25:初クエスト2

スライム達が!次から次へと毒キノコを駆逐していくッ!
凄まじい速さで原木の上を移動し、表面を舐めるようにしてマッシュルームの検分を終えると、次の木へとすぐさま触手を伸ばす!
シュバッ!
スタントマンのワイヤーアクションさながらに跳んでいった!
次のキノコ達をまた舐めあげる!終わった!
次だ!次ッ!次ッ!次!
シュババッ!
…全て、全て駆逐してやるーーッ!!

クレハとイズミの進撃は止まらなかった。
この農場のキノコを全て検分するつもりなのだろうか。恐るべき速さと機動力で木々の間を飛び回っている。
たくさん働いたらその分稼げて、今日のディナーは豪華になるのだから、食いしん坊の彼らが気合いを入れないはずがなかった。

『ひゅーひゅーっ!クーもイズも、かっこいいよー!』
『先輩たちすごーーいっ』
「きゃー素敵ー!
クレハ、イズミ、さすがぁーー!」
「これはこれは…。また、素晴らしいですな!」

観客からの声援を受けて、なおさらスライムたちのテンションが上がっていく。

『『うおぉーーーーー!!』』

残像すら見えるレベルで視界を赤と青が飛び回る。
それに平然と[幻覚]をかけ続けるリリーのスペックもやばい。+1の効果は絶大なようだ。
レナの従魔の成長率が、今更だがすごすぎる。

日がそろそろ傾きかけるかという頃には、全てのマッシュルームの検分が終わっていた。
今後、また毒キノコの胞子は飛んでくるだろうから定期的な点検は必要だが、今ある原木の検査が済んだのはとても助かる。
ワーナー氏は笑顔が止まらない様子。

クレハとイズミが、シュバッ!とカッコ良く地面に着地してポーズを決める。
拍手が沸き起こった。

「いやはや…。
ありがとうね、スライム達。とっても助かったよー!
まさか、一日で全ての毒キノコが除去できるなんて思わなかった。
溶かしてくれたから後処理も必要ないしね…。
一応あとで毒キノコが残っていないか確認はさせてもらうけど、ざっと見た限り大丈夫そうだ。
本当に、何から何までありがとう!」

『『どういたしましてーーっ!』』

スライムの言葉はワーナー氏に伝わっていないので、レナが間に入り通訳する。
従魔を褒められたご主人さまは得意げだ。
ワーナー氏は目を優しく細めて笑っていた。

「新種の毒キノコは無かったかな…?」

スライムに尋ねるワーナー氏。

『…あっ!』
『あのねー、あっちの奥にね』
『一つだけ、マッシュルームじゃないキノコがあったんだよー』
『だけど辛くは無かったから、毒はなさそうなの』

「ん…?そうなんだ。
ワーナーさん、奥の方に、毒は無いけど変わったキノコがあったらしいです」

「ほう!」

翻訳を聞いたワーナー氏はつぶらな目を丸くしている。

スライムの案内で農場の端に行ってみると、一つの原木に、マッシュルームに混ざって燃えるように赤いキノコが育っていた。
子どもの掌くらいの大きさで、ゴツゴツしていて硬そう。カサは小さくて、茎がやたらと太く逆三角形。
明らかに食べてはいけない外観だが…スライム達によると無毒らしい。

レナは眉を顰めて紅色キノコを見ている。
この茎の部分のゴツゴツ具合…何処かでこんな形のモノを見たことがあった気がしたのだ。

一方のワーナー氏は目を見開いてキノコを凝視していた。
しばらくしげしげと観察した後、「はあ~…」と感嘆のため息をついている。
ポケットから小さな図鑑を取り出して紅キノコと照らし合わせてから、ナイフを取り出して慎重に根元を切り取った。
レナたちに見えやすいようそれを掲げる。

「これは…とても珍しい希少なキノコだよ。
既存のキノコが突然変異して生まれる種類なんだけど。
めったに見られ無いし養殖は不可能とされているから…キノコ農家の間で幻とも言われている。
“マッチョルーム茸”って言うんだ」

「マ、マッチョ!?」

…なるほど。
そう聞いた後で茎をじっくり観察してみると、ボディビルダーの胸筋と腹筋の割れ方のようにも見える。
それで既視感があったようだ。
どうしてこんな形になっているのか。すごく想像しやすい。

「ええと…。食べたらマッチョになる、とかですか…?」

恐る恐るといった様子で、レナが聞く。

「あはは、正解!
名前がこんなだから分かり易いよねぇ。
効果はその通りだよ。
食べたらすごーくマッチョな体型になれる!
筋肉が強制的に鍛えられるから、すぐ元の体型に戻っちゃうってことも無くて、死ぬまでマッチョだろうね。
あ、副作用も確認されてないって」

