253:三日後

 

新従魔がやってきてから、三日が経った。

それぞれちいさな失敗がありつつも、その者にできる範囲の仕事が与えられているので、おおむね毎日「仕事満点!」をおさめている。
ジレは庭の整備、アグリスタは創造の手伝い、マイラは新人メイド。

もっとハイレベルな仕事を任せるのは、新従魔が「してみたい」と主張したときだ。
レナはそのように、更生の方針を固めた。

(まずは、自己肯定感を育んであげてから)

今日も朝早くから庭に向かう園芸組を、レナは見送る。

「わざわざそのために早起きしなくていいですよ……」

ジレが眉根をぎゅっと寄せて、困ったふうな顔を、ふいっと逸らした。
だらんと垂れた蜥蜴の尻尾は、先端がひくひくと動いている。落ち着かなさそうに。
植木鉢を支える手にも、力がこもった。ジレの力が強くても、強化している鉢はビクともしないが。

レナは、どのように返事をしようか迷って、偽りのない本心を語ることにした。

「毎日頑張っていて、えらいなあって。ジレ、難しい仕事をしていると思うの。だから気をつけてね、帰りを待ってるからね、って伝えたいんだ。毎日」
「難しくないですけど……」
「ジレにはそうかもしれない。でも、私にはできないことだから、すごいなって思うよ。私、庭の隅っこに立ち入っちゃダメって言われてるんだー。黒魔法適性があるヒト族は、怨念の影響を受けやすいからって」
「!」
「白魔法適性があるヒト族はむしろ怨念に強いんだけどね」
「あれ、退魔師って……えっと……」
「アレは魂の叫びが必要だから……ウルトラソウルするのけっこう喉疲れるから……。うーん、私も”祓う”ことはできるんだけど、それって称号だから、黒魔法適性の体としてやっぱり悪影響は受けるんだって」
「へえ……」
「ジレ、土地を綺麗にしてくれてありがとうね」
「べべべ別に、仕事なので!」
「ありがとう」

レナがにっこりと微笑むと、ジレは胸の奥底から熱いものがじゅわっと溢れてきて、それが顔にも現れてしまった。
ああもう従魔契約!!!!と、ムズムズする口元を手のひらで押さえる。

((瞬間赤面。わー、レナパーティの主従感、出た〜))

パトリシアとリオが、生あたたかくジレの背中を眺める。
蜥蜴尻尾が、びったんびったんと主張している。

「パトリシアちゃんもリオくんも、いつもありがとう」
「おう。フラワーショップネイチャーにきちんと依頼してもらってるからな。花屋はもともと朝早いから、眠気もよゆーよゆー」
「僕も平気です。大精霊シルフィネシア様のシャボンフィッシュがいる環境で過ごせるなんて、光栄です」
「トイリア店舗の店番は、もうゴルダロとジーンに任せることもできるしな〜」
「店長は今、なによりも友人としてレナさんを助けたいんですよね」

リオが直球で告げると、パトリシアはちょっと照れくさそうに「へへっ」と鼻をこすった。リオを小突く。

「大好き!!!!」
「ありがとレナ」
「パトリシアちゃんもリオくんもジレも!!」
「!?!?」

どさくさに紛れて主人からの愛情を受け取ってしまったジレは、ぶわっと肌を粟立たせた。
毒がにじんでも、オーダーメイド服に吸収されてしまう。

「んにゃー、毒毒ぅ〜……」
「ひえっ!?」

寝ぼけてやってきたクーイズが、腕をスライム状にしてテロンとジレに寄りかかった。
ひんやりと首に冷気がやってきて、服の中までスライムが侵食してきそうだったので、ジレはえいやっとクーイズを片腕で肩にかついで、駆け出す。

「行ってきます!!」

このままここで寝ぼけたスライムにくすぐられるのはイヤだ!

