280:冒険者ギルド道中

 

▽レナの号令!

「それじゃ、冒険者ギルドに出発すーるよー!」
『「はーい!」』

元気な声が返ってきた。

今回のメンバーは、キサ・レグルス・ミディ・チョココ。
魔物型のチョココを、ミディが抱えている。
見た目的には女子が三人・麗人一人のとても華やかなパーティである。

戦力はいつもより控えめだが(当社比)
それについては護衛部隊がロベルト・クドライヤ・ドリュー・リーカと揃い踏みなので頑張ってもらおう。お屋敷にはマリアベルがいそいそと訪れて、リリーと宝飾談義に花を咲かせている。

「みなさんよろしくお願いします」

レナが護衛たちにぺこりと会釈した。
ロベルトたちはいつも通り、同じ仕草を返す。

礼儀は大切、レナパーティのその教育方針は気持ちがいい。うしろにいた元夢組織の三人がぺこりと真似たのは微笑ましかった。
ロベルトたちも目元をわずかに和ませる。

「ええ。護衛を務めさせていただきます。とはいえ、みなさんにはレグルスが付いていますから心配はしていませんが」

上司の言葉に、レグルスの髪の毛が赤さを増した。嬉しいのだろうに、尻尾が物静かなのはさすがの我慢である。

「警戒はどれだけでもしておいた方がいいですからね。我々は影からお守りします」
「お仕事モードのロベルトさんたち、大人だ〜」
「いつも大人のつもりですが?」
「そ、そうですねっ」

先日、巨大雪豹を入念に毛づくろいしたときのことを思い出してしまうと……レナはからかいそうになるのをこらえてにこっと対応した。
ロベルトが咳払い。

「さて。雑談はここまで──仕事開始」
「「「はい」」」

上司の一声で、部下たちは見事に気配を消す。

場所は動いておらず、姿も目に見えているのに、まるで空気のように存在を把握できなくなるので、レナパーティは「おお〜」と感心の声を漏らした。
嬉しくなったドリューが手をふってクドライヤにどつかれた。
お留守番の従魔たちが笑い転がる。

「ルージュ、留守をお願いね」
『かしこまりましたレナ様。心置きなく……いえ、心はここに残して、お気をつけて行ってらっしゃいませ』

ルージュは胸に手を当てて、片方の手だけでスカートをつまみ、独自の礼をする。

(心はここに残して、かあ……みんながいる場所にまた帰ってこれるように、ってことだよね。おまじないみたいな)

レナはルージュそっくりの礼をした。
赤ローブの裾をつまんで。

それから胸に触れたほうの手のひらをルージュに差し出し、握手を。

「いってきます。早めに帰るね〜」
『はい! お迎えの支度をしながらお待ちしておりますわ!』

レナの返事に、ルージュがはつらつと答えた。
玄関に集っている従魔みんながにこーっと嬉しそうに笑う。
シャボンフィッシュが弾けて光った。
チョココと初めての「またね」をしたスウィーツモムたちがぴょこぴょこ跳ねる。

赤の聖地からレナたちの背中が見えなくなった時
──すべてを守るように、門が閉まった。

シヴァガン王国。
灰色の石畳に、黒を基調とした建物が並び、紫色の国旗が揺れる街並み。
魔人族たちの、カラフルな髪や翼や尻尾が、あざやかに街に浮かび上がって見える。

『わあ!!』

チョココの体温がぎゅーんと上昇!
ホットチョコレートになる。とろんと一滴が垂れてしまった。

「あっ!? チョココ気をつけて……! ああでもどう気をつけたらいいんだろう!?」

こんな時ルーカがいてくれたら……とレナは頼りかけて、ぶんぶん頭を振った。

旅の始まりの時、戦力は万全ではなかった。そんな中、工夫して生活してきたのだから、きっと今回もなにか思いつけるはずだし、幸運だって味方になってくれるだろう。
(はしゃがないで、なんて無理だしね……)レナが頭をひねっていると、

「ン? あらーチョココってばぽかぽかネー。冷やしてあげルノヨー」
「妾も助けよう」

ミディがヨシヨシとチョココを抱え直して、キサが冷たい手でチョココを撫でると、ひんやりと固まる。

固まりすぎた。
▽チョココは カチンコチン!

「……やりすぎに見える。俺も調整してみよう」

レグルスが手のひらをソッと当てると、冷えすぎていたチョココのボティが滑らかな艶を持った。

「丁度よさそうだよ」

レナがストップをかけた。

チョココをつついて確認すると、いつもの温度となめらかさを保ち、けらけら笑って身をよじってもチョコレートボディが崩れていない。
もう大丈夫。
あとはミディが今の温度感を保ってくれるそう。

レナが感服のため息を吐く。

「三人ともすごいね……! チョココの対応ができてた。私が指示しなくても適切で……」
「レナ様の指示の前例があったからですよ。それを覚えていたんです」
「そう?」
「そうなのじゃ。チョコレートボディの対応は、チョココの進化当時にレナ様が試行錯誤していたではないか」
「あれが元かー。そうだねー。私も、役立ってたみたいでよかった」
「役立ってた? ンー? ミィたちを育てたのはそもそもご主人サマナノヨ?」

ねー! とミディが抱きつく。ぬるぬるん。
スカートの裾からイカゲソ尻尾が現れて、レナの足に絡みついている。
嬉しいけどぬめぬめベタベタ歩きにくい!

