28:トイリア四日目(従魔視点)

今回は我ら従魔たちが、ご主人さまについて語って行くよーー!
まずは、クーとイズからだねっ。一緒に喋っていくよ。
張り切っていきましょぉーー、ドンドンぱふぱふーーっ♪

んー、クーとイズがレナと出会った時のことから話そうかな?
ダナツェラ近くの草原をふたりで散歩してたら、たまたまレナに出会ったんだよねぇー。
いきなり草むらから女の子が飛び出してきたから、驚いちゃった!
そしたらね。スライムを従魔にしたかったみたいで、[従魔契約]スキルを使ってきたの。
変わってるよね?普通はスライムなんて弱いモンスターをテイムしようなんて思わないのにー。
また自分がヒトと暮らすことになるだなんて、思いもしなかった。
その時はまだレナの事もなーんにも知らなかったし、目の前のトカゲに気を取られて別れちゃったんだ。
次の日にようやくあの子の従魔になったの。
すっごくあまーいチョコレートをくれたし、いっぱい遊んでくれたから好きになったんだよ!ふふふー♪
それが出会い!

それから、一緒にここまで旅をしてきて。
レナの優しいところや頑張り屋さんなところ、色んな魅力を知って、もっともっと好きになったよーー。
いつまでもこうしてみんなで楽しく過ごしていけたらいいね。
うちのご主人さま、可愛くてカッコ良くてステキーって、皆も思うでしょ?ふふーん♪

トイリアの街に来て4日目の朝。
今日は、また新しい依頼を受けにギルドに行く予定。
ルルゥお姉さんのお宿♡の大きなベッドでようやく起きたレナは、まだ眠そうに目をこすってる。朝には弱いんだよー。
…あ、髪に寝グセがついてるっ!
ジェルボディで直してツヤツヤにしてあげましょう。あとで褒めてねー?

レナはマジメだから、きちんと”すまほ”で目覚ましのアラームをかけて毎日自分で起きてる。
クーとイズの方がいつも早く起きるし、時計も読めるから任せてくれていいんだけどねー。一度怠けると怠け癖がついちゃうから、頑張るんだって。
いい心がけですなっ!

「おはよう…」
『『おっはよー!レナーー!』』
「あぅ…」

おや?
我らの声がちょっとうるさかったみたいで、ご主人さまは若干しんどそうな顔してるー。
……ウズウズッ…。…うりゃーーー!

『『コッケコッココココココーーーッ!!!』』

「…うわっ!?…ちょっ、こら、静かにしなさ…あぅぅーーーー…」

主人の耳元でコッコ風に鳴いてやったぜ!どや!
どうにもイタズラがしたくて堪らん性分なのですよ。ごめんねー。
昨日の少年らのようによそ様に迷惑はかけないから、許してね。ご主人さまぁ、好きだよ〜♪

レナは耳を手で押さえながら「可愛すぎる…」と呟くと、再びハーくんのもふもふにポスッと埋れちゃった。
その衝撃でハーくんも一瞬目を覚ましたけど、重みが心地よかったのかまた目を閉じてる。
リリーはこのコッコの鳴き声で完璧に目覚めたみたいだね。
彼女と一緒にもう一度レナを起こしてー、お出かけの支度をしたよ。

謝ったらレナはイタズラを許してくれた。本当に身内には甘い。
この子から与えられる愛情はとーっても心地いいから、こうしていつも甘えさせてもらってるの。
てへへっ♪
あ、もちろん嫌われたくはないから、限度はきちんと見極めてるよー。

冒険者ギルドに皆で向かう。従魔はもちろん魔物姿。
今日は早くも3つめの依頼。
ギルドカードランクをGからFに上げるには、依頼を5つ連続で成功させなきゃいけないんだってー。
それが、きちんとお仕事のできる冒険者ですよーって証明になるのよー!
Eランクになるまではまずは信頼作りで、依頼の連続成功が求められるの。
ちなみに、途中で失敗してしまったらまた一回目からのカウントになるらしい。

