273:ギルド長からの相談

シヴァガン王都ギルド長、グレイツ・ハーヴァと訓練を行う。

貸し切りの訓練場で、エメラルドドラゴンがその大翼を広げた。日差しを吸収して、生命力に満ちた緑色を輝かせる。

『<うーむ。のびのびと戦うのは気持ちがいい>』

キラが「ドラリンガル」にて通訳を行っている。

『同感で〜す!』

大地をズドン!と蹴りつけて、白金色の毛並みのヒツジが咆哮をあげる。
メエエェェェェ!!

▽称号[ドラゴンキラー]セット!

グイグイやっつける気のハマルに対して、ギルド長が穏やかに目を細めた。

『<若いな。熱気につられてこっちまで熱くなりそうだ>』
『そーですよー? 可愛い後輩の経験値になってくれていいんですよー? せんぱーい』
『<強大な敵に挑む方が経験値になるぞ>』
『じゃあ、倒しまーすっ』

ハマルの尻尾がもくもくと膨らみ、訓練場結界の中を夜空のように暗くした。
星がバチバチと攻撃的に輝いている。
ギルド長が目を見張る。

『<……新技術、か?>』
『うん、そのうちスキルとかでーもっと上手に使える予定なんだ〜。うちの調教師がねー、いっぱい指導してくれるからー』

ハマルの背後にギルド長が焦点を合わせる。
目前にいるのはたったの一体なのだが、その背後に仲間の存在を恐ろしいほどに感じる。

(SSランク冒険者特有の特徴なんだがな)

……まあその段階をとっくに超えているのだろう、とギルド長は察しをつけた。ただただランクが伴っていないだけなのだ。

レナパーティのように、成り上がりたい欲を持たずに脇道生活をしている冒険者なんて珍しい。

(冒険者ギルドとは、戦闘能力を活かしたい者たちの就業場所だ。危険も伴うため、生活の基盤が整えば、冒険者を辞める者も多い。……)

慎重なレナパーティのことだ、ただ単に解約忘れ、ということもないだろう。

(なぜ、まだ冒険者でいるのだろう?)

なぜ。理由があるのだろうと見ている。

ルーカが亡命の元王子であるのと同じように。
きっとレナにも、なにか。

……ギルド長には、その内容までもほじくり返す気はない。

ただ、この恐るべき力を持つレナパーティにできるだけ長く冒険者として活躍して欲しいと思っている。
優秀な冒険者を導くことが、彼の仕事だから。

(こっちからも発注とかしてみるか)

『<がっ>』
『天使の槍の夢〜……翼を固定だよー!』

『<ふんっ>』
『ダメージをとったのかあっ……ん、もーー!』

ステップを踏んだハマルが大ジャンプしてドラゴンにぶち当たろうとした時、翼膜に穴を開けながらも、ギルド長は大回りして回避したのだ。
ハマルはわたあめのように丸くなり、ぷよんっと弾んで着地した。

『<なんだそれ!?>』
『柔軟なヒツジだよーん。いーでしょー? ふふーん』
『<それも夢か!……現象も反映されるのか>』
『まー、いろいろー?』

ハマルの背後、訓練場の扉の近くで、シュシュが拳を振り上げて、クーイズがブンブン手を振っている。

『<仲間の数が、夢の数。増えるほど力になるって、お前さんの本質は主人に似ているなァ>』
『ふっざけないでくださーい、レナ様はサディストでー、ボクはマゾヒストなのでーー!!』
『<そこ怒るところか!?>』

ハマルは生き甲斐を譲らなかった。
弾丸のようにエメラルドドラゴンに突っ込んでいく。

「スキル[鼓舞]」

▽レナの後押し!

グンとスピードを上げたハマルの角が、ギルド長の横っ面に刺さった。

『<サディスト……だな……理解した……>』

▽ハマルは 得意げだ!
▽レナ曰く 「そんなつもりじゃなかった」
▽ルーカが 「自然にやらかしたんだね……」余計なことを言った。
▽リリーが 「ご主人さますごいっ」素直に追撃した。

『<[竜巻]>』

ひゅおおお! と風が渦を巻いて、羊毛がもふっもふっしているハマルを吹き飛ばす。
ついでに夜空色の靄も吹き飛ばす。

『んわああぁ〜〜!?』

ハマルは目をぐるぐる回している。

ギルド長が[壮絶回復]ギフトで傷を治療。
晴れた日差しの中で[ドラゴンアイ]を細めてハマルを見つめた。

羊毛によって身動きが取れないんだ……と気づいたハマルは半獣人型になる。

空中戦に慣れていないため、バランスを取りきれず手足をバタバタさせながら小さな子どもが落ちていく。

エメラルドドラゴンが手で受け止めた。

「……むぅ。ギルド長さんー、ボク不服ですー」
『<しかし訓練終了時間だ。大したヒツジだから、誇っていいぞ。おっと、主人も喜ぶはずだな。従魔が頑張り屋で優秀ならばたくさん……>』
「ごほうび!」

