239:特別保護域SS区・スウィーツパラダイス2

「チョコレートモンスターたちは、チョコクイーンに統括されている。団体行動が得意なモンスターたちだけど、総指令を押さえたら僕たちの勝利だよ!」
「私たち何をしにきたんでしたっけ……?」
「|狩り(テイム)だよ! そして今は狩られている側だよ!」

レナをルーカが抱えあげる。
うしろに従魔たちが続く。

▽ティーリーフの森から脱出した!

あの森ときたら、影に見せかけて漆黒ガムの足留め罠があったり、べたべたの蜘蛛の巣キャンディに引っかかったり、チョコチップクッキーが投げられたりするのだ。

戦闘用に整えられた敵の陣地で、じーっとしているわけにはいかない。

慎重に走るルーカを、従魔たちが抜かしていった。

チョコレートクイーンを追っていく。

ひときわ大きなチョコレートモンスター、シルエットはきゅっと砂時計のようにくびれている。
チョコレートスカートをヒラリヒラリと揺らしながら、滑るように逃げていく。足跡のかわりにホットチョコレートがぽたぽた落とされていた。

彼女と従魔の間に、スウィーツモンスターが立ちはだかった!

飴翅に電気をまとった、蝶々たち。

『あらあら……? クスクスクスッ』

リリーがウインクひとつで[魅了]した。
ほかのスウィーツモンスターに向かわせて、仲間内で感電させる。

▽お見事!

これをレナの指示なしにできるようになったのは、リリーが戦闘経験を積んだからこそだ。

「ん? なにか起こりましたか?」

レナはルーカに後ろ向きに担がれているので、雷音しか聞こえなかった。

「えーとね、目を共有するから、ちょっと視線合わせて!」

レナとルーカの目が、黒紫色になる。

リリーによる下級モンスターの再制圧を見たレナは、思わず拍手していた。

「ちょ、レナ、涙目はいまはこらえて」
「あ、すみません。視界が鈍りますよね……」
「そうそう。それから、後ろの確認はまかせたよっ」

ルーカが前を見て、肩から身を乗り出したレナが後ろの確認をする。
まさに「うしろにも目がある」状態だ。

クッキークランチの岩場にやってきた。
足元はゴツゴツしていて、転ぶといたくて甘い。
キャンディストーンを踏むと弾けるので、ルーカはそれを避けて器用に走る。

クーイズは滑るように走りながら捕食、リリーは飛んでいて、ハマルは鈍感なのでキャンディくらいはノーダメージ、シュシュは気合いで行く。

「! チョコレートモンスター、後ろに見つけましたよ! ん? 体型変化……? 筒みたいなのをこっちに向けて、ちょっとあれって!?」

▽チョコレートモンスターの ガトリング砲!
▽ズダダダダダダ!!!!

「「うわあああーー!?」」

チョコチップがびゅんびゅん飛んでくる。

なんだかガララージュレ王国から逃亡しているときを思い出すなぁ、とレナとルーカは意識を共有して、苦笑した。

でもあの時と違うのは、仲間が格段に頼もしくなったことだ。

クーイズがスライム触手を伸ばして、ぱくぱくじゅわりとチョコチップを食べる。
リリーが[魔吸結界]を、チョコレートモンスターたちの後方に出現させて、チョコレート創造魔力をじわじわ奪った。
ハマルはチョコを投げつけられた程度の痛みにはビクともしない。

そして、

「助けてサディスティック仮面〜!」
「参 上 致 し ま し た」

ばさあっとタキシードの裾がなびく。

レナの背後に、蜘蛛糸シールド展開!
チョコチップはすべて、朱色の糸に絡めとられた。

サディスティック仮面はお上品に着地する。

チョコミルクの底無し沼の罠にもはまらず、蜘蛛の巣をつくり、その上に優雅に立つ。

レナと見つめあった。

(わざわざこちらに着替えさせる必要はなかったのでは……?)
(いつものサディス宰相のまま助けてもらってもよかったな……つい呼んじゃった。てへへ)

▽レナのうっかり!