ギルドについたら、いつも通りクーとイズは受付嬢に預けられる。
撫でられるのは元々好きだしぃー、美人のボインをぱふぱふするのも楽しいのであるっ!うへへ。
いつもは、スライムボディでご主人さまをぱふぱふするー方だからなー。
不埒なことを考えてても、スライムの表情はヒト族には判別できないし、声もご主人さま以外には理解されないから問題ない。
魔物生も捨てたモノじゃないねぇ。

…あのね。
ルーカに「クレハとイズミは同じ魂を分け合ってる」って言われてたでしょう?
その時、思い出した事があるんだけど、聞いちゃうー?ん?ん?
もしかしたら転生じゃなくて憑依なのかもしれないけど…前世の記憶って奴があるんだなぁ。
スライムになる前はクーとイズは同じ一つの個体で、ヒト族の子どもだったんだよー。
貧しい村に生まれて、口減らしのためにガララージュレ王国政府に売られて、そして生体実験に使われたんだ。
あの国は悪ーい怪しーい魔法実験をいっぱいやってたからね。
スライムになって[状態異常耐性]☆4ギフトを贈られたのは、前世で色んな薬品まみれにされた後遺症みたいなものだと思うよー。
…いやー、あっさり死にましたなぁ!
でもギフトのおかげで今世ではレナの盾にもなれるし、案外悪く無いなって思ってる。
状態異常耐性ギフトがあって良かったよー。
クーとイズが、リリーやハーくんより上手に喋れたりフォークを扱えたりするのは、魂がヒト族のものだからなのだ。
…ビックリした?
この話はどうしても暗くなっちゃうしー、ここまでにしておくね。

レナがクエスト掲示板を背伸びしながら一生懸命見てる様子はとてもほほえましくて、受付のお姉さんたちもすごーく和んでるみたい。すっかりマスコットだね。
クーとイズをゆっくり撫でながらレナを時々眺めてるけど、拝観料いただきますわよ?

「どれにしようかなぁ…。ハーくんは、希望の依頼とかある?」
『おおせのままにー』
「う、うーん…」

レナー。彼に意見求めてもだいたい返ってこないと思うのだよ。
出会いの時点で完璧にしつけちゃってたもん!
もともと面倒くさがりな性格なのもあるだろうけど、基本的に、ハーくんはレナ様の言うことを聞くのが好きなんだよね。

掲示板の前に張り付いていたレナが、ふいにビクッと肩を大きく跳ねさせた。
……えっ。
もしかして、リリーが悪意ある魂を視て、それをレナに知らせたのかなぁ?この間、嫌な人がいたって言ってたもんね。
慌ててギルド内を見渡してみると、あからさまに悪役っぽい見た目のチンピラ3人組が、2階の食堂から降りてきていた。
他に悪そうな人は見当たらないし、この3人が怪しいかもー…?
階段を降りる足元がフラフラしてるし、朝からお酒飲んでたのかな。
……レナに絡んだりしないでよねーーーっ!?

平常を装いながらも気持ちは臨戦態勢でギルド内の様子をうかがっていたら、その3人は眠そうに階段の下方に座り込んでしまった。
ホッと一息つく。
……だけど、ギルドに慌ただしく一人の女の子が駆け込んできて、酔っ払いたちの目を覚まさせちゃった。げー、不機嫌そうだよー。

「…すみません!
早急に、捜索依頼を出したいんですけどっ!!」

「え…ええ?
お嬢さん、ずいぶん急いでどうしたのかな。
話の内容を聞いてもいいけど…保護者のかたは一緒にここに来てる?
冒険者ギルドで依頼を出せるのは、基本的に成人した人だけよ。
子供が依頼を出す時には大人の代理人が必要なの」

「…そんな!?」

甲高い声で騒ぐ女の子。何やら揉めてますなぁ。
受付嬢はとても困った顔をしているけど、おチビちゃんはまったく引く様子がない。
捜索依頼がしたくてこのギルドにやって来たけど、一人きりで来ちゃって、なおかつお金も今は持っていないんだって。
う、うーん…。
逃げ出したペットを探して欲しいの!依頼料金はちゃんとあとで払うからー!と、切実な声がギルド内に大きく響いてる。
かわいそうだけど…でも、そんな曖昧な内容じゃ、たとえ依頼を出しても受けてくれる冒険者はいないと思うよー…?
みんな生活があるもん。
受付のお姉さんも同情はしてたけれど、規則は規則だし。しばらくカウンターでは終わりの見えない押し問答が繰り広げられていた。

…あっ!?
注目を集めてるおチビさんに、例のチンピラ3人がニヤニヤしながら近づいてきてる…!
…ヤバイかも?

