237:ガーデナーたち

▽レナパーティが 赤の聖地に 戻った!
▽シャボンフィッシュが 泳いでいる×100

「キラ、大精霊召喚(シルフィネシアコール)成功したみたいだねぇ」

ぽかんと、シャボンフィッシュによる舞いを見上げていたレナが、苦笑しつつ呟いた。
緊急連絡もなかったことだし、アネース王国の人物輸送も成功しているだろう。

「さすが。たくさん褒めてあげなくちゃね」

褐色の腕がレナの首にまわされて、赤色の髪が、ブワッと視界をおおう。
カルメンがなついてきたのだ。

『おお、アレがネッシーの技術なのだな!』
「ぷはっ……そうなの」

レナが赤髪をかき分けて、顔を覗かせる。

「シャボンフィッシュが輪になるの、シャボンリングっていって、来訪者を祝福する舞いなんだって〜」
『ふむ、シャボンドラゴンもいるではないか。我々もアレをやってみたいものだな!』
「カルメーーン!? お待ちッ」

レナがブレスレットで変身、ピチューン! と手を叩いて、ハイヒールのかかとをカッ! と打ち鳴らした。

▽カルメンの注目を奪った!

「だめよ。白炎を、