「う、うわぁー…」

筋肉を鍛えたい人からすると確かに宝なのだろうが、とんでもなく人を選ぶシロモノだ。
マッチョ体型になったら、その分だけ体力値ステータスも上がるのだろうか?
ボディビルダーのような外見になるのか、格闘家のような引き締まった体型になるのか。
茎が逆三角形だから前者かな。
そんなことをレナがボーッと考えていると、ワーナー氏は少し迷ってから、マッチョルーム茸をおもむろに彼女に差し出した。

「…食べる人を選ぶキノコだけど、希少種だし、筋肉マニアの間では相当の高値で取引されているって聞いたことがある。
体力値のステータスも大きく上がるらしいよ?
…よし、見つけたのはスライム達だからね。
主人の貴方にあげよう。
従魔の強化に使うといい」

「えええっ!?」

お高くて貴重なキノコをタダで譲ってくれるらしい!
しかし可愛い従魔がゴリマッチョの危機!

「キノコ農家として、確かにとても気になる逸品なんだけどねー。
…でもお嬢さんの従魔達が今回見つけてくれなかったら、このキノコに出会うことは出来なかったと思うから。あげる。
マッチョルーム茸は水分に弱いから、湿気の多い森の中ではすぐに痛んでしまうんだよ。
明日まであの原木を放置していたら、枯れていただろうねー。
お目にかかれただけでもとても幸運だと思ってる。どうもありがとう。
熱魔法の[ドライ]で乾燥茸にしてあげるから、持っておいきなさい」

…外見効果が怖すぎるし、戦力も現状でだいたい満足しているから、正直いらなかった。
しかし、そんな無粋なことを言い出せる雰囲気ではない…。

ワーナー氏はまるで菩薩(ぼさつ)のような、優しさに溢れた微笑みでレナにキノコを差し出している。
空気の読める子レナは、なんとか笑顔を作っておずおずとそのマッチョルーム茸を受け取った。

キノコらしからぬ重みは、体脂肪率的なもののせいなんだろうか。
ギューッと繊維(きんにく)が詰まっているような、凝縮された重みと硬さが感じられる。

レナの掌にキノコを乗せたままで、ワーナー氏は器用に[ドライ]の魔法をかけていった。
さすがに手慣れている。

▽レナは 乾燥マッチョルーム茸×1を 手に入れた!

興奮した様子のワーナー氏は、家に着くまでの道すがら、レナにキノコの希少性やら効果やらをさらに詳しく詳しーく語ってくれた。
相槌を打ちながらも、レナは内心では「クレハが[ドライ]魔法を覚えてくれたら、たくさん乾燥野菜やドライフルーツが作れるなぁー」なんて考え現実逃避している。
マッチョルーム茸をどうしようか、悩みきってしまっているのだ…。

オーナーの家に着くと、スライムの働きも含めた上乗せ賃金と(ご主人さまは定期的に[鼓舞]スキルをかけて働いていた)、大量のマッシュルームがレナに手渡された。
ギルドのクエスト依頼の用紙には”完了”のサインがされる。

▽初クエスト”農場の毒キノコ除去”を 成功させた!
▽レナは 賃金1500リル、乾燥マッシュルーム×100、マッシュルーム×50を受け取った。

「それでは、ありがとうございました」

主人とオーナーが農場の入り口でにこやかに笑い合う。

「こちらこそ、本当にありがとう!
また毒キノコ除去を依頼するタイミングが合えば、是非お願いしたいくらいだよー」

「ふふっ、良かったです。
この街にいる間にまた依頼を見かけたら、受注させてもらいますね」

「助かるよ!」

ワーナー氏とはスムーズに別れの挨拶をして、キノコ農場を去っていった。
ー行は、まずギルド方面へと歩き始める。
クエスト完了の報告をしなければいけないのだ。

そしてそれが終わったあとは、トイリア商店街の方へと足を運ぶつもりである。
夕飯を作るための食材の買い足しと、肉屋で、魔物肉を燻製にしてもらえるか聞きたかった。

「クレハもイズミも、今日はお疲れ様ー。
いっぱい頑張ってくれたね!すごくカッコ良かったよー!
夕飯は約束通り、豪華なメニューにしましょうね。
たくさん作るからたらふくお食べー」