自分の希望を伝えることに必死で周囲の様子にまるで気付いていなかったあの子の華奢な肩に、ポンと軽く手が置かれた。
彼女の肩に触れたのは、小さくてとても綺麗な手。

誰よりも早くおチビさんに声をかけた人物は……同じく、おチビさんッ!
我らがレナ様だったのである!
ひゅーひゅー!きゃーーーーーっ!!

「…私たちで良ければ、一緒にペットを探そうか?
捜索能力にはそこそこ自信があるんだ。
きっと、貴方の力になれると思うよー。
今日は元々依頼を受ける予定もなかったし、捜索能力をもっと鍛えたいとも思ってたから、あとで街のオススメスポット紹介でもしてくれれば依頼料金はいらないよ?
どうかなぁ…」

「えっ!?……そんな。いいの?お姉ちゃん…」

何度も断られてさすがに弱気になってたみたいだね。おチビさんは少し涙目になってレナを見上げてる。

「うんっ!」

レナはそんな彼女を安心させるように、明るい顔でニッコリと笑いかけた。
そのままおチビさんの手をとって、受付に一礼して足早に冒険者ギルドを出て行く。

もちろん、クーとイズも忘れずに回収されたよー。
受付のお姉さんに確認したら、依頼料の発生しないクエストは冒険者としてのランクアップ条件にカウントされないけど、個人間で引き受けるのは自由なんだって。
冒険者ギルドでもそこまでは縛らないわ、って言ってた。

相変わらず、レナは優しいねーー。
チンピラに絡まれる直前での鮮やかな救済だなんて、これはもう惚れてしまいますなっ!あーーーん♡従えてぇーーー!
例の3人組はイラついた顔でしばらくこっちを見てたけど、つまらなさそうにため息をついてクエスト掲示板を見に去って行ったよ。
…一安心、かな。

外に出たレナがおチビさんの依頼内容を詳しく聞くと、いなくなったペットって蝶々なんだって。
なーんだ。
それなら、リリーの得意分野じゃーん!
早めに見つけられそうだねっ。
逆に、レナ以外の冒険者だと見つけづらかったのかも…?
んじゃ、リリー嬢に交代をお願いしますかなーー!カモーーン!

***

…はい!リリーです。
えへへ。こうしてちゃんと挨拶をするのは初めてだから、緊張しちゃうね…?
とりあえず蝶々を探し終わってから、私とご主人さまについて語ろうかなぁ。

ご主人さまは半泣きの女の子の話を根気強く聞いている。
えーと、逃げた蝶々は黒い身体に赤い翅(ハネ)のアカスジアゲハなんだって。
魔物じゃなくて、普通の蝶々みたい。
すごく大人しくて、女の子とも仲良しな蝶々だったんだけど…一緒に暮らしてた飼い主のお祖父さんが亡くなったら逃げて行っちゃったんだって。
そっかー…蝶々は大切な友達で、思い出のつまった”形見”でもあるんだね?
私は魔物だから。
そういう家族としての繋がりってよく分からないけど…女の子が蝶々を大切に思っているのは良く分かったよー。
翅(ハネ)の特徴とか言ってる時には、魂がキラキラと輝いてたもの。
大好きなんだね。
こんなに愛されてて、その蝶々は幸せ者だね…!
…いくら知能の低い虫だとはいえ、こんなに愛されてる子が、飼い主さんが亡くなったとたん逃げて行っちゃうものなのかなぁ。
んーー…?