拗ねていたハマルの表情が、ぱああっと明るくなる。
一番星のようにきらめいている。

(幼いなァ……)

ふう、とギルド長がこぼしたため息は、ゆらゆらした風になって青空に溶けた。

「レベルアップはしてないけどー、夢の空間の使い方に慣れてきましたよー。レナ様、あなたのヒツジはいかがですかー?」
「素敵!」
「えへへー」
「好き!」
「それが一番嬉しいなー。ご褒美くださいー」

ツネツネ。ムギュッと。
ヒツジ耳をいじられながらハマルはご満悦である。

うーむ、とギルド長は不思議そうにレナを眺めている。

「くっ……いろんな趣味があるんですよ、この世には……!!」
「なるほど。部下に施してやるのも大変だなァ、お嬢ちゃん」
「……。……!? た、正しく理解してくれてるッ!?」

レナが驚愕の目でギルド長を見た。
これまで、赤の女王様としてサディスティックな誤解を受けることばかりだったから。

「いやいや。お嬢ちゃんは頑張ってる。その歳でそこまでの人数に慕われているのは、尋常じゃない。頑張りも人柄も素晴らしい」
「ひ、ひえー……! し、下心とかあります?」
「こらこら……苦労してるんだな」

ぐっ、とレナが下唇を噛んだ。
心に余裕を持って過ごしているつもりだが、不意にかけられるこのような言葉はするりと柔軟に心に入り込んでくる。
距離のある人が口にするほど、慣れていないため動揺してしまう。

「苦労して得たのが今の生活なら、とても嬉しいって思いますよ」
「えらいな」
「あーもう……なんなんですかどうしたんですかー!? 言われ慣れていない方にそういう言葉をかけられると、むず痒いのですが……!?」

ありがたいと思う気持ちと、素直に受け取ると危険だ……という信頼の低さと、ギルド長の[色男]称号の効果と、さまざまな要因がレナを困らせる。

「主さん大丈夫? ちょっと、アンタそれ以上こっち見ないで。主さんが減るから」
「ご主人様を不安にさせるなら制裁だよォーー!?」
「そろそろ本心を目視しようか?」
「援護♪ 援護♪」
<動画記録はお任せください☆>
「まどろっこしいおじさんはね〜ボクきらい」

▽従魔の ご主人様絶対守るホールド!!

「こらこら、そんなに警戒するんじゃない」
「本心発表まで三、二……」
「ちょっルーカ君やめなさい、目を閉じて。ギルド長もしつこいですって」

▽護衛のリーカが止めに入った。
▽間に入って 額の[メデュリ・アイ]でぎょろりとギルド長を睨む。

「悪かった。本題に入ろう」
「本題……。下心、まあありますよねぇー。はあー」
「ははは、そう肩を落とすなレナお嬢ちゃん。ただの雑談みたいなもんだ、今回は」
「本当にー?」
「ああ、もう自分たちで決めていいんだ。Aランク冒険者レナパーティ」

(なるほど、断ることもできるんだ……今は、もう)

レナは自分の立場を思い出した。

夢組織戦でランクアップして、ついにギルド内での自由の翼を手に入れたのだ。クエストを受けることが少なかったので、実感する機会がなかったが。

(これからは、冒険者ギルドにも行きやすくなるかもね。自分たちで決められるなら。……またちょっとした依頼を受けてもいいな〜)

それって異世界に来てすぐのときみたいだ。
と、初心に返るように思い出した。
レナは考える。

(従魔の個性を活かして、報酬を得ることは、それぞれの自尊心にもなるはず)

モスラは執事としての給料で、レナやアリスにプレゼントを買うのが楽しみだという。与えられるだけの立場でいるよりも選択肢が広がるのが嬉しい、と。
その気持ちは大切なポイントだと思っていて、レナは心にメモをしていた。

「リーダー・レナ。さてついて来てくれるか?」
「えっと……」

思考の海に沈んでいたレナが、ハッと意識を浮上させる。

「はい」

……異世界における身分証明方法がないレナは、ギルド所属員でいるしかない。
拠点ができても、魔王国の後ろ盾があっても、生活を確立させる方法は複数持ち合わせたほうが安心なのだ。
ギルドカードは強力な保証書となる。

