259:最近の従魔ってやつは(最高)

 

レナは新人の動きを観察している。

(慣れてきてる。うん、よかった……ジレは真面目に園芸仕事とツッコミをこなしてくれてるし、アグリスタはやっと少しいい夢も見始めてツッコミもしてくれてるし、マイラは料理の腕が上がってツッコミもしてくれてるし)

くす、と笑う。

さりげなくその場を離れて、歩きながら思考する。

ダンスレッスンしていたオズワルドと目が合うと、自然に終わらせて、レナの隣にやってきた。
なんとなく心地いい沈黙で、一緒に館内を歩く。

いつもほとんどノーツッコミボケオンリーで会話が進むことが多いレナパーティの中で、距離を置くものは他人行儀、ツッコミ始めるとかなり親身になってきていて、たまにはボケの流れに乗れるようになると、かなり馴染んだと言えるかな……とレナは考えた。
そのまま呟いてみる。
ひくひく、青みがかった黒の獣耳が動く。

「ねー、オズくん?」
「……俺たちに対してそういう見方なの、主さん……合ってるけど」
「やっぱり? あはは」
「よく見てる。新入りの馴染みかたは、いつもそんな感じ。アンタの目は、黒紫じゃなくても視点がすごいよ」
「そして主人を褒めてくれる優しい子に育ってくれて〜ん〜えらいね〜! 素敵だね!」

レナがニコニコニコニコしながら、涙を流して、オズワルドの獣耳に触れる。

根元をくしゅくしゅ撫でてから、つつーーと耳の先っぽに手を滑らせると(ほんとよく知ってる)とくすぐったそうな小声で褒められた。

レナの撫で方は、一番心地よいらしい。
にまーっとレナが微笑みつつ、まだ泣いている。

「主さん、涙拭いて……なんでそんなに情緒不安定なわけ」
「なんでだろうねぇ? いつもより泣きやすいかも? もともと泣き虫ではあるけど」
「アグリスタと一緒にいたじゃん、さっき。チョココはいなかったじゃん?」
「うん? ……[ネガティブオーラ]?」
「かなって」
「遅効性なのかな?」
「ルーカに聞いたほうがいいかも」

──ということで、レナの涙が止まらないまま、ルーカのところへ。

ルーカは園芸仕事を手伝ってきたあとらしく、シャツとズボン・土のついた長靴という軽装で、ベンチで休憩しているところだった。
となりにいるシュシュが、ぶんぶんとレナたちに手を振っている。

ルーカはレナを視るやいなや、

「あー、レナはね、幸運パワーが強すぎて、ネガティブオーラがなかなか効かないって感じ。だから遅効性のような働きをしている。アグリスタがまだ仮契約だから、ネガティブオーラの影響がそのまま来てるけど、本契約ともなれば泣かされるようなことはなかなか無くなるはずだよ」
「そうなんですねぇ。従魔同士では?」
「普通に効くと思う。僕は白魔法適性だから軽減されるはずなんだけど、性格的にネガティブが……すっごく効きやすい……うっ、目頭が」
「主さんに共感して泣いてる……?」
「うわ……」
「あれですねルーカさん、二人で泣けば怖くないぃ、ぐすっ」
「シュシュも仲間に入れてよ!!!! 泣くから!!!! いいなぁ!!!!」
「俺がツッコミを入れる前にボケを重ねるなよシュシュ」

しっちゃかめっちゃかな中、レナとルーカがハンカチで鼻をかむ。

「そいつがもともと持ってる気質と、白魔法、黒魔法の適性が関係するのか。ってことはシュシュ、遅効性型か……?」
「うわああああん!! 泣けたああああ!!」
「いや気合いかスキルの影響かどっちだよ」

オズワルド一人に、泣く子三人は荷が重すぎる。

それに、シュシュがガクガク震えて真っ青になり、涙をぼろぼろこぼしているので、これはおそらく遅効性ネガティブオーラのせいなのだろう。

「ご主人様ご主人様ご主人様のぬくもりが欲しいいいよぉおおおお」
「はいシュシュ! おいで!」

ひしっ! と抱き合う、シュシュとレナ。
二人でぐすぐす泣きながら、少しずつ落ち着いてきた。

(どっちが主人かわからないくらい甲斐甲斐しいな)オズワルドがそっとぼやいて、まだ目を潤ませているルーカを横目で見て、決意する。

(泣かれるのって、好きじゃないし。それよりかは……)

▽オズワルドは 獣型になった。
▽オズワルドの 咆哮!
▽オズワルドは レグルスを呼んだ。

▽火炎獅子が 現れた!×1

▽太陽の光を吸収して、レグルスの毛並みが赤から金色のグラデーションカラーにゆらめいている。

『ぽかぽかですけど!!』
『かかってこい主さん!!』

「「うわあああああー!!」」

もふんふわん!!!! とレナとシュシュ、金色子猫が二匹に埋もれる。

おひさまの香りと、極上の毛感触と、ぽかぽかあたたかい赤魔法系ダブルボディが「さいっこー」だ!!