「リリーちゃん。昆虫を[魅了]して、捜索を手伝ってもらう事ってできるかな?」
『…おまかせなの!』

ギルドでは姿を消してたけど、ご主人さまの号令で蝶姿で現れてみたら、女の子は腰を抜かしそうに驚いていた。
…クスクスッ!
そうだよねー、50cmの蝶なんて魔物でもなかなかいないもんね…?ビックリしちゃうか。
ジャイアント・バタフライでも30cmくらいだもーん。
あれ…ひょっとして、私が一番大きい蝶種になるのかな…?まぁ、本体はフェアリーだし、別にいっか。

『ーースキル[魅了]!』

空中に飛び出して、クルリクルリとバタフライダンスをしながら、目が合った虫たちを次々に[魅了]していく。
蝶を中心に、テントウムシ、トンボ、蜂、蝿(ハエ)…などなど。今回は飛べる虫ばかりを揃えてみたよー!

この中に探してる蝶々がいたらいいのになーなんて思ったけど、さすがに、そんなに都合良くはいかないね。
アカスジアゲハの特徴を伝えて、それぞれ思い思いの場所へ探しにいってもらう。
…さあ、私たちも探さなくっちゃ!

「絶対見つけようね!」
「うん!…お姉ちゃん、ありがとう」
「ふふっ、どういたしまして」
「…えへへ」

後でハーくんの正しいお姉様認識講座が始まりそうな予感が…けっふん!
ご主人さまは、女の子を明るく励ましながら、昔話を上手に聞きだしてリラックスさせてあげてる。
とりあえずお花屋さんのある服飾商店街の方へと向かうことにした。

何軒かある花屋さんに、赤い翅(ハネ)の蝶々を見かけなかったか聞いて歩く。
女の子の家の近くは探しきってしまったんだって。
残念ながら、まだ良い返事はもらえていない。蝶々なら花、は安直だったかな…?
私ならまずお花のある場所に行っちゃうけどなー。

女の子はね、元々は孤児だったところをお爺さんに引き取ってもらって、2人で暮らしてたの。血は繋がって無かったんだねぇ。
アカスジアゲハがその輪に入ったのは、1年くらい前のこと。
翅(ハネ)を猫に傷つけられてフラフラと部屋に入って来た蝶々を、お爺さんが[ヒール]魔法で治してあげたのがキッカケで懐いたみたい。
みるみる丈夫になって、室内のガーデニングスペースで3人で過ごすのが日課になったんだって。
チューレのお花が大好きで、いつも花弁にとまってたらしい。
だから、女の子の服からもかすかにお花の匂いがしてたんだー。お爺さんはガーデニングが趣味だったの。

全てのお花屋さん聞き取り調査をしたけど、赤い翅(ハネ)の蝶々の情報は得られなかった。
…途方にくれていると、一匹の虫が成果を持って帰ってきた!

街のはずれの緑地公園。
そこの花畑で、アカスジアゲハを見つけたって!
探してる子かは行ってみないと分からないけど、この辺りではアカスジアゲハは珍しいから可能性は高いと思う。
だいたい、青か緑の翅(ハネ)の蝶々が多いんだよー?

「行ってみよう」
「うん…!」

ご主人さまが女の子の手を引いて駆け出す。
……!そ、そんなに走ると…!…ああ、転んじゃったぁ。
また膝にスリ傷を作っちゃってご主人さまは涙目になってるけど、女の子がささっと緑魔法で治してくれたよ。こないだのギルドで転けた時の傷もついでにすっかり治ってたから、…従魔一同でお礼のダンスをしておきましたっ!
嬉しそうに笑ってくれた。
この笑顔が、公園でも見れるといいなぁ…。

公園に着いたら、女の子が蝶々の名前を大声で呼ぶ。

「…モスラーーーーッ!!」

あれっ。…どこかで聞いたことがあるような名前だね?…なんだっけ。ま、いっか。

女の子の呼び声が公園内に響くと、一匹の蝶々がゆらゆらこちらに飛んできた。…あ。アカスジアゲハだ!
この子で間違いなかったみたい。良かったねー。
女の子が感激したように目を潤ませて手のひらを差し出したら、そこにフワリと蝶々が舞い降りる。

