268:チョココ♪バレンタインデー9

 

▽ハッピーバレンタインデー!!

『チョココッ♪』

▽チョコレートの香りを漂わせながら、チョココが降ってきた!

温泉の天井を、黒い影が横切って去っていく。
影の魔物にここまで運んでもらったらしい。

「チョココ! 妾、待っていたのじゃ〜」
「あら、可愛らしい小さな魔物やねぇ……」

マイラの頭にちょこんとチョココ。

キサとレーヴェがしげしげと眺める。
ぐっと近寄ってくる。

(胸が!! 圧がっ……!!)

▽マイラの頭が ぼふっと熱くなった。
▽それはそれは柔らかい感触であった。

「実は今、チョココがバレンタインデーをしているらしくてな」
「ふぅん。それってなんなん?」
「好きな人にチョコレートを配る祭りなのじゃ」

▽チョココが得意げにバンザイした!
▽チョコレートボディのバランスが崩れた。
▽とろーりとカラメルのようにマイラの頭に沁み始める。

「こ、これはいかん。チョコレートは熱に弱いのじゃ……」
「そうなん? じゃあ温泉は鬼門やねぇ。せやけど、姫さんにバレンタインデーしたくてここまできてくれたってこと? さすがウチらの愛しい子やわぁ」
「レーヴェ……そこで妾を褒めるのは身内びいきなのじゃ」
「ラミアとして魅了の実力を褒めるんは当たり前やもん。まあねぇ、従魔さんみんなが仲良しなんやろうけど。違う種族の中でも上手くやってけて、姫さんてばぁ……ほんと大きくなって……うっ……」

レーヴェがそっと涙を指先で掬った。

どうにも涙もろくなっているのは、なんだかレナや宰相を思い出すなぁ……とキサは苦笑する。
それも「大人びちゃってねぇ!」とレーヴェの涙をまた誘うのだ。

(人をおっぱいで挟んで会話をしない……っ!)

▽マイラが非常に照れている。

▽じんわりと頭皮があたたかい。
▽チョコレートの香りがする。

『スウィートミィ。あう……でもーあと一体だけなのです。小さなわたし』
「ん? ああ、チョココは、レーヴェの分がないことを気にしてくれているのじゃな」
「えぇ? でもねぇ……ウチは今日初めて会ったばかりやのに……ラミアの魅了やろか?」

罪な女やねぇ、とレーヴェがラミアの尾をくねらせる。

(ウワアアアアぞわぞわするぅうう!)

▽囚われているマイラが 身震いしている。

『義理ですー』
「ぎり」
「義理?」

チョココが罪なことを言い、キサがうっかり翻訳してしまい、レーヴェがカチンと固まる事態となってしまった。

『義理チョコという文化もあるそうですー。ちょっとお世話になってるひとにもついでに贈る、義理のチョココッ♪』
「そうかぁ。レーヴェ! 今後もよろしくの挨拶のつもりみたいじゃ」

▽キサは 空気を読んだ。

「まあ。そうなん? それなら是非よろしくお願いするわぁ」

▽レーヴェの機嫌が直った。
▽マイラが解放された。

ドキドキドキドキしている胸を押さえて、マイラが前かがみになる。

(ん……マイラ、髪がガサガサになっておらぬな? 虚無を使わなかったらしい。チョココのおかげかもしれぬ……)

キサが観察する。

マイラがうつむいたことで、頭に乗っていたチョココが『ああーーっ』とすべり落ちそうになった。

ついに下半分がお湯に溶けてしまった!
上半分も柔らかすぎて、口がトロンとおかしな曲線を描いている。

『あ。あわわ〜。これ、おもしろいですー。それから、ちょうどいいかもしれませんー?』

あわてているキサたちを前にしても、チョココはどこまでもマイペース。
チョコレートボディを波打たせる。

今日はバレンタインデー。
チョココが大好きなみんなが、きっと幸せになる日!

「イーーーーートミィーーーー!!!!」

▽ミディが 現れた!
▽スパァン! と温泉の扉が開けられた。
▽閉められた。

『あー! よかったです、本体に頼ろうかと思っていたけど、ミディさんの分もここでいけそうですぅ。インスピレーション〜』

▽チョココは ひらめいた!

『スウィートミィ! [|お菓子な魔法(スウィーツマジック)]』

▽温泉水が チョコレートカラーに染まっていく。
▽チョコレートの奔流が 甘ったるくキサたちを攫った!
▽ハッピィーーーバレンタインデーー!

▽チョコ風呂!!!!!!

「「っきゃーーーーー!?」」

キサとレーヴェはチョコレートの温泉の中を、ラミアの尾で必死に泳ぐ。

(みーっけ)

ミディはイカゲソ尻尾で器用にバランスをとって、ぶくぶくと溺れていたマイラをつかまえた。

チョコレート風呂から顔を出すと、肌がツヤツヤ、髪はとぅるとぅる、それからチョコレートのいい香り!
柚子の香りもよいスパイスになっている。

「な……なんなん? もぅ。せっかくのお湯が……というかこのお風呂、美容にすごくええんやね!?」
「妾もびっくりしたのじゃ。美貌に磨きがかかるのぅ。最高のバレンタインチョコレートなのじゃ〜♪」

▽チョココッ♪
▽チョコレートギフトは またしても大成功!