レナたちの涙はあっという間にやわらかい毛に吸い取られて、温度調節をしていたカルメンが舌舐めずりをしている。
(背後にそっと立っていたのに存在無視されてゾクゾクしたとのこと。一人で幸せになれるマゾは強い)

「さいっこー……ふたりの優しさが嬉しいし、毛並みはぽかぽかだし、愛しさが愛しい……うふふ〜」
『主さんの語彙力が退化してる……』
『屁理屈を言うなオズワルド。レナ様は語彙力を絞って撫でることに労力を割いているだけだ。適材適所だ。心身の役割分担だ。今は、感謝の気持ちを伝えてもらえたらそれでいいだろう』
『お前も変わったなレグルス』
『そうでもない!!!!』

レグルスの毛並みがぼわっとふくらみ、たてがみのような幻覚を燃え上がらせて、しかしけしてレナたちを傷つけることなくあたたかく包んだ。

(ツンデレが失敗している)

オズワルドのツッコミだけでは追いつかない。
そしてオズワルドの語彙は、異世界日本のサブカルチャーにだいぶ侵食されていた。

(”そうでもない”ってレグルス、自分から主さん贔屓だって自白してるようなもんじゃん……)

隠しきれない嬉しさが、たてがみにも揺れる尻尾にも現れている。
面白いくらいにごきげんである。
火炎獅子といえど大型子猫のようなものだ。

『ぷっ』

オズワルドが小さく吹き出すと、ほんの少しの火種が口の端からこぼれた。

「幸せだぁ……」
『『あ、治った』』

レナが泣き止んだことを、従魔は確認する。

はふ、とレグルスが息を吐くと、ぽふんと炎が少し漏れた。
ルーカの尻尾の先っぽが焦げてちょっとした騒ぎになったのは、ネガティブオーラに悪運が引き寄せられたのかもしれない──。

ベンチに座り、新人たちのことをそれぞれが語る。おおむね高評価だ。

レナがきらんと目を光らせた。

「そろそろブレスレットを買ってあげるのは……」
「早いですよレナ様。本契約前ですから」

レグルスの指摘がごもっともである。

「じゃあ服を作ってあげたい」
「オーダーメイド衣装か……お揃いの赤の衣装は、やっぱり本契約後なんじゃないか? 主さん」
「んー!」

何かをしてあげたい!のだろう、とは、レナを見ていると明白だ。

とくに、今のレナは、これまでの新人教育とは違って自分があまり関わっていないので。
口を出さないなら金を出す気満々である。

ルーカ、オズワルド、レグルスは苦笑しつつも、自分たちも似たような気遣いを受けたことを思い出して胸がきゅんとした。
シュシュはここぞと主人に抱きついてお腹に頬ずりをする。
がっつり惚れ直した!

ルーカが長靴のかかとを叩いて土を落としつつ、レナに提案する。

「シンプルに、気分転換のお出かけ、でいいんじゃない? 新人三人は大人しいし、そういえばチョココもこのお屋敷から出したことがないし。珍しいメンバーで出かけるのっていいと思う。あまりにも大所帯になるから、従魔の半数はここに残していったほうがいいけど」
「そんな……そんな、選択を私にしろと? ルーカさぁん……!?」
「ルーカはもともと鬼教官(オーガサージェント)だよ、ご主人様」
「調教師だけどね。ふふ」
((ややこしいな))