「っあーーーー!?」
「コケる!?」
「レナ様!」

キサのおっきいおっぱいに受け止められて、レグルスに腰を支えられた。

シヴァガン王国に入ったばかりの大通りのど真ん中でこの惨状。
注目を受けている。

『わぁお! スペシャルパフォーマンスでしたね〜! お祝いにチョコレートを作りましょう♪ チョ・ココッ!』

▽チョココからチョコレートが四粒飛び出した!
▽食べろ!!
▽隠せ!!

四人が必死で首を伸ばして、ぱくんぱくん! とチョコレートを口に入れる。

甘い匂いが漂ったものの、あの茶色の塊はなんだったのか? 気づかれていない。

しかし大道芸でも始めるのかと魔人族の子どもがよってきてしまった。

「ちちち違うの……!」
「なーにやってんだお嬢ちゃんたち」
「ああっラギアさん。ドラゴン便に乗せてくださいーっ!」

知り合いのワイバーン・ラギアがどしどしとやってきた。
レナは大慌てで頼みこむ。

「そりゃ、昨夜ファーストベル・カードで予約してもらったからな。乗せるつもりだぜ!」

それ実はキラテレフォンカード、なんて説明をする時間はない! 一刻も早くここを去りたーい!

「まったねー!」

……キラキラした顔の子どもたちから逃げるのが心苦しくて早速フラグを立ててしまったレナ。

護衛部隊たちが額に手をあてて(あーあ)と思っている。レナパーティに近寄ってきた軽犯罪予備軍をしばくのに忙しかったが、別のドラゴン便にすばやく乗りこんだ。

ぐあっ! と二体のワイバーンが上昇する。

『お空の散歩楽しいです〜!』

ごきげんなチョココを眺めながら、レナは、自分たちが初めてアネース王国の街を観光したときを懐かしく思い出した。あのとき、初めての街並みに見とれていて、あらゆるものにワクワクした。

ラギアが喉を低く鳴らすこと、数回。おそらくドラゴンの言葉で街の案内をしてくれているのだろう。しかしここに、翻訳係のルーカはいないので。

「キサ。ドラリンガル作ろう」
「おお……! 妾の力が役に立つのじゃ! ンフフ」

▽キサは張り切っている!
▽レナは 赤の宝石を取り出した。
▽レナは キラの分身体を取り出した。

「スキル[氷の息吹]……フュージョンっ」

▽赤の宝石と 分身体が 氷の芸術で繋がった。
▽即席ドラリンガルが 完成した!

「わあ。綺麗だね〜」
「ふふふん♪ 芸術性を褒められると気分がいいのじゃー。ねぇレナ様……」
「な、なぁに。ウワアァキサが色っぽくてドキドキする……!」
「空の上なら目立たぬし。珍しく従魔も少ないし」
「たぬしっ……」

しなだれかかるキサから、レナは目を離せない。
籠の天井を半円に覆うような|氷の芸術(ドラリンガル)は、キサの珠のような肌をいっそうきらめかせている。
キサは人差し指で、トン・トン・トン。レナの鎖骨の間をつつー。

「ほ・め・て♡」
「鼻血出そうなくらいすごいっ……!」

レナが真っ赤になりながら言う。
キサは首を傾げた。

「あれ……? そのような表現が来るとは思わなかったのじゃ。ふむ?」

疑問の視線を向けられたレグルスが、その色気のせいだろうに……と察しながらも、実に言いにくそうにしていると、

「鼻血って赤いネ!」
『ストロベリー♪』
「なるほど、赤か! 縁起がいい!」

ミディとチョココのアシストで、キサがぽんと手を打って納得してしまった。

(常識を派遣してくれ!!)

