレグルスが、ショールで二人を包んで、全体の存在感を薄くして場を立ち去った。

近くで大道芸を始めた魚護人ドリューがいたので、大衆の注目はそちらに移った。
吟遊詩人もやってきて、歌に踊りに水の舞いに、たいそうな賑わいを見せた。

▽護衛の仕事もラクじゃない。

樹人族のドリンク屋台でミックスジュースを買う。

「大きい! 冒険者サイズってことね」
「そう思うと……レナ様はよく生き残ってこれましたよね。こんなに小さいサイズ感で……失礼しました、褒めていますから」
「頑張って生きててエライノヨー!」

▽レナは 褒められた!
▽まんざらでもないー!

『チョ・ココ♪ お祝いですー♪』
「あむーーーっ!?」

▽レナの口に チョコレートが飛び込んできた。

「……! ミルクチョコレートの中にフルーツジャムが入ってる。新食感……!」
『えへー』

<従魔:チョココのレベルが上がりました! +1>
<スキル[フレーバー]を覚えました>
<ギルドカードを確認してください>

……キラがいないと情報反映がこうも遅れるのか、とレナはしみじみ「ラナシュの雑さ」を実感した。

キラは赤の聖地の整備をしている。
半透明のカードを取り出して、チャット機能で今しがたのことを連絡だけしておいた。

(まあレベルアップの福音(ベル)は従魔みんなに共有されているだろうけどね)

ピロン♪ とチャットの通知。

『レナへ。チョココのレベルアップはこれまでモムを作ってきた積み重ねと、新しい味を知ったこと、それから……今、赤の聖地でモムが大運動会をしている影響もあるよ。ルーカより』
「……なんと! 私みたいに、従魔の戦闘でわずかに経験値が入るような感じなの。チョココも主人型ってこと……? チョココのレベリング方針、独特だな~」

レナがツンツンとつつくと、チョココがケラケラ笑って、ミディの爪を飴にしてしまった。
ミディは指を口に入れて「ジャーン! 共食い」などと始める。
幸いにも[超再生]によってまた爪が生えてきたが……レナの心臓がぎゅっと縮こまった思いだった。これは怖い!

「チョココのレベリングもこれからしていこう。お菓子への変化を安定させたいよね」
『えへっ。はーい♪』
「今は思わず飴に変えちゃったでしょう?」
『脳みそ生クリームだからあんまり覚えてないですけど、覚えてないってことは何も考えてなかったと思います~!』

これはむしろ頭がいいのか? 自分を客観視していてえらいのか?
レナは言葉を迷って「冒険者ギルドで軽い依頼を受けようか」と話題を濁した。
ままならない。
でもトラブルに対応して、従魔を知っていくのも楽しみ。
すべてが懐かしくて、従魔ごとの新しさで、レナはにっこりと微笑んだ。

▽買い物に、パンケーキカフェに。
▽冒険者ギルドに行こう!

 

 

 

 

 

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