244:レナパーティの優雅な午前

レナたちは珍しく、朝遅くまで快眠を貪っている。

昨日はダンジョン成長のために、たくさん踊った。

こんなスペシャルルームはどうかな? やってくる夢組織の子供たちの部屋をどうする? と相談をしていると、いつの間にか深夜になっていた。
ダンスと夜更かし、これは体に効く。

疲れていてもハマルのスキルで眠れば、短時間で回復する。
……とはいえ、そのハマル本人が、仲間可愛さに(たまには長く眠っていて欲しいの〜。みんな頑張ってるもん〜)と思ったのである。

▽友情と主従愛っていいよね!

[快眠]スキルを毎日数回も、使い続けてきたハマルのスキル補助値はもう「+6」。
そこまでいくものはなかなかいない。
仙人のように長生きの魔人族がようやく取得するような技術である。
しかしハマルは、多人数にスキルをかけ続けていたこと、レア種族に進化してその特性に沿った能力であること、レナのそばに長くいる成長促進効果で、幼くしてここまで大成した。

夢組織戦で進化はしなかったものの、もうあと少しのところまで、ハマルは成長を重ねている。
短くなった金毛は、くるりくるりと毎日少しずつカールの先端を伸ばしているのだった。

ーーカラン、コロン。

ハマルの頭上で、ベルが繊細な音を鳴らす。
わたあめのような雲にひっかかって浮かんでいる、これは、クラウドベル・モム。
ダンジョンの範疇でのみ生息できる、新種の魔物(未満)である。心地よい子守唄となって、レナパーティを癒す。

こういうちまちまとしたモンスターが、早くも、赤の聖地に様々誕生していた。

「……まだ寝てた」

パトリシアとリオ、クドライヤが、レナパーティの様子を見にやってきた。
リオが持った植木鉢には、サンドクッキー・モムが紛れていたらしく、もぞもぞと動くハマルのほうに歩いて行く。ホップ、ステップ、イートミィ!

「あ、こらっ、起こしたりしたらダメですってば!」

リオが追いかけようとしたが……
ハマルのすぐそまで来ると[快眠]範囲に入ってしまい、睡眠を必要としないはずのサンドクッキー・モムまで、パタリと倒れてしまった。さすが熟練の技術だ。

そして寝返りを打ったジュエルスライムが、にゅるりとサンドクッキー・モムを体内に取り込み、一瞬で[溶解]した。

「ひえっ……!?」
「大丈夫、大丈夫。リオ、あれは多分、クッキーみたいな形だから食べちゃった、とかそういう感じだから。多分、うん、ほんとクーイズは食いしん坊だから多分だけど……」
「かえって不安になってきました、店長……」
「レナパーティはグロくないから大丈、いや、そんなことはなかったわ」
「グロテスクな戦い方だと聞いてます」
「ちょ、誰に?」
「大精霊シルフィネシア様に」
「あああ〜……そりゃ、ドロドロネチネチした呪術師をぶっ飛ばすとこ見てたから、ネッシーの意見もそうなるかもな?」

一歩後ろに控えていたクドライヤは、だんまりを決め込む。
全部ツッコんでいくと、口を休める暇もなさそうなのだ。
(いやほんと気を張っておかないと、ツッコミ止まらなくなるか笑うかだから。相変わらず赤の伝説は凄まじいっすわ。まじで。尊敬しますって。……レナパーティの端っこで寝てるロベルト、お前!? あの毛並みなんだよ、どんだけブラッシングされたんだよ艶々しちゃってさぁ!)

クドライヤが咳き込んだ。
笑いを堪えるのも必死である。
あとでルーカに笑いを堪えるコツを聞くといいかもしれない。だめだ。

「さ。私たちはもう一仕事してくるとするかな。行こうぜ」
「そうですね。皆さん多忙ですから……たまにこうして、休む日があってもいいと思います」

パトリシアとリオが、踵を返す。

「下でモスラさんたちが呼んでいますよ? 行きますか」
「えー……クドライヤさんさぁ。別に敬語じゃなくていいんですけど……そんなただの花職人にさ」
「業務時間ですから」
「ええー」
「あとレナ様のご友人ですから」
「まあ納得するしかないわ」

