270:チョココ♪バレンタインデー11

 

▽ミディが 二メートルサイズに縮んだ。
▽チョココが 目覚めた!

『『スウィートミィ♪』』

チョコレート色の手をバンザイする動作が、リンクする。

ミディはイカ触手を眺めて、不思議そうにプルルンと頭を傾けた。

『アレ? 勝手に動いちゃった……』
『今、ミディはスウィーツモンスターですもの〜』

ざわざわ、と従魔たちが騒ぐ。

(すごいことを聞いてしまった……)
(チョココの配下か……)
(戦闘力を兼ね備えすぎたスウィーツモンスター、爆誕……)
(暴力的スウィートミィの予感だな。いや予感っていうか実際やらかしたけど……)
(デリシャスなチョコレートクラーケン、どんなお味なのかしらーー!?)

……ノアはきわめて自然に、ヨダレをハンカチで拭いた。

きらきら! とミディの瞳がテンパリングチョコレートのように輝く。

『ミィもスウィーツなお味? じゃあハッピーバレンタインデーできるノ!?』

ずっとチョココが羨ましかったのだ。

チョコレート温泉を『頂きます』して、どうしてチョコレートはこんなにも幸せな気持ちにさせてくれるのだろうと思った。
今なら。
自分も。
そ・れ・が・で・き・る。

ビチビチとイカ触手を跳ねさせた。
ルーカがあわてて[サンクチュアリ]でテーブルを守る。

チョココがポテポテと弾む。
アグリスタが頑張って手のひらで支えた。

『イカゲソ輪切りにするといいですよ、ミディ〜!』
『イカスミはホットチョコレート、カナ!?』
『ブラックテイストな予感ですねー』
『イカリングは?』
『じゃあ、ビスケット』

チョココが[|お菓子な魔法(スウィーツマジック)]を使おうとしたら……
ふにゃああ、ととろけてしまった。

「ちょ、チョココぉ〜!?」
『アグリスタさぁん……魔法の使いすぎみたいですー。きゅうぅ……』

溶けたチョココの体調は? とか、アグリスタの手は熱くなってない!? とか、床に落ちたチョコからモムが生まれてるだとか……レナは(どれから対処すればいいの!?)とワタワタしてしまった。

ルージュがじっと観察している。

(ふふ、今は頼れる仲間がここにいるでしょう? 大丈夫ですよレナ様……)

そっとレナの背中に微笑んだ。
こんな緊急時だが、レナの背中はすらりと伸びており、魔物使いの主人としてふさわしいと考えられる。

ルーカが近くにやってきて、チョココを視る。

「魔力の使いすぎ……自己判断できたとおりだね。あのねチョココ、寝て回復しようってアイデアはよかったけど、それを上回るくらい張り切っちゃったんだよ。……大丈夫だよ、レナ」

声が穏やかだったので、レナの心も落ち着いてきた。

キラはモムたちの整理をしている。

「整列!」
『『『きゅきゅーぅ』』』
「よし、私の命令も聞くみたいですね。せっかくなので情報固定しておきましょう。バレンタインデーモムとでも命名しましょうか……」

チョコのしずくが床に落ちたときの「ぺしょん」とした形のままうごめいていたモムたちは、とっても小さなイカ型チョコレートになったのだ。

キラは「クラチョコ・モム」をミディに見せて、ご機嫌をとっている。

ふりかえってウインク「大丈夫ですよ、マスター・レナ」

レナの心配ふたつが、あっという間に解決された。

「アグリスタ。手は……?」
「あ。なんともないですぅ……大丈夫……レナ様ぁ……」

だんだんと声が小さくなっていったけれど、きちんと顔を見て言ってくれた。
レナはやわらかく目を細めて微笑んだ。

『アグくーん、手伝ってくれませんか〜?』
「え……」
『[共感]で、[|お菓子な魔法(スウィーツマジック)]使ってほしいんです〜』
「ええ!? 無理無理、無理だよ……!」
『だいじょーぶ、だいじょーぶ♪』

思わぬ提案に、アグリスタは眉をハの字にする。

「やったことないもん〜……そんなのぉ……共感は、いっつも誰かを不幸にするばっかり……だったからぁ」
『それ、望んだことではないでしょうー? じゃあこれからは、幸せを届けるための力にしてしまえばいいのですよ! 今日はバレンタインデー、幸せな愛情を届ける日、だいじょーぶだいじょーぶ♪』
「これからって……」

未来があるのだ。
自分の望んだように変われる……かもしれない、そんな未来が。

アグリスタはなんだかすごいことを聞いたような心地になった。よくよく考えれば可能性があることは当たり前だが、こんなにも明確にイメージできたことはなかった。
ここにいるみんなが幸せそうで。
窓が開けられて、甘い風が花壇の土をくすぐっていく。

すべて、自分への共感となる。

それは間違いなく、アグリスタに送られた|贈り物(ギフト)であった。

▽アグリスタは チョコレートボディに 顔を埋めた。

『きゃー! くすぐったい』
「「チョコレートパック!?」」

キサとレーヴェがざわざわと騒ぎ、アリスが商品開発メモをとる。

(あったかくてチョコレートの香りで……)

おでこの小さな角の先端が、チョコレートカラーに染まった。顔を上げてから一瞬のことで、すうっと白に戻ったが。

「だいじょうぶ……か、かも?」
『やったーーー!』

チョココがピョーンと飛び上がり、アグリスタの頭に乗る。
おでこのツノをペシペシと触る。

『ここが共感の鍵なのですねー』
「大当たり」
「ちょ、チョココやめてぇ、金色お兄さんは視ないでくださぁい…………ど、どうして泣いてるんですかレナ様ぁ!?」

▽レナはハンカチを噛み締めて 滝のように涙を流していた。

(だって、やめてとか、しないでとか、アグリスタがちゃんと自分の意思を言ってくれるようになったからぁ……!)