ギルドにいるのはそれが理由だ。

「背中に乗って行くか?」
「エメラルドドラゴン便……? いえ……うちのバタフライ便があとで荒ぶりそうなので、やめておきます……」
「愉快だなァ、お嬢ちゃんとこは」

ギルド長がククッと喉で笑った。

▽王都冒険者ギルド本部に 徒歩で向かった。

<王都冒険者ギルド本部>

どっしりそびえる黒壁の建物に、巨大な白骨が巻きつく圧巻の外観。
体躯の大きな魔人族冒険者が行き来するいかめしい光景が名物だ。

小柄なレナは(目立つんだよね私たち……)と気にして赤のフードを被った。
それくらいではもう、赤の女王様であることは隠しきれず「あ! 噂の……」と指さされてしまうのだが。

成長したオズワルドが「大きくなったなぁ」とおじさんたちからあたたかい視線を向けられた。オズワルドはむすっと睨みつける。冒険者の斧の柄にぶつかりそうだったシュシュ、フラフラしていたリリーを引っぱって庇うと、さらにニヤニヤされたのでおじさんたちを威嚇した。

『にゃあぁ……この雰囲気にムズムズするの、まあ分かる……』
『オズワンコもルカニャンコもー、こわがりだなー?』
『こりゃ、ハーくん。からかっちゃだーめ。オズ一人でフォローしてえらいじゃん〜』

レナの腕の中で、金色子猫とミニヒツジ、紫スライムが小声で会話している。
ふわもふ、ぷよん。

「なんか懐かしいな〜この感じ」

レナがふにょんと微笑んでしまったことで(あの子冒険者らしくないなァ)といっそう注目を集めてしまった。

レナパーティのことを覗き視(・)しようとした冒険者は目に激痛が走り(赤の女王様の怒り)であると妙な噂ができあがった。

ギルド長がともにいるため、おかしな絡まれ方はしなかった。

受付嬢が並ぶカウンター横を通り抜けて、奥の個室へ通される。

「お疲れさま」
「そうですねー来るだけでも疲れました……!」
「そのうち慣れる。だから何度もきてくれていいんだぞ?」
「うーん。考えておきますね?」
「そっちには招待してくれるかい」
「赤の聖地にですか?……今の所だめです」
「だめか」

革張りのひんやりしたソファに腰掛けながら、レナとギルド長が軽口で会話する。
こんなに親しくなっているのに? とギルド長がひやかすと、レナは「スカーレットリゾートとして経営するようになったら考えますね」のらりくらりとかわした。

(身内として呼ぶには、立場も性格も厄介者すぎるって……。スカーレットリゾートの会員として招待するなら、会議とかできるし便利かもね〜)

レナが、出されたお茶に口をつけて、ふうと肩の力を抜いた。もちろん、ルーカが尻尾で手首を撫で『無毒』と伝えてから手を出している。

だめ、という物言いによる厳しい印象をフォローしたくて、レナが付け足す。

「……うちに夢組織の子たちが更生にやってきてるの、ご存知です?」
「ああ。煉獄火蜥蜴、スケルトンホース、シルクゴーストだろう」
「はい。晴れて正式に従魔になってくれまして」
「おめでとう」
「私、主人として守らなくちゃいけないので」
「うん」
「煉獄火蜥蜴のジレが、ドラゴンにトラウマがあるみたいなんですよね……」

ギルド長が虚をつかれたような表情になった。

「……ドラゴンの里に伝言しておこう。それから街のドラゴン便を見るのもまずいか?」
「えーと、それくらいは自分たちで配慮しますよ。街の常識を私たちの都合で変えることはおかしいですから。ただ、すぐに赤の聖地にドラゴン系統の方を呼ぶのはむずかしくて……」
「分かったよ」

ギルド長は苦笑した。
これで、無理に予定を入れて訪れることはできなくなった。
赤の聖地に興味があったが、レナに釘を刺されたのだから、リゾート開業を待つことに決めた。