察したサディスティック仮面は、はあとため息を吐いて、ふしぎな煙に包まれると、なぜかどうしてかまるでわからないけど不思議なことに、サディス宰相と入れ替わった。

「助けてくれてありがとうございます」
「私は、なにも」
「って、サディスティック仮面さんに伝えてもらっていいですか?」
「……承知致しました」

ラナシュ世界での認識という面倒なトラブルを避けるために、レナパーティだけの時も、できるだけいつも通りの仮面生活を心がけているのだ。

「うわっ!?」

レナがすっとんきょうな悲鳴をあげる。
ルーカががくんと膝をついたので、抱えられたレナも揺れたのだ。

「笑ってしまったゆえ!? 攻撃ゆえ!? どうしましたルーカさぁん!」
「いやシュシュ」

レナとルーカの真上を、シュシュがライダーキックポーズでぶっ飛んでいく。
最前線でチョコレートクイーンを追っていたはずだが?

「[覇]ァァァ! よくもご主人様にご主人様をご主人様のことを狙おうとしたね、上等ッ! そんな岩の間に隠れてないで出 て お い で オラアアア!!」

チョコレートクイーン<<<(超えられない壁)<<<ご主人様。

(シュシュはまだ自我が幼いかなぁ)とレナはちょっぴり思った。

▽シュシュの 岩砕き!
▽クッキークロックが 飛び散った!

チョコレートモンスターがすばやく逃げていく。

逃げ遅れた数体が、その甘ったるい姿をあらわにした。

レナは(あ、ミニチョコフォンデュ)と思った。

艶のある茶色のチョコレートボディ、スライムが持ち上がったような縦長のまあるい曲線だ。
とろけたチョコレートはゆらゆらたゆたい、ツノのようなふたつの尖りが、へにゃんと下を向いていた。

「四角いおおきめのチョコレートがボディの中央にひとつ……核、でしょうか?」

レナが宰相に聞いてみる。

「そうです。あの核を壊せば、チョコレートモンスターは昇天します。チョコの塊が採取できます」
「チョコの塊!」
「しかし倒してチョコを集めるよりも、この”戦い”に勝って、分泌物のチョコレートをもらう方が、個体数が激減しなくて助かりますね」
「分泌物……。ちなみに勝ちって、どうしたら判定されますか?」
「チョコレートクイーンを制圧します」
「冒頭に戻るの!?!?」

ルーカがぐっと親指を立てた。

(宰相の内心を先読みしていたからね)
(その先読み、今度は狩りの前にお願いしますね?)
(うん、ごめん。ちょっと気がゆるんじゃってたかも)
(まあサディス宰相も味方だし、今回の狩りも趣味みたいなものだから、たまにはゆるく構えるのもいいですけどね〜)

気を張る戦闘ばかりだと疲れるのだ。

今回のような、バトルしようぜ! くらいの雰囲気だといつもにくらべたら気楽なくらい。

レナパーティはいくつもの死線をくぐってきたのだから。
くぐりすぎだ。

「よーし、今回は自由にいこっか」

▽作戦;自由!

いつもはレナの言葉に、従魔たちが従ってきたけど…………これもまた、それぞれを信頼しあったゆえの、子離れかもしれなかった。

従魔たちは、魂の契約によって、レナの心の震えを感じとる。

でも、それはレナが弱いからとか、悲しさじゃなくて。
より強い信頼が育まれたからこその、喜びなのだと知った。

キランとみんなの目が光る。

「先攻取られちゃったもんなぁ、取り返さないとだよねー!?」
「ご主人様の従魔としてもっともっともっと活躍したいから!」
「どの、チョコレートモンスターが、いいのかなっ? 配下に……クスクスクス……」
「みーんなまとめてー夢の餌食にしちゃうぞー?」

(やばい)

レナは震える。
武者震いだ。
それがルーカにも伝わって、なんだか二人で笑いを共有してしまった。

ニッ、と口元がサディスティックに釣り上がるぅ!

「キラ、スウィーツパラダイスの地形マップ、オープン!」
<はーーーい!>

一瞬、レナのマジックリュックからキラが顔を出して、周りを確認、世界情報を抜き出して、またリュックの異空間からダンジョンに帰った。

電子ウィンドウが宙に現れて、スウィーツパラダイスのマップができあがる。
動いている赤色が、チョコレートモンスターたちの場所なのだろう。

なんという効率的ハンティング!

だって早く帰宅したいし!!!!
可愛い子たちがまってる!!!!

