246:新人のお迎え

その日、シヴァガン王宮はどことない緊張感に包まれていた。

夢組織メンバーが、罪を償う場所にそれぞれ移動する日である。

夢組織の三人、煉獄火蜥蜴のジレ、スケルトンホースのアグリスタ、シルクゴーストのマイラが、廊下をそろりそろりと歩いている。

首に囚人用の首輪をつけて、手は特殊な紐でゆるく縛られていた。無理やり解こうとすれば電流のような痛みを伴う。

歩きながら、敏感に”なんだかおかしい”空気を感じとっていた。
先導するシヴァガン王国諜報部の者は、静かに前を向いているだけだというのに、雰囲気がピリピリしていると察知する。

アグリスタの青白い馬耳が、ぴくぴく動く。
弱音がこぼれる。

(ううう、こんなとこをボクらが歩いてるのが許せないとかぁ、そんなんだよぉきっとぉ……だってこのフカフカした絨毯見てぇ、ありえない、犯罪者を歩かせるようなとこじゃないもん。馬小屋のワラよりふっかふか……ふ、ふかっ、こ、転けそうぅぅ……)

(でも宰相さんとかが、犯罪者だからただ苦しめってものじゃないって……言って……でもそう言われると怖くなってくるじゃないのー!? んもぅ、アグっ)

(……落ち着こう、アグリスタ、マイラ。俺たちなんてちっぽけだから、気にもされてないよ……た、多分)
((ノア様が、よく会いにきてくれるけど))
(そ、それは特殊な状況なのかもしれないけど。 でもノア様が一番仲良しなのは、イラだし)
(まあそうだよねぇ。蜘蛛だもんねぇ)

途中からコロリと話題が代わってしまったのは、子どもらしいといえるだろう。
犯罪者のひそひそ声に、諜報部の大人たちが耳を澄ませている。

(ノア様、わたしたちが発つ時には、忙しいからお見送りできませんって言ってたねー。宰相の娘、だしね……忙しい……忙しいのか〜……)
(最後に会いたかったなぁぁ〜……ぐすっ、ずびびっ)
(うわアグリスタ、涙と鼻水拭けって)
(んもぅ。しょうがないわね)
(うううこーわーいーよー。さーみーしーいーよー)

ぐすぐすっ、と涙をこぼすアグリスタの頬を、マイラがエプロンで拭いてあげるのは、いつもの光景だ。
涙で前が見えないときは、ジレが手を引いてあげている。

しかし二人とも、けしてアグリスタの顔を見たりしない。
ネガティブモードの彼を正面から見てしまうと、ネガティブが”感染(うつ)る”と知っているから。

こわい、さみしい、その感情には共感しているので、二人も唇を噛み締めた。

これから、[ダンジョン:赤の聖地]にもとい奉仕労働に行くのだ。
あらゆる意味で思い出深い、お屋敷。
ズン、と気持ちが沈む。

((どうなるんだろう))

あのとき、おそるべき戦闘能力を見せつけてきたレナパーティ。
敵対した者のところに行くのだ、と思うと震えた。

「お前たち三人、そう緊張しなくてもいい……」

諜報部の一人が、くるりと振り向いた。
慰めようと思ったのだ。
無表情の整った顔(=魔物として上位種族の人型である)を見上げて、アグリスタが「ひっ」と悲鳴をあげた。

「レナパーティは怖いところじゃないから。…………ッ!?」

諜報部の目から、ボロッと大粒の涙が溢れる。

「ドリュー!?」
「……うわァァお姉様方こっちに来ないでくださいませ!?」
「しっかりなさい!」

ビィィン! と打撃のような音。強烈なデコピンである。

おでこに衝撃を受けた諜報部(ドリュー、っていう人?)(らしいね)は、のけぞって悶絶した。

そして1秒で復帰すると、ビシッと敬礼して「大変失礼いたしました」と言う。
白目だけど、敬礼行動は反射的に起こったようだ。

(((力関係は、女の人の方が上みたい)))

まごうことなき事実であった。

子どもたちが、そろりと大人を見上げる。

女性は桃色の瞳を、しっとり瞬かせた。
ドリューと呼ばれた男をチラリと視て「うん大丈夫。共感の精神干渉、解けた」とそっと伝えた。

(ボクがやったって、バレてる!!……お、怒られるぅぅぅ!?)