…ああ、なるほどー。
妙に感情豊かだなって思ったら、この子、魔物になりかけてるんだ。
普通の生物でも、長年生きてたり、強い感情が芽生えたりすると魔物に変じることがあるの。
そういう存在は、魔物の子どもとして生まれてくる個体よりももっと強い力を持ってるんだよー。
このアカスジアゲハはオスだから、女の子を護るナイトになってあげられるかもしれないね。

……ん?ああ、はいはーいっ。

『…ご主人さま。
この蝶々ね、おちこんでた女の子を励ましてあげたくて、きれいな花畑を探しに来たんだって。
逃げ出したわけじゃないんだよ、って…。大好きなんだよって、言ってる。
…伝えてあげて…?』

「!」

そういう事だったんだぁ。
私たちの目の前には、一面の黄色の花畑。
女の子の一番好きな花は…タンポポだったの。
タンポポは部屋で栽培するのが難しいらしいし、お家に無かったんだろうな。だからこうして、お外に花畑を探しにきたんだね。

「~~~~ッ、ううう、モスラぁぁ…!ありがとう…」

事情を聞いた女の子はポロポロ涙をこぼして、そして幸せそうに笑っていた。
彼女も蝶々も、どちらの魂もキラキラと輝いててとっても綺麗…!わあ…!

…ちょっと羨ましくなって、ご主人さまに頬ずりしたら「ありがとう、お疲れさま」って頭を優しく撫でられた。
…えへへっ。
今日のMVPは私だもーん。もっと、もーっと、褒めて欲しいのーー!
…あ、もらい泣きしたご主人さまの涙で翅(ハネ)が濡れちゃった。
ご主人さまは涙まであったかいね。

女の子とは、公園で別れたよー。
思ったより捜索に時間がかかっちゃったから、お肉屋さんの予約時刻ギリギリになっちゃったんだ。
オススメスポットの紹介はまた今度、ってことで、女の子のお家の場所を教えてもらった。
あの子と蝶々は、もう少しタンポポ畑を楽しんでから帰るみたい。
[魅了]した虫たちに『お疲れ様』って声をかけて、解散してもらう。
さあ、お肉屋さんに行こう!

…えーと、私とご主人さまの出会いについてちょっとだけ語るね?
私がのんびりチューレの花の蜜を吸ってたらね、イキナリご主人さまが飛び出してきて…と、そこはクー・イズと一緒。
ダナツェラの人たちから逃げる為に、夜目のきく索敵の得意なモンスターを探してたみたい。
逃げることと、気配察知だけは得意なナイトバタフライに白羽(テイム)の矢が立った、ということなの!
そして選ばれた幸運な蝶種が、この私リリーだよー。…えっへん!
[幻覚]は得意なの。
けっこう、役に立ててると自分でも思う。
そのお得意の[幻覚]で、レナの”最も関心を引くもの”を見せてるうちに逃げようとしたんだけど…スライムボディに囚われて窒息死しそうになったから、ギブアップしたんだよー。
そうして従魔になって、そしたら、幸せを掴めました。…えへっ。

ご主人さまが望んだ[幻覚]は、とっても不思議な世界の景色だった。異世界の風景だったんだよー。
灰色の大きな建物が沢山並んで建ってて、人もいっぱい、いーっぱい!あんな景色はラナシュの何処にもないだろうなぁ。
寂しかったと思う。
平和な世界にいたのに、いきなりダナツェラの人達に追われる事になって、怖かったと思う。つらかったと思う。

でもご主人さまはとても心が強かったんだ。
この世界で私たちと生きて行くために、変わってくれたんだよ。
優しいまま、逞(たくま)しくなった感じかなぁ…?
従魔の安全を何よりも優先してくれて、大切にしてくれて、嬉しかった。
…レナのこと、大好きなのっ!

えーとね、こんな感じ。えへへ。
じゃあ、ハーくんに代わりまーす。
…まだまだ人に何かを伝えるのって慣れてないから、分かりにくい言い方してたかもしれないけど…私の拙(つたな)いお話最後まで聞いてくれて、ありがとうございましたっ!
またねっ!

