278:のんびり報告会1

 

お疲れのレナたちがエメラルドドラゴンに乗り込む。

行きよりも、スライムシートベルトを入念に。落っこちたら困るから。見た目が……というのはギルド長に我慢してもらおう。後輩たちはバッチリ仕事をこなしたことだし。
大空を悠然と、エメラルドドラゴンが飛行する。

レナは、ローブの内側に、クタリと力を抜いたやわらかいものを抱えている。
ちらりとローブの端から覗いたのは、桃色の二股尻尾の先っぽ。風に煽られると、またしゅっと内側に全てこもりきってしまった。

ローブの内側で、桃色子猫がくすくすと小さく鼻を動かす。
淡く甘い花とせっけんの香りと、いつだって自分を救ってくれる主人の匂いが混ざっている。従魔を魅了する芳香が、ここではより濃厚で、視界には赤色しか見えず、子猫を包むようにもつ手のひらはあたたかくて優しい。
安心しきって猫のひげを垂らすと、くぅ……とか細く鳴いた。

「ルーカさん?……ああ寝たみたい」
「へー。疲れてた……からねぇ。クエストクリアしたし、もう、安心かもっ」
「帰るまでがクエストだよ。まだまだ気合い入れてこ! 押忍! でもこれからはシュシュたち先輩の出番ってことで」
「だねぇ~」

シュシュとリリーは赤ローブには手を出さず、後輩ルーカを休ませてあげることにして、ひし! とレナの周りに集った。
是が非でも主人を守り抜くポジション!!
ハマルはレナの背中のほうにいる。前を覗き込んで、一言。

「ルーカ、そこならボクのスキルがなくても~快眠できちゃいそうだね~?」
『『にゃはは!』』

その言葉に、レナが「そうならいいな」と穏やかに笑って、リリーとシュシュが子守唄を歌い始めた。
風にのって運ばれていく。
鎮めの墓地に降り注いだ。

後ろから見守っている護衛部隊の二人が、振り返って、墓地で亡くなった天使族たちに黙祷した。

レナたちは魔王国の手前で降ろしてもらって、後日報酬を受け取る約束をしたあと、早々に赤の聖地に帰った。

ルージュがにこやかな微笑みと淑女の一礼でお迎えをしてくれる。
そして待機組の従魔たちが、転がるように飛び出してきた。

「おかえりなさい!」
「ただいま。あ~~~っ」

レナはふにゃああーーーっと顔をとろけさせると、従魔一人ずつをひしっと抱きしめた。

「これこれ……たまらにゃい……!」

レナはルーカとの感覚共有の名残が抜け切っていない。

「んねーっ。ご主人サマ、どーしてお手手片方隠したままナノ?」

ミディがローブの端っこをつんとつまむ。

「まさか……怪我させられたんじゃ?」

従魔たちがざわざわと殺気立った。
アグリスタたちですら、真顔である。

「ち、違うから。大丈夫。ちゃーんと先輩たちが守ってくれたからね!」

レナの後ろで、先輩たちがえへへん! と胸をはった。

「これはね〜」

レナが大事なものをそーっと見せるように、ローブの前を少しだけはだけた。
桃色子猫が目を瞑っている。赤の聖地に戻ってきてより安心したようだ。

「あー!!」
「しー」
「なるほど~」
「珍しいねぇ」

ミディとチョココが手招きしたので、アグリスタ・マイラ・ジレも子猫を見た。
どんな反応するだろう? とレナは見守っていたが、三人はじいいっと穴があくほど凝視している。その反応は予想外で、レナの方が驚いてしまった。

「羨ましいです。ご主人様~」
「うんうん。ねぇ、ミィたちも!」

チョココとミディが素直に求める。

羨ましい。いいなあ。そんな気持ちらしい……と気づいた元夢組織の三人は、自分の胸に手のひらを当てて、もじもじと顔を赤くした。

「そっかー! えへへ〜。じゃあ、あとで赤色毛布でテントごっことかしよっか?」
「「わーい!」」

ふすん!と鼻息。

「いやいや……ご主人様が長くきていた祝福の赤ローブだからこそ意味があるんだし、戦闘後汗をかいたあとギュってされるシチュエーションの快感も威力マシマシ、それで眠るからこそんあああああっ」