<サディス宰相にざっくりした地図は見せてもらっていましたからね。あとは、一体確認したチョコレートモンスターをベースに、生体反応を観測するだけでした!>

だけ、とは。

宰相が頭が痛そうにこめかみを押さえた。

「ご主人様、かっこよくキメて〜!」

▽ルーカの 声援。

「さあ、向かいなさい私の可愛い従魔たち!」

▽レナが カッコいいポーズを キメた!

地面が弾けるような衝撃。

従魔たちが元気いっぱいに飛び出したのだ。

小さな背中が、もっと小さくなって、はるか遠くに行ってしまった──

「スキル[伝令]、環境をできるだけ壊さないようにね〜」

レナが手を振る。

リリーはスウィーツモンスターを痺れさせただけだったし、クーイズが捕食したのは敵の攻撃だけだったし、ハマルは受け流すタイプだし。
シュシュがちょっと心配だが、まあ戦いながら成長するだろう。あの子はそういうところがある、とレナは知っている。

ポージングの弊害でマントで顔をうったルーカが、ぷはっと顔を出すと、ごめんねーとレナが撫でた。

「さあ、私たちもいきますか」
「うんっ」
「ちゃんと見送ることができましたね、お二人とも」
「だって、それも、育てる者の責任ですもん」

レナがグスッと鼻を鳴らしながら、にへっとゆるく笑った。
先程までの凛々しさは、ない。

(目が離せない人ですね。理想の教育者だと思いますよ、本当に)

宰相が目を細めて、レナを眺めた。

<称号;[教育者(極み)]を取得しました!>
<ギルドカードを確認してください>

「え!? なに!?」

レナが世界のアナウンスにギョッとする。
いくらなんでも称号取得までのペースが早い。

「サディス宰相がレナを認めてくれたみたいだよ。ね?」
<ほほう。極めた者が、自分と同等以上だと認めたとき、称号やスキルの取得が早くなるようですね? なーるほど! 新たなルールみっけ!>

キラとルーカが盛り上がっている。
宰相は事態をくわしく知り、キラの発言により、頭を急速回転させることになった。どうしてくれよう、この情報。

レナがポンと手を打った。

「あー……先生と生徒、資格取得試験、って考えるとなんだか納得できるルールかもしれないね? サディス宰相、私たち強力な称号とかスキルとかたくさん持っていますから、仲良しの人に、成長助力することもできます」

▽レナの メンタルアタック!

「これからも末長く友好でいられるよう、魔王国役員として、個人的にも、心からよろしくお願い申し上げます」

宰相が45度に頭を下げて、手袋をとり、レナに左手を差し出した。

はーい、と明るく返事をしたレナは、しっかりとつよく手を握った。

うんうん、身内が強くなるのはいいことだから、とルーカとキラも頷いた。

レナが瞬きして、宰相をしっかり見つめる。

(個人的にも、ですか。サディス宰相、私たちの好みそうなとこをきちんと把握してるよね。お辞儀の角度も深すぎないし。それって好感度をあげるためだろうけど、せっかくだから、言葉通り、ノアちゃんの成長にも干渉させてもらおうかな?)

レナは、仲良しの人の力になれる機会があれば、頑張っちゃうのだ。
にこっと意味深に微笑んだ。

足を止めていた五分ほどで、マップの赤色がものすごい勢いで動いている。
北側の山の頂上にチョコレートモンスターが移動していて、その群れのうしろには、従魔のマークが光っていた。

「追い込み漁? すごい」
「レナが得意としている奇策だよね。みんな自分で考えて、その上で連携ができてる。すごいことだよ」
「「すごいねー!」」

二人で、仲間たちの成長を喜びあった。
何度も同じ言葉を交わす。
感情がリンクするたび、掛け算のように嬉しい気持ちがあふれていくのだ。

レナとルーカがその場でダンスし始めたときには、さすがの宰相もどうしていいか判断を迷った。
眉がハの字になる。

一番まともなはずの者たちが、一番おかしい。
なんなんだこれは。

「………………従魔たちの方に、我々も向かいませんか?」

▽宰相の 一般常識。

「「そうですね!」」

レナとルーカが持ち直して、心底ホッとした、とのちに宰相はロベルトに語ったという。
双方、疲れたため息を交わすことになるのだ。

時々マップで情勢確認しつつ、レナとルーカ、宰相は、観光エリアルートを通っていった。
ここは比較的安全なのだ。

「しかしいつもは戦闘に飢えたチョコレートモンスターたちが攻撃してくるので、おちついてエリアを見回ることはできませんが」
「「おつかれさまです」」
「……おや、興味深い造形物が新たに作られていますね」

