247:夢の子供の仮契約

 

玄関で、出会い頭に、きらびやか主従ビジュアル攻撃を受けて、震えあがった元夢組織メンバーの三人。

しかしながら、その程度で済んだ、とも言えるのだ。

ロベルトとクドライヤは正直驚いていた。

((レナパーティをくらってこの落ち着きとは!))

▽レナパーティという概念を攻撃力にするんじゃない。
▽でも冒頭似たような説明しかできていない。
▽うーん……

……高笑いするレナの後ろで、キラが首を傾げている。

「キラ、先輩。どうしたのっ?」
「いやぁ、概念ってなかなか複雑だなあって思いまして……うーん……」

キラの背中に、小さなウィンドウが現れた。

(どのように状況説明すべきでしょうか? より分かりやすく、より面白く、それでいて世界の常識から外れすぎないように……)と考えると、ウィンドウに瞬く間にメモが書き込まれていく。

リリーが隣から、それを覗き込んだ。

「わ。難しい、言葉だらけ……よく分からないの! えへっ」
「それは困りましたねぇ」
「そうなの……?」
<これ、赤の経典の下書きなんです。だから老若男女に読んでもらえて、楽しくて、マスター・レナの素晴らしさがわかる文章にしないとって>

まだ秘密ですよ? と脳内音声でこっそりと教えてくれたキラに、リリーはポンと手を打ってみせた。

「ご主人様の、いいとこ。今、全力だもんねっ!」
「そうそう。今のマスターの勇姿を記録せずにいられますかっ! てね」

ぐっ、と拳を握って小声で力説するキラ。

(校正頑張りましょうね?)

そっとキラが視線を送った先の、モスラは慣れたもので、パチンとウインクを返してきた。

▽従魔たちは ご主人様の堂々とした高笑いに 聴き惚れている。
▽敵を挫き 味方を鼓舞するのだ!

▽そしてこれから 敵が味方となる。
▽その類いまれなる女王様パワーによって
▽女王様とはパワー!

「あっいいですねこれ。わけわかんないけど面白くて勢いがあって、雰囲気はバッチリ伝わります。カリスマの方が適正な気がしますけど、パワーいいですね」

ぷふっ、とキラが笑う。
リリーもつられて笑った。

((あ、なんか|馬耳の子(アグリスタ)がこっちを見てる。泣きそうだ))

激烈ポジティブリリーはニコニコと手を振って。

キラは試しに、涙ひとつぶをエリクサーに変えてみた。唇の端に涙が吸い込まれた時、アグリスタの目が白黒している。

▽回復(物理)回復(精神)〜!
▽アグリスタはきょとんと 泣き止んだ。
▽ポジティブって 最強!

「ねぇ、キラ先輩。文章だけじゃなくて、映像つけよう……? 視覚でフォローっ」
「やや、リリーさん、それは素晴らしいアイデアです! 赤の教典ホログラム版とかいいですね」
「ん???? えーと……いい感じに♪ だって難しいの、分かんないもん」
「素敵な補助ですよ」

キラとリリーがにこやかに見つめあった。

短所を長所にできる、それぞれが補助をしたらいい、ここはそういう場所なのだ。

夢組織の三人も、きっと、自分の素敵なところを見つけていける。

▽記念すべき一幕が 赤の教典に 納められた。
▽【赤の女王様と夢の子どもたち】
▽ホログラム映像版もあるよ!

ちょこちょこと、ホワイトチョココが、リリーの前に走ってくる。

「スウィートミィ! 生クリームケーキをどうぞ、さあ、リリーさま」

▽脳みそ生クリームになーれ! もーっと!

深く考えすぎないほうが、面白い文章を作ることができるのかもしれない、ナイスセンス、とキラは感心した。

▽注意! 生クリームを食べたからといって脳みそに悪影響はありません。
▽なーんて。

「あっれー? キラさま、どうなさったんですか? お口が笑っていて、なんだか楽しそうです〜。楽しそうって、しあわせですね〜。生クリームケーキをどうぞ♪」
「ありがとう御座います」

キラが、生クリームケーキを受け取った。

「ミィのイカゲソとのコラボなノヨー♪」
「イカ断片を[|お菓子な魔法(スウィーツマジック)]してホワイトバニラスポンジにしたんです。ねー♪」
「ねー♪ マシュマロ綿花を乗っけたとこが生クリームになったノヨ」
「なんと」

キラが目をパチクリさせながら、生クリームケーキを眺める。

分身体が、ゴクリ、と喉を鳴らす四人(・・)の様子を察知。
ふむふむ……とアテレコしてみる。

<(なにあれ美味しそう!)(主人が高笑いしてる後ろでケーキ食べてんの!?)(何が何だか……自由……)ってところでしょうか? あと(面白そうだな!!!!)って念も感じます>

キラが、ニヤッと口角を上げた。

<いいですよ。面白いシーンが撮れそうですね?>

赤の教典の文章テンションと、新人の好感度、どちらも上げられたなら最高ではないか!

