263:チョココ♪バレンタインデー4

 

▽薔薇スイートチョコレート
▽薔薇ビターチョコレート
▽二段ホワイトチョコレートケーキ
▽スイートザッハトルテ
▽ビターチョコチップクッキー

「個性豊かすぎる」

パトリシアが、テーブルの上を眺めながら唖然と呟いた。

無難にハートのチョコレート? などと思っていたらイロモノ揃いである。いやイロモノには慣れているけれど。

なぜ、このレパートリーなのか?
それぞれが食べているところを見たこともないデザートなのに、とパトリシアは鋭い眼差しでさりげなく、観察をする。
気付いたほんの一瞬まで、クドライヤも似たような表情をしていた。

▽シャボンフィッシュが弾けた!
▽チョココの魔法の余波を受けたようだ。

▽クリスタルキャンディが 飛散した!

「わーー!?」
「っとこれ、地面についたらダメなやつ……」
「精霊様のしもべ製のキャンディを救わなくては!?!?」

リオがすばやく立ち上がり、手を振ると、銀の指輪がその形をかえて、細く流麗なタクトのようになる。

「風よ!」

タクトをひとふり。

清らかな風が上空で渦をまいて、キャンディをからめとった。
小さな竜巻の中でキャンディがくるくる回ると、太陽の光をプリズムに拡散する。

竜巻の下部から、ポトポトとキャンディが垂直に落ちてきた。
すべて、リオが抱えた軽食用バスケットの中へ。

「ふう」
「リオ……その風ぇ……いやにネッシーの魔法に似てたじゃん?」

ぎくり。
パトリシアの指摘に、リオが肩をはねさせる。

ほんわりと微笑んでみせても、まあさすがに可愛いもの好きのパトリシアも誤魔化されない。

「あと、チョココが変身したケーキ!」
「まいりました」

パトリシアと、二段ホワイトケーキに対して、リオはぺこりと頭を下げた。
パトリシアはこんこんとこめかみを指でつついている。頭が痛い。なんてものを店員にしてしまったのか。

「なぜ、チョココさんは気づいたんでしょうね……?」
「チョココがお菓子魔物の王族だからじゃねーの? 同族理解ってね。チョココって本能に忠実だからさ。いや知らんけど。
あと一人、ケーキを贈られてる奴もいるわけだけども」

カチーン……とジレが固まっている。
冷や汗をかきながら眺めるケーキは、甘い匂いで癒されるのだが、心を苦くしてしまった。

「ま、食べよう」

パトリシアがフォークを持つ。
ぎょっとしたのは、リオの方だ。

「……え!? 店長、それでいいんですか……!?」
「あのなー。悪意のあるなしは、見てたらわかるの。なまじ元冒険者だから、悪人の見分け方は必死で身につけたんだ。それから、レナたちが怪しいやつをココに入れるわけないだろー?」
「すごい説得力」

リオは感心して頷いた。
あの魔眼のルーカに一発で見抜かれるだろう、間違いない。

「それなら」とリオはもう一度タクトを振って、甘い香りを拡散させて、シャボンフィッシュを呼び寄せる大盤振る舞い。
輪のように泳いで、シャボンリングができあがる。
上空にきらきらと光が舞った。

命令したのではなくて、シャボンフィッシュは影の魔物のように香りを食事のように感じると研究解明された……とリオが言う。

「はいはいはいはい、いろいろあるな!! ったくもー! じゃ、いただきますっ!」
「いただきます」

園芸組のリーダーは、花職人のパトリシアである。
号令に合わせて、反射的にみんなが手を合わせた。

いろいろと思うことはあれど、皿の上の小さなお菓子が『スウィートミィ!』と甘く訴えかけている。

パトリシアには薔薇のスイートチョコレート。

フォークで丁寧に花びらを剥がして、その造形の精巧さに感心すると、パクリと一口。
ほどけるようにチョコレートが舌の上で溶けて、どこかみずみずしい甘みを後味にかもした。生花を彷彿とさせる。

