269:チョココ♪バレンタインデー10

 

レナとアグリスタがテーブルの飾り付けを終えた。

「よしっと」
「……喜ばれる、と、思います……」

アグリスタが小さな声で呟いて、そっとレナを見上げた。
二つの緑の目は緊張で潤んでいて、でもまっすぐ眺めてくれたのだ。アグリスタが自分から、自分の意思で。

レナは言及こそしなかったけれど、嬉しさをにじませるように微笑んだ。

アグリスタの伏せていた馬耳が、すこし持ち上がった。

チョココがゆらゆらと寝返りをする。
首筋にペトリと当たった。

「ひゃあ!?」
「もーチョココってば。そろそろ起きそうかな? よく動いちゃって……」
「うううホットチョコレートですぅぅ……!」

アグリスタのうなじが火傷していないかレナが急いで確認すると、ほんのり赤くなっていた。
首輪に触れてみると、熱を溜めこむ素材ではないようで、しかしチョココの「あたたかさ」をそのまま吸収して首に伝えているようだ。

びっくりした拍子にアグリスタの肌が透けていて、骨がうっすら目視できる。

(おお、スケルトンホース〜)

異世界召喚されてピーピー泣いていた女子高生が、随分と動じなくなったものである。
▽涙がちょちょ切れそう。

痛くない? 大丈夫……と会話して、レナはチョココを持ち上げると、アグリスタの手に持たせてあげた。

「もぞもぞしてます……ね……」
「チョコレートの香りも濃いねぇ。あんまり匂いの強いご飯にしなくてよかったよね」

テーブルの上の軽食は、自家製マヨネーズと温野菜、プレーンオムレツにポテトサラダ、ハムとチーズ、クレープの生地。
自分で好きな具材を選ぶ、手巻きクレープスタイルである。

『ふふ、おつかれさまでしたわ』

ルージュが洗い物を終えて、影の魔物とともにやってきた。
手袋を脱ぐと、優雅に一礼する。

(こんな高貴な人がメイドさんしてくれてるなんて、贅沢だよねぇ)

レナは気をつけて背筋を伸ばして、主人らしく堂々と「ありがちょう」と言った。噛んだ。

『ふふふ!……テーブルコーディネートも上達しましたねぇ』
「あ、ありがとう。でもルージュやモスラのようなセンスは持ち合わせてないし、基本をちょっとやっただけだよ」
『わたくしたちはそれも仕事の内ですもの。レナ様は、本来まかせきってしまってよかったですのに、従魔とご友人それぞれのコーディネートをなさいましたね。気持ちを込めて』

ルージュの言葉で、アグリスタも改めてテーブルを見る。用意をしている時には一生懸命で、そこまで気づいていなかった。

『スライムの卓には、赤と青のランチョンマットに紫の花。プリンセスフェアリー・ダークの卓には、百合の花。夢喰い羊の卓には、金のタッセルがついた敷物を』
「よく気づいたねぇ。もしかして、ルージュも似たようなことしてた?」
『魔物使いって、似た者同士なのかもしれませんね』

ふふふ、あはは、と魔物使いたちが笑い合う。

アグリスタは二人の腰にくくられた赤色の鞭を眺めた。
……それから自分の卓を眺める。

(……み、緑色がいっぱい。なんか珍しい緑の薔薇に、グラスも緑。それからスプーンとフォークは銀と紫……あう……)

アグリスタの視界が潤む。

(こういう気持ち、なんていうの……?)

チョココの端っこが、トロリととろけた。
アグリスタの気持ちに共感するように。

チョコレートの甘ったるい匂いがいっそう濃く、フワンと香る。

「んー! 幸せの香り。なんだかデザートを先に食べたくなっちゃうよね」

▽承りましたーーーーーッッ!!

▽ハッピーーバレンタインデーー!!!!

『スウィーーートミィーーーー!!!!!』

▽巨大チョコレートクラーケンが 現れた!!

「「うわーーーーッ!?」」

観音開きの食堂扉がぶち破られて、蝶番がぷらぷらと揺れる木材をなんとか捕まえている。
それらが銀色の光を帯びると──元どおりになったので、キラがダンジョンを再生してくれたらしかった。

ほ、とルージュが安堵の息を吐く。

『レナ様。こんな時、あなたならどうなさいますか?』
「ミディ!!」

レナが鋭く呼ぶ。

「スキル[従順]ッ! 落ち着いて……」

ミディが動きを止めた。

アグリスタまでゾクゾクしてしまうような、覇気をにじませた声であった。

『あう……アノネ……ご主人サマに、ハッピーバレンタインデーで、スウィートミィなのヨ……?』

巨大チョコレートクラーケンがしゅーんとうなだれる。

ツンと丸みを帯びた口からは、ぷくぷくとチョコレートの泡があふれ出た。
▽チョコレートフィッシュになった。

「ああもう……新しい生き物が生まれちゃって……キラ、あれはなぁに?」
「チョコレートフィッシュ、チョココさんの配下ですねぇぇ……」

人型でチョコレートにまみれているキラが、ぐったりとイカゲソに頭を預けながら、ぐっと親指を立てて、レナに報告した。

ミディがうにょうにょとボディを揺らすと、キラにへばりついていたチョコレートもボディに結合される。
このチョコレートボディ、ぷるぷると光沢があり、材質としては、スライムとチョココの中間のような状態だろうか。

「スキル[従魔回復]、緑魔法[グレートヒール]」

レナの魔法。
緑の光でみんなが包まれる。

クラーケンボディでチョコレートシェイクされていた従魔と友人たちは、ようやく体調が回復した。
チョココ本体を抱きしめたアグリスタは緑の光に包まれて、ほわわんと頬を染めた。

ルージュが(よい判断です)とにっこり微笑んだ。

▽さて、これからどうする?

 

 

 

 

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