シュシュが暴走している。いつもの。

ぽこん、と頭に何かが置かれた。

「んあ?」
「何……やってんだ……引くわ……」
「オズ。ああおかえり~。この置いたの何?」
「魔王国土産のみかん」
「みかん?」
「他国の外交でもらった土産のおすそ分けだってさ。そーゆーのたらふく持たされたから、また後でみんなに見せるよ。──ただいま主さん」

オズワルドが人垣を縫うように動いて、レナの前にぴょっこりと頭を出す。

見上げてくる金の瞳には「さあ撫でて」と現れていて、レナは期待に応えるにきまってる。

「おかえり! オズくん、一人でえらかったね」
「ヘーキ。ただの帰省だし」
「一人で行けちゃうんだよねぇ……あああぁ……!」
「主さん、感傷の涙……」

オズワルドは(他の奴らもこれから単独行動あるかもってイメージしたんだろうなぁ)と正しく理解して、お土産のひとつ、稲布のてぬぐいをレナの頬にそっと当てた。

涙に濡れると、民族模様が浮かび上がってくるのが風流だ。

主さんへのプレゼントにするよ、とオズワルドはてぬぐいを渡すと、仲間達にもお土産を配り始めた。チョココやミディが待ちきれない様子でマジックバッグをつついてきていたから。

ちょっとしたおもちゃのような物を、二人と元夢組織の後輩に渡しながら(俺にこれを渡してきた父様は今だに子供扱いしてるよな……)とちょっとイラっとした。口をへの字に曲げると犬歯がギラリとする。

「……」

一拍置いて、オズワルドはチラシを掲げた。

「主さん。あと、これ」
「……あ! 魔王国の武闘大会のご案内……!?」

読んだレナが目を丸くする。

すっかり忘れていた。
日々、いろんなことがありすぎて。
でもそんなこと言えない……

「すっかり忘れてた。俺、やること多くて充実してたし。開催時期って毎度結構曖昧だしさ」
「そ、そうなんだ~。オズくんが充実してたならよかったよ」
「ん。だいぶ強くなった感じがする」

オズワルドが腕に力こぶを作って、ちょっぴりドヤ顔で頷いた。

「背、また伸びたもんねぇ」
「それも実感ある。進化したらまたグンとでかくなれそうなんだけどな……その辺どう? キラ」
<オズワルドさんの成長はまだもう少し先ですかね~>
「そっか」

レナは、オズワルドの横に並んでみた。
リーカが目測で計る。

「レナちゃんが156センチ。オズワルド坊ちゃんが145センチ」
「おお~。すぐ追い抜かれちゃいそう」

レナはくるりと横を向いて、流れるようにオズワルドの頭を撫でる。獣耳がヒクヒクと動く。

「あっ、ごめん、子供扱いに感じる?」
「主さんは別に……こーいうもんかなって。モスラやルーカやレグルスも同じ扱いだし」
「つい、ね。従魔はすごーく可愛いんだもん」
「愛で方がそーいうタイプなんでしょ」
「まとめ上手だね!」

隙あらば褒める主人、レナ。
オズワルドももう慣れたもので「ありがと」と自然に受け入れる。

ロベルトとクドライヤは生あたたかい目でその様子を眺めた。

(ドグマ様の時とえっらい対応違くね? 坊ちゃん……)
(やはりそんな感じだったか。さっき、一瞬顔を顰めていたからな。ふむ、主人は特別ということなのだろう)
(人徳ってやつだなー)
(それもあるが、それ以上に従魔契約なのだろうな)

引っかかる物言いをするロベルトをクドライヤは横目で眺めて、その後ろにあるローズガーデンを眺めたとき、

「俺、武闘大会に出てみたい」

オズワルドの物言いに全意識を持っていかれた。

理解した者たちはざわっと、分からなかった幼児たちはぽかんとして、オズワルドを見つめた。
しかし続く言葉はないようだ。
オズワルドは口を閉ざして、じっとレナを見上げている。