***

どうもー、選手交代しましたー。
ハマルだよー。
こうして話すのは、はじめましてだね?
ボクとレナ様との出会い…最近テイムされたばかりだから、覚えてる人も多いと思うけどー、話そうかなぁ。

えっとね。
まず、ボクが平原で寝てたでしょー?
そこにレナ様が勝負を挑みにやって来ました。勝負に負けました。テイムされて、今はとっても幸せ。ちゃんちゃんっ。
……え。もっと詳しくー…?

えーと。まだ眠かったのに無理やり起こされて勝負挑まれたから、すーっごくイライラしてて、早く倒しちゃおーって思ったんだけどー…
レナ様は、スライム先輩とリリー先輩の能力を上手に使って、炎の鞭でぴしぴし攻撃してきたの。
あの時の神々しさといったら!(長いので省略)……んー、本当にステキだったよーー!
正直、ビックリした。
レナ様は弱そうなヒト族の少女だったし、ボクは特殊なスキルとギフトを持っててこの草原でもそこそこの強者の魔物だったから…
あんなに一方的にやられるとは思わなかったよー。
丸焼きにされるよりは、と思って従魔契約を受け入れたんだ。
どんな生活になるのやら、ってちょっと心配してたけど…すっごく大切にしてくれてまたビックリー。
この人の毛布になれてとっても嬉しいよ。
こんな感じでいいー?

じゃあ今日のことを話していきましょー。
ペット探しのお手伝いも終わって、お肉屋さんにやってきました。
魔物肉のベーコンを受け取りに来たんだよねー、楽しみ…!
ええと、ヒツジ肉ベーコンもあるけどー、魔物の世界では同種の肉を食べるのも別に珍しい事じゃないからタブーじゃないんだよー?
死んだ群れの仲間の肉も食べる、って魔物も普通にいるし。
ボクはもともと草食だから、魔物状態の時はお肉は食べないけどー。
魔人族の時はおいしく頂いてます。
ヒト族のカラダって面白いねぇ。
お肉も、野菜も、全部とーっても美味しく食べれるんだから、もうやみつきー!
味覚が繊細なんだろうね。

「おっ!お嬢ちゃん、いらっしゃい」
「こんにちはー!」

レナ様がワクワクした顔で肉屋のゴメスさんを見ると、向こうも「心得た!」とばかりに笑顔で店の奥から何かを持ってくる。
リンゴのほのかないい香りが鼻をくすぐってきた…うー、お腹空いてくるよー。
ゴメスさんが店奥から持ってきたのは、リンゴチップで燻製にしたモンスター肉のベーコン。レナ様が2日前に燻製処理を頼んだやつー。
絶対こんなの美味しいよー…。
レナ様はお料理が上手だし、夕飯が二倍楽しみになるね。
スライム先輩とリリー先輩も、今日のごはんを想像してるのか表情がうっとりしてる。

「…!いい香りー…!ありがとうございました!」

「おう!
こっちもいい練習になったぜぇ。
ありがとうな、お嬢ちゃん。
魔物肉は高いからウチの顧客はあまり買わなくてなぁ、あんまり扱う機会が無いんだよ。
若い奴らにも魔物肉を触らせてやれて良かったぜ。
…ってーことで、燻製代金はいらんぞ!」

「……えっ!?」

「嫁さんにもな、小さい女の子からなーに料金取ろうとしてんだ、それくらいサービスしなッ!…って、叱られちまってなぁ。
一昨日の夜は修羅場だったぜー…。
ゴホンッ、まあ、そういう事だ。
仕事ついでに勉強させてもらったようなモンだし、今回の燻製料金はいらねぇよ。
代わりに、またウチの店を贔屓にしてやってくれな」

「……う。お言葉に甘えても、いいんですか…?」

「ははっ!甘えてもらわなくちゃ、俺が嫁さんに叱られちまうよ!頼むぜぇ」

「…ありがとうございます!」

おおー。おじさんもお嫁さんもいい人だなぁ。
レナ様は、茶色がかった紅色のベーコンを彼から大量に受け取る。
両手に持ちきれなかったからー、ボクが少し大きくなってその上に布を敷いて、ベーコンをそこに並べた。
わ、このまま移動販売とか出来ちゃいそうなくらいの品揃えだねぇ。
いろんな部位のベーコンが揃ってるもんー。
…でもコレはうちのだよー?
肉を狙うネコを威嚇しておく!だーめっ!