『『わーーい!レナ大好きぃーーっ!』』

「私も貴方たちが大好きーーっ!」

『あっ、いいなー。…ご主人さま、リリーも撫でて?』

『ボクもー』

「うふふー、もちろん!
可愛いよー。私の従魔たちみんな可愛いよぉー。好き!好き!うりうりうり」

『『きゃーーーっ♪』』
『…えへへっ』
『ふあーー』

モンスターといちゃラブしながら街を歩くちっちゃな魔物使いは、とても目立っている。
しかし今更なので、もう気にしないことにしよう。

***

トイリアの食材街をレナたちが歩く。
冒険者ギルドに立ち寄って依頼完了報告を済ませてきたので、もう完全に夕方になっていた。
夜ごはんの食材を買い求めるお客たちで、道はごった返している。
玄関口の街なだけあって、どの店も立派な店舗だ。

「ついでに、お米とかも欲しいなぁー…」

お肉屋に向かう道すがら、レナは、日本のような調味料や食材がないか探している。
お財布は潤っているのだ。
無駄遣いをするつもりはもちろん無いが、もし、お米などがあったなら割高でも買っておきたい!
日本人が国外に旅行に行ってしばらくすると、和食食べたい病にかかる、というのをリアルに異世界で体験していた。

残念ながらお米は見つからないまま、お肉屋さんに辿り着いてしまう。
代わりの主食には、道中見つけたパン屋さんで焼きたてのパンを買っておいた。

「へい、いらっしゃいー!
おや?
初めて見る顔だね、お嬢ちゃん。
今後もこの”肉屋ゴメス”をよろしくねー。
今日は何をお求めなんだい」

派手なマンモス肉の看板が掲げられている精肉店のご主人が、ショーケースの向こうから、朗らかにレナに話しかける。
迫力のある大男だった。
肉切り包丁が似合う似合う。

「えーっと」

とりあえず、レナは期待されるがまま、ショーケースのお肉の種類と値段を確認している。
買うかどうかも決めていなかったが、値段確認は庶民として身についた癖なのだ。

並べられていた肉の種類はウシ、ブタ、ウサギ、ヒツジ、ウマ、トリ。魔物肉は、片隅にほんの少しだけだった。
あとは、ベーコンやウインナーなどの肉加工食品。
安定して仕入れられる家畜肉の割り合いが多いようである。
価格はグラム単位で量り売りだが、どれもお手頃な価格で、店主が気のいい商売人なのだとよく分かった。

地球でよく食べていたため懐かしいブタ肉を、少し買っておく事にする。
ついでに、大きなウインナーも数本注文した。

「まいどありー!ありがとなっ!」

「はい、ありがとうございました。
あの…少し伺いたい事があるんですけど…」

「ん?」

「今、魔物の肉を持っているんですが。
それを、店舗で燻製にしてもらえないでしょうか?
もちろん燻製にする手間料金は支払います」

今回の本題について尋ねてみた。
以前、親切な村人のアイシャに、魔物肉は燻製にすると味がさらに深まり長持ちする、と聞いていたのだ。
とても興味があったのだが、さすがに燻製など大掛かりな事を素人(レナ)がしても失敗するだろうし、頼めるのならプロに美味しく作ってもらいたい。
そう考えたレナは、肉屋からの良い返事を期待している。

魔物肉でただ焼肉をするのに少しだけ飽きてきたというのもあった。
キラキラの目で見上げてくる少女を、店主のゴメスは驚いた表情で見返している。

「ほぉー。魔物肉の燻製ね…。
お嬢ちゃん達が狩ったのかい?
もちろん、店舗に置いてあるベーコンなんかも自家製だし、持ち込んだ肉をうちで燻製にしてやることは出来るよ。
そんな事を頼まれたのは初めてだけどなー」

どうやら、店主は今回の話にノリ気らしい。

「!やった、是非お願いします…!」

「ん。分かったぜー」

「料金は前払いでいいですか?」

「あー、いや、初めての要望だし…嫁さんと相談してみるよ。
後払いで頼む。
解体と加工、燻製の代金になるけど、まぁウチの仕事のついでにやればいい事だし、そんなに高くならないから安心していい。
獲物の血抜きはしてある?」

「捌(さば)いてありますよ」

レナがバッグから青のスライムに包まれた生肉を出して見せると、またもゴメス氏に驚かれてしまう。
そりゃそうだ…。
マジックバッグから取り出してみせなかったのは正解だが、たいがい魔物の使い方が非常識である。

イズミは[アクア]の魔法を使ってボディを冷やし、中の空洞に生肉を入れて、一人でクーラーバックと保冷剤の役割をこなしていた。
ボディから出された肉は全く痛んでおらず、粘液などの不純物も一切ついていない。
部位分けも完璧にしてあって、あまりのクオリティの高さに、もう肉屋の店主は笑い出してしまった。

