27:セカンドクエスト2

「かっこわるい」

「「ぐっはああぁッ!?」」

「壁を汚しておいて掃除もせずに、マリーさんに依頼料金出させるなんて最低」

「くっ……!俺様たちの咎(とが)をとがめようというのか!?
…あっ、なんかダジャレになっちゃった」

「ちょっ、お前、カッコ悪いぞ…!」

「うっせーーー!
俺様たちは罪団と言うだけあって、すっごく悪い奴らなんだぞぉ!?
…闇に堕ちた者に、現実(リアル)の言葉など届きはしないのだよ…ククク…」

「言葉の選択がおかしいし、表現が稚拙(ちせつ)。
正しく扱えないのにムリして難しい言葉を組み合わせてるから、逆にダサい感じになってる…。うわぁぁーー…」

レナさん、これでもかと少年たちにドン引きの視線をおくる!

「「うわああああああんッ!?」」

▽会心の一撃!
▽少年たちは崩れ落ちた!

…大変お疲れ様でした。

ひどい。
レナさんの必殺マインド・クラッシュも、少年たちの詰めの甘い中二病も、どちらも相当酷い。

シスター・マリーは焼き菓子の入った籠を手にポカンと立っている。
従魔たちは『闇の使者キーーック!』『なんの!聖闘士(セイント)バリアーッ!』『クハハハァ!』とオリジナルの中二病技を作って遊んでいた。
ちなみに上からイズミ、クレハ、リリーである。
小サイズに戻ったハマルはクレハにバリア要員にされていたが、相手がスライムなので大したダメージもないし、本人も仲間に入れてもらえて満足そうなのでイジメではない。

とてもカオスな空気が、教会の裏庭には漂っていた。

自分たちの厨二言動がこうも晒(さら)し挙げられてさすがに恥ずかしくなったのか、少年たちは自慢の眼帯と黒包帯(口元用)を捨て去り、地面をのたうちまわっている。
黒い服の中に仕込んであった”自分で作った鎖かたびら”が、勢い良く転がったせいで本体を攻撃したらしく「イタタッ!」「ささった!」と声が漏れていた。
実に残念。

彼らを冷めた目で見下ろしているレナ様。
今回ばかりは、そのあまりの容赦のなさに「女王様!」と畏怖を込めて呼びたくなる。

彼女がこのように辛口なコメントばかりしたのには、理由があった。
なに、良くある話である。
レナさんとて、この病で過去に致命傷を負っていたのだ。
古傷が…疼(うず)いている。(ここで憂(うれ)いのため息)

サラッと過去話をしておこう。
これは、ご主人さまが中学生の時の自業自得な出来事。
世間の流行からだいぶ遅れて、セーラー魔法服で戦う某美少女アニメにどハマりしたレナさん。
あろうことか、主人公の女の子の”ツインテールの根元に小さなおだんご”という特殊(ムーンライト)ヘアを真似して学校へ行ってしまった。
自分が特別な存在になった気がしてドキドキしていたが、友達の”あえての髪型スルー”という気遣いにより、これが恥ずかしいものだと気づかされる。
急いで髪型を元に戻そうとしたが、ムーンテールの結び跡はくっきりと髪に残ってしまった。
何度クシでとかしても直らない…
悩んだ末の解決策が、現在の編み込み三つ編みヘアだったのである!

三つ編みをレナが日課にしているのは、あの日の自分を忘れないための戒(いまし)めなのだ。
もう絶対あんなことしない。
中二病、ヤバイ、絶対。
今思い出しても、胸がズキズキと痛めつけられる。

悟り目になったレナは、再び少年たちを見つめた。
ビクッ!と肩をはねさせる2名。

彼らがこのまま暗黒(ダークネス)街道を突き進めば、将来待っているのは…周りからの残念な評価と重い後悔だけだろう。引きこもりになってしまうかもしれない。
ここで厨二心を折ってあげなければ、とレナは思った。

さあ、息を吸い込んで。折る!

「…ここにいる誰もが、貴方たちをカッコ良いとは思ってないよ?
昼間に黒づくめの格好って、逆に悪目立ちしてるし!
声変わりもしてない高い声で悪いセリフを言っても、迫力がないし!
イタズラして大人を困らせるなんて、子どもの我儘でしかない!!
カッコ悪ーーいッ!ださーーい!
はやく改心しなさいっ!」

的確に痛い所を突いた、レナ様のキレッキレのお説教!おそるべし!イタタタタ!