ぶわっと涙を溜めたアグリスタを真正面から見据えても、諜報部の女性が無表情を崩さなかったので、ネガティブ感染を防御をしている……とジレとマイラが緊張する。

「スケルトンホース・アグリスタ。今の干渉がわざとではないこと、理解している。その能力の活用方法を教えるから、よく聞くこと。いい?」
「……?」
「レナパーティの『笑っている』者の近くにいなさい」

突然言い渡された能力の活用法に、アグリスタはわけがわからずポカンとした。

「え。な、なんで……ですか……?」
「共感性が高い者は、ポジティブな者の側にいることでポジティブになりやすい。すると魂の浄化が早まるし、自分自身も楽に生きられるはず。この先の生きる時間が、より良いものになるの」

アグリスタの目がまん丸くなる。
見つめられた女性は、ほんのわずかな笑みを浮かべた。
そして1秒、無表情に戻る。

「はい歩く、ドリュー。時間が5分遅れてる」
「そっすね」
「言葉遣い」
「大変失礼いたしました」

しれっと、諜報部の大人が歩き出した。
その後ろを、三人もあわててちょこまか歩く。

(ポジティブに……?)
((!))

今度は、アグリスタの気持ちの変化が、隣にいる二人にいい影響を感染させたようだ。

この廊下を歩くのが、あんまり怖くなくなった。

無表情の大人が多いけれど、その内側には、あたたかな血が流れている……のかも? なんてことを、ちょっと、ほんのちょっとだけ信じた。

▽ガオオオオオオン!!

「来たか!!!!」

無駄にでかい声! うるさいほどの存在感!
覇気!!!!!!

(ひょええええなんで魔王様がここにいるのおおお!?)

「それはだな!!」

(ひっ!? 心読まれた!?)

子どもたちがぶるぶる震えている横で、リーカとドリューが遠い目をしている。

(野生の本能、やべー。心読んでる〜)
(って考えてるあなたの思考も分かっちゃうわよ? ドリュー)
(うおッ)
(ドグマ様、張り切ってるわねー。ドリュー、子どもたちの着替え、持ってきてあげて?)
(着替え?)
(うん)

「我が! スカーレットリゾートまで! 送迎を! するのだ!!」

▽説明しよう!
▽息子に会いたいのだ魔王は!!!!
▽昨夜仕事をきちんと終わらせていて、えらい!!

「どっ、どうして、わざわざ……俺たち、のとこ、なんですか……?」
(他の夢組織も移動するのに!)

ジレが青ざめながらも、聞く。
ジレたちに|野生の本能(こころよみ)はないので、聞くしかなかったのだ。

目の前の大男(ドグマ)はそびえるようである。

しかもずいっと寄ってきて、見下ろしてくるため、顔に影がかかってさらに恐ろしい。にいっと口角を上げると、鋭い牙がギラリと光った。

「息子が、赤の聖地にいるのでな!」

(((つ、ついでだーーー!)))

「それからチョコレートを食べに」

(((ん!?)))

それには、子どもたちがピクピクっと反応する。
あの魅惑の甘いチョコレート。
地下牢で食べた特別なお菓子は、天にも昇るような味だった。

(チョコレート……努力したら、いつか買い取りできるかな?)
(た、多分。夢組織のみんなに、送ってあげたいもんねぇ〜……)
(みんなに、かぁ。奉仕労働1年分くらいあれば、どうかしら?)

相場が分かっていないのも仕方ないが、あのチョコレートを市場価格で買おうと思えば、奉仕労働の安い賃金では三年は下らない。

しかしながらスカーレットリゾートでは食べ放題である。
苦しいほどに食べられる。
どこぞの蜘蛛お嬢様なんてふくふくとお腹を膨らませている始末。

ぎゅ! と拳を握った三人は、仲間のことを考えて唇を開いた。

「「「い、行きます!」」」
「よくぞ言った! 前向きな意見は好きだ!」

▽ガオオオオオオン!!!!
▽魔王ドグマが 魔物型に 変身した!

中庭の半分を埋めるほどの巨体。
夜で染めたような漆黒の毛並み、頑丈な爪が地面をがっしりとらえて、猛獣の頭が三つ、金色の目をギラギラと光らせて、子どもたちを覆った。

ぶわっっ! と熱気が立ち込める。
口の端から溢れる紫炎を、噛むように飲み込んだ。
にいっっ! 笑みが先ほどとはまた違った意味で恐ろしい。

(乗れ!)