レグルスが望んだけれど常識なんて来るはずがなかった。

肝心のレナは(ラギアさん喋るのやめちゃったな?)と思考を逸らしている。

『<何ッ……うわッ……お嬢さん方、籠の中でいちゃつくのはご遠慮くだせぇー!>』

ドラリンガルで翻訳されたラギアの絶叫が、魔王国中に響き渡った。

キーーン! と氷(・)に反響し、まるでスピーカーのように声が拡散される。
あまりの振動で氷が砕けた。

「ちょっ……ラギアさんラギアさーーん!? 弁解してくださいー! ウワァ魔道具壊れちゃって……てことは言い訳が届けられないー!?」
「下はけっこうな騒ぎになっていますね……」
「歓声が聞こえるノヨー! ヤッホー!」
「わあああミディ手を振らないで! ご主人様からのお願い!」
「ご主人様からのお願い……とは……」
「レグルスの常識が焼け焦げて頭から白炎出てる!? ごめんって! 上司の命令みたいなっ」
「なるほどミディやめなさい」
「どうしてナノー?」
「……」
「レグルス?」
「……淫らな魔物であるとの容疑をかけられるため……? すみません俺にはこの表現しか出てこなくて全く未熟者で!!」
「そ、そこまで自分を責めなくてもっ……発火が! ラギアさんが熱くて揺らいでるーっ」
「『きゃっきゃっイートミィ♪』」
「魔物全員が、炙られて食べられたいわけじゃないんだよ!!」

▽キサが氷の息吹で冷やした。

──後続の赤ワイバーン・クルスの籠の中。

「……という状況です。ロベルト隊長」
「籠の中くらい静かにならないのか……ならないだろうな……」
「レナパーティ賑やかっすよね」
「ドリュー、しみじみしてないで騒動鎮火に助力しろ。下で悪評垂れてるやつの生命力はゴーストローズで吸っといた。マズ」
「お疲れ様でーす。じゃあ雨でも降らしましょうか……みんなが上を見ないように」

リーカが魔道具で人工的な雲をもくもくと作る。
ドリューが湿度を上げていくと……雨になった。
唐突なゲリラ豪雨。これでは野次馬たちも家の中に帰っていくしかない。

(権力者を敵にまわしちゃいけねぇ……!)とクルスは強く思った。
その権力者の中にレナパーティもイメージされているあたり、彼は頭のいいワイバーンである。

雨の影響で、ワイバーンたちは早めに地上におりた。

レナたちは苦笑いしながらお礼を言って、こちらこそすいやせん、とラギアに謝罪された。

運が上手く噛み合わないこともあるのだ。
そして最初にプチ悪運を経験したからこそ、これからはきっといいことが待っているに違いない! 少なくともチョココが攫われるようなトラブルには見舞われないだろう。とレナはホッとしたものだ。

「雨、やんだねぇ」
「必要な分だけ降らせたのだと思います」

レグルスがレナに知らせる。
隠れて護衛をしている仲間がそうしてくれたのだろうと、ちゃんと伝わった。

「ここの商店街を行こうか。護衛してくれてる皆さんにもお礼のお土産を買っていこう」
「……ありがとうございます」
「ふふ。うん」

そう言われる方がレナは嬉しい、と従魔はそれぞれ理解をしている。
そして嬉しくしてもらったお礼にと、レナはソッと撫でてくれるのだ。レグルスの赤と朱色のグラデーションの髪は、太陽の光を吸収して波打つようにその色を変えている。

「『物を売ってるお店がいっぱいー!』」
「掘り出し物をさがすのじゃー!」

チョココにとっては初めての外出だし、ミディとキサにとっても、まだまだ街歩きは珍しいもの。

期待に胸躍らせて、色とりどりの看板をキョロキョロ眺める。

『何て書いてあるんですか〜?』
「アクセサリーショップ!」
「あっちはお花屋さんネー。食べられるお花あるカナ?」

はずむような足取り。
小さな背中に羽が生えているように駆けていく。
横を向いた時に髪の間から見えたまろやかな頬は、期待に赤く染まっている。

「……あー。私が旅を始めたときのことを思い出すなぁ。アネース王国の商店街ではしゃいでいたとき、あんな感じだったかも?」
「そうなんですか? レナ様が、あのように……」
「ふふふ〜。今よりきっと警戒心がたりてなくて、その分ワクワクがストレートで、新鮮でね。はーー」

レナはニカッと笑った。

「こうやって、受け継がれていくのかな!」
「そうですね」
「チョココたちが楽しむのを見るの、なんか懐かしいな」
「そう……かもしれません」
「レグルスも?」
「……昔話をしながら歩きましょうか」
「そうだね。聞かせてくれる? 私も言える範囲で言うから、レグルスもそんな感じで」

レグルスはため息をついて、レナを見下ろした。

「本当に居心地のいい方ですね」

レグルスは手首をトトンと叩いた。
いつもの軍服から、プライベートな私服に変身する。

「こちらからも居心地の良さを返せたら……と思いまして。道中、楽しみましょう」
「すでにめちゃくちゃ楽しい」

▽レナは 私服レグルスをガン見している!
▽前方から 妾たちもオシャレしよう と聞こえてくる。
▽レナの期待値がグーーンと上がった!
▽三人は護衛部隊が守っているのでご安心を。

▽商店街をぶらりとお散歩しよう!
▽冒険者ギルドもお忘れなく。

 

 

 

 

 

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