241:チョコレートモンスター

▽レナパーティが 帰宅した。

おかえりー! と抱きついてきた従魔たちを、レナがぎゅーっと受けとめる。

とてもステキな拠点を築けているな、とレナは胸をあたためながら考えた。

この場合、拠点とは、家庭のようなイメージだ。

帰る場所がある。
迎えてくれる人がいる。
美味しそうなごはんの匂い。

腕の中からは甘ったるいお菓子の匂いも。

「ただいま」と口にしたレナの表情は、幸福に満ちていた。
やっとまた手にいれた、かけがえのない、この世界での居場所だ。

食堂で、席にすわる。
ひとつ子ども椅子が増えていたけれど、チョコレートモンスターはレナの膝の上に落ち着いている。眠りかけだ。移動で疲れたらしい。

テーブルには午後のおやつが並べられている。
甘さから気分転換したいだろうと留守番従魔が気を利かせてくれたようで、メニューは「ほうれん草・ベーコン・チーズのキッシュ」「チキンスープ」。

「これはこれで! ナイスチョイス」
「今欲しいものとして最高点だよね」
「「ヒュー! チーズ山盛り」」
「血色のトマト♪」
「ボクのはほうれん草多めだー。嬉しいな〜」
「シュシュ、チキンスープにキャベツも入れたいな! いい?」

遠征していたレナたちが、歓喜の声を上げた。甘くないのは久しぶりだ。

「…………」

はあ。

宰相が小さく息を吐いて、いただきます、と手を合わせた。

夕方まではもともとレナパーティに付き合う予定だったのだ。
まさかあのチョコレートマウンテンを早々に制覇し、ラビリンスを通って移動とは想定外だったので、時間が余ったぶん、ここで過ごそうと腹を括った。

これも外交の一つ……と考えていいだろう。
ラミア族長レーヴェの言葉を借りるなら、レナ女王国、みたいな場所なのだから。

テーブルの端にいるロベルトと(ご苦労様)(お疲れ様です)と目線でくたびれた会話をした。

「先輩たち、お疲れさまナノヨー!」
「ふふ。ありがとミディ。手を合わせて、いただきます」

▽午後のひとときを楽しもう。

窓からやわらかな日光が入り込んでくる。
ポカポカ陽気の中でスープを飲めば、体の芯からあたたまる。

チキンの旨味がホッとこころを和ませて、キッシュを噛めばサクッと歯ごたえがたのしい。とろーり線をひくチーズを、舌で絡めとっては笑いがこぼれた。

みんな、おやつを食べながら、チラチラとレナの膝の上をみている。

チョコレートモンスターはうとうとしているので、話しかけていいのかな? とタイミングを気にしているのだ。

(主さんはひとまずおやつに夢中っぽいしな)
(それはそれで嬉しいことだから、まあいいか)
(そのうち紹介してくれると思うのじゃー)