「ふふふー、今日は何を作ろうかなぁ。
皆もお手伝いしてくれる?」

『『ガッテン承知ーーっ!!』』
『…はーーい!』
『おおせのままにー』

レナ様は従魔にもすごく優しい言い方をするね。手伝いなさい、ではなくて、手伝ってくれるかなって。
いつもこっちの意思を尊重してくれてるんだー。
…別に、命令してくれても良いんだけどねー?

「ハーくん…。
もう、そんな目で訴えかけてもダメだよ。称号は、使いません…!」

ちぇっ。

今日もピンク色に眩しく輝くお宿♡に着いたら、レナ様はまず軽くバスルームで汗を流す。
水道代を遠慮して、お湯をはらずにイズミ先輩に「ミスト・シャワー」をお願いしてた。
今回はボクらもお料理を手伝うから、一緒にシャワーを浴びなきゃいけないー…でも、水は苦手なんだよねー。
いつも逃げるんだけど、レナ様は最近うまく捕まえるコツを覚えちゃったみたいで、バッチリ洗われてしまった。ぅぅ…
濡れてぺしょんとなった髪を、クレハ先輩が「ドライヤー」魔法で即座に乾かしてくれる。
自分で言うのもアレだけどー、さすが、ゴールデンシープ?
一瞬でふわっふわの金毛になったよ。
希少種になってから毛触りが更に段違いに良くなって、レナ様もよく触ってくれるからボクもお気に入りなのー。

夕飯は”にょっき”に、ベーコン入りトマトソースを絡めた料理だって。
よく分からない食べ物だけど…レナ様がとても良い笑顔だからきっと美味しいんだろうなぁ。楽しみー!
頑張ってお手伝いするねぇ。
ボクたち従魔は魔人族の姿になって”にょっき”作りを担当することになったよー。レナ様はトマトソース担当。

作り方を言うねー?
ソースはね。まず溶かしたバターに薄切りにんにくを浸して、弱火で熱して香りを出すでしょ。
角切りベーコンを焦げ目が付くまで炒めて、タマネギを入れたら更に炒めるー。
皮を剥いたトマトを加えてぐつぐつ煮詰める…味付けは塩と、獣人さんにもらった黒胡椒。あと香草を少し。
トマトの水気が少なくなってきたら、完成だって。

ボクらが作ってるのはジャガイモの”にょっき”〜。
茹でて潰したジャガイモに、強力粉と塩を加えるの。ぐにょぐにょ捏(こ)ねてまとめたらー、少し生地を休ませて、小さなだ円型に丸めるよ。
フォークの背で横線の模様をつけたら、茹でて、完成!
従魔たちは、ジャガイモを潰すのと形を作るのを手伝ったんだー。
まだヒト族の手は上手く扱えないけど、こうして皆で頑張ってお料理するのって楽しいね。
草原にいたときは他人を煩わしく思ってたけど、今は、仲間とわいわいしてるのも好きになった。

スライム先輩が一番上手に”にょっき”を丸めてて、リリー先輩は女の子らしくハート型のを作ってる。
ボクのは…大きさもバラバラで、形も四角っぽかったり尖ってたり、正直不恰好なんだけど…レナ様は「個性的でいいね」って言ってくれたよー。
…ちょっと落ち込んでた気持ちが、またふわっと明るくあったかくなる。
本当に、レナ様の側って居心地がよくて、幸せですーー。
ここにいられて良かったな。