▽やってみよー!!!!

キラが一歩前に出る。声を張る!

「赤の女王様の指令に基づき!」
「よろしくてよ!」

▽レナは女王様が解けないー!
▽おそらく、こんなはずじゃなかっただろうけど、従魔を信じて微笑んで!

ばさあっと赤のマントが翻って、花びらが舞う光景は、赤の教典・中章の始まりにふさわしい。

「夢の子供達に、ウェルカム・ドリンクを贈りましょう。ミディさん、チョココさん、二人の出番で御座います!」

キラが異空間から[パフェグラス][ねじねじストロー]を出して、お盆にのせた。

「「りょーかいっ」」

▽よくわからないけどドリンクを作ればいいらしい!
▽思いやりと美味しさがあったらいいんだよね??
▽オッケー!
▽幸せになーれ!

ミディとチョココが、可愛らしい拳を天につき上げた!

「炭酸シャボンフィッシュ、おいでおいで〜」
「こっちナノヨー」

二人が空に手招きすると、四体の透明なフィッシュが降りてきて、パフェグラスに入る。
とぷんとグラスを炭酸水が半分満たした。

マシュマロ綿花をひとつのせる、アイスクリームになって炭酸をまろやかにする。

スライムジュエル(赤)をひとつ飾って、[|お菓子な魔法(スウィーツマジック)]ジュエルチェリー(赤)に変えてしまった! 砂糖に漬け込んだように表面はとろりとしていて、果汁がしたたると、炭酸ジュースをきれいな赤に染めた。

イカの吸盤リングがホワイトバニラクッキーになり、アイスに刺さる。

キラがエリクサーの魔法を施すと、しゅわしゅわっと泡が輝いた。

「「さあ召し上がれ!」」

給仕をしたのは、ミディとチョココ。

自分たちよりも幼い二人に、近寄ってこられると、夢組織の三人もそこまでの警戒心は抱かなかった。
にこーーっと無邪気に笑っているのもよかったかもしれない。

いや意味がわからなくて硬直しているのかもしれないけど。
一番に手を出さなかったドグマはえらい!

……と、オズワルドはホッとしている。

そっと[|重力操作(グラヴィティ)]して、パフェグラスを落とさないようにサポートしながら。

誇らしげな顔で、パフェグラスを運び終えたミディとチョココは、「「はい!」」とぐいぐい差し出す。

「ええ〜……あの、そのっ……っ……!」
「こ、これ、どう、えっと、どうすればいいのっ」
「……………立って飲めばいい、ですか……?」

上から、アグリスタ・マイラ・ジレ。

レナがにっこりと言い放つ。

「椅子がなければ、魔王に座ればいいじゃない?」

(((ウワアアアアーーーッッ!?!?)))

「もふもふのちょうどいい獣椅子よね」

((((レナ様ーーーーッッッ!?))))

ビシャアアアアン!! と子供3人・護衛部隊のメンタルに雷が落ちる。

ガクガク震えながら、レナ女王様と魔王の動向を見ているしかできない。

「む。それでは我が食せないではないか?」
「一番に召し上がって。そうしたら子どもたちも安心して食べられるでしょう? 貴方ならレナパーティを信用して下さっているもの、さあ、一番にお飲みなさいませ」

レナがにっこりと微笑む。
毒味をしろ。
そしてその後に椅子になれ、と。

「一番という響きは大好きだ!! ふははははは!」

……オズワルドが片手で顔を覆った。

「スウィーツドリンク・スカーレットバニラフロート! 赤と白の幸福、ウェルカムな気持ちを添えて、ですよ〜♪」
「イートミィ!」
「スウィートミィ!」

「いただこう!」

魔王がパシィィィン! と手を合わせた。
衝撃で空気が震えて、炭酸が、プクプクプクっ! とたくさんの泡をきらめかせた。

▽ウェルカムドリンク 実食。

▽ストローからしゅわしゅわっと吸われていく赤の炭酸水は、チェリー&ベリーテイストの華やかな甘さ。エリクサーの回復力が浸透していき、体調を整えて、五感をより冴え渡らせる。

▽バニラアイスクリームは天上の味。まったりとした舌触りが、炭酸をやわらかく包む。舌の上でもったいぶって溶けた。

▽クッキーをサクッと噛めば、バニラの相乗効果!