後輩従魔たちも、ひとまずおやつに集中した。

「あ。イカの切り身」
「そうナノ! ご主人サマ大当たりナノヨー! ミィたちがみーんなでお料理したノヨ?」

にこにことミディが語る。

「食べてもらって嬉しい……♡♡♡」
「う、うん!」

レナが二口目、キッシュに潜むイカをこれみよがしに齧ると、ミディが「キャー!」と諸手を挙げて喜んだ。

食後、ガーデンテラスに移動する。
ガーデナーたちの手入れが行き届いていて、植物がのびのびと葉を広げてツタを伸ばしている。
うつくしい緑色に、さわやかな香り。

ミニ薔薇のアーチを、影の魔物がくぐっていくときだけ、ふと暗くなる。明暗のアトラクションのようだ。

空は雲ひとつない快晴。
チョコレートボディをとろけさせていた新人従魔が、まぶしさに、ようやく目を覚ました。

『きゅう』
「おはよう。お腹は空いてない?」
『きゅー……?』

くにょっと体を傾けたら、とろりんと溶けた。
レナがあわててイズミを呼んで、冷たい手でペタペタ成形したら、なんとか元の体型に戻る。
ホッとひと息。

目線で助けを求められたルーカが、クイっと眼鏡を上げる仕草をしてみせた。
宰相のまねっこだ。

「ふむ。同じ食事をさせるのはまだやめたほうがいいかな? 生まれたてのチョコレートモンスターは、おかずを融合してしまうかも。ほうれん草味のチョコとかになっちゃうのは微妙だよね……。最初はミルクや果汁の甘みを与えて、消化に慣れさせていこう」
「はーい。栄養士ルーカさん」
「称号増えちゃうってば」

けらけらとレナとルーカが笑う。
(笑えない……)宰相のため息が連発される。

「みんな。この子が新しい従魔、チョコレートモンスター。男の子みたいだよ。仲良くしてあげてね」

はーい! と手があがったり、拍手や頷きがあったり。
可愛らしくてなつっこいチョコレートモンスターは快く受け入れられたようだ。

「自己紹介、できるかな?」

レナがチョコレートモンスターに話しかけると、意味は理解しているようだけどまだ話せないので、こてっとボディを曲げすぎてとろけた。

「お、お辞儀だよね!? うんいい感じ」

レナが苦笑しながら戻してあげる。

『チョ……ココッ』

▽チョコレートモンスターが 咳をした。
▽艶々チョコレートが 飛び出した!

「ん!? 美味しい……!」
「おー、レナが口キャッチするとは。チョコレートモンスターは贈答品のつもりでチョコレート精製しようとしたんだけど、スキル名を、噛んじゃったんだ」
「そ、そうなんですか。気持ちの通訳ありがとうございます、ルーカさん」

レナが口をもごもごさせ、舌鼓をうつ。

「ふああ、濃厚なカカオの風味……とろける口解け……なんて素敵なチョコレート!」
『きゅー』

チョコレートモンスターがボディを揺らす。

『ココっ。チョ、ココ!』
「なんかシュシュの[覇]みたいだねっ。押忍!」

▽全員がチョコレートを試食した。
▽ひとつぶの幸せに酔いしれた。

「あなたのステータスを確認するよ」

どうせ魔王国政府にチョコレートを売るつもりなので、レナは「ステータスオープン、チョコレートモンスター」と口にした。
このセリフはいつもワクワクしてしまう。
レナの口元がつい、にやける。

ウィンドウがチョコレートカラーなのは、キラの粋な計らいだろう。

「名前:チョココ
種族:チョコレートモンスター♂ LV.1
適性:黄魔法

体力:5
知力:5
素早さ:5
魔力:19
運:30

スキル:[チョコレートメイキング]
ギフト:[あまいからだ]☆4」

「黄魔法特化なんだね。うん、チョコレート作りが上手そうで、いいんじゃないかな?」

▽レナの 甘やかし。

お世辞にも「強い」とは言えないステータスだ。

野生界で生きていた魔物と違い、保護区域の中でぬくぬくと育まれていたチョコレートモンスター、本人の性格も穏やかなことが、数値に反映されていそう。

「チョココ? あれ、もう名前が……」
『チョ、ココ!』

チョコレートモンスターが、生成したてのチョコレートをレナに差し出す。
思わず口で受け取るレナ。
表情がとろける。

「噛んだスキル名、名前になっちゃったみたい……? 自分で決めたのかなー。んー。世界情報に記録されたみたいだし、気に入ったなら……自分で名付け、っていうのもいいよね」

レナは「チョココ」と呼んだ。
チョコレートボディをとろとろ波打たせて喜ぶので、この子がこれを選んだなら、と思った。

「チョココ、チョココ。呼びやすくていいね。あなたは、このお屋敷でのほほんと生活するのがいいかもねぇ……」

レナは慎重に聞いてみたが、チョココはずっとごきげん。
反論はない。
戦闘嗜好はないらしい。

「ホッ……拠点ができてからのテイムでよかったなあ」
「チョココを旅に同行させると危なかったかもね」
「「我らが遭遇する戦闘って、なかなかハードですしなぁ〜。自衛も必須だしぃー」」

