266:チョココ♪バレンタインデー7

 

──ダンジョン管理ルーム。

夜空のような藍色の空間。
ふわふわと無重力にキラとハマルが浮かんで、ウィンドウとにらめっこしている。

ハマルがウィンドウをつつくと、ぱあっと星屑の光があふれた。そして消える。

「むむー! うー……まーた失敗ぃ〜」
「こちらも苦戦中です。ダンジョンの再構築は難しいですね……」

直しているのは、カルメンが溶かしてしまった|お菓子の部屋(スウィーツルーム)。
部屋情報がコナゴナのアッチッチになっているのだ。

「|緋々色黄金(ヒヒイロカネ)の情報がなかなか馴染んでくれなくて……やはり古代からの固定概念は頑固です」
「あー。飴細工のテーブルがー、まるごと変化してるんだっけー?」
「マーブル状ですね。途中で私が空間接続をカットしましたから変に情報が混ざって」
「すごぉい」
「えへ♡ でも、もうちょっと接続を長引かせてまるごとゴールデンテーブルにしてしまえば楽だった……しかし、ノアさんたちが危険でしたから。致し方ありませんね」

話しながらもキラは手を休めない。
キーボードを叩くように指をちゃかちゃか動かして、ピロン♪ と心地いい音でシメてみせた。

大量に展開されていたウィンドウが「パパパ」と消えて、キラの手元に情報が勢いよく集まってくる。

「っしゃ! できました! 後はシンプルに最適化です」
「おつかれさまでーす。すごぉい」
「えへへ」

キラがニコッと笑って振り返る。
中性的な顔立ちは、男子にも女子にも見える。
銀髪がサラサラと輪郭を包んだ。

「キラ先輩かわいー」
「そんなに言われたら照れますぅ! ハマルさんも可愛い〜」
「レナ様の御身をあずかるベッドですもの〜」

▽ベッド=可愛い=レナは可愛いベッドを喜ぶから?
▽なんとなくいい感じ。
▽概念は人それぞれ。

「レナ様の〜喜ぶ顔がぁ〜みたいから〜♪ がんばっちゃいます、っと」

ハマルがウィンドウに両手のひらをあてて、瞼を下ろす。

「スキル[夢吐き]」

波紋のようにウィンドウに情報が記されて、周囲にはおおきめの星屑があふれた。
ピカッとひとつ光るたびに、情報がひとつ追加される。

現れた夢を、キラが情報としてダンジョンの景観に反映させた。
ハマルの瞼がヒクヒク動いて、しばらくすると金色扇のまつ毛が持ち上がった。

「ふは〜。どうですかー?」
「|お菓子の部屋(スウィーツルーム)がさらに豪華になりましたね!」
「おおー。じゃ、お仕事完了だねー? おつかれさまでしたー」
「はい、お疲れ様で御座います」

すべて理想的に終わって気持ちがいい。

ハマルが、くあっとあくびをする。
するとその口に、小さな異物が落ちてきた。

「ほみゃっ!? なぁに〜……チョココ?」
『スウィートミィ!』
「うーん、もーちょっと食べやすいスタイルになってほしいなぁ? 形状がいつも通りの君だと〜食べづらいよー」

ハマルがチョココをつまんで、口から出す。
チョコレートボディの半分ほどが唾液で濡れてしまった。

口の中の味は、すでにチョコレート風味。
そのように言うと、チョココはショックを受けたようだった。

『うわぁ。タイミングはだいじってみなさんが言ってたの、こういうことだったのですか〜……。いちばん美味しいように食べてほしかったのに〜反省です……』
『ホワイト、もーせいしとこ』
『ビター、もーせい?』
『……なんでしたっけ? 忘れちゃいました。脳みそ生クリームなので』

キラがビターチョココをつまむ。

「はいはい〜。さっきカルメン様が、レナ様に『猛省!』って叱られてたんですよね。だから覚えたんでしょう。えらいですよ!」
『『それってなーに?』』
「とっても反省することです」

言葉の意味をわかっていなかったのにニュアンスを当てて使ったチョココの「なんとなくの本能」にキラは正直驚いている。

「ねー。口の中の後味をどーにかすればいいんでしょー?」
「はいエリクサー」
「「そんなに落ち込まなくていいから」」

▽力技ーーーーーー!!
▽キラが ハマルに コップを渡した。
▽一気! 一気!
▽ハマルの口の中が サッパリした!

小さなチョココが拍手する。
ぱちゃぱちゃ、たぷたぷ、とチョコレートボディが揺れる。

『先輩たち、すごいですー』
『わたしたちもがんばるですー』
『『ハッピーバレンタインデー! [|お菓子な魔法(スウィーツマジック)]』』

▽ぽふん!