レナたちが上を見上げる。

笹のような葉の間に、ビスケットが揺れている。
ねじれた木の幹からは飴色の樹液がにじみ、一定量溜まると、キャンディとなってころころ転がっていった。
途中、タンポポのような花の花粉に触れると、パチパチ電気を纏う。

「面白いですねぇ。こうしてあの弾けるキャンディが作られてたのかー」
「ごく最近の生態ですね」

宰相がメモを取り、レナが感心した。

「これはマカロンの蔦です」
「へぇ」
「うわっ、ダメ、レナ!」

マカロンの実をつつこうとしたレナをルーカが庇ったとたん、果実が弾けて、とろけたチョコレートが飛びちった!

「擬態だから……。これ、チョコレートモンスター・モムだね」
「モム、魔物未満、なるほど……だからキラナビに観測されなかったんですね。ああごめんなさい」

レナはルーカにエリクサーを飲ませつつ、困り顔で宰相を振り返る。

「緑魔法[パーフェクトクリーン]」
「ありがとうございます!」

▽ルーカは きれいになった!
▽やけどが 治った。

<チョコレートモンスター・モムを観測。マップに反映させてみましたが……あの……>
「うーん。こんなにいるの!?」

モムまで入れると、マップがほとんど真っ赤に染まってしまう。
レナは「モムは非表示で」とキラにお願いした。

「モムがこんなにいるとは。それも擬態していて、できるだけ戦闘を避けようとするくらい弱いようだ。チョコレートモンスターの個体数が、近頃は、増えていませんでした。おそらく、チョコレートクイーンの調子が悪いのでしょう……」

宰相が眉間の彫りを深めて、呟く。

「え、チョコレートクイーンがチョコレートモンスターを生むんですか?」
「分裂繁殖ですから。スライムの生態と似ています。チョコレートモンスターは、もともと茶色のスライムが突然変異で進化した存在なのですよ」
「へえ……」

スライムと聞くと親近感が湧くレナたち。

「派生なら、クーイズと仲良くできるかな?」

マップを見ると、従魔たちが赤い光を一箇所にまとめきったようだった。

「おお、えらい! ではビューンっと、あの黒い山の頂上に向かいましょう。ルーカさん、半獣人姿で」
「オッケー」
「チョコレートマウンテンへ」

宰相の言葉に、レナたちがピキンと固まる。

「……熱々チョコフォンデュされないように気をつけましょうねルーカさん」
「……オッケー」

レナは、運が悪いルーカを守るようにしがみついた。

▽チョコレートマウンテンの頂上にたどり着いた。
▽レナとルーカはチョコレートまみれだ。
▽緑魔法[パーフェクトクリーン]!

道中、チョコレートモンスターこそいなかったものの、あらかじめ設置されていた罠の数々がえぐかった。

地面と同色のホットチョコ落とし穴、チョコの滝、グツグツチョコ爆弾、坂の上からチョコボールがゴロゴロ落ちてきたり、甘すぎる匂いに酔ったりした。

ちなみにこれらのチョコレートは、モンスターの体液が長年馴染んで土地が変化したもので、食用にはできない微妙な味だ。

▽従魔たちは 誇らしげにレナを迎えた。
▽チョコレートモンスターが紫触手でまとめて縛られている。
▽クーイズの [束縛技術]だ!

スライム同士の絆は育まれそうもなかった。

▽中央に巨大な卵型チョコレートが鎮座している。

ルーカがレナに耳打ちした。
レナが仁王立ち、すうっと息を吸う。

「私こそが、従魔たちのご主人様よ!! オーーッホッホッホ!!」

レナが高笑いすると、卵型の表面が波打つ。

硬くなっていたチョコレートはトロトロと溶け出して、ドレスの形となり、チョコレートクイーンが顔を上げた!

 

 

 

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