「いってらっしゃい!」

背中にかけられたレナの声に、ジレはじぃんとしながら、追いかけてくるパトリシアとリオの足音に安心しながら、本日の仕事場所を目指した。

「……ふう。真面目だよね、ジレ。今日はどの範囲を綺麗にするのかって、きちんとメモをとって覚えてるんだもん」
「当たり前と思いますけど。……………………まあ、あれぐらいの年齢で教育も施されていなかった魔物にしては上等です」
「レグルスも早起きで、後輩を気にかけてあげられてえらいなぁ」
「光栄です!!!!」

レナがレグルスの頭に手を伸ばしかけると、すぐに膝を折ってくれる。レナが撫でやすいように。

レグルスの燃えるたてがみのような髪を指で梳くと、ふんわりしていて、赤から金色などにゆるやかにカラーチェンジする。歓喜の感情が現れているのだ。

(早朝は、チャンスが多いので……というか……なんでもないですけど偶然ですけど)

レグルスは、顔がほんのり赤いのは髪色が映っているせい、ということにしてしまった。

(主人に触れられる行為は特別だ。主従契約における愛情確認、それから成長促進………………それだ! 成長のため!!)

理由がある方が甘えやすい、という場合もあるのだ。

「レグルス、心地よさそうな顔してる」

可愛いね〜! とレナが甘やかすのを素直に許すのは、成長のためなのだ、そうなのだ。

ヒト型が成長している魔物ほど、早くに目覚めやすい。
オズワルドやキラ、リリーがもう起きて、活動している。
それぞれ朝練・ダンジョンチェック・朝露を飲みに行っている。

モスラは本日はアネース王国のお屋敷にいる。

もう一時間くらいすると、だいたいみんな起きるだろう。

こっそりと寝室を覗きに行ったレナは、金色ベッドですやすや眠る従魔たちと、端っこのベッドで金色ブランケットをかぶって熟睡している仮従魔2人を見て、ふふっと笑った。

寝顔が可愛い!!!!

「寝坊……怠慢では……」
「こらこらレグルス、どうどう。はい口の端から牙が見えてるよ、抑えて〜。マイラとアグリスタは、昨日新しい業務を教えてもらって、すんごく頑張ってたからねぇ。体力回復は大事だよ」
「……単純作業ではありませんからね、確かに。トラップ創造と、屋敷探索は」

ふう、とレグルスのため息が聞こえてホッとして、その息が火炎獅子らしい熱さだったことに、レナは「うひゃ」と声をあげた。

ルージュとともに、朝食のしたくを始めるレナ。
魔物使いの主人同士、話に花が咲く。
たくさんの従魔のために食事を用意するのは、大変だけど幸せだね、というのがもっぱらの今朝の話題だ。

「おはようございます!?」

ビュンッッ!!とマイラがキッチンに飛んでくる。慌てていて、メイド服が着崩れている。

「おはようマイラ。よく眠れたみたいで良かった。肌の色がだいぶ良くなったし、唇のひび割れも治ってるね。よし、本日も可愛い!」
「!?!?」
「じゃあサラダを〜」

指示をするレナを、レグルスが半眼で見る。

(相変わらずのやり方で、従魔の心臓を射抜いていくんだな……)

がたっ、と音がしたので(ミディか?)と振り向くとオズワルドで、胸を押さえていた。

(ああ、オズワルドも毎度可愛いって言われているし……被弾したのか……)

笑ってしまわないように、表情を引き締めるレグルスは、諜報部に入ってから培われたこの技能に心底感謝した。

レナがこのように、様々な魔物を褒めちぎっていても、従魔間で喧嘩にならないのは、従魔契約における「身内でもめない心理」と「レナの愛情が魂にダイレクトアタックしてくる」仕様のおかげである。
愛情をたっぷり注がれているのは自分も同じなのだと、従魔は理解するのだ。

(主さんはずるい)
(従魔たちに愛情が行き渡る仕様は、効率がいいな。従魔契約魔法、なるほど……)

オズワルドとレグルスは皿を用意しながらレナたちの従魔ノロケを聞いて、やはり耳と尻尾をゆらゆらさせた。

マイラが仕事を始めたので、レナはキッチンを離れて、また館内をうろうろする。
モムたちや、シャボンフィッシュ、影の魔物にも丁寧に挨拶をした。

「見つけたのじゃ、レナ様!」

キサが着物の裾をひらりとなびかせてやってきて、レナの前に立つと、頬を包んだ。

「今朝も肌の調子が良いのぅ。ムフフ、お化粧したいのじゃ」
「少しなら、かなぁ……キサがしたいなら」
「したい!」
「いいよ」

レナは、あははっと笑った。
いつか新人たちもこれくらい、自己主張するようになればいいなと思う。

ほんのりとお化粧。
それから、キサは目の端に、赤のアイラインを細くひいた。

「勝利のおまじない、じゃ。ラミア族が意中の相手に誘惑をしかける時に施す」
「……今日の午後、|砂漠の魂喰い花(デザートギルティア)が来るから?」
「そう」

レナは一度、深呼吸した。

「……ありがとう。やっぱりねー、緊張はしちゃってるみたいなんだ。あからさまに敵対した子だから……。こういうジンクスに頼れると嬉しい」
「レナ様、目に見えてそわそわしておったのじゃ。まあ、次は一段と難しい……。不安はあるじゃろう。だからこそ、アグリスタにも会ってきたら安心できるのではないか?」