▽レナチョコが 現れた!×2

フィギュアのように精巧で、頬にだけ赤みがかったカラーが可愛らしい。

「「……納得!」」

手のひらにフィギュア……いやレナチョコを乗せた二人が、はー……と愛しげなため息を吐いた。

「バレンタインデーのイベントってまあ、私たち把握してるじゃないですか?」
「他のみんなの様子、この部屋から見てたもんねぇ。でー、ボクらには何がくるかなーって考えてたけどぉ」
「スマホ? ウィンドウ? |知識の箱(パンドラ)?」
「鞭? 縄? 手錠? 手袋?」
「「ご主人様本人でした〜〜って」」

まとめて幸運がやってきたようなものだ。
ダンジョン再構築を頑張った二人へのご褒美だろうか。

大好きなレナチョコレートはとても嬉しい。
惚れ惚れと何時間でも眺められそう。
しかし……

「これさー……スウィートミィなのかなぁ……?」
「異空間に保存しておくこともできますけど。でも元は食材魔物ですから、スウィートミィなんでしょうねぇ……」
「「食べる……?」」

うーんうーん、と二人が悩む。
普段はパパッとものごとを決めるキラとハマルにしては、驚くほど長い時間、結論が出なかった。

美少女レナチョコを手に持ち、悩む、中性的美人たち……というのは奇怪な絵面である。

「「ハッピーバレンタインデー。食べよう」」

▽覚悟がキマったーー!

▽食べる前に写メをたくさんパシャパシャした。

キラが持つのはビターレナチョコ。
女子高生セーラースタイル、あどけなく微笑んでいるレナの可憐な表情が、今となってはウルトラレア。

「パンドラミミックの箱の中に入れたら、しゅわっと全体的に溶かしながら摂取することが可能ですから」
「なにそれずるい〜!」

キラは宝物をしまうように、本体(パンドラ)にレナチョコをそっとおさめた。
ビターな味をデータとして楽しんだようだ。

ハマルが持つのはホワイトレナチョコ。
女王様スタイル、手には鞭と縄を持ち、ハイヒールの足で堂々と立ち、気高く高笑いをしている。いつもの大好きなやつ!

「みゃ〜……どこを食べるのももったいないよぉ〜っ!?」
「美味しいところを一番最初に食べるタイプ? 途中で食べるタイプ? 最後にとっておくタイプ?」
「ん? 美味しいところだけ食べるタイプ〜」

では、とキラがウィンドウにホワイトレナチョコの特大画像を写す。

「はう……素敵」
「ハマルさんにとって特に美味しいところは、ココでしょう」

キラは手に持った杖で、くるりと赤丸を書く。

鞭と縄。

「そこだけ食べてあとは置いとくうぅ〜!」
「承知致しました。どうしたって難しいですよね、カラダをもぐもぐと食べるのは」

ハマルはコクコク頷いて、再びホワイトレナチョコと向き合った。
熱っぽい視線で、鞭と縄を見つめる。

「えへへぇ……あまーい後味で〜、いつまでもあなたの存在感をボクに味あわせて下さいね〜? 今日は夜まで歯磨きしない。いただきまーすっ」

カプリと鞭と縄を一口。噛み切る。
ハマルの口の中で、濃厚なホワイトチョコレートがコク深くとろける。
舌で縄のラインをなぞると、輪郭をなくして溶けていった。

「ほわぁぁ。美味しかったぁ。それじゃキラ先輩〜。残りは…………ん?」

手のひらがもぞもぞとする。

「あいたっ! 刺すような痛み……はぅぅ。え? ハイヒールのツンとしたとこみたいな〜……え? えっ?」

▽ホワイトレナチョコが 足踏みをしている!

「ハ、ハマルさーん!」
「あっ……あう……最高ですぅ……♡」
「しっかりーー! 今、そんなにポッカリ口を開けてたら危ないですよっ」

▽ホワイトレナチョコが 飛び上がった!
▽あまり跳躍力はなかった!
▽空中で体勢を崩した!

