249:お着替えしましょ

▽お仕事を始めよう!

「お着替えです」

レナの顔がほくほくと輝いているーー!
いえーい!!!!

「仕事をするには制服から、だね。まずマイラ」
「……メイド服。はい」

おずおずと主人の手ずから受け取って、メイド服を眺めている。

シンプルなワンピースドレスに、エプロン。デザインは洗練されている。
縫製はほつれ一つなく、布地は少し触っただけでも指に心地いい。裾にはひらりとレースが揺れた。

(こんなの着たら……うっ、贅沢! うわ、いい匂いもする)

マイラの目は前髪に隠れているが、口元がむずむずと動いて、どうやら嬉しいらしい、とレナはホッとした。
マイラの好みを覚える。

「1人で着替えられそう? ワンピースとエプロン、今の服装と似ているしね」
「あっ、はい」
「じゃ、あっちの小部屋使って。何かあったら呼んでね」

マイラがこくっと頷いて、足早に去っていった。

(……小部屋ぁ!?)

中の広さに愕然としたとき、ぽろんと目玉が落っこちた。
でもここには目玉を焼きにくるイカ娘も聖霊もいないので、マイラは落ち着いて着替えることができた。

「アグリスタ。んーと、外したくないものって、ある?」
「……ひぃぃ」

アグリスタは口を開きかけて、閉じたり、なかなか自分の言葉を伝えられない。

「わたしが選んであげましょうか! これボロボロですね〜代える?」
「さ、触んないで!」

チョココが、アグリスタの首に引っかかっていた古めかしい縄に手を伸ばすと、弾かれた。
パシィン! と乾いた音が響く。

チョココが目を丸くしてアグリスタを眺めている。
アグリスタは真っ青になっていた。

ニコ! とチョココが笑いかける。

「なるほど〜。これ、君の大事なものなんですね! どうして大事なのか、聞きたいです〜!」
「……叩いた、お詫びに、言うよぉ。これがないとボクは眠れなくて……」
「そうなんですか〜? それ以外に理由はないんですか?」
「な……うっ」

▽ルーカと ハマルが アグリスタを じーっと眺めている!
▽ルーカが チョココの肩を ちょこんとつついた。

「こういう時は、大事なものだから手放したくないですか? って聞くといいよ。チョココ」
「分かりました〜。わたし脳みそ生クリームなので、ルーカ先生から学ぶことがたくさんあります!」
「頭で覚えようとするとすぐ生クリームミックスになっちゃうから、本能に刻んでいくといいかもね」

ルーカが、すっと離れる。
アグリスタの嘆きの衝動が感染(うつ)ったので、別室で少し泣いた。

「大事なものって手放したくないんですか!?」

▽チョココ 渾身の失敗!

「ええ!? それって、魔王様みたいな……死ぬのって怖いのか? みたいな……君も、そういう、タイプなの?」
「お菓子の王族だから似てますね!」

ひぃぃ、と言いながら、アグリスタは先日のことを思いだす。

「輪廻転生……魂が循環、すること。大事なものを手放しても、いつか、また現れるのかもしれない……」

でもまだ、古びた縄を手放すことはできなくて。

馬飼いの男が、首を吊った怨念の輪。
これが仔馬の首に触れた時、アグリスタは魔物になったのだ。自らを苦しめる呪いであり、アイデンティティでもある。

「縄、まだ欲しい、です……」
「わかったよ」

じれじれしながらも口を出さずに待っていたレナは、ふわっと友愛の笑みを浮かべた。

「シャツもそのままが良いんだね、分かった。ズボンは……新品だからそのままにしよっか。足に怪我をしてるから、包帯を巻いて。あとフードケープ」
「フードケープ?」

レナがそれは嬉しそうに取り出した、丈が長めのケープを着て、フードを被るアグリスタ。
まるで赤ずきんちゃんさながらになった。

レナが、歓喜に叫びたい衝動を抑えて、せいいっぱいのほんわか笑顔でアグリスタをみる。

「アグリスタは人と目を合わせるの、ちょっと苦手だよね。ここって人が多いから、目線避けがあるとちょっと安心なのかなって。アグリしゅっいたっ」
「……アグ、でいいです……」

▽舌を噛んだレナをいたわった。
▽先輩従魔からの好感度が、100上がった!