少年たちはもはや虫の息。
顔なんてもう真っ赤ですごく恥ずかしそうだが、素直に謝るのは悔しいらしく、涙目で反撃してくる。

「「…バーーカバーーカ!!ブーーース!!」」

こんな拙(つたな)い言葉しか浮かんで来なかったようだ。

「もう!」

三つ編み少女は呆れたように頬を膨らませて、少年らを精一杯睨んでいた。

そしてこの瞬間、場の空気が一気に氷点下にまで冷えこんだ。
「バカ」に「ブス」…
その言葉を許さない存在が、この場にはいたのである。

「!?」
「「ひっ…!!?」」

ぶるり、と一度おおきく肩を震わせたレナ。異常な寒さで一瞬で鳥肌がたち、寒そうに腕をさすっている。
そう、空気はなぜか物理的に冷えていた…。
少年らは情けない悲鳴を上げて、怯えたように少女の背後を見つめている。

次いで、猛烈な熱気が立ちこめる。

冷気と熱気。
関連性に気付いたレナは、勢いよく後ろを振り返った。
…彼女の従魔たちが、未だかつてない威圧感を放ち、黒いオーラを纏って少年2人をきつく睨みつけている!
野生の鋭い闘気で、素肌がビリビリとしびれる。

怒った魔物はさすがに怖かったらしく、シスター・マリーは壁際まで後ずさっていた。

…従魔たちは、大好きな主人が貶(けな)されてとても怒っている。
実際ご主人さまは「超絶美人」とまではいかなくても可愛らしい少女だし、少年らのセリフは明らかに負け惜しみ。
…そう理解はしていても、怒りの感情がどんどんと思考を埋めて行く…!

『ブスだとぅ~…?
ウチの可愛い可愛いご主人さまに向かって、ブスだとぅ~…!』

『妄言吐きよってからに、許さんぞボウズこらぁーーッ!』

『ブツブツ…スライムで[溶解]、全身の水分なくなるまで[吸血]……もしくは、圧死。
どれが良いかなぁ…クスクスッ…』

『潰(ツブ)す』

…いけない!
レナにしか聞こえていないが、このセリフは明らかに危険だ。
ご主人さまは慌てて少年らを庇うように怒る従魔たちに対峙する。

「みんな、落ち着いてっ…!
私はあんなあからさまな捨てゼリフなんて、気にしてないから。
というか、バカとかブスとかどうでもいいから。
こら…、めっ!
ハーくん巨大化しないの!
リリーちゃんは[魅了]で虫を呼ばない!
クレハとイズミのそれは…なんのダンス…!?」

こんな時にも少年らの厨二心を折ることに余念のないレナさん、さすがです。
…しかし、従魔たちは大好きな主人の声にもほとんど反応を返さなかった。
未だかつてない事態に、レナの不安がつのる。

どうやら[鼓舞]スキルのハイテンション効果が、悪い意味でまだ続いているらしい。
強い興奮状態の時に怒りの感情をあおられて、混乱しているのだろう。
…こんな時に!と、主人が悔しげに唇を噛みしめる。

『『怨嗟ノ舞! 憤怒(ラース)ノ狂演舞!』』

スライム達に中二病が感染していた。

「貴方たち……!やめなさいっ!
ソレ絶対、将来後悔するやつだよぉ!心が痛いよ!
………………うう、こうなったら…アレをやるしかないッ…」

ご主人さまの心労が溜まっていく。
ハマルは再び巨大化しているし、リリーはブンブン羽音の煩(うるさ)い虫(スズメ蜂!?)を多数従えているし、スライムはこんな状態。
ちなみに、スライムの踊りは、技名だけ立派なただのダンスである。

…早く場を収拾させなければ騒ぎになるだろう。
…最悪、人の手に負えない危険従魔とみなされ、またも追われる身となってしまうかもしれない…。
それは絶対に避けなければ。

事を深刻に受けとめたレナは、覚悟を決めた。
すうーーっ、と息を深く吸い込んで…深呼吸し、まっすぐに従魔たちを見つめる。

「ーーー称号[お姉様]セット!」

▽キターーーーーーーー!

これはこれは…レナさん、いや、レナ様。本気で従魔を鎮めにいくようである。
僅かに揺らいでいた彼女の瞳は称号をセットしたことにより、凛と静かに凪(な)いで、何物にも染まらない漆黒が美しさを増している。

我を失いかけていた魔物たちが何かを察したようにハッとして、目の焦点をご主人さまに合わせた。
彼らの瞳には、余裕たっぷりに微笑む三つ編み少女の姿がクッキリ映っている。
ーーー怒られるっ!?
ーーードキドキ!