「魔王ドグマ様の背中に3人が乗り、大人が支えます。数時間で目的地に着きますから、その間降りることはできません。いいですか? トイレは?」

リーカがなんとなく未来予知しながら言う。

「……あう……」

ビビったアグリスタが漏らしてしまった……。
内股になった太ももと、ズボンが瞬く間に濡れてしまう。

「ちょ、ちょっと〜!? アグ〜!」
「すみません、こいつに着替えを……」

戻ってきたドリューはこの光景を見て(リーカお姉様の予知、半端ねぇっすわー。まあここで思いっきり恥かいたら、あとは怖いもんなしっしょ。それに恥ずかしーから、早く魔王様の背中に乗って、ここを出たくなるってね? 諜報部の鍛え方ってキビシー)色々察した。

さっと別室で着替えを終えたアグリスタは真っ赤になったり青くなったり。
それから気まずそうな顔をしているジレとマイラは、ささっと魔王に乗ったのだった。

(さあゆくぞ!!)

ガオオオーーーーン……!

[ダンジョン:赤の聖地]では、夢組織の子どもたちを迎える準備に追われていた。
というのも、最終調整、がいつまでたっても決まらなかったのだ。

「どうする!? 派手でいく!? 地味でいく!?」

これが綺麗に半数の意見に分かれる。
いや、正しくは「ふつうで」とみんなが思っているのだが、そのふつうの基準がまったくバラバラなのである。

「全員で赤の正装で迎えたら?」
「怖がっちゃうかなって。だって、あの服装で戦闘したんだから。それは却下かなー」

「全員で普段の部屋着? とか……?」
「迫力なくなっちゃってダメ! 最初っからナメられるの、絶対良くない。最低限、攻めよう、押忍!!」
「最低限……」

これも、裁量の分かれるところである。

「でもでもご主人様のおめかしは必須だよねキャアアアアご主人様アアアア!」
「メイクアップはお任せなのじゃ〜♪」

シュシュがレナにしがみつき、拘束メイクアップが始まった。

「いっそコスプレ衣装とか」
「えええ……適当(ヤケ)じゃん……」
「コスチュームプレイですかー?」
「ハマル、一瞬でドレスに着替えるんじゃない!」
「似合うノヨー」
「でも新人が混乱するから、却下だ、却下!」
「オズってば〜。やーさしー? ブーブー」
「鏡蜘蛛の呪いがかかってるからな」

オズワルドの手首を、ミディが「いたいのいたいの、なーくなれ」と撫でた。オズワルドとハマルはちょっと大人びた苦笑を浮かべた。

「ふつうって、なんだっけ?」
「うーーーーーーーん????」

みんなが首を傾げてしまった。

アリスが助け舟を出す。

「まず、ふつうから離れよう。ふつうに収めようとしても無理だよ。無理。相手に与えたい印象は? まずむやみに怖がらせないこと。その上で、レナお姉ちゃんがナメられないことだよね。この場合、モスラはどうしたい?」

「会話を譲って下さり有難うございます。従魔全員が使用人の衣装となり、レナ様だけがドレスアップして、聖霊と精霊を背後に置くのが良いと思っております」

「おおー」
「さすがだね!」

先輩や主人に褒められたモスラは嬉しそうに微笑んで、きれいに一礼する。
その動作を、ミディとチョココが楽しくマネして、勢いあまってでんぐり返りした。

「そうと決まったら、みーんなー! 着替えるよー!」

「多種多様な」
「使用人衣装が」
「「揃っているからね!(いますからね!)」」

▽アリスと モスラは メイド服と 執事服を並べた!

「アリスちゃんとモスラの商売は本当に上手だなぁ。言い値で買うよ」
「スライムジュエル一つ、それを顧客に売るときの手数料で、衣装代の元が取れるよ」
「さすがすぎる……特殊な布を使ってるの?」
「最高級品だよ〜! 月桂樹の実が夜に纏う白糸、悪魔族の祈りで染まった黒糸、このモノクロコーディネートの衣装に、紅林檎の赤色ボタンがポイントなの」
「すんごいの出てきたぁ」

レナが呆気にとられながら、衣装を受け取る。
それぞれ従魔に渡していく。

▽こうすると従魔が喜ぶからね!
▽それだけ! 流通経路の理由なんて!
▽ハッピー!

「尻尾を通すための穴、開いてないね」

獣人たちが衣装を見ながら、どう尻尾を出そうかと悩む。

「今すぐ私が縫いますね。スキル[裁縫]+4」
「すげえええモスラまたそんなののレベル上がってんの!? 淑女かよ」
「言葉遣いを改めなさいパトリシア」
「店のエプロンいつもお世話になってまーす」

「武器を身につけるためのベルト?」
「太ももに装着するの。ロマンだよねって」
「これ作ったの誰……!?」
「リトルチャームの店長さん」
「コ、コスプレだーー!」
「珍しい布を持ち込んだら、ヨダレを垂らさんばかりの大喜びで縫ってくれたわ。あ、エルフの服飾職人さんも来てて」
「情報量が多いって! あとで聞く……!」