ふはっ! とパトリシアが肩を震わせた。
レナをあとでからかってやろうと思った。

「はいはーい。仕事の事情なら仕方ないもんな。おっと、食堂行こう。食卓いっぱいぶん料理つくってさ、レナたちが起きたら、すぐに食べれるようにしておこうか……どうせ起きたら、あれもこれもやりたいんだって、せかせか働くんだろうから」
「気分転換になるから一日一回は料理したい! ってレナ様が言っていましたね。それならば、一日一回以外は料理しなくてもいいよ、とも取れますね?」
「リオは頭がいいな」

砂糖菓子のような笑顔の裏に、ちょっとした腹黒さをパトリシアは見たような気がした。
アリス邸に通うようになって、すっかり腹黒商人を目利きできるようになったのだ。

「モスラが、レナに作りたてを食べてもらえるっ〜て張り切ってるじゃん。その気持ちを汲んだのもあるかもね?」
「すてきな気遣いです」

ほうっと息を吐くリオの表情は、今度はとても素直な笑顔だ。

だからこの子を店員にしてもいいと思ったんだよな、とパトリシアは振り返る。
大精霊が訪れる店舗で働きたいというものは山程いたが、リオが一番ピンときていたのだ。

もう10時。
モスラがそろそろしびれを切らしている頃だろう。起きているか見てくるだけにしては遅い、とか。

「さぁ食堂に行く前に」
「もうひとつ、ですね。チョコレートを回収してきて下さいって、モスラさんが言っていましたから」

『チョ、ココッ……すぴー……』とチョココ寝ぼけながら床にばらまいたチョコレート。
クドライヤが、ゴーストローズの蔓で回収する。

遠方から蔦を伸ばして、薔薇の棘でざっくりチョコレートを串刺しにして、引き寄せるのだ。

「まさかこの攻撃方法をチョコレート回収に使う日が来るとは……」
「伸びるバラの棘ってチョコレートを刺して回収するためにうってつけだな? 今度その棘でマシュマロ焼こうぜ」
「わあ、いいですねぇ」
「スゲーイイデスネー」

パトリシアの豪快な笑い声と、こんな時には素直すぎるリオの笑顔が、なんだかひどく心に沁みるなぁ……と、過去の影を見せながら、引きつった愛想笑いをするクドライヤであった。

もそもそと起きたレナが、お腹の上の重量を確認する。日課だ。

「さて〜……今日の滞在人は?」

もはや起きたときの楽しみである。

レグルスのしっぽ緋色、ルーカの毛並み黄金、シュシュの手は透き通るような白で指先はピンク、スライムの赤と青、それからチョココのスウィートなチョコレートカラー。

「カラフル〜」

ぷくく、と頬に空気を含んだレナの笑い声。

従魔のみんながパチ、パチ、と目を覚まし始めた。
獣人は耳をヒクヒクさせていて、尻尾がふにゃりと動く。
スライムチョココはぽてっころころと転げてしまい、赤と青とチョコレートカラーが混ざった。
ミディはムニャムニャとまだ起きないが、イカゲソ尻尾がレナの頬をぷにっと押した。

「おはよう」

寝起きの体がポカポカあたたかいのと同じように、とろけた笑顔を見せあった。

「装飾保存ブレスレットで、お着替え完了!」

お手軽に着替えをすませる。
なにせブレスレットのお着替え登録は結構なパターンがあるのだ。

「キラのも買いに行かなくっちゃね」
「今は全裸に服をスクリーンしてるようなものですしね☆」
「そうなの!?」
「ほら<スマホカバー>」
「そこだけテレフォンで言うところにキラ渾身のネタのにおいを察した……」
「ヤーン! マスターってばお察し上手〜! ピンポンピンポンピンポン! まあ異空間に衣装が放り込まれていますから、サッと着て登場くらいわけもないことで御座います」
「でもブレスレットを」
「冒頭に戻りましたね」

キラはおどけてレナの周りをくるくる回った。
気にかけてもらえることが嬉しくて、でもちょっと気恥ずかしいのだ。

目が回るから、とレナが「スキル[従順]ストップ!」すると、キラの口元はふにゃっと微笑んでいて、耳までほんのり赤かった。

ついレナが耳をつまむと、ハートマークの映像が飛び散った。

「そのことですがマスター。私はリリーさんに作ってもらいたくて!」
「そうなの。紫の、スライムジュエルでっ」

リリーがやってきて、キラとレナに腕を回してぎゅーっと抱きついた。

「二人で話し合っていたんだね」
「「実はちょっとだけ」」

まだ詳細も決まっていないのでレナに報告はしていなかったのだという。
ちょっとした雑談までレナが全て把握しようとなると、従魔が増え続けているので、さすがにキャパシティオーバーになるだろう。
新住居とこれからやってくる夢組織の幼児のことに集中させてあげたかったようだ。