「…完成ーーーっ!」
「「「「わーーーい!」」」」

目の前には、真っ白なお皿に盛られたまだ湯気の立ってる”にょっき”と、添えられた赤いトマトソース。ごろごろと角切りのベーコンが入ってる…うわ、どんな味なんだろう?
一食一食が未知の味だから、お食事がいつも楽しみで仕方ない。
早くフォークを持ちたいよー…!みんなでウズウズとレナ様を見つめると、楽しそうに笑われた。

「ふふふっ。
皆さん、今日も一日お疲れ様でしたっ。
ペット探しも夕飯のお手伝いも、みんなが頑張ってくれたからとても助かったよー。ありがとうね!
では…本日のメニューは、”じゃがいものニョッキにベーコントマトソース添え、パルメザンチーズをかけて”です。
頂きましょう!」

「「「「いっただきまーーーす!」」」」

レナ様の号令をお待ちしておりましたーー!
号令を聞いた瞬間、従魔みんなの目の色が変わる。
それぞれの利き手にしっかりとフォークを握って、自分のお皿のニョッキを突き刺し口に運んだ。
う、うわわわわわ……!

「「あつい…!」」

「ちょっ、リリーちゃん、ハーくん、急ぎすぎだよー…!
ちゃんとふーふーしなさいね」

「「はーい…」」

ボクとリリー先輩だけが涙目になってしまった…。スライム先輩はヤケド耐性があるから、問題なくごはんを味わっているみたい。いいなー…。

一口目は熱で味がよく分からなかったから、今度こそ、と、しっかりふーふーしてからニョッキを食べる。
…んーーーー!
なんだろう、コレ…。食感がモチモチしてて、少しジャガイモの甘さがあって、ソースのトマトの風味がぶわっと口いっぱいに広がるの。
黒胡椒が舌をピリリとさせて、でもその刺激をチーズが柔らかくまとめてくれてる。
…ううーー!たまらなくなって、追加でベーコンを3カケラほどまとめて口に含むと…完敗したぁ。
美味しすぎるよレナ様ぁーーー!
程よい塩気と濃いお肉の味が、とっても素晴らしーです。
レナ様すごい……。

そう伝えたら、ニョッキを作ってくれた従魔のみんなも、肉屋のゴメスさんもみんなが凄いねーーって返事をされて、良く出来ました、って髪をふわふわと撫でてくれた。
こっちも素晴らしい撫でられ心地です…。ふあぁ。

もちろん、こんなことをされてると、他のみんなもレナ様にくっ付きにくる。
ボクの髪が撫でられる時間が減るのは寂しいけど、先輩たちとワイワイ甘えるのも大好きだからー、楽しくレナ様に皆で甘えながら、ご飯を完食したよ。
ちゃんと席について食べなさいね!…次は。って、怒られちゃったけど。

お片づけはお皿をシンクに運ぶところまで。レナ様がそれを洗ってくれる水音で、ボクらは眠くなってくるぅー…。
目が覚めたら、レナ様がルルゥお姉さんにからかわれて、反応を獣人さん達にまたからかわれてる所だった。
レナ様反応いいもんねぇー。
こうして夕飯のおかずの残りを振る舞うのも定番になってきてるね。

お部屋に戻ってもう一度バスルームへ。
今度は浴槽にお湯をはって、ゆっくり肩までつかった。
レナ様とリリー先輩だけはバスローブを着て、ボクとスライム先輩は魔物姿へ。
魔物姿の方が寛(くつろ)げる筈なんだけど、リリー先輩は翅(ハネ)が無いヒト型の方が寝やすいんだって。

ボクのもふもふ毛皮を枕にしてもらって、みんなでベッドに横になる。
[快眠]+[周辺効果]スキルを使うと、すぐに寝息が聞こえてきた。
密着してるから、4人の心臓の鼓動がすぐ側に聞こえてる。信頼できる仲間と一緒なのって、すごーく落ち着くんだねー。
重みと熱が心地よくて、ボクも幸せな気持ちになって、ゆっくりと目を閉じた。

また、明日会おうね。

『『レーーーナ!』』
「ご主人さまっ!」
『レナ様ー』

 

 

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 こちらにはイラストまとめ、創作裏話、ホームページ制作の記事を書いています。ぜひお楽しみいただけますように。
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