キサがレナの手を取って、寝室に導く。

「レナ様の思いやりは、確かに新従魔たちに届いておる」
「そっかぁ」

キサが、レナを自らの胸に抱き寄せた。

「魂は、主人の愛情を理解するのじゃ」

レナは菩薩のような微笑みを浮かべた。

バン! と扉が開く。

「ふあーっ! レナ様〜♪ スゥウィーーツミーィィ〜〜……むにゃぁ、あっはーぁ……すやぁ……」
「チョココぉーー!?」

寝ぼけながら走り出して、扉に頭をぶつけたらしいチョココ、扉に生クリームとチョコレートを付着させてガナッシュを作り出したあと魔物型になり寝た。

あまりのカオスにアグリスタは肌が青白くなり、骨が透けた。

「うわ!? キサ、温度管理! ガナッシュ溶けちゃう!」
「[氷の息吹]」

ふうっと吐息を吐くと、ひんやりとガナッシュが保存された。

「…………思わず保存したけどこれ、どうしよう……?」
「うーん。扉に付着しておるし、普通に考えたら廃棄じゃな。レナ様やはり動揺しておるな?」
「あ、あは」

レナが苦笑いを浮かべる。
こほん、と咳払い。
自分よりも、ケアを優先しなければならない幼児がすぐ前にいる。

「大丈夫? アグリスタ、怪我はない?」
「ないです…………」

フードで顔を隠してしまったアグリスタ。
ネガティブな自分を見られまいとしているのだろう。

(うーん、私とはまだ馴染んでいないけど、チョココとはだいぶ仲良くなったらしいし。あの服を愛用してくれているから、及第点かな?)

レナはチョココを拾い上げて、アグリスタにも手を差し出した。

「チョココと一緒に転んじゃったね。立てる?」
「ふぁっ!?……はぁ〜い」

アグリスタは、初めて、レナと手を繋ぐ。

「「っ!」」

指先にピリリとする感覚。
アグリスタはスケルトンホース。
怨霊は、黒魔法適性があるヒト族に悪影響を及ぼす。

レナの心に、じわじわとネガティブな感情が沁みてきた。

『きゅーぅ……?』

▽チョココが 目を覚ました。
▽幸せチョコレートオーラ全開!!!!

レナとアグリスタは、硬直していた肩の力を抜いた。
とろーりふにゃり、とチョコレートボディがたゆたう。甘い香りがする。

『おやすみなさ〜〜い……ません……』
「「ません」」
『わたしは〜、スウィーツプリンス〜、ですからぁ〜〜……すぴ……すぴ……はぅ、|お出迎えのお菓子(ウェルカムスウィーツ)を作るのですよ〜』

チョココがヒト型になった。
レナとアグリスタの間に立ち、ぎゅ、と両手を繋ぐ。

「えへ〜〜」
「ふふ」
「……今日も、頑張ろうと思います……」
「はあーい!……すぴぃ」

チョココが鼻ちょうちんを出したことで、あれはもしやスウィーツなのだろうか……!?とレナとアグリスタが戦慄していると、扉がまた開く。

「僕も……起きた。ねむ……」

▽ルーカが現れた。

▽アグリスタとぶつかった。

「「みぎゃーーーー!?」」
「ま、混ぜるな危険! ネガティブ回避……何か……!」

▽キラが現れた。
▽バブリーディスコライトを創造した。

「|魂の浄化(ウルトラソウル)ッッ!!」

▽レナは ネガティブオーラを吹っ飛ばした!!
▽おっらーーーーーーーーーーー!!!

気を取り直して、四人めを迎えるための、特別な準備を始めた。

どうか良い意味で、特別な日になりますように、と願いながら。

 

 

 

 

 

 

 

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