274:<クエスト:墓地の浄化>1

 

王都冒険者ギルド本部の裏側──高い柵に囲まれた訓練所。土地の浄化手伝い、改め<クエスト:墓地の浄化>のメンバーが集った。

レナパーティからは、レナ、クーイズ、リリー、ハマル、ルーカ、シュシュ、キラ。

前回の訓練のメンバーとほぼほぼ同じだ。

オズワルドは、政府からのストップをくらわないように魔王国の王宮に出向いている。

「なんというか……目立つなァ、君らは」

クエストリーダーであるギルド長が、苦笑してこめかみを指で引っかいた。
エメラルドの竜鱗がカシュっと硬質な音を立てる。ジレもたまに行う、竜人族特有のしぐさである。気持ちを落ち着けたいとき、竜鱗に触れる。

「こんなクエスト同行者は初めてだ。……というか闇のお祭りか?」
「通常運転です!」

レナがどどんと言い切る。

まず、当のレナは赤のロングローブ。歩く赤の宣伝隊長のようだ。
そして仮面を被っている。

クーイズは輝きが抑えられていて黒紫、ハマルも黒羊、これらはリリーの[幻覚]によるもの。
黒子のようである。ここだけ地味で悪目立ちする。
ちなみに仮面を被っている。

リリーとシュシュは、黒のゴスロリ。
たっぷりドレープの膝丈スカートに編み上げコルセット、黒のケープ。頭には黒薔薇を飾っている(クドライヤに強請(ねだ)った)
特筆すべきは蝶々の翅・天使の翅がデビル翼膜になっていること。
にやりと笑う姿はまさにゴスロリヤンキー。
もちろん仮面を被っている。

ルーカは不思議なことに桃色髪アレンジである。
伏せた猫耳はなにがどうした。
一人だけ仮面を被っていないかわりに、白のローブを目深に着込んでいる。

「何がどうして……一体、なんなんだ……?」
「「なんだかんだと聞かれたら!」」
「おっ。教えてくれるのか?」
「「仲良しだから!」」

▽ギルド長は 答えがもらえなかった。

「……語呂がいいな。いやいやデビルなお嬢ちゃんたち、そっくりな黒服のことを言及したんじゃあないんだ。……微妙に噛み合わないな……というか言う気ないだろ」
「「押忍!」」

ギルド長はやれやれと、レナの方を向く。
彼の表情はすこし厳しく、竜鱗をガリッと引っ掻いた。

「レナパーティリーダー。今回、幼天使(リトルエンジェル)は連れてくるなって言ったな?」
「聞きました」
「アンデッドは天使族を優先的に狙うからだ。じゃあ、なぜ?」

翼をバサバサオラァ!とはばたかせているシュシュを、顎で示す。

「注意を聞けないんじゃ冒険者として下流だ。……っと、どうにも説教くさくなっちまう」
「ご心配をおかけしてます。その注意点を上回る利点として、『シュシュが直接天使族を見られる』ということをとりました」
「ウーン」

ギルド長は口をへの字にする。

「それは主人でありリーダーの君の判断でもいいはずだろ? あーでも、レナパーティだからか……従魔をとにかく大事にしてる。そう聞いてるし、見てて分かる。大事な部下に直々に頼み込まれたか?」
「そんなとこです」
「ふぅん」

レナの後ろで、ルーカが深く頷いた。
昨夜、シュシュは荒れに荒れていたのだ。だから囮(・)を申し出た。

「シュシュの意思を尊重したくて。アンデッドに有効な光魔法を使えますし、ギルド長もいてくださることを考慮して」
「強調してくれるねェ」

期待していますからね? と眼光でレナが告げる。そもそも政府秘匿の依頼に誘ったのはギルド長なのだから。利用はお互いさまだ。

レナの上目遣いには、可憐さではなく迫力がある。

(今のレナパーティの実力が見たいから……って依頼の時に言ったことを忘れたわけじゃあるまいに。俺のことを信頼はしていないだろうけど、ギルド長の立場に信用はあるのかね。……まあ、予定よりもさっさと終わらせちまうのが、無難か)

ギルド長は(様子見しつつレナパーティを動かすようにしたかったな)と残念に思いながら、彼女らの開示されているステータスを思い出す。

(レナ藤堂[黒・緑]、スライム[赤・青]、フェアリー[黒・黄]、羊[黒]、猫[白]、幼天使[白]……おっと、ネオ種の宝箱(ミミック)が[白・黒・緑・青]だったな。バランス型だな、恐ろしいほどに)

ここにいざとなったら、モスラの呼び笛・朱蜘蛛の喚び笛が加わることも思い出してしまって、ギルド長は竜鱗を撫でる手を降ろした。
もはや竜鱗程度で気持ちが落ち着いてたまるかよ。

あきらめた。
今は驚き時、である。

「ははは! すごいな!」
「だ、大丈夫ですか……!?」

いきなり笑い出したギルド長に、レナがギョッとして尋ねる。
覇気で威圧しすぎたかな? と思った。

ぐりぐりぐり、とレナの頭が大きな手のひらで強めに撫でられる。

「よろしく!」
「っん!? はい……いだだだ」

「「っあーー!? うちの主人に何してんのぉ!?」」
「髪の毛せっかくきれいに編んだのに……イラっとしました」
「乱れ髪ってー、ボクけっこー好きだけどー、それをしていいのはあなたじゃないでーす」
「虫まみれに……して、あげようかッ……?」
「許さないよ!!!!」