そうして、[従順]スキルは使われた。
高飛車なお姉様言葉とともに。

「…あら!
主人の言葉を聞き流すだなんて、随分と分をわきまえていないのね。
貴方たち、それでも私(ワタクシ)の従魔なのかしら。
…片腹痛くってよッ!
心を入れ替えて出直していらっしゃいな。ああ、それか、もう従魔契約を切ってしまおうかしらね。
…今なら頭を下げる許可をあげてもいいけれど。
どうするの?
私(ワタクシ)は、貴方たちがいなくなったら寂しくて泣いてしまうかもしれないけど。
教育のためなら、心を鬼にもしましょう。
私(ワタクシ)がいなくて生きていけるのかしら…?」

『『『『従えてぇぇーーーーッ!!!
…うわあぁんごめんなさーーーいっ!!』』』』

その判断は、一瞬でなされた。
従魔たちは我先にと恭(うやうや)しく頭を下げて、主人にそれぞれの最敬礼をとる。

それを、当然よね、と鼻で笑いながら言ってのける魔物使いちゃんがカッコいい。
[お姉様]の称号は、表情や動作にも効果が表れるようだ。
レナの桜色の唇の端は、ツン!と強気につり上がっている。

「ふふっ、賢明な判断よ!
可愛い子達の謝罪に免じて、今回は許してあげましょう。
…二度目はなくってよ?」

『『はあーーーいっ!』』
『あ、アメと…鞭ぃ…!シビれる…』
『女王様ーーっ!』

やたらとツンデレているお姉様と、正気に返った従魔たちがぷよーんもふーんと抱き合う感動的な一場面!
背景にはバラが見えていた。
どちらもちっちゃいのでイマイチ画面が締まらないが…
こうして、従魔たちの怒りの暴走は無事に鎮められた。

シスター・マリーがホッとしたようにやわらかく微笑んで、「若いわねぇ」とコロコロ笑っている。
レナお姉様のことを、少年らとはまたベクトルの違う中二病だと思ってしまっていた。
幸運ステータスMAXなのに、レナさんは地味に貧乏くじを引きがちだ。

少年たちは[お姉様]の称号の”憧憬(どうけい)の念を集めやすくなる”効果に当てられている様子。
新たな扉を開いてしまったらしく、目をキラキラさせながら「カッコいー…!」と言葉を漏らしていた。

▽レナは 少年2人から 尊敬されている!

あの恐ろしい魔物たちを従えてるなんてスゲーー!と、そこもツボ要素だったらしい。
女王様の口調をさっそくマネているが、男子がやるとオネェにしか見えないからやめておきなさい。

レナが再び説得してなんとかオネェ言葉を止めさせ、シスター・マリーがそれを見て楽しそうに笑い、従魔たちは主人にひたすらきゅうきゅうくっついていた。

色々とハプニング?もあったが、これでようやく二度目の依頼が完了した。

▽クエスト”教会の外壁&窓清掃”を達成した!
▽レナは 賃金500リル(上乗せアリ)と 焼き菓子×5を受け取った!

▽…少年2名が 仲間になりたそうに レナをみている!

「…冗談じゃなくってよ!!お断りだわッ」

「「カッコいーー!!」」

この返答はそれはそれで少年らの好みだったらしい。
今回のお説教で多少マシにはなったものの、2人の中二病は方向性を変えて生涯続いた。
しかし、本人たちはなんだかんだ幸せな人生を送ることができたことを、ここに明記しておこう。

***

将来のおよめさんは童顔で強気なおチビさん!と決めた元黒づくめの少年2人は、重たい鎖かたびらを脱ぎ去りラフな服装で路地裏を歩いている。
気分がいいのかとても軽やかな足取りである。

「いやー。レナさんカッコ良かったよなぁ…」

一人が頬を染めてため息をつきながら、ぽつりと言った。
もう一人も笑顔で話に乗っかる。

「なー。
真にカッコ良い人って、ああいう人のことを言うんだな。
目覚めたぜ…!
こないだ森で見かけた黒づくめのにーさんより、よっぽどかっけーよなっ」

「な。
あの頃の俺らは、若かったよ…。
黒づくめの斬新な見た目と、グロカッコいいモンスターに衝撃を受けて、すぐに闇堕ちしてたもん。
これからはもう、そんな安直に影響受けたりしないぜーー!
*暗黒獄炎(ダークネス・ヘルフレイム)罪団*は解散だな。
レナ様がおっしゃった通り、清く正しく、イタズラせずに生きていくんだっ」