ミディがやってきて、よいしょっとチョココを抱える。
レナの膝からあっさり持ち上げられた。

警戒心、なし。
うん誘拐とか危ないよね、と従魔みんなが判断する。

▽チョコレートモンスター・チョココは お屋敷でぬくぬく育てよう。

とろんと溶けたチョコレートボディが、ミディをあたためる。

「熱くない? ミディ」
「あったかい。とろとろナノヨー!」
『なんだ。炎魔法適性があったなら、我々が白炎を教えてやったというのに』

カルメンがつまらなさそうに唇を尖らせている。

好戦的なスウィーツモンスターたちを思い出したレナは「ひえっ」と悲鳴をあげた。
あのアツアツホットチョコレート攻撃に当たるトラブルはいやだし、白炎に包まれたチョココの状態も心配である。

(杞憂、で済ませられてよかったー。黄魔法だけ、バンザイ)

よかった、を連発だ。
穏やかに運がいい。
なんて珍しい。

「チョコレートモンスター。食材魔物ナノネ……?」
「そうらしい。先輩になれてよかったな。後輩を大事にしてあげるといい、ミディ」

ミディによるチョココの扱いが心配で、レナが手を出しかけていたが、レグルスが面倒を見てあげている。

(………………まかせよう!)

レナの手は、そっと腰の鞭に触れた。
従魔の絆を確認するように。

(大丈夫ですわ)
(ルージュ?)
(レナ様はきちんと配下の成長を見守れていますよ、大丈夫。でも、ちょっとさみしいんですよね?)

そっ、とルージュがレナの手に触れた。

さすがに、元魔物使いには感情がバレバレらしい。
レナは目を細めて、わいわいと後輩を囲む従魔たちを、やんわりと眺めた。

『従魔の魔力適性がひとつであった場合、その適性をより極めることができますわ!』
「え。そうなの?」

ルージュの説明に、みんなが耳を傾ける。

『ええ。一点に尖った魔法となる。例えば、ハマルさんは黒魔法適性のみ、そして進化後、黒魔法を凝縮したような夢属性に目覚めたでしょう?』
「それってー、たまたまその方向性にレアクラスチェンジしたからじゃないの〜?」
『夢属性の中でもさらに強力な力を持っていると言えますわ』

影魔物が一体、ハマルの前に現れる。
ふわっと靄を出すと、まるめて、ハマルの掌の上に。

▽靄がオニキスになった。

「わっ……!?」
『その子も生前、夢属性魔物でしたの。夢蝙蝠。レア種族ですけれど、夢見たものを現実にできたのは、動かない固形物かつ自分が夢見たものだけでしたわ』
「そうなんだね〜」

ハマルは「この黒い宝石きれいだねー」と影魔物に笑いかけた。
影魔物はケタケタ笑って翼を揺らし、機嫌がよさそうだ。

自分より能力が劣る者を、蔑まずに、気遣いをみせたハマル。
魔物使いたちは柔らかな眼差しで見つめている。

『ですので、チョコレートモンスターも黄魔法特化のスペシャルな魔物に進化するはずですわ!』
「スペシャルかぁ」

レナが顎に手を当てて、頭をひねる。

「ハーくんは居眠り好きだったから、夢喰いヒツジになった? じゃあチョコレートモンスターは、ええと、お菓子特化……?」
「まあ進化させてみたらわかるだろうけど」
「ルーカさん、雑!」
「まだ戦闘経験がないから、どう成長するか、僕でも視えないんだよね」
<世界情報にも反映されていませんねぇ>

みんながチョココに注目する。
ミディにモチモチと齧られて、クーイズに舐められている。

「こ、こら! 味見しすぎはダメ! ステイ! 赤ちゃんのチョコレートモンスターを直接食べたら、減った分が戻らなくなるかもしれないでしょ?」
「「やっべ見つかった。ごめーんっ」」
「確かに、戻らないネー」

▽チョコレートボディは より小柄になってしまった。
▽レナが 心配している。

「成長させたら、体積を増やす方法も学ぶはずだよ。進化させちゃおう?」
「そうしますか。よーし、レベリング!」
<それならいいところが。マスター・レナ>

キラのB・G・M!