「すっげー不思議なチョコレート。そういえばトイリアの魔法菓子店のさ……」

クドライヤは薔薇のビターチョコレートを食べながら、パトリシアの話に耳をそばだてる。

パトリシアは他のトイリア組に比べてよく喋り、たまにポロリと重要情報を話すこともあるのだ。

(怪しい奴っていえば、まあここの身内で一番疑うべきは、所属が違う俺たちなんでしょうけどね。その所属の大元である魔王様と宰相を味方につけてるから平気だろうと? まーー強ぇわ、赤の女王様)

ビターチョコレートがほろ苦く、口の中で溶けて無くなる。

(気温で溶けかけて、チョコの色が黒っぽくなってきてる)

ゴーストローズや、砂漠の魂喰い罪花の花びらのような、濃厚な黒(ブラック)。それなのに美味しく頂けるなんてね、とクドライヤは手を合わせた。「ごちそうさまでした……」

「ああ、魔法菓子店! アネース王国が誇るSSランクパーティのパティシエたちが、今年も腕をふるうようですよ」

リオが、ちいさな二段ホワイトケーキをひとくち。目を輝かせる。

「ん! フォークで切り分けた時に崩れない、スポンジの密度と水分量もさることながら、ホワイトチョコレートとのハーモニーが見事です。二段ケーキのバランスが崩れないように、あえて生のイチゴではなくコンフィチュールを使用しているのも好感です。なんて美味しい……」
「もう全然隠す気、無いのな。アネース王国のエライヒトなんだろ? 貴族?」
「改めまして。アネース王国の王子という身分です。数奇な運命で、大精霊様とご縁ができましたので、フラワーショップネイチャーで働かせていただいています」

パトリシアが引きつった笑みを浮かべた。

「親の許可はあるんだよな……」
「国王に認められていますよ。大精霊様と頻繁に会えるのは素晴らしいことですし、私は……おっと。僕は体が弱いので、療養も兼ねて清らかな空気に触れられるのは助かります。フラワーショップネイチャーは今やトイリア屈指の花屋ですしね」
「胃がイタイ!」
「えーと。店長もチョコレートケーキをどうぞ?」
「いただきます!」

やけ食いである。
一口のホワイトチョコレートケーキは美味しかったし、喉を潤した水はエリクサーだし、友達はレナパーティだし、なんだかもう腹が据わったパトリシアであった。

わしゃわしゃとリオの頭を撫でる。
扱いを変えるつもりはないよ、というと、嬉しそうに頷かれた。

「毎年、SSランクパーティの召喚士の馬車がお菓子をたくさん乗せて、子どもたちに夢を運んで来るでしょう? 付与魔法でミラクルなお菓子を。目の色が虹色になるキャンディで兄弟を驚かせたりしましたねー」
「意外とヤンチャだな、リオ」
「王宮がプチパニックになったので、今度は宣言してからやろうと思いました」
「懲りてない。いい性格してるよ」
「ここで学んだのかもしれません」

チョコチップクッキーを齧りながら、シャボンフィッシュ飴に手を伸ばしていたクーイズが、二人の視線を受けて「はにゃ?」と目をパチクリさせた。

いやクーイズたちに会う前の話なんだろうに、ヤンチャを人のせいにしないこと、とパトリシアがリオを小突いた。
チロリと、リオのチョコレートカラーの舌が覗く。

「えっ。ビターチョコチップクッキー、我ら好みのかなーり苦味が効いたやつだから〜、あげられないよ? いやマジで」
「大丈夫狙ってないから。ほんっと毒みがあるの好きだなぁ、クーイズは」
「ジレの毒見で学んだのかもしれません♡ なーんちゃって。嗜好に磨きがかかったのはほんとだよ〜」

急に話を振られて、しかも長年のコンプレックスだった毒についておかしな評価をされてしまったジレは、途方にくれた表情で、ソッと全員を上目遣いに見た。

「ザッハトルテ、食べないのー?」
「こんな立派なの……」
「チョココからの愛だよ?」
「そうですけど……」
「あんまり躊躇してると〜、金色猫が君のすべてを暴いて、何をしたらいいのかぜーんぶ的確なアドバイスしてくれちゃうぜ?」