「マイラ。しっかりナノヨー?」
「うんん……」

ミディがマイラを抱えながら声をかけると、ハッと目を覚ました。
その時に眼球が転げ落ちたので、きちんと納めてあげる。もはや慣れたものである。

マイラにとっても、ミディは一番慣れている相棒であった。

「ミディ先輩だぁ……」

ほわわ、と心底安心したようなため息を吐く。

「そうヨー! 家事の先輩ミディアム・レア。このお風呂をお掃除シチャウ? イヤイヤまだまだ食べ時、もったいないと思うノヨー」
「食べるつもりなの!? お湯を!?」

またマイラの目が転げ落ちたが、解釈違いというやつだ。

「ん? お湯はお肌に染み渡っているから〜、カラダ全体で食べるミタイナ?」
「「やーーん♡」」

▽クーイズが 現れた!

「なるほど……です……? スライム的発想というか……??」
「「常識なんてアップデートしちゃいなよ!」」
「はい……」

▽マイラは 諦めた。
▽うっすらと微笑みを浮かべている。諦めの境地。

(しかし虚無は使っていない、と……)

キサは胸を撫で下ろした。
たゆんと揺れる。

(チョコレートの香りはマイラを落ち着かせたみたいじゃ。ふむ、妾にとって非常に良いプレゼントとなった。美貌を磨くことと、……仲間が何で救われるのか、ちょっぴりわかった気もするから。
マイラよ、やっぱり女の子は磨かれて幸せであってほしいと妾は思う。そなたは美しい)

キサの瞳に映るマイラの姿。

ほっそりとした体は白雪のように白くて、髪は薄桃色につやめき、前髪の間からは大きな瞳がチラリと覗いた。

いつか、その前髪を堂々と上げて、己の美しさを誇れる日が来るといい。
そんな風に願いを込めて、マイラの髪に一枚の「蘭美亜(ラミア)のウロコ」を飾った。

「ヒェ!?」
「安心するのじゃ、ただの贈り物。妾も、ミディたちのようにマイラと親しくなりたいのじゃ」
「ひええぇぇぇー!? きょきょきょっ……きょ……拒否、なんて、いたしませんっ……!」
「うーん、そうじゃなくて。まあ、明日からまた一緒に入浴しよう。裸の付き合いから始めようではないか」
「……!?!?」
「「常識なんてアップデートしちゃいなよ」」

▽クーイズの 後押し! ドーーンッッ!
▽いきなりクライマックスからお付き合いが始まってもいいじゃない。

「う……」
「うん? やったー!」
「ポジティブ……!」

キサとレーヴェはやっぱり似ている。

その美しい絆は、マイラにはまぶしすぎるもので。
目を閉ざしても、手を握られたら、従魔契約によって魂のつながりに気づかされてしまう。

絵画の世界に自分も引きずりこまれてしまう。

ぼうっとしていたら、いつの間にかキサの顔がすぐそばにあった。

「よろしく」

その目に映るマイラの顔は、なんだかとっても美しく思って。
驚きのあまり、眼球が落ちた。

「難儀な子やねぇ……」

レーヴェがふうっと香る息を吐いて、穏やかに口元を笑みの形にした。

レーヴェとキサ、マイラは軽装に着替える。

「それにしても、このチョコレート温泉、どないするん? このリゾートの目玉にするとか?」
「「いんや〜。チョコレートの価値を考えると、そんな安易なことはできないと思うー!」」
「せやなぁ」

レーヴェの瞳がスッと細くなる。
目線は温泉、この美貌の湯にもう一度浸かりたい! と考えているのだろう。

▽その願いは叶うだろう!

「あっ! ご主人サマへのバレンタインギフト、どうしようかってみんなで考えてたんだけどね! ミィは正解を見つけたノヨー!」
「「「「え」」」」

▽ミディが 魔物型になった!
▽水の極大魔法!

『[アクアフュージョン]〜!!』

▽チョコレート温泉を 吸収〜!
▽巨大スウィーツクラーケンが 現れた!

「何でもありなん!?!?」
「「ダンジョンですから?」」
「関係ないやろーーーー!」

「後輩が成長してて嬉しいのじゃ、えらーーいっ」
「姫さんーーーーー!?」
「きょきょきょ、拒否しない。これは常識……常識……ブツブツ……」
「アカーーーーン!!!!」

レーヴェの声が枯れかけている。

さすがに温泉水全てを吸うのは難しかったのか、ミディはフラフラとしている。
天井に頭がプルルンとぶつかって、チョコレート温泉のシャワーが降ってきた。

『崩壊する前にチャチャっと回収しちゃうノヨー。キラ先輩、繋げル?』
<はいはい。何でしょう?……げ>
『チョコレートの香りってイイヨネ♡』
<そうですね>
『ご主人サマは従魔が大好きだヨネ♡』
<それはもう!!!!>
『じゃあ合わせたらダブルハッピーーナノヨーー!』

キラがハッとした時には、もう遅かった。

▽ミディはキサたちをチョコレート触手でぐわっと絡めとり!!

▽外で待機していた従魔たちをチョコレートボディに蓄えて!!

▽友人も巻き込め!!ソイヤッ!!

▽まとめてプレゼントを携えて!!

▽キッチンを目指した!!

▽スウィーーートミィーーーー!!!!!!!!

 

 

 

 

 

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