「ジレ」
「はい」

ジレが受け取ったのは、黒い布地に花模様の……

「えっと、エプロン?」
「そう。私たちと庭のことやるからさ」

パトリシアがぽんと肩に手を、置こうとして紫の触手と握手した。

「んっ!? ……あー、毒か。ごめん」
「おうともよー。パティお姉ちゃん、ヒト族だからさー、毒効きやすいよ? 気をつけて!」

クーイズが注意した。

それからジレを眺める。
本人は気にしていないそぶりを頑張っているが、ひくりと目尻が引きつった。

(毒が滲むこと、壮絶なコンプレックスらしいもんねぇ)

「と、いうわけで! 我らから服もプレゼントだよーん。なんと! 毒を吸い取ってくれるんだな」
「は!? そんな都合がいい服が……」
「店には無いよね。だからオーダーメイドだぜ、君の更生のために」
「……ッ」
「君以外には使用用途がないからさ、受け取ってよ? 漆黒大薔薇とゴーストローズの花びらをうすーく伸ばして、紫スライムジェルでくっつけたものに、付与魔法をかけて柔軟な布みたいにしたの! ホラホラ〜」

クーイズが渡した服は、体にぴったりとフィットしそうな細身の長袖長タイツ。今の服の下に着ることができそうだ。尻尾を出せるような獣人向けのデザイン。

「ジレさ、肌荒れもしてるっしょ。自分の毒で。それも治ると思うよ」

毒で自らの皮膚も傷つけられ、細かなかさぶたができているジレの腕。
(よく見てる……)
ジレは緊張したが、頷いた。

「それから園芸をするのに、肌出しは厳禁だしな」
「おうともよ」

パトリシアとクドライヤが深ーく意気投合している。
そっと店長の後ろから顔を出したリオが「頑張りましょうね」とそっと声をかけた、その顔が決意に満ちているのが気になる……。

「な、なにをやるんですか?」
「「「園芸」」」

▽レナパーティのお屋敷の、園芸。
▽園芸ダンジョン。

▽不安そうにしながら、ジレが着替えを終えた。

「うわ……あの……花びらの表面って、こんななめらかな触り心地、なんですね? 肌が痛くなくて……えっと、快適です。すごく」

ちょっと気恥ずかしそうに、エプロンの端を摘んだジレ。
治療効果が高まるように、エリクサーを吸収したあとの薔薇を使ったので諸々任せておけ。

花を褒められ慣れていないクドライヤも、少し耳の先を赤くした。

▽マイラが登場した。

「「あ、似合う」」
「う。ありがと……」

ジレとアグリスタが褒めたので、マイラは頬を染めてほんのり笑った。
ふわふわ、浮かんでいた足が、床に着く。
こつん、と丸みのあるローファーが音を立てた。
ぴかぴかの黒色だ。

「みんな、とっても素敵! 準備が整ったね」

レナがにこにこと言う。
心の中で「ああああ可愛いいいぃ!!」と感激しているのが、主従の絆でほんわりと伝わって、レナは本心で褒めてくれたらしい、と新従魔三人を安心させた。

「それぞれの仕事をすこし、してきてもらいます。先輩たちの話をよく聞いてね、分からないことや不安なことはできるだけ相談して。どうしても言葉にできなかったら、呼べば魔眼の金色猫がやってきてくれるから。
じゃあ夕飯まで、行ってらっしゃい!」

ジレとクーイズ、園芸組。
アグリスタとチョココ、創造組。
マイラとミディ、家事組。

それぞれが持ち場に向かう。

戻ってきたルーカが、レナとそっと目配せした。

(レナはあの子たちの側に、いなくてもいいの?)
(今日の物語の主役は、譲ろうと思って。私が行ったら、指揮する私の物語になっちゃうでしょう? そうじゃなくて……三人分の、それぞれの物語を紡ぎ始める、大事な時だと思うんですよ)
(なるほど。レナ、世界構造をなんとなく理解してるね)
(なんとなく!)

くすくすっと一緒に笑った。
ラナシュ世界のことはなんとなく、でもいい方向に進むように、考えることが大事なのだ!

考え方によってはどんどんと良い世界にしていける、そんな場所なのだから。
夢組織の思想を聞いたレナは、逆転の発想で、これからの生活に活かしていくことにした!

「本日中はもう、できるだけ目立たずに過ごすつもりなんです。もう目立ち尽くしたからね!!」

今ここに残っている従魔たちとレナが、大きな笑い声をあげた。

「さて。待機組のみんなー! ヘルプがあった時にすぐ対応できるように、それから隠密行動スキルを上げるために、そっと壁の陰から見守りに行くよ?」
「了解!」

▽レナと先輩従魔が 暗躍スーツに 着替えた。
▽シチュエーションコスチュームプレイは大事大事ィ!

▽気をぬくとすぐにレナが物語の主役になるぞ。気をつけろ!

▽そーっと……そーっと……
▽…………

▽明日から3日連続ミニ更新となります。
▽年末をお楽しみいただけますように!

 

 

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