「おうともよー!
従えてはもらえなかったけど、とりあえずファンの証として鞭を買ってこようぜ」

「…いい考えだな。お前やるなー!
これが…天才か…」

「ふふふん!」

思考回路が少し残念だが、レナのお説教のとおりイタズラをしないよう改心したのは良い事だろう。
中二病感は相変わらず残っている様子。

「情けは人のためならず」
…教えられた言葉を胸に刻んで、これからは善行を重ねようと決意した少年たちは意気揚々と駆けていく。

薄暗い路地裏を通り抜けて、商店の立ち並ぶさわがしい大通りへ。
暖かい太陽の日差しを、今までとはまた違った新鮮な気持ちで受けとめて、明るく笑った。

彼らの足元の影まで、一段階明るくなったようである。

グロテスクな獣を従えた黒づくめの姿は、いつの間にか頭の中から消えていた。

***

お宿♡に帰ってきたレナたちは、シスター・マリーにもらった焼き菓子を美味しそうに食べている。
バターのたっぷり使われたフィナンシェ。
この世界では乳牛が家畜として飼われているため、乳製品は比較的安価で手に入るのだ。
小麦粉も薄力、中力、強力と、地球となんら変わりない品質の物がそろっている。
異世界といえば食文化が未発達なイメージもあったが、ラナシュでならお菓子も沢山作れるだろう。
料理好きなレナはとても喜んでいた。

ただ、タマゴだけはそこそこ高級品らしい。
ラナシュの家畜コッコは肉用品種で、タマゴを毎日産む訳ではないのである。
野生の鳥種のタマゴを盗って来る必要があるため、冒険者ギルドのFランク常時依頼となっている。

そんなタマゴを使った贅沢お菓子をくれたシスターさんに深く感謝して、少女は名残を惜しみながら、小さな口に最後のひとかけらを放りこんだ。
バターの甘い油のついた唇の端をチロリと舐めて、手を合わせる。

「…ふあー、美味しかったぁー!
ごちそうさまでした」

「「「「ごちそうさまーー!」」」」

主人の食後の挨拶に合わせて、従魔たちも真似して同じ言葉を口にした。
教育の賜物(たまもの)である。

「ふふっ、えらいえらい」

日々ヒト族の礼儀作法をマスターしていくかしこい従魔たちを、レナは優しい瞳で見ている。

食事が終わると、皆は魔物の姿に戻ってくつろぎだした。
こちらが本来の姿なので、ヒト族の身体よりラクに過ごせるらしい。
大きなベッドに横になって、全員でのんびりと休憩する。
従魔たちが甘えるように主人に寄り添う。

『…ねー、ご主人さま?
…壁のお掃除、頑張ったから、撫でて欲しいなぁ。お願い』

『ボクもー。サポート頑張ったよー?
レナ様、撫でてー』

『『クーとイズをプヨプヨしてもええんやでーーっ!』』

思い思いに”撫で”を要求してくる可愛い魔物たち。
笑いながら上体を起こしたレナは、まず、膝に腰掛けていたリリーの頭を、指で優しく撫でてやる。
続いて、隣に寝そべっていたハマルの金色毛皮を思いきりもふもふした。
2人とも気持ち良さそう。
一緒にスライムもなでてやりたいが…あいにく、主人は腕が2本しか無い。
「もうちょっと待ってね」と申し訳なさそうに先輩に告げる。

前回はスライムが優先して褒められていたので、今回は後輩が優先なのだ。
彼らはそれをきちんと理解していて、大人しくダンスを踊って順番を待っていた。
…が、すぐに飽きてしまう。
レナの肩に乗り、ぐりぐり〜っと左右からほっぺを押して遊びだす。
ご主人さまは、どこぞのキング☆スライムのような顔になってしまった。

「……むにゅう。…もうーーー!
このっ、このーっ!!」

『『きゃーーーーっ♪』』

左右が圧迫された顔のままでしばらくリリーとハマルを愛でていたレナだが、スライムの順番になると、ぷよぷよボディをぐわしっと掴み、思いきりくすぐり始める。
…ぐにょぐにょぐにょぐにょぐにょっ!!
ムニムニーーーっ!!
二回分たまっていた”お仕置き”ぶんも含めて、全力で揉んでいた。

甲高い声をあげてもにゅられている、スライムは実に楽しそう。
餅のようにボディを伸ばされつつ、時おりぷるん!と元の体型に戻って遊んでいる。
レナの手の方が先に疲れてきてしまう。

「…リリーちゃん!ハーくん!支援お願いっ」

▽レナは 応援を 要請した!

『クスクスッ、楽しそう!…まかせてっ!』
『おおせのままにー。先輩、おかくごー!』

▽援助隊として リリーと ハマルが 現れた!

『…おっ!下克上ですかな?』
『よきかな、よきかな』
『『どーーんとこいやぁーーーっ!!』』

「「うりゃあーーーっ!」」

ぷよーーーん!もちーーーん!とこれでもかと伸ばされるスライムたち。
後輩たちは再び魔人族となり、バスローブを適当に着て全力でスライムと戯れている。

その日の夜は、みんなでお腹が痛くなるまで笑いあった。
今日も平和な一日だった。

▽Next!ご主人さまと、私たち。(従魔視点)

 

 

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