ダラララララララ……(ドラムロール)……ドンッ!

▽お菓子の扉が 現れた!

<|お菓子の小部屋(スウィーツルーム)で御座います!>
「ずっと魔物型でなにをしていたのかと思えば、ダンジョンを改造してたのーー!? |お菓子の小部屋(スウィーツルーム)!? ……|世界(ワールド)、じゃないんだ?」
<それはラビリンスの名称で御座いますから。情報が混雑するので、新たなるものを創造をするときは名称をわずかに変えるとうまくいきます。ってことを、今しがた学んだんですよね☆>
「ライブ感……」
<生きている限り常にライブで御座います!>
「ま、間違いない。あれっ、私、なんの話をしていたんだっけ……?」
<チョコレートモンスターのレベリングですよ>
「そうだった」

ということは?
レナが目を丸くする。

「|お菓子の小部屋(スウィーツルーム)で、経験値を得られるってこと?」
<さっすがマスター! 理解が早い。ダンジョンにかの景観をコピーしたのです>
「そんなことが……出来……!?」

キラがにこにこと無言なので、レナは(さすがに後で聞くべき情報なのかな。サディス宰相たちいるもんね)と察した。

キラは一体……
新たな技能を取得したのか?
今ある技能を改良したのか?

(多分後者かな。レベルアップの福音(ベル)は鳴っていなかったし、ダンジョン内の情報操作って感じだしね。小部屋を増やすの。景観を似せるくらい、やってみたら出来ちゃったんでしょう)

我が子のことをよく理解しているレナである。

まだよく知らないチョココのことは、これから理解していくつもりだ。

ミディから、あたたかいチョコレートボディを受け取る。

▽|お菓子の小部屋(スウィーツルーム)へ レッツゴー!

▽スライムシートベルト!
▽レナと チョココは オズワルドの背中に固定された。

「ああああああああ」

▽レナと チョココは レグルスの背中に固定された。

「ちょおおおおおお」

▽チョココの レベルが がんがん上がっていく!

<従魔:チョココのレベルが上がりました!+1>
<従魔:チョココのレベルが上がりました!+1>
<従魔:チョココのレベルが上がりました!+1>
…………

<ギルドカードを確認して下さい>
<☆クラスチェンジの条件を満たしました!>

…………
………………

▽|お菓子の小部屋(スウィーツルーム)から 退出した。

レナがぐったりと廊下のソファに倒れこむ。

「みんなあ……家で待ってるの、実は、寂しかったんでしょぉ……? だからつい、張り切っちゃったんだよね……うん……可愛いやつめぇぇ……」

▽レナが ガクッと 頭を落とした。
▽チョコレートボディに埋もれた。
▽甘い! 甘すぎる! 息ができない!

「んーーーー!」
「はいはい」

ルーカがレナを起こす。
その手が震えているのは、レナの顔がチョコまみれになっているから面白くて笑ってしまったのだろう。

「…………おいしい!」
「ギフト効果と、純粋なチョコレートだからだろうね。従魔たちのつまみ食いがとまらなくなるやつだ……ふふっ……!」

レナが、ぱっとチョコレートモンスターの後ろを覗くと、またクーイズとミディがもちもちとチョコレートボディを齧っている。というかすすっている。

「もーー! チョココ小さくなっちゃうよ……」
『『進化させてあげたらいーんでない?』』

紫スライムになったクーイズが、れろんとレナの顔面チョコレートを「溶解」した。

ふるふる頭を振って、レナが目を開くと、すぐ近くに申し訳なさそうなレグルスとオズワルドがいる。

「ごめん……はしゃぎすぎて」
「申し訳ございません。レナ様を酔わせてしまいました……」
「あとで毛繕いさせてくれたら、許すっ」

レナが宣言すると、ふたりは安心して肩の力を抜いた。
あとでブラッシングをするからね、とレナが予定をきめた。ついでに、なあなあで忘れていたロベルトブラッシングもしてしまえ。
キサのお化粧につきあい、ミディのイカ切り身を食べることで、それぞれを甘やかしてあげよう。