『……みたいだよ?』

ルーカが嬉しそうに言って、レナの手首を尻尾で撫でた。

『よくできました。ご主人様』

レナはごくごくとお茶を飲み干した。

「はは、緊張させてしまってすまないな。じゃ、喉も潤ったところでギルドクエストの相談だ」
「相談ですね?」
「相談だ」

無理やりでないことを、確認。
しかしその後、すぐにレナの顔が曇ることになる。

「まず相談したい内容から行こう。光魔法による[|浄化(パージ)]の手伝いだ」
「|浄化(パージ)を……?」
「仕事場所は、鎮めの墓地」

レナがぎゅむむと眉根を寄せる。
心当たりがある。
夢組織のスイが更生に行った場所ではなかったか?……と。

ギルド長が依頼用紙をレナたちの方に向けて差し出した。

ーーーー

○土地の浄化手伝い (冒険者ギルド)
……穢れた土地の浄化を求ム。
魔力30の浄化三メートル四方につき、1000リルの支払い。浄化貢献が大きい場合、またはアンデッドを消滅させた場合、金額の上乗せアリ。

ーーーー

「これ、依頼元が(冒険者ギルド)なんですか? 鎮めの墓地の方からの協力依頼じゃなく?」
「そう。俺も参加するんだ」

レナが目を丸くした。

「だから安心していい。君らはあくまで補助員だ」
「……ギルド長が参加するような重大案件ってことじゃないですかー! っていうか、もっと詳しく教えてくださいよ。クエストには危険が伴いますから」

やれやれバレたか、とギルド長が取り繕うような笑みを浮かべる。

「慎重でえらいな。鎮めの墓地にてアンデッドが活性化、天使族が土地と怨念の浄化にあたっているが、そろそろ体力切れなんだ。冒険者ギルドを通して、浄化の手伝いを募集してほしい……と、政府からのお達しがあってな」
「政府経由? でも……私たちのところに指名依頼じゃないんですね」
「できるだけ君たちを危険に晒したくないのさ。魔王様も宰相も、子を想う親だからなァ」

ギルド長がオズワルドを見ると、むすっとしているけれど尻尾は嬉しげに揺れている。
その表情をする方が子どもっぽいぞ、と余計なからかい方をして好感度を下げた。

「……で、あなたは……」
「レナパーティの実力を見たくてね」
「悪い大人です……」
「はっはっは。子どもを子どもと見て守ってやれなくて悪いな、お嬢ちゃん。仕事だから」
「すぐに赤の聖地に呼ばなくてよかったです」
「こういう奴もいるから、いい大人ばかりじゃないことをしっかり覚えておけ」

レナがむすっとした後、ため息を吐いた。
たしかに最近気が抜けていたから金言だが、気分はよくない。

ギルド長は葉巻に手を出しかけたが、リーカが止めた。
額のメデュリ・アイもキュッとシワを寄せていて、険しい顔をしている。

「もう! 政府はレナパーティに知らせないようにしてたのに、わざわざ教えちゃってどうするんですか……」
「しかし決めるのはお嬢ちゃんたちだろうさ。ただの意地悪で言っているわけじゃない。天使族の繋がりに、夢組織の因縁。悪い縁が絡まらないうちに、処理しておくことを俺は勧めるぞ。もう自分たちで決めていいんだよ、この子どもたちには資格がある。──他人が行動した結果をあとで受けるか? 自分たちで始めてケジメをつけるか? 俺なりの親切でもあるのさ」

むーう、とレナが頬を膨らませる。
んうぅ〜……と悩んでいるうちに、頬がしぼむ。
ギルド長はそれを真剣に眺めた。

「夢組織のひとりが、鎮めの墓地で更生業務にあたるって聞きましたけど……」
「ああ。合ってる」
「合ってるんだぁぁ〜……ううー。なんでそんなことになっちゃったんですか? アンデッドの暴走っていつものことじゃないですよね」
「稀にある、怨念が暴走してな。しかし天使族で止められなくなっているのは初めてのことだ。まあ原因は、天使族の種族としての力が弱まっているからだろう……と見ている」
「そうなんだ?……まだ、混乱は初期?」
「そう。早く処理できれば安泰だから、俺がいって終わらせる。最悪を考えれば、アンデッドが街にまでやってくる危険があるからな」
「私たちにとっても他人事じゃないですね。……やります」
「助かる!」

ギルド長が満足げに頷く。

「レナちゃん!?」

リーカが心配した声を出す。

「光属性なら、私たちも貢献できる魔法があります。それに天使族と厄介なことになる前に、恩を売っておきたいですからね」

レナが、シュシュの手をキュッと握った。

「お、押忍……!」

シュシュが真っ赤になってデヘデヘにやけながら鼻血を出した。
乙女がしてはいけない表情をしている。

(それに幸運続きだから。反動の悪運発散ってことで厳しい依頼を受けるのもアリでしょう)

▽墓地の浄化依頼を受諾した。
▽メンバーを決めよう。
▽ギルド長はハマルの頭突きをくらった(やつあたり)

 

 

 

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