「そっかぁ。また中で詳しく聞かせて」
「うん」

穏やかに受け入れられると、オズワルドはホッとしたように尻尾を揺らして、主人の後ろにぴたりとくっついて歩いた。

レナパーティが食卓に集って、ごはんを食べる。

待機組のみんなが作ってくれていた豪華メニュー。
デンジャラスビーフのブラウンシチュー(狩り・レグルス)、ぱんぱかフラワーのもぎたてリトルパン(作・パトリシア)、山盛り野菜サラダ(作・ドリューと幼児たち)、黄金のコンソメスープ(作・モスラ)、ミルクプリン(素材・ミディ、作・チョココ)

わいわいと賑やかな食卓では料理の感想が飛び交って、美味しさに震えたり、初めての素材の調理法が話されたりしている。
今このとき、一番話したいことを話すのだ。それはとびきりの笑顔につながる。

「全部美味しい!」

レナの言葉が、みんなの心境をまとめていた。

夕焼けが食堂のステンドグラスに差し込んで、どの色彩も若干赤みがかって見える。
ルージュがうっとりとその光景を見上げて、料理の湯気をいかにも美味しそうにスーーっと吸い込んだ。

──夜になり。

さっとお風呂に入る。
男子たちはもうオズワルドと話したのだろうか? とレナは気になったが、暴走するミディや、しばらく離れていて寂しかったレグルスとキサの対応に忙しくて、あっというまにのぼせてしまった。
さっと入るつもりだったんだけど。
入れた試しがない。

(みんな一緒で賑やかなのは何より嬉しいけれどね……!)

お風呂上がりにエリクサーを一杯。
▽体が快調になった!

トイリア組と別れて、寝室にやってくる。

夢喰い羊が雲のように大きくなって、ふわふわの羊毛の上にそれぞれが寝転がった。
うとうとしながら話を始める。

「じゃあ反省会のんびりと始めまーす。眠くなったら寝ていいからね~。またまとめを共有すればいいから~」
「「ぱふぱふ~」」

ころころりん、と転がりながらクーイズが定型句を口にした。
くすっとハマルが笑ってしまって、ベッドが穏やかに上下する。

「ふあ~あ。まず、<クエスト:墓地の浄化>は問題なく…………問題はあったけどぉ、なんとか終わりました」
「「いえ~い」」

問題が起こらないことの方がレアなので、全員無事に帰ってきたならそれで満点!! えらーい!!

「報酬は後日、冒険者ギルドに受け取りにいきまーす。せっかくだから魔王国の観光もして行くよー。同行したい子だーれだ?」
「はいっ」
「はーい!」
「妾も!」

チョココとミディ、キサが手を挙げた。

そろそろ幼児たちのお出かけも……と考えていたところなので、先輩たちがこのとき挙手を譲るのは織込み済みであった。

キラウィンドウに、チョココ、ミディ、キサ……他同伴三名、と書き込まれる。もちろんパーティリーダーのレナは同行する。

元夢組織の三名は手を挙げなかった。まだ、観光という気分ではないのだろう。だんだんと明るくなってきているのは確かなので、いつかの機会がいいものになればいいな、とレナは優しい眼差しを向けた。

はしゃいだチョココとミディに絡まれて、金色ベッドの端っこにいた三人はハマルのわたぐも尻尾の中に埋もれてしまった。

『んひゃ!? びっくりした~。そこねぇ、絶対寝ちゃうよー。……寝た~』

くうくう、とやすらかな五人の寝息が聞こえてくる。
レナの指示で、ハマルは楽しい夢を見せてあげることにした。星の輝きがふわりと消えて、五人の口元に吸い込まれていく。

「んー! 楽しみなのじゃ!」
「キサもお出かけ久しぶりだもんね。あ、リリーちゃんの宝飾レッスンにも同行する? 天使族から素材をもらったんだよ。それを下準備して、デザインを相談して、仕上げはこのお屋敷で行うつもり」
「行く~!」