▽ギルド長は 従魔の恨みを買った。
▽次の訓練が愉しみだ。

……などとレベルアップの予感にギルド長が思いを馳せていると、キラから「醜態撮影ギルド公開」の最終手段(ラグナロク)の一声がかかり、さすがにレナに謝った。

主人が許せば、従魔はそれに従う……わけもなく、いったん矛先を引っ込めたものの恨みはしっかり覚えている。

「もう! ギルド長は一言多いんですよ!」

護衛と記録を務めるリーカが、ビシッとギルド長に言及した。

「さて、行きましょうか。何事も起こらないように、我々がレナパーティの護衛だけはいたしますから」
「ロベルトさんフラグやめてください」

すっかり言葉遊びに慣れたロベルトが、失礼、とぺこりと頭を下げる。ユキヒョウの丸い獣耳が揺れているのを、レナが軽く指摘した。

レナパーティと親しげな様子に、ギルド長が(人徳かね)と軽いため息を吐く。
ひゅっと冷たく鋭い風となった。

「さて。行くぞ」
「ここばかりはエメラルドドラゴン便の利用に甘えさせて頂きますね〜。昨夜、モスラが荒れに荒れていましたが!」

蜂蜜茶をガブガブ飲んで愚痴を吐いていました、とレナの呟きを聞いたギルド長は、ブフッと噴き出す。
小さな竜巻が木の葉を巻き上げた。

『ごほっ。──俺の姿が墓地のやつらに見られても問題はない。アンデッドどもは敵の姿が見えたところで戦法を変えない、優先的に天使族を襲うだけだからな』
「ってギルド長が言ってる」

ルーカが通訳をして、ふむ、と自分の知識と照らし合わせる。

「アンデッドとして下位ということですね。復活したばかりのアンデッドは、他者……とくに光属性のものを襲う。墓地に常駐していた天使族を恨むくらいの知性はあるやも。ちなみに進化したら、自我が芽生えることもある」
『正解だ。詳しいな』
「昔、本ばかり読みふけっておりまして……」

ルーカの目が淀んだ。
昔を思い出すと、ネガティブな気持ちに引き摺られそうになるのだ。

道中、ちょっとした悪運でミーハー女子に絡まれたり、赤の聖地に守られていない世界の本質に震えているところである。

「──ポジティブキック!」
「うわっ」
「もー。ピンクの髪と、明るい顔で……天使族に、なりきるんでしょッ?」

▽リリーが ルーカをポーンと蹴り飛ばして エメラルドドラゴンに乗せた。
▽物言いが悪すぎる。

<リリーさぁん! 全部言ってるし……>
「あっ」
<せめてもうちょっと物言いを柔らかく……シュシュさんを危険に晒さないように、高レベルのルーカティアスさんがアンデッドの囮になってくださると。それはとても勇気ある決断だと>
「長くない……?」
<まあ……>

竜巻のエスカレーターでエメラルドドラゴンに乗り込んだレナとクーイズが、ルーカの隣にぎゅぎゅっと座った。

「自分で言ったことはちゃんと頑張れる子ダモン、ルカ坊は大丈夫だよ〜。我らのポジティブ分けてあげるぜ!」
「さっさと殲滅させて帰りましょうね。おーヨシヨシ」

<引きこもりをなだめる保護者のようですね……>
「甘やかし、だね〜」
「さっき褒め言葉攻めしてたキラ先輩も、立派な甘やかしなんだと思うよ。押忍!」
<ありゃ。実に自然に……つい。なんという習慣化>

みんなで背中に乗り込んだ後、ハマルが一言。

「ネコマタ天使族ー!」
「フラグ立てないの、ハーくん」

レナがぎゅっとハマルの鼻をつまむ。

ギルド長はその一言で、キラが身内にだけ言ったであろう内容を、なんとなく理解した。

(なるほど! 桃色髪は天使族を模したつもりだったのか。身内を守る準備は万全にと……それにしても、白の翼がないと勘違いのされようがないのだが?)

変幻自在のクーイズがいるし。
色味はリリーがいるし。
世界情報変更はキラがいるし。

レナパーティのなんちゃって変装は鉄壁の布陣なのだが、そこまではギルド長の知らぬ領域である。

「早く終わらせましょうね」

レナがそう言って前を見る。

ぎゅっと拳を握りしめて。

(ここにくるまで、ルーカさんの運が悪かったし……。リリーちゃんが転けてペンダントを壊しちゃったり、ハーくんの髪が私のボタンに引っかかって数本抜けちゃったり。私もさっき、竜巻の中で酔ってクーイズに助けてもらった。やっぱりラナシュ世界はバランスで成り立ってるんだ……
拠点ができたからって引きこもってたら秤のバランスが崩れてしまうから、外出とか、しないとね)

▽レナは 拳を突き上げた!

「押忍!」
「押忍ぅぅ!」

シュシュが大喜びで同じ動作をする。
黒翼がバサバサと動いた。

「ふふ! 頑張ろうね! 私も頑張るからね……!」

レナが隣を見て、パチリと瞬きする。
ルーカに意思を伝えた。

「ん? はい、了解、ご主人様」

呼び方はシュシュを真似て。天使族になりきり始めている。

「ギルド長! これから少しずつ外出をしようと思っています。せっかくのご縁なので冒険者ギルドからも手助けして下さいね」
『そうだな。では今回、期待している!』

▽墓地の上空にやってきた。

 

 

 

 

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