<クラスチェンジ先:チョコレートプリンス>
<進化させるには、種族名項目をタップして下さい>

【チョコレートプリンス】…………チョコレートモンスター雄の、王族進化種。チョコレートランクSSS級のすばらしい味。
あらゆるものをお菓子に変えて独自のなわばりをつくる。
特殊スキル[テイストチェンジ][|お菓子な魔法(スウィーツマジック)]を進化時に取得する。

「もしかして。チョコレートクイーンの、男の子版?」

レナが尋ねると、チョココは(よくわかりません)というように、横にとろけた。

▽まあやってみよー!
▽ポチッとな!

チョココの小柄なチョコレートボディが、ぷくーっとお餅のように膨らんでいく。

その様子は、生みの母であるチョコレートクイーンの巨大化と似ていた。
艶めいていくボディは、ジュエルスライムの輝きも連想させる。

(そういえばクーイズともちょっと混ざったんだっけ?)

フツフツと湯気が立ちはじめたので、影の魔物たちが飛び回ってぱくぱく吸収していく。甘いかおりに舌鼓を打った。

「イズミとキサ、ロベルトさん、ちょっとチョコレートボディを冷やしてフォローしてあげて」

溶けすぎている。
ルーカの魔眼で視きわめながら、三人が力を貸して、チョコレートモンスターは適温で進化を迎えることができた。

ピカッ! 頭上が輝いた。

プリンスの冠だ。

<種族:チョコレートモンスター → チョコレートプリンスに進化しました!>
<ギルドカードを確認して下さい>
<スキル[テイストチェンジ]、[|お菓子な魔法(スウィーツマジック)]を取得しました>

「名前:チョココ
種族:チョコレートプリンス♂ LV.7
適性:黄魔法

体力:10(+5)
知力:10(+5)
素早さ:10(+5)
魔力:36(+17)
運:52(+22)

スキル:[チョコレートメイキング]、[テイストチェンジ]、[|お菓子な魔法(スウィーツマジック)]
ギフト:[あまいからだ]☆4」

「うん! 運がいいね! 大事なことだよ」
「ルーカさん目の深淵が……」
『よくわかりません?』

チョココが喋った!

みんながわらわらと覗き込みに来る。
ひとまわり大きくなって、頭に冠をのせたチョコレートプリンス・チョココは、こてんと曲がる。

とろけてポタッと一粒のチョコレートが精製されたけれど、トロトロにはなってない!

成長の瞬間をキラが激写した。

「チョココ、よく頑張ったね! 進化おめでとう」
『よく分かりませんー?』
「んー?」

レナが苦笑する。

「こういうときは『頑張ってえらかったよ』って自分でも言「イーートミィ! って言うとイイノヨー!」」

▽ミディの乱入!

食材魔物はそれでお礼と自尊心を満たすのだという。

「リピート、アフター、ミィ! ”イートミィ!”」
『スウィートミィー!』

ぱああっとチョコレートボディを艶めかせながら、チョココが言った。
がくっ、とレナが漫画のように転ける。

「んー、それって『わたしカワイイ!』になっちゃうノヨー?」
『よくわかりません。スウィートミィー』
「スウィートミィ、イートミィ……似てるから……いっか! ご主人サマに食べてもらいたいって気持ちはおんなじだモン」

▽ミディの 食材魔物教育が 完了した。
▽合格判定が 甘い!

