248:新たな君らをエスコート

「館内を歩くのに、エスコートがある方がいいわ」

いいのか?

……と新人三名は思ったが、素直に頷いた。

思いやりの気持ちでレナ女王様が発言したと、分かるからだ。

かりそめの絆の細い繋がりでも、主人の素直な心がよく伝わってくる。

それはとても不思議な感覚で、むずむずと、こそばゆくて、まだまだこわい。

でも「首輪の制限があるから」「従魔だから」と考えることで、三人は前に進めた。

どうして館内を歩く程度にエスコートがいるのか?……これから新たな世界を知る。

「先輩従魔と手を繋いで欲しいんだけど。いいかしら?」
「「「……っはい!?」」」
「まあよかった。いい子たちね。床が波打ったり、階段が動いたり、花びらが舞ったりするから驚かせちゃうかなって」

レナもしたたかになったものである。

ポルターガイスト現象? なんて三人が思っていると、レナがニコッと微笑む。
その微笑みは、なんだかちょっと意味深で、こわさが一割増しになった。

アグリスタが涙ぐむと、三人ともが震える。

「ジレとクーイズ、アグリスタとチョココ、マイラとミディ」

レナが指示する。

どきっ、と三人が固まっている間に、一瞬で手を取られる。

合意だからね!
ぐいぐいいくよ!

「我らがクーイズ! ブリリアント・ジュエルスライムだよん。毒耐性があるから君の世話役にうってつけなんだぜ、ジレ少年〜!」
「……よ、よろしくお願いします」
「はいよーっと」

ひんやりと冷たいスライムハンド。
毒が効かない、と教えられたジレは、安心して、クーイズの手を握り返した。
ぐに、といやに柔らかい感触にびっくりした。

「あ、ごめんっ、俺、力加減が下手で……手のひら貫通してる!?」
「にゃはは、スライムだからねー平気平気! 君、力強いんだなー。いっぱい練習するといいよ。我らスライム、何事も柔軟だからさ、痛くない痛くない〜」

ケラケラ笑い飛ばすクーイズのおおらかな性格と、宝石みたいな極上の美貌とのギャップがすごくて、ジレの脳内は大混乱だった。

(こんなギャップ……スイがブチギレた時くらいだ……)

ジレはスッと冷静になった。

アグリスタの周りを、チョココがくるくる駆け回っていて、律儀に視線で追いかけていたアグリスタが、目を回しかけている。

「わたしはスイーツプリンスのチョココでーす♪ あれ、あなた、泣きそうですか? んー、では涙を、甘〜い飴に変えてしまいましょうね」
「えっ!?」
「はーい、スウィーツギフト♪」
「えっ、えっ!? あぐっ」
「あなたからも幸せの味が、生まれるのですよ〜! なんてハピネス♪ デリシャス♪ るんるん♪」

チョココに涙キャンディを食べさせられたアグリスタは、ふらふらとしている。
(共食い!? えっ、なんで!? ……あ、甘い)

幸せの甘みに、恐れが引っ込んだのも束の間、

「あっ手を繋ぐんでした」
「……ぎゃー!? 君の、その手に触ったら、お菓子にされるんじゃ……ッ!?」
「生物はまだはんぶんしかお菓子にできないから〜、大丈夫でーす♪」
「はんぶん!」

ギャーギャー喚いているアグリスタの嘆きの感情にも、チョココはビクとも靡かない。
常にスウィーツハッピー。
生クリームの脳みそ、つよい!

涙キャンディを追加されたアグリスタの頬が、リスみたいに膨らんだ。

「デリシャス♪ るんるん♪ ミィはデリシャスクラーケンのミディアム・レア! お腹が空いたらいつでも召しませ、あなたのお口に、イートミィ♪」
「よ、よろしく……」
「カトラリーの整理整頓は得意ナノ! ミィが教えてあげるからね」
「あ、そっか。私……メイドにならなくちゃ……はい」
「後でルージュ様も手伝いにくるノヨー」
「精霊が家事を!?」

叫んだとき、マイラの目玉がポロリとひとつ落ちた。

前髪で顔の上半分は隠れているが、眼球が床に転がっている光景はけっこうなホラーである。

「キャー! 目玉だ! 焼く? 白炎あるノヨー?」
『我々を呼んだか!?』
「焼かないでー! ……ッまた精霊!?」

ふたつめの目玉も落ちた。

カルメンは聖霊で……なんて説明をしたらまた驚かせそうだ。

「モスラ……」

レナが助けを求める。

「はい。──リトルレディ、あなたが落とした目玉ですよ」

モスラの言葉がなんだかおかしいけど、現実だから仕方がないし、カリスマ執事スマイルで新人メイドがごまかされたから、よしとする。

▽がんがんレナパーティに染めていく!