▽ジュエルチェリー(赤)は食感がどこかスライムグミに似ている。表面のハリを歯で破れば、じゅわっと果汁が溢れ出した。魔王の美しさが向上した。

「ガオオオオオオン!!!!」

ドグマは吠えた。
この咆哮に、いろんな、味の感想を込めた。
本能が「美味い!!!!!!」と叫んでいる!

「翻訳するね」

ルーカが言葉を補完して、たくさん褒めた。
ミディとチョココの顔がぱああっと輝いて、キラがニッと笑う。

「さてお前たちよ。我に座って食事をするがいい。許す」
「「「エッッッ」」」

魔王が良くても! 子供たちのメンタルが持たない! でも拒否権はない!

「なに、汚れは気にしない。オズワルドも幼い頃は、我の毛皮の上で漏らしたこともあるのだし」
「父!!様!!」

遠方でオズワルドが顔を真っ赤にして吠えた。

「赤子なんてそんなものだ」
「デリカシーってもんがないんだ、アンタには!!」

わなわなと震えたオズワルドが(あの人にとって恥ずかしいことってなんだ!? ……絶対、戦闘で負かしてやるッ)と、武闘大会を想像しながら、眼力鋭く父親を射抜いた。

そんな目してたら新人が怯えるだろうが、とレグルスに目を覆われた。

ドグマはけふっと息を吐いて、大満足と言わんばかりに「大満足!!」……うん。バッチリ言葉にしてから、獣の姿になる。

すこし体を小さくすることくらいは、できるようだ。
高さ6メートルのデス・ケルベロスが、地に伏せた。

護衛部隊の口があんぐりと半開きになる。

(いやいやいやお昼寝スタイルって、いやいやいや)
(魔王の尊厳というものが、待て……いいのかこれは……!?)
(法律的アウトラインはなかったわよね!? あとはモラルの問題だけのはず、きっと大丈夫ぅぅ……! そうであって……!)
(プライベートですもんねー魔王様。あれ今って業務中?王宮に帰るまでがオシゴト?……考えないようにしとこ)

▽護衛部隊は 視点を 魔王から微妙にズラした。

「アイスクリーム、溶けちゃうよ?」
「今が一番美味しいノヨー! それってだいじ!」

ミディとチョココが、よいせっと、子ども3人を押して魔王に座らせた。

漆黒の毛並みがジュエルの輝きを纏っている! ツヤツヤ! トゥルルン!

(((ひええええええ)))

▽語るには語彙が足らないくらいの極上の座り心地!

落ち着かない。
護衛部隊も落ち着かない。

「さあ召し上がれ」

にこにこと告げるレナは、金色ソファに腰掛けている。

きんきらきんの羊毛に赤色がとても映えて、ド派手。
イチゴジュースが注がれたワイングラスをくゆらせている。

片や金色羊ソファに赤の女王様、片や漆黒魔王ソファに3人の子供。

なんの儀式なんだこれは。

──というのが、護衛部隊から見た感想なのであった。

盃を交わすにも、もう少しこう、ビジュアルが……なんか、こう……!

報告書にどのように書けばいいのか、頭が痛い。
キラが動画(赤の教典ホログラム版サンプル)を渡してくれるので、心配ない。お楽しみに。

「んっ」
「ふあっ」
「ンーーー!」

一口、ジュースを口に含んだ子供たちから、感激の声が漏れる。

身体中を爽やかな甘さが駆け巡っていって、血液に溶け込んだエリクサーがドグマドライブの酔いを治した。

アイスクリームのひんやりとした冷たさは、喉を通ると、あたたかく心を癒していくように感じた。

クッキーはパリリと食感が楽しくて、夢中で食べる。

チェリーを齧ると、目が輝いた。

「「「……!」」」

いつの間にか、泣いていた。

不安をみんなまとめて甘く包むような、体も心もひっくるめて招待されているような、そんな感覚になったのだ。

「美味しいね……」

こぼれ落ちたようなアグリスタの言葉に、共感したジレとマイラは、素直に頷いた。

ありがとうございました、ごちそうさまです、と小さな声でおずおずと告げて、3人がパフェグラスをお盆に返す。

「「ゆーあ うぇるかむ♪」」

ミディとチョココはそういうと、ニコッと笑ってレナの方に戻っていった。

何かの映画に影響を受けたに違いなかったが、そんなことはまだ想像もできない3人は(このお屋敷の合言葉とか……?)と首を傾げる事になったのだ。

「さあ!」

▽魔王ドグマが 人型になった。
▽美髪ぅーーー!