ミディが、ヒザくらいの高さのチョコレートプリンスをぷにぷに撫でる。

「アナタって、まだ幼いからわからないことばかりナノネー。ミィが先輩してアゲル」
『むずかしいことは、わかりません。脳みそ生クリームなので!』

ルーカがダッシュで走り去った。
きっと別室で笑い沈んでいる。

ゲホゲホ! とオズワルドとレグルスが咳き込む。

レナが(ああ知力ぅ……)と懐かしく思いながら、チラリとリリーを見た。
リリーは生クリーム吸いだしに思いを馳せている。

宰相とロベルトは、異種族魔物がなにを話したのかわからなかったので、緊張姿勢だ。

((とんでもないことを語ったのか?))

ある意味とんでもないことである。
知力が生クリームであることの暴露。

「人型になって話そうか?」

誤解がこじれる前に、とレナが提案する。
チョココの本心を通訳してくれるルーカはいなくなってしまったわけだし、連れ戻すのも気の毒だし。

『よくわかりません』
<このように>

キラがウィンドウを開いて、チョコレートが人型に成形される動画をみせる。

『理解していませんけど、やってみたらいいと思いました』
「そのいきナノヨー!」

ミディが勢いで応援する。
目の前で、人型からクラーケンに、クラーケンから人型に変わって見せてあげた。

『よーし、そーれっ』

失敗。
失敗。
失敗。
…………

チョココは諦めない。
のほほんと『またやろーっと』『わたしには合っていない型だったみたいです』『たのしー』と変化をいく通りも試す。

へえ、とレナたちは感心した。

技能優秀なものが揃っているレナパーティは、つい効率化を考えてしまいがちだった、と自分たちの日常を振り返る。

チョココのように、自分自身をじっくり見つめなおす時間もあっていいのかもしれない。

レナは胸に手を当てる。
従魔たちのことはよく分かっているけど、自分のことはまだ理解しきれていなかった。

(親しい人と穏やかに生きたい。従魔のご主人様として生きたい。それから、ほかにもきっと……私のことを知ってあげなくちゃね)

そういう気づきをくれてありがとう、と思いながら、レナがチョココを眺める。

小柄な人型のシルエット、どうやら成功のようだ!

子どもらしい柔肌に、ミルクチョコレートカラーの髪、ぱっちりした艶のあるチョコの瞳。頭にはチョコレートケーキの冠。
ぴょんとジャンプするとチョコレートマントの裾が揺れて、マシュマロを落っことした。
まだ『よくわからない』のでそれを拾って食べてしまうと、首元にマシュマロの飾りがあらたに生成される。

にこーーっ! と笑った。

自分のチョコマシュマロの味に満足して、心があたたまったのか、ケーキ冠の頂からチョコレートがたらりと垂れる。

いろいろ大変な幼従魔だ! 察して!!

『『うおおおチョコレートキャッチ!』』
「あははー。すごいです、スライムの先輩方。動きがすばやいんですねぇ。どうしたらそんなに早く動けるのか、よくわかりません」

ツヤツヤした目で、チョココがしゃがみこんで赤青スライムを眺める。

『好奇心の塊みたいな子だなー?』
『っていうか、好奇心が芽生えた、みたいなー?』
『何事も覚え始めが楽しいっていうじゃん』
『ああ、ちょっと世界のことが分かってきて、テンション上がってきちゃった的な!?』
『『なんでもお聞きよ、後輩よー!』』

くにくに、盛り上がってスライムダンスをする先輩に、チョココが前のめりに聞く。

「わたしがなにを気にしてて、どう聞いたらいいのか、わかりません!」
『『うーんそれは……』』
「脳みそ生クリームなので!」

おバカ系だ。
それもやばいやつ。
クーイズは悟った。

『『自分探し、から始めるといいのかもね……?』』
「じゃあやれることから。[テイストチェンジ]」

▽行動が早い!
▽躊躇いがまだ生まれていない!