ジレがビクゥッとしたタイミングで、足元から「ニャア」と鳴き声。

忍び寄ってきていたルーカに驚いて、ジレは椅子から落ちてしまった。ごめんごめん、と金色の二股尻尾が、ポンポンと足をたたく。

ジレはルーカと視線を合わせないようにしている。

「自分で決められるときには、自分で決めたほうがいいと思うけどなー? ずっと誰かのレールを歩むことにならないようにさ」

クーイズがのほほんと言い放って、チョコチップクッキーの最後の一枚をまるごと口に収めた。
噛みごたえのある生地を、ザクザクとあえて歯で砕いて食感を楽しむ。

『ニャア。ハッピーバレンタインデー? びっくりさせたのはごめんね』
「あ、はい……。……あの、大丈夫です」

ジレが椅子に座りなおすやいなや、

「そうナノネー! 食欲も戻ってキタ? ダイジョーブ? じゃあチョココをスウィートミィしてあげるとイイヨ!」
「あの?」
「デザートのイカ焼き!」

(逆では……)と思いながら、ジレはミディが持つイカ焼きを眺めた。受け取ろうか迷っている。(デザートだからまだ渡されないのか、からかわれているだけなのか……?)

ミディは反対の手でフォークを持つと、ザッハトルテをひとすくい。
光沢があるチョコレートがとろーんと糸を引いて、しっとりしたスポンジが覗いている。

「はい。アーン」
「……えええ!?」
「チョココ、美味しいうちに食べて欲しいと思うから!」

性格がエキセントリックだがかなりの美少女であるミディ、真正面から迫られたジレは、ひどく照れてしまった。

ぱくん! と思い切ってザッハトルテのケーキを食べた。

「……! こんなに美味しいんですね……」
「チョココ製だから当然ナノネー」

ジレは、困ったような嬉しさがにじむような、複雑な表情で、ほんのわずかに唇の端を上げた。泣き笑いに見える。

わずかにジレを視たルーカが、ふいと目を逸らす。

(火山地帯のドラゴン一族の生まれだが、毒性亜種であったため捨てられた。ザッハトルテは、かの一族の祝い菓子……かぁ)

必要最低限の情報は、仲間内で共有することは必要である。現在、レナが「雇い主」という立場であることも考慮して。
知らないゆえに相手を傷つけてしまうことは多いから、できるだけ優しく子どもたちの心を包めるように。

(チョココがなぜザッハトルテを選んだのか……なんとなくなのだろうか)

自分にクッキーが贈られたことも含めて、ルーカは考える。

(お菓子の王族ってすごいな)

……ということに、今はしておこう。
だって、お菓子を食べたジレたちが一瞬でも、心から癒された笑顔になったから。
今、大事なのは、きっとそのこと。

『愛の感謝を伝える日、なんだもんね。ニャア……!?』
「成長したねー、ルカ坊よ! 恥ずかしがらずによく言えました〜っ」

クーイズに抱き上げられた金色猫は、耳と尻尾をぱたぱたさせた。
これではどちらが年上か分からない。

その後。
ミディのイカ焼きがいつの間にかわたあめになっていたり。
クリスタルキャンディをつまんだり。
張り切ったパトリシアが「愛のチョコレートマッチョマンフラワー」なるどぎつい花を創造したり。(チョコレートの匂いはするけど食べられない。チョココに魔法をかけてもらうしかないだろう。チョコレートは本来貴重品なのだ)

──それから「レナにも贈り物をしたいよね?」と、赤の宣教師がうまいこと場をまとめた。

▽ハッピーバレンタインデー!
▽まだ続くよ!
▽チョ、ココッ♪

 

 

 

 

 

pixiv fanbox

 こちらにはイラストまとめ、創作裏話、ホームページ制作の記事を書いています。ぜひお楽しみいただけますように。
 100円ご支援いただけることは、書籍一冊買ってくださったのと同じ助けになります。
みなさまいつも応援ありがとうございます!