そんな状況下でささやかなことを気にかけてくれてなおさら嬉しかった、とキラが微笑んだ。

「クーイズ、頑張って紫ジュエル作るね〜!」
「とっておきの、やつ、お願いねっ。クーイズ先輩」
「おうともよー! 可愛い先輩後輩のためだもん♡」

クーイズは紫色の長髪を指でつまんで持ち上げて、朝日にキラキラ透かしてみせた。

「となるとキラは材料が揃うまでいったん保留。夢組織の子たちは、仲間同士で使っているブレスレットがあるらしいから、心が落ち着くまではそれを使ってもらったほうがいいね」
「レナの意見に賛成」

ルーカたちの同意ももらったので、レナは方針を決めた。

『キラならば銀髪に合わせた紐ないし金属が似合うのではないか? であれば、北の凍土に、雪氷の聖霊(・・)がいると聞いたことが』
「はいまた今度ね〜」

カルメンを華麗にシャットアウト。

(これは今聞いちゃいけないやつ。妙なフラグができるやつ。キラに似合うものは重要だけれど、今は凍土に行ってる暇ないからね!)

レナはすっかりスケジュール管理をマスターしていた。

キラをちらりと眺めると、以心伝心というか、レナの「また今度(考えるね)」という意味を読み取って、やはり嬉しそうにしていた。

食堂に行くと、華やかな食事と、モスラお手製のチョコレートケーキ5段重ねが食卓の中央にドンと鎮座している。

「「すごくおおきいー!」」

幼児たちが目をキラキラさせてケーキを眺める。
チョココも驚いていて、ぽっかり空いた口からホットチョコレートがたらりと垂れてしまった。

「あらあらー? 赤ちゃんみたいナノヨー!」

ミディがチョコレートをペロリと舐めあげた。

「スウィートミィ!」
「イートミィ!」

盛り上がっている。
食材魔物ならではの謎ルールがあるのだろう。

(イカチョコ……)

レナが真剣に(甘いの?イカ甘いの?)と考え込んでしまった。

でもそれよりもまずはモスラを褒めよう、と切り替え。

「すごく素敵! ありがとうモスラ」
「ありがたいお言葉、恐悦至極でございます」

涼しげな目を甘ったるく細めて、モスラが恭しくレナに一礼した。

レナは丁寧にアリスやパトリシア、リオやクドライヤにもお礼を言っていく。

「さあ食べましょうか! ……って言うの、私でもいいの?」
「「「レナ様がいいのーー!」」」
「「「従えてーーーーーー!」」」

今朝作ったのは私じゃないし、と考えていたレナは、案の定いつもの流れになって、ふふっと笑って、慣れた様子で挨拶を口にした。

「いただきます!」

サンドイッチをパクッと大きな口で、ハムチーズ・きゅうりマヨ・ローストドラゴン・苺生クリームなど。好きなものを好きなだけ。
コーンスープを飲めばまろやかな甘みで頬が緩む。
甘くないリンゴをスライスして包み込んだ青リンゴパイ、爽やかな酸味が心地よく鼻に抜けて、ヨーグルトクリームと良くあう。さくさくと食べていくと止まらない。

幼い魔物がいることと時間帯を考慮して、手で持って食べやすいものを作ってくれたようだ。

「無限に食べたい……! おいしぃぃ!」
「最高の褒め言葉をありがとうございます、レナ様。しかし、また作りますよ。デザートのぶん、胃の容量は空けておいて下さいね?」

モスラとチョココに期待した顔で見られたレナは、食欲と従魔可愛さで葛藤して、0.000001秒で従魔可愛さが勝った。

「「ケーキ入刀しちゃう!?」」

クーイズが両手にサンドイッチを持ちながら、まだまだ! と輝く瞳でケーキを眺める。

ーーーーバンッ!

▽扉が開けられた!
▽影の魔物とルージュが 現れた。

『お客様ですわ、レナ様。スカーレットリゾートの招待状をお持ちの可愛いお嬢様』

レナたちがまん丸になった目を向けると、その先には、なにやら珍妙な格好をしたノアが立っていた。

▽鍛えるなら早いほうがいいってね!
▽お父様の効率教育がこんなところで発揮された(想定外)
▽シヴァガン王宮で声にならない悲鳴が上がっている。

▽ノアの話を聞こう!
▽チョコレートケーキでも食べてさ。

 

 

 

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