「い、一緒に決めてください……!」
「いいよ。頼られるのはとても好き」

レナはルーカに敗北した。

全員連れて行きたい! と言った場合はこう返事をする、というパターンを10通りくらい、いましがた脳内に直接語りかけられた。
おそるべし魔眼である。

「ルーカ。恨まれ役を買ってでるつもりなんだろうけど、きっとそうはいかないぞ」

オズワルドが囁くと、ぴくり、と猫耳が動く。

「俺たちはみんな、主さんを守れるつもりでいるし、他のやつもそうだと思う。だからついていった奴を信頼して、気持ちを落ち着かせて留守番できるさ」
「……なるほど」

最近少年の見た目となったばかりのオズワルドを、ルーカがしげしげとみる。
見た目だけでなく、精神的にも急激に成長している。
紫眼が、やわらかく三日月型になる。

「尻尾はそうは言ってないけど?」

デス・ハウンドの見事な尻尾が、ブワッとほうきのように膨らんでいた。
レグルスの尻尾は、ビッタンビッタンとベンチを叩いているし。

「さみしいよねー」
「一人だけ尻尾を出してないの、ズルいぞルーカ!」
「そうだ。ルーカも常日頃から尻尾をつけて歩いて、ミディにじゃれられたり、キサにリボンを結ばれたり、チョココにチョコをかけられたりすればいい」

((レグルスそんなことになってたのか……))

「ルーカさんがーさみしいとかー言うぅぅぅ」
「あ! ルーカがご主人様また泣かしたよ!? コラ!!」

レナは、誰と出かけるか本当に悩んだ。
悩みすぎて熱まで出した。

きっと急激な環境の変化でたくさん疲れが溜まっていて、ギルティアを迎え終わったことで、張り詰めていた緊張の糸がまた一気に緩んだのだろう。

だからしばらく休むといい。

ルーカはそう診断をした。
なにか考えがあるようだ。

広い広い一室で、レナはその日、うとうとと熱に浮かされながらベッドに横になって過ごした。

具合が悪い時にはまっすぐな姿勢で眠ったほうがいい、という判断で久しぶりに使ったベッドは、豪華な家具だけど味気なかった。

(早くハーくんで眠りたい……)

もやもやとした、懐かしいものを夢見た気がする────

びっしょりと汗をかいて、前髪を額にはりつかせたレナ。

(クーイズを抱きたいし、リリーちゃんにも添い寝してもらってぇ…………あ、ひんやり気持ちいい)

そうっと目を開けると、イズミがレナの額に手を当てていた。
視線が交わると、そうっと微笑まれる。
(シー、ね)と唇に指を当てている。

いやになるほど静かだと思っていたのに、従魔たちはベッドのそばにそうっと座っていてくれたのだ。
ずっと見守られていた。
起きたレナのことを、心配そうな瞳で眺めている。

(ああ、守りたいなぁ)

レナは、やっと微笑んで、それから早く回復するべしと、気合いで深い眠りについた。

ハマルはなぜかスキルを使わなかったけど、レナの頭をずっと撫でてくれていた。

次の朝には、すっかりと回復したレナ。
据わった目をしている。

「お出かけに行きたいです!……みんなで! 今回は、街のお店じゃなくて、ピクニックにしようよ。それなら全員でもいいですよね?」

注目がレナから、ルーカに移る。
どうするの? と。

じつはすでに、レナが寝ている間に従魔のOHANASHIは終わっていて、留守番するメンバーが決まっていたのだが。

「レナは、そうしたいんだね?」
「うん」

レナの返事に迷いがない。

「せめて最初はみんなで、がいいの。これから先、別々に行動する機会は増えていくと思う。だからこそ今日の、みんなが揃っている特別を大切にしたいなって」

モスラにアリス、パトリシアとリオも、レナが心配で駆けつけたのだ。

その気持ちを大切に感謝されて、特別とレナに言われて、悪い気がするものはいない。
反対の意見は出なかった。

「わかったよ」

ルーカも頷く。
それから、笑いを堪えるように唇を震わせて尋ねた。

「で、ピクニックの場所は? 赤の聖地から全員がいなくなるというと、大問題になると思うけど……?」

後ろでロベルトとクドライヤが盛大に青ざめている。
この陣地が無人になる……だと?
動けないギルティアも問題だ。

「考えてあります、もちろん」

レナが衣装チェンジ!
赤の女王様になった!

「キラ! ダンジョンを増築なさいな!」

▽圧倒的力技ーーーー!!!!!!

返事はもちろん、

「仰せのままに、マスター・レナ!」
「従えてぇぇぇーーーー!!!!」

「ほら、みんなもなにか言おう?」
「「「お、仰せのままにぃ……!」」」

▽全員で 原っぱピクニックを楽しんだ!
▽お弁当を食べた。
▽新しいモムが生まれた。

▽絆が深まった!

▽今度は数人でお出かけもしてみよう。

 

 

 

 

 

 

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