「ガハハハッ!
こりゃ、たまげたなぁ…!
スライムってのは随分と便利なんだなぁー。
こんなに見事な仕事をされたんじゃ、こっちも立派なベーコンを作ってやらないと気がすまねぇよ!
美味いの、作ってやるからなーー!
じっくり燻(いぶ)すとなると…そうだな、だいたい2日後くらいにまたおいで。
その頃にゃあ、できてるだろう。
燻製のチップは、リンゴ、クルミ、カエデ、ブナなんかがあるけど。
どれがいい?」

スライムの反則のような部位分け肉を見て、ゴメス氏はがぜんヤル気が出たらしい。

「楽しみですーー!
ええと、そうですね。では、リンゴチップのスモークベーコンでお願いできますか」

「あいよっ!」

商談は成立した!
レナが肉屋に手渡したのはヒツジ肉、ウサギ肉の、とくに脂が多い部位の肉だ。
それぞれ、元は居眠りヒツジ、丸ヒツジ、ホップラビットなどの低級魔物である。

契約印の押された予約票をもらったレナたちは、ゴメスの肉屋を後にして、もう少し食材街を歩いていく。
残念ながらまたも日本食材は見つからなかったが、野菜やチーズなどを買うことが出来た。
これで夕飯を作ろう。

本日のレナたちの夕飯は、フランスパンを使ったガーリックバタートーストと、マッシュルームと具だくさん野菜のスープ、ボイルした巨大ソーセージ。
付け合わせにチーズも皿の端に置かれており、とっても豪華である。

それらを調理した後のお宿♡のキッチンには、なんとも食欲を刺激するいい匂いが漂っていた。
すぐわきに設置されたイートインスペースにお皿を並べ、レナと従魔たちが手を合わせる。
冒険者や政治家がよく利用するお宿♡のため、キッチンはほぼ使われておらず、他のお客の姿は無かった。
従魔たちはそれぞれヒト化して、簡単なシャツと短パンを身につけている。
「いただきます」を毎回きちんと言うように、レナは保母さんよろしく教育していた。

「…さて。
今日はクレハとイズミが大活躍してくれたおかげで、とっても豪華な食事を作ることが出来ました。
ありがとうねっ!
リリーちゃんとハーくんも、応援お疲れさま。
みんなでご飯を頂きましょう」

「「「「いただきまーーすっ!」」」」

もういいよ!の号令がかかると、従魔たちはまだ慣れないスプーンを頑張って扱いながら、勢いよくご飯を頬張っていく。

「ふふっ。いただきます」

主人も、自分のぶんのスープの器に手をつけ始めた。
誰かが食べ過ぎてケンカにならないようにと、全員に一人分をよそった器が配られている。
足りなかったら個別におかわりをしてもらうスタイルだ。

スープを一口すすると、豊かなキノコの風味と野菜の甘みが口いっぱいに広がる。
“スープの素”のような便利アイテムは売られていなかったので、コクを出すために、細かく切ったウインナーとチーズが少しずつ入れられていた。
ガーリックバタートーストはクレハの魔法でいい感じに香ばしく炙(あぶ)られている。
齧り付くと、バターがじゅわっとにじみ出てくる。
メインの大きなウインナーは、シンプルに塩と少しの砂糖で味付けされていた。豚肉の味が濃くて、絶品!
胡椒の風味があっても良かったかもしれないが、胡椒や唐辛子などの辛みのあるスパイスはジーニアレス大陸が原産地なので、使うと少々割高になってしまうのだとか。
“肉屋ゴメス”はリーズナブルな商品ばかりを揃えた店舗だったので、胡椒入りのものは置いていなかったのだ。

しばらくは皆無言で、美味しいごはんに舌鼓を打つ。
Gランク冒険者としてはありえない贅沢ディナーだが、レナたちは食材をある程度自分たちで狩れることと、今回のクエスト報酬が多かったこと、何より料理がきちんと出来る人材がいたことで、このようなご飯にありつけている。
初クエスト大成功の祝膳でもあるので、特別に豪華になっているのもあるだろう。

匂いにつられてオーナー淫魔と数人の獣人がキッチンにやって来た。
まぁ人付き合いも大切だよね、なんて思ったレナは、少しだけあまった分のおかずを振る舞う。
とても喜ばれて、代わりに貴重な食材を譲ってもらえた。
また明日からのご飯も豪華になるだろう。
彼女は無意識だったが、生活水準がどんどんと上がっている。

ギャラリーが来た頃にはもう従魔たちはご飯を食べ終わっており、早々に魔物姿にもどって、丸くなったお腹を抱えつつ主人に寄り添っていた。

その日はレナたちはぐっすりと心地よく眠ることが出来た。

▽クエスト完了!
▽レナたちの 体力が 全快した!

 

 

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