チョコレートカラーが深みを増す。
黒っぽいビターチョコレートになった。
クーイズが『『苦味のあるチョコ大好物なんだけど』』と舌舐めずりする。

ぷく、と頬を膨らませたビタープリンスが、問題発言。

「むずかしいことはやっぱりわかんないです。脳みそビター生クリームなので」

▽やっぱり生クリーム〜〜!

ビタープリンスはツンと唇を尖らせている。
見た目のみならず性格にも変化が現れるようだ。おそらく味も?

(さっきはミルクチョコカラーだった。今はビターチョコ。ってことは、ホワイトチョコとかもあるのかな? 一粒で三度美味しい?)

レナがウズウズ検証したくなる。
が、ミディがチョココの背中にのしかかった。

「この冠を切り分けちゃえばいいんじゃナイ? 中身が生クリームか分かるし、イートミィナノヨー!」
「先輩がそういうなら」
「時期尚早ーーーーーーーー!!」

レナの全力ストップが入った。
そういうことはルーカ先生がきてから挑戦したほうがいい。

「それならこれを試しますか? [|お菓子な魔法(スウィーツマジック)]」

チョココが唱えると、指先がチョコレートカラーに変化する。
ミディの手に、触れた。

▽ミディの手首から先が ビスケットになってしまった!
▽手の甲を撫でると チョコレートがかかる。
▽おそるべきお菓子ができあがった……

「キャーーーーーーーーー!」
「やばい!!」
「イカスウィーツ!? 新たな扉が開いたノヨー! キャーキャー! 早速ご主人サマに食べて貰…………アレ?」

[ウォーターカッター]でお菓子部分を切り落とそうとしていたミディが、首を傾げた。

「戻っちゃった……ふつーのお手手だ……」
「生き物をお菓子にしちゃうには、鍛錬不足。魔力も枯渇。スキル使用前に『スキル』と唱えず略称にしちゃっていたからね」

ルーカが戻ってきて、おなかを押さえながら、つらつらと説明した。

「今のところ、[|お菓子な魔法(スウィーツマジック)]で変えられるのは、岩をクッキーにしたり水をチョコミルクにしたり、って程度と視た。まあ十分すごくすごいんだけど」
「言葉遣いおかしくなってますよ、ルーカさん」
「もうこれレナパーティの様式美でいいでしょ」
「よく言っちゃいますしね……すごくすごい」
「うん」

魔力枯渇したチョコレートプリンス・チョココは、スタンダードなミルクチョコレートテイストに戻って、くうくう眠っている。

まだいいことと悪いことの区別もつかないのだろう。

教育教育! とレナは気合いを新たにした。

▽チョコレートプリンス・チョココが 仲間になった!
▽チョコレートを採取しよう。
▽お菓子ななわばりを 作らせてあげよう。

それから「|お菓子の小部屋(スウィーツルーム)」について、レナはキラに、感想を述べる。

「内装は[ラビリンス;|お菓子の世界(スウィーツワールド)]にそっくりだったよね。でもスウィーツモンスターみたいな生き物がいて、倒すとお菓子の詰め合わせに変化するでしょ。アトラクション報酬みたい。経験値ももらえるし。いいスポットを作ったと思うよ、キラすごくすごい」
<いえーーい! 理想的にできて褒められて、私大満足〜!>

今度迎える三人の子どもたちも、ここに連れてきたいな、とレナは思った。

とても甘やかで夢のような小世界なのだ。
今度こそ、むりやり誘いこむのではなく、自ら足を踏み入れたくなるような世界を魅せたい。

キラとレナは、しばらく打ち合わせを行った。

▽夢組織の子どもたちを 迎える準備をしよう。

 

 

 

pixiv fanbox

 こちらにはイラストまとめ、創作裏話、ホームページ制作の記事を書いています。ぜひお楽しみいただけますように。
 100円ご支援いただけることは、書籍一冊買ってくださったのと同じ助けになります。
みなさまいつも応援ありがとうございます!