同じくキラキラの髪になった子供たちを見て、魔王が豪快に笑う。

「すでにレナパーティの仲間らしくなったではないか!」
「!?!?」
「まずは同じ獣を共に喰らう、釜の飯を共に食う、ウェルカムドリンクを共に飲む、だな! うむ。我とお前たちも仲間だということか!? なんと愉快な!」
「!?!?」
「次は仮契約だったな!」

3人が申し訳なさやら怖さやらで混乱している間に、魔王が話を進める。

「ドグマ様、進行をきちんとこなしていて素晴らしいな。そう思わないか? オズワルド」
「…………」

レグルスの言葉にも、オズワルドはぷいっと顔を背けた。
しばらくは反抗期となりそうだ。

「3人とも、こちらにいらっしゃいな」

レナが金色ソファから降りて、数歩進む。

3人は緊張しながら、前に歩んだ。

向かい合う。

「魂の浄化、ともに頑張りましょうね」
「「「!」」」
「レナパーティの役割は、シヴァガン王国との約束に基づいて、あなたたちの魂の浄化をすることよ。そのためにお屋敷での善行をお願いするわ」
「善行……?」

3人が戸惑って、お互いの顔を見合わせたあと、魔王ドグマを振り返る。

「ん? 奉仕作業と聞いている。つまりは魔物使いレナにとっての奉仕をすればいいのだろう? それが善行、ということなのでは? 何をすればいいのか、詳細に聞いておけ」
「あ、は、はいっ」

子供たちが背筋を伸ばした。

(さすが野生の本能)
(えっ父様すごい)

レナパーティはドグマの理解力にちょっぴり驚き、それから子供向けの説明が上手だったことに感心した。

「奉仕作ぎょ、善行って……どのようなもの、ですか?」

ジレが代表して、レナに聞く。

「ジレは体力があるから、園芸補助。アグリスタは想像力豊かだから、ダンジョン創造のお手伝い。マイラは気配り上手だから、おもてなしメイドよ」

予想外のことを言われたので、3人が目を見開いて口がぽかんと開く。
目はジュエルチェリーの名残で、まだキラキラとしている。

「それからね、ご飯を残さず食べることとか、みんなと仲良くすることとか。してほしいわ」

レナがさっきよりも強調して、にっこりと伝えた。

「ええ、それって、善行……? 作業……? にカウントされるんですか……?」
「あなたたちの年齢に合った善行が、あるのよ。魂はまだまだ未成熟ということ。みんなこれまで、いそいで大人っぽくなりすぎていたんだわ」
「「「…………」」」
「今のあなたたちの視点で、吸収できるものを、楽しんで生きなさい」

最後は有無をいわさなかった。

強引に命じられても、今の3人はそれを嫌だと拒否できる立場にない。
強引、なのだろうか? とは、分からないけど……なにせ求められているのが、楽しむことという娯楽なので。

(((楽しいって、なんだろう?)))

すぐに思い浮かぶのは、やはり、夢組織のメンバーと過ごした日々のことだ。
危なっかしかったけど、みんな傷を抱えているためお互いに優しくて、初めて認められた、特別な思い出。

(((みんなに会うには、魂の浄化をしなくちゃいけなくて)))

それならば……と、レナの元に踏み出す一歩は、おどろくほど軽やかだった。

どれだけたくさんのものに補助されて足が軽くなったのか、まだ、3人は理解しきれていない。

いつか、わかるだろう。

「仮契約を施します」

レナが鞭にそうっと触れて、3つの魔法陣を出す。

小さな体が輪をくぐり──契約が結ばれた。

「ようこそ」

シンプルな言葉には、とてもたくさんの思いやりが込められていた。

レナは、友愛の笑みを浮かべた。

<<<[仮契約]が成立しました!>>>
<<<契約期間は残り7日です>>>
<従魔:ジレのステータスが閲覧可能となりました>
<従魔:アグリスタのステータスが閲覧可能となりました>
<従魔:マイラのステータスが閲覧可能となりました>
<<<ギルドカードを確認して下さい>>>

▽ドグマ・リーカ・ドリューが帰っていった。
▽ドグマはお土産にチョコレートを貰った。

▽Next! いざ、衝撃の館内へ!
▽レナパーティに馴染もう

 

 

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