▽頭からハマルの口に突っ込んだ。

「もみゃっ!? んぐぐ……!」
「あー。もう食べるしかないですねー、是が非でもスウィートミィだったようで」
「ふ、む、んむーー!」

リスのように頬を膨らませながら、ハマルが一生懸命咀嚼する。
このチョコレートは溶けるのがおそろしく遅く、口内をたっぷりのホワイト風味で満たした。

「はふ……。斬新なチョコレートキッスでした〜」
「むしろハマルさんが唇奪われた勢いでしたけどね」

大丈夫ですか? と唇の端を、キラがハンカチで拭ってあげる。
口をしばらく開けっぱなしにしていたので、皮膚が切れてしまっていた。

「痛〜くてあまーいですぅ♡」
「ハッピーーーーバレンタインデーーーィィ!!」

▽キラは ヤケクソである。
▽本人が幸せならいいじゃない!
▽マゾヒストは元からだ!
▽いや失礼。 レナが目覚めさせたのだった
▽赤の運命にカンパーーーーーーーイ!

せっかくなのでエリクサーの盃で乾杯をしようと提案したら、ハマルに「しばらく傷を治したくないので〜」と断られてしまった。
マゾヒストとは嗜好が深い生き物である。

そっと(そういうもん)と受け入れたキラは、日本のインターネットのように懐が深い。

「いい日だねぇ」
「いい日ですねぇ」
「「もっといい日にしたいね」」

ウィンドウの一つに、キッチンの様子が映し出されている。

レナは、白いクリームが入ったボウルを運び、アグリスタは野菜サラダを持ってレナの後をヒヨコのようについて歩いている。

その先にはテーブルがあるのだろうけど、映さない。
きっと「びっくりさせちゃおう」とレナが張り切っているだろうから。
未来のお楽しみだ。

「日頃のお礼を……」
「したいよね〜っ!」

そう言ったあと、キラとハマルが振り返った。
タイミングはバッチリ。

▽扉が開けられた。

「イーートミィーー! イカ焼きはイカが?」
「どうも。今日も赤き祝福の記念日にするべく、宣教師がやってまいりました……なんちゃって。にゃあ!?」
「うりゃうりゃ! いやルカ坊の尻尾が生えてるの久しぶりじゃーん?」
「うにゃうにゃ! 目の前で揺れてたら戯れたくもなるじゃーん?」
「クレハさんとイズミさんって、猫科だったんですか……? え……?」
「「何にでもなれるよ! 柔軟なスライムだからね!」」
「俺も猫科ですけど」
「どうしたレグルス張り合って。まあ雪豹も猫科だが」
「アンタらなんなんだよ。ノリが良くなっちゃってさ」
「まったくですって。いやロベルトは昔から空気を読むことに長けてたけどな……上位階級に従順っていうか」
「あれじゃん、サディスティック仮面さんも呼んだら?」
「店長、またそんな軽率な……」
「サディスティック仮面様がいらっしゃるんですかーーーーッッ!?!?」
「ノアちゃんおちついて! おちついて! 今取り込み中らしいから……ぷふぅっ」
「わかりますよアリス様……脳内に赤仮面が思い浮かんだら、愉快な気持ちになってしまいますよね。トイリアの屋敷で赤仮面をつけたレナ様が連想されて──ああッ!」
「上等に分かる、女王節をキメたご主人様はさいきょーにサイコー!! 押忍!」
「私も、ご主人さまの……弱くて強いところ、大好き♡」
「「詳しく」」
「落ちつこう」
「はいイカ焼き」
「はいうん……ちょっとイカ焼き口の中に入れて、落ちつこう。会話がまとまらないってもんじゃないよ」

▽みんなで イカ焼きを食べた。
▽途中ではぐれチョココがお菓子に変えてしまったため 白のわたあめ!
▽ミディは 本体が食べてもらえるなら アレンジ歓迎らしい。

……騒がしさはどこへやら、はむはむとみんな静かにわたあめを食べた。

甘い静寂が訪れた。

「マスター・レナを喜ばせよう大作戦! 大賛成だと思っておりますよ。ところで内容は?」
「いろいろあってね。みんなで相談してたんだけど、推す内容がバラけてるんだよねぇ」

ルーカが指折り、上がった意見を口にしていく。
従魔の手作りチョコレート、髪のひとふさを組んだアクセサリー、チョコレート薔薇の花束、コーラス……

「うむむ」
「でしょ?」

どれも捨てがたい。
ハマルが、ウィンドウのひとつを指差した。

「とりあえずー。みーんなの意見を揃えたらー? キサとマイラ、レーヴェさんがお風呂に入るでしょー」
「そうで御座いますね!」

お風呂と聞いてとっさに逃げようとした金色猫の首根っこをむんずとつかんで、キラが宣言した。
心配しなくても憩いの場に乱入はしないから。多分きっと。

▽さあ、まだまだハッピーバレンタインデー!
▽チョココッ♪

 

 

 

 

 

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