主張しても怒られない。
そんな環境を、レナは作りたかったのだ。

首輪があるからこそ一緒にいられる今、しかし未来はきっと仮従魔たちの意思で「一緒にいたい」と望んでほしかった。

(──最高のバレンタインプレゼントだなぁ。幸せがまるごとやってきたみたいで、ここにみんなが揃ってくれていることも嬉しいし)

ハンカチをおいたレナに、震える小さな声がかけられる。
アグリスタは長い前髪で目が隠れてしまわないよう、上を向いて、緑の目をきらめかせて言った。

「あ、あのっ……レナ様からも、大丈夫って、言って、ほしいです……」
「絶対、大丈夫だよ」

▽キマったーーー!
▽ポジティブ共感幸福マックスーーー!

アグリスタの心の受け皿はポジティブであふれてしまい、ネガティブさは洗い流された。

そっと金色猫の姿になって遠ざかったルーカは、シュシュに捕まって抱きかかえられた。

▽|幸せになろうよ(ハッピーバレンタインデー)!!

▽チョココが人型になった。
▽スウィーツ帽子が崩れて チョコレートが溶けて生クリームが垂れている。
▽ぶわっと甘い香りが漂う。

▽アグリスタとチョココが 手を繋いだ。

「「[|お菓子な魔法(スウィーツマジック)]」」

▽ミディを指差す。

▽チョコレートクラーケンの クオリティが向上した!!
▽美味しさ保証7777%ーーー!

にゃあ、とルーカが鳴く。

『焼きチョコ、おすすめ』
『白炎の出番だと聞いて!!!!』

▽カルメンが 現れた!
▽半泣きであった。
▽窓から 大精霊シルフィネシアも登場。

カルメンは愚痴をネッシーに聞いてもらっていたところ、天然砲でいろんなところをグサグサやられて疲れたらしかった。

『さあ今こそ〜♪ やるのよ〜♪ ラララー♪』

▽応援の歌!

『まかせておけ! オズワルド、レグルス、クレハよ』
「ちょ、せめてイカゲソカット終わってからにして」
「ミディ丸焼きは危険すぎるから」

▽焼き加減を相談した。
▽大精霊直々の ウォーターカッタァァーー!!

『お前も見ておけ、ジレ。いずれ得る力であろう』
「はッ……!?」

カルメンに肩を組まれたジレが驚愕する。

白炎の乱舞。
毛皮を白く染めた獣たち。
ダイヤモンドのように輝くジュエルスライム。

ジレの心を魅了するには、十分すぎる光景であった。

(これがレナパーティ流のお菓子作りだというの……!?)

精進せねば! とマイラが頬を染めつつ、やはり一心に白炎を見上げた。

▽上手に焼けましたーー!

影の魔物が、お皿を運んで、空中からポテポテと落ちてくる焼きチョコを受け止めて回る。

「拡張しておいて良かったですねぇ」

苦笑するキラは、食堂を二倍の広さにしておいてくれた。

幸せの香りに包まれた中、大テーブルでみんながフォークを持つ。

焼きチョコは網目がついたガトーショコラのよう。
ホイップクリームと、リングクッキー、それぞれが好きなフルーツが乗せられている。このカットフルーツは、サラダクレープの卓から拝借してきた。果物を切るのが上手、と褒められたアグリスタは盛大に照れた。

「食前のデザートっていうのも、まあいいよね? バレンタインデーだもんね。いただきまーす」

レナの号令で、みんなが幸せを口に含む。

フォークを差し込んだ焼きチョコは、サクッと表面が割れて中は柔らかく、そしてトローリとチョコレートソースが現れた。

「わあ、フォンダンショコラだ!?」
「フルーツをつけて食べて〜チョコフォンデュにもできますよ!」

チョココにおすすめされて、レナは苺をチョコフォンデュ、甘酸っぱさとスイート風味が最高の相性だった。

ほにゃりと頬を落としながら、レナはチョココとミディに「美味しい!」と伝えた。
「「食材みょーりに尽きる」」とのこと。

フォンダンショコラは焼かれるときに縮んだので、意外にも小さくて、あっという間になくなってしまった。

食べ足りない!
そんな気持ちでいただくクレープバイキングは、最高の|締め(デザート)となった。

▽好きの気持ちと、日頃の感謝と、これからの幸せをぜーんぶのせて。

▽ハッピーバレンタインデー!!

 

 

 

 

 

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