「このベルトさ、短剣しか装着できないんだね。見て、長剣だとこの通り〜。見た目がヘンテコだね、あはは」
「ルーカさん遊ばないのっ! もー、転んだら危ないんだから……ああッ!?」

▽ルーカが転んだ!
▽ジュエルスライムの 受け止め!
▽ぷよよよよん
▽ズボンが わずかに裂けた。

『『まったくもー、ルカ坊はしょうがない奴だなー?』』
「ごめんなさい……」
「ズボン縫ってあげてくれる? モスラ」
「はい。アップリケつけておきますね」
「ええ? ちょっとモスラも遊びすぎじゃない?」
「生まれて二年目ですから遊び心が溢れるんですよ、ルーカティアス」

「レグルスは執事? メイド?」
「執事衣装で」
「はーい。パトリシアちゃんは?」
「しつz ……」
「やだやだ!」
「落ちつけよレナ……。はいはい、じゃーそっちのメイド服ね……しょうがないなー」
「そうそう私はしょうがないんだよー、ふふふー。可愛いねパトリシアちゃん!」
「店長めちゃくちゃ照れてる……」
「俺も、メイドにしようかな……」
「レグルス? すごく似合ってて素敵だねぇ」
「ありがとうございます!! 執事としてお役に立ってみせます!!」

「こんな特殊なのもあるよー。袖がラッパ型の変わったタイプのメイド服……誰に渡そうか?」
「ああっ!? それ和装メイドって感じ。キサ、キサがいい!」
「ふふ、妾を指名なのじゃな? それならば着こなすしかあるまいて」
「美しいーーーー!」
「ああっ、レナ様、泣くとお化粧が……! まあ悪い気はせぬが。ほほほ」

しっちゃかめっちゃかであった。
ワイワイとそれは賑やかに、お着替えに時間をかけてしまった。
これでも、だいぶ割愛したのだ。

((ふつう、を諦めて大正解だったな……))
ロベルトとクドライヤが本音を飲み込んだ。

言わなくていいことが、この世の中にはたくさんあるのだ。ひとりで抱えるのはしんどいので、アイコンタクトで共感だけする。

((レナパーティは使用人衣装でも、派手すぎる。赤の女王様ドレスに至っては、凄まじい存在感))

「そろそろ来るよ!」

ルーカが紫眼を細めて、遠くを”視た”。
それから笑い出してしまった。

キラに「粗茶用意しといてあげて」と予知を告げる。

▽ガオオオオオン!!!!
▽魔王ドグマが 現れた!

(待たせたな!)

「父様、時間通りですごいじゃん……」

(ふははははははは!!!!)

オズワルドに褒められて上機嫌で笑った瞬間、デス・ケルベロスの口から炎があふれる。

▽シャボンフィッシュが相殺した!

シャボンが蒸発して、フワワ、と湯気がたちこめると、その中からサンドクッキー・モムが臨戦態勢で現れる。

「こーら。だめですよー。生クリームみたいにふわふわっとやさしーくお出迎えしましょう〜」

チョココが指揮を執る。
お菓子魔物であれば、キラよりもチョココの言うことに優先して従うようなのだ。
魔物未満(モム)であっても、本能のようなものが生まれている。

「いらっしゃいませ〜」

チョココがちょこんと、魔王に礼をすると、サンドクッキー・モムたちも一斉に礼をした。
はちゃめちゃにメルヘン。

主人よりも目立ってしまったことに、先輩たちは苦笑している。
後輩教育はまだまだこれからだ。

ということで!!!!!

主人はさらに目立たなくてはいけない!!!!!

「ご主人様かっこよくキメて!」

▽ルーカの 声援!

▽レナが 赤のマントをばさあっと靡かせて! スカートを翻し! ダン! と赤のハイヒールを踏み出す!
▽揃えた手を口元に! 凄絶な笑み!

「私が赤の女王様よ! レナ様とお呼び! おーーっほっほっほっほ!!」

──とんでもないところに来てしまった。
──従魔たちの「従えてぇー!!」の熱烈ラブコールを聴きながら、3人の子どもたちはがっつり震え上がった。

▽粗茶(エリクサー)で回復(物理)回復ぅ(物理)!

▽自己紹介しーましょ!

 

 

 

pixiv fanbox

 こちらにはイラストまとめ、創作裏話、ホームページ制作の記事を書いています。ぜひお楽しみいただけますように。
 100円ご支援いただけることは、書籍一冊買ってくださったのと同じ助けになります。
みなさまいつも応援ありがとうございます!