予定がまたキラウィンドウに書き込まれる。
時系列順に、サッサッと並べ替えられた。

「ありがと、キラ。報酬のことは話したし、アグリスタたちも寝ちゃったし……。……鎮めの墓地が更地になった話、する?」

待機組がじんわり半眼になった。

トイリア組にいずれ報告をしたときのお説教も不安オブ不安である。
レナがブルリと震えた。
今のうちに相談内容を整えておかなくては!!
まあキラが事前に概要は伝えていたのだけれど。

「何やらかしたの主さん……シヴァガン王国の方まで妙な光が飛んできてたの、やっぱり身内の所業だった」
「あっほんと!? あちゃー……まあ後始末はギルド長がやってくれるから」
「了解」

実に便利に使われるギルド長であった。
自ら申し出たので、今回で、レナパーティを扱うという難しさを十分に学習して欲しいところである。

「クエストの報告をするね〜。
私たちが墓地に到着したとき、天使族が強力な光の矢を墓地に打ち込んじゃったの。それでアンデッドは全滅したんだけど、怨念が成仏していなかった。私の[魂の昇華]、シュシュの[聖・ジャッジメント]、ルーカさんの[サンクチュアリ]、ハーくんの[夢吐き・地を這う白炎]を施したところ──相乗効果で更地にしてしまったんだよね」

「尋常じゃない……」
「オーバーキル……」
「安定のレナ様……ステキ♡」

オズワルドとレグルスが口端を引きつらせて呟き、キサが天然擁護の発言をしたことでレナの心がかろうじて救われた。

「まさかここまで威力が大きくなるとは思わなくて。今後は、技の組み合わせには注意しようと思いました……」
<同系統の技を組み合わせると、融合するパターンがあるそうですね>
「なんだそれ!? 聞いたことがありませんが」

レグルスが牙を剥いて食い気味にレナに尋ねる。
近寄ったので撫でられた。落ちついて。

「ロベルトさんとリーカさんはね、従魔契約でみんなが繋がっていることがポイントなのかもって言ったの」
「そうなのですか……」
「現状、最も可能性が高いみたい」

レグルスは喉を鳴らすのをこらえて、眉根を寄せて考え込む様子を見せた。

「……レナパーティが危険視されるかもって考えてる?」
「はい」
「それはね、あると思う。でも、これまでもそうだったから。今回の件は、クエスト通りの働きをしたら威力が大きすぎたミスの範疇って言われているのね。私たちが悪意を持って反抗したわけじゃないから、ってギルド長は証言してくれるみたい」
「そうですか。証言、ということは魔王国議会ですね?」
「その予定だって。政府には、ロベルトさんたちも証言してくれる。今まさに報告が行われているんじゃないかなー? まずは、新たなラナシュ常識の共有って言っていたよ」

レナは一呼吸。
レグルスの顎を撫でていた手を、柔らかな獣耳の方にすべらせる。

「あとは、これまで通り、レナパーティが誠実に過ごすこと。いたずらに従魔を増やすんじゃなくて一人一人をしっかり把握する、私の姿勢を貫くこと。じゃないかなーって」
「現状、できることを全て述べていると思います」

レグルスがしっかり頷いた。
しょんぼりした獅子の獣耳はレナが撫でて元通りだし、今は興奮のために髪がグラデーションカラーに揺らめく。ぐるる、と随分気持ちよさそうに喉がなってしまった。
全体的に赤くなったレグルスが、咳払い。

「俺、炎獅子の実家に連絡を取りますね。レナパーティの方針について、把握している有力者が多い方がいざという時に安全でしょう」
「ありがとう!」
「そろそろ連絡を取らなくてはと思っていたところなので……」
「……どれくらい連絡とってなかったの?」
「……数ヶ月ですかね」

レグルスは気まずそうに顔を逸らした。レナはぱしんと自分のおでこを叩いた。
その間に色々な出来事が起こりまくっている。
従属とかレア進化とか諸々。

キラディスプレイの予定表に、またひとつ項目が加わった。ずいぶんにぎやかになったものだ……まだまだ……。

天使族の様子は? とオズワルドが尋ねた。
レナは、膝の上で気絶したように眠っているルーカをひと撫でして、苦笑した。

 

 

 

 

 

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