▽まだ玄関前!!!!

▽扉が開いた!

▽レナ女王様の石像がどーーーーーん!!!!

……だが、新人たちは落ち着いている。

(((本物の方が、インパクト、あるかも……)))

レナ女王様のナマ高笑いは、覇気付きなので、臨場感がケタ違いなのだ!!

▽先により驚かせていたことが 功を奏した。
▽結果がきちんと後でついてきたので、これでよし。
▽はい次!

(((どこにいくの?)))

「まずは館内の案内よ。自分たちが暮らすところのこと、不明なままだと不安でしょう?」

新人たちの心理を読んだかのような、レナの言葉。

手を引かれている三人は息を呑んだが、黙って、言葉の続きを聞くことにした。

(どうして不安さがわかったんだろうな)
(仮従魔契約、したから、心読まれてる?……ひぃ)

「まったく知らないところに放り出される不安ってね、実は、よく分かるの」

(((!)))

一番前を歩いていたレナが、変身した。
変身が解けた、というべきか。

赤いドレスが淡く光って、シンプルな白のシャツと赤のキュロットスカートに変わる。

長い三つ編みを揺らして、振り返った表情は、先ほどとはまるで違って、ただのやさしい「お姉さん」だ。
顔立ちのせいか「少女」という言葉の方がふさわしいとすら言える。

(((誰?)))

三人にとっては晴天の霹靂だった。

だって女王様状態以外のレナを見たのは、初めてだから。
先輩従魔たちがうっとりと三つ編み少女眺めているので、あれはさっきまでのレナ女王様らしい……となんとか認知できた。

「私もねー、経験があってねー。知らないところにぽんっと放り出されて、不安でしかたなくて。周りの情報を手に入れたかったし、頼ってもいい手が欲しかったんだよ」

(あっ)と三人が気づいた。
自分たちが、先輩従魔と手を繋いでいるのは、レナの経験に基づいた気遣いでもあったらしい……と。

レナが嘘をついていないことは、細く繋がった魂が素直に震えたことで、知った。

過去、そのような状況で、レナもきっと怖かったのだ。
思い出しても震えるくらいに。

この魂の繋がりもまた、頼ってもいい手、である。

三人は、自分たちに与えられたチャンスに、またひとつ、気づいた。

「もしもみんなが、本契約をしてくれた時にはね、私の過去のことも、きちんと全部話すからね」

知りたいか、と言われると、知りたい。

夢組織は、傷の舐め合いで成り立っていた。

だから、レナに暗く悲しい過去があるなら、覗いてみたいと、三人はそのように考えて、少し前のめりになった。

それから、先輩従魔にぎゅっと手に力を入れられて、ハッとする。
引きつった苦笑いを浮かべた。

(……まあ、レナに関心を持ったってこと、我らは前向きにとらえるけどね。危なっかしいなぁー。厳選して選んだ三人でこれかぁ。まったく、教育頑張らなきゃ)

「「転ぶとあぶないよー!」」

チョココとミディの純粋な心配の声を聞いて、クーイズもパチリと目を見開くと、自分への苦笑いを浮かべた。

「そんなに信用してもいいの……?」

ジレが呟く。

(だってどれだけ取り繕っても、犯罪者だってもう称号に刻まれている。この主人、けして軽率なわけじゃないだろうし、全部教えるとか、なに考えてるんだろ……)

レナとの距離感を測り兼ねている。
クーイズがとなりで、軽く言う。

「本契約をしてくれたら、ってレナが言ったでしょ〜。君らが対価を渡したら、得られるものがあるってだけのこと。だから、そんなに緊張しなくていいって」
「……そう」

落ち着かなくて、心がざわざわする。

ジレは親切を提示される得体のしれなさに、とくに引いてしまうようだ。

(この子は……煉獄火蜥蜴の能力で嫌われることには慣れてて、その逆は未知だから、こわいってタイプなのかな)と、クーイズは察する。
(ルーカも我らもその未知に飛び込んでいけたから、きっと大丈夫!)

じんわりと指先に毒が滲んでいることに気づいたジレが「ごめんっ」と青ざめる。

「珍味ごちそうさま☆」
「……!? スライムって全身捕食……手から、毒を食べた? そ、そういうこと?」
(お、かしこいじゃん)

ウインクしてみせるクーイズに敵う予感はまるでしなかった。
ジレは、ぽかんと見上げるばかりだ。

アグリスタとマイラも、クーイズの大胆なフォローに耳をすませていて、安堵したのか、ホ、と肩の力を抜いた。

──ひとつずつ、ひとつずつ、解かれていっている気がする。

──とても丁寧に解いたぶんの「代わりのなにか」を施されている、そんな気もする。

前に目を向けた。

レナの歩調はゆっくりだ。
赤いブーツが絨毯を踏みしめると、あらかじめ告げられていたとおり、バラの花びらがぶわっと舞う。

こんなに普通の少女なのに、薔薇の花にもまるで負けない気品があった。

従魔みんなが、レナに足並みを揃える。
動体視力に優れた魔人族たちが、動きを読むことはカンタンだ。

一歩。
一歩。

従魔みんな、もちろん三人もである。

このようにゆっくり歩くと、心臓のリズムも整うことを、初めて知った。
いつも、なにかに追われるように、早足だった。

それは自分たちを疎む敵だったり、腹をすかせた野生の獣だったり、壊れかけの建物の床だったり、とにかく世界は優しくなくて。
怖がって逃げてばかりいたけれど。

ここは安全なのだ。

安全保障というものが、こんなにも心の余裕を生むと、初めて知った。

館内をそろりそろりチラ見して、やがてじっくり眺め始める。

歩く方向は、きちんと導いてくれる手がある。

先輩従魔と目が合ってしまっても、睨まれることはなかった。
ニコッと微笑まれるか、見守る目をしている。

良縁を得たのかもと、知った。

きれいに清掃された館内には、埃ひとつ落ちていない。

その代わりにサンドクッキー・モムが入り込んで、砂つぶを落としていくけど、シュバッと吹いた隙間風が砂つぶを回収した。(超速鈴生りマッチョマンが、お家妖精よろしく生息しているのだ)

天井でリンリンとやわらかな音が鳴って、のんびりとした心地よさを演出する。

時計は置かれていない。
今は、自分たちの時間で生きればいい。

豪華なエントランスホール。
しかしその基となる家具や建築内装は、ボロボロ状態だった時のものが修繕されていると気付いた。

(ボクたちが使ってたオンボロ椅子!……布が張り替えられて、木がつぎはぎに足されて、すっかり見違えてる)

素材そのままに「リメイク」して美しくなることを、初めて知った。

それを自分たちに、反映して、考える。

(((元が、望まれない魔物だったとしても、きれいになれるんだろうか……)))

▽きっとできる!
▽レナパーティがついてたら百億人力だからね!
▽やったーーーーー!!!!

きれいに、歩み直したいのだろうか?
きまってる。
仲間のところにチョコレートを持っていく、と決意したあとだ。

ここにきて、初めて知ったことが、いくつあるだろう?
それはきっと大切な気づきだ。

「幸せを、知っているから……幸せを、教えられるの! ねっ」
「そうそう。シュシュがリリーたちに、教えてもらったことだね。押忍!」

軽やかに笑う漢女(オトメ)の会話を耳にして、三人の頬が、期待にうっすらと染まった。

▽お仕事を始めよう!

 

 

 

pixiv fanbox

 こちらにはイラストまとめ、創作裏話、ホームページ制作の記事を書いています。ぜひお楽しみいただけますように。
 100円ご支援いただけることは、書籍一冊買ってくださったのと同じ助けになります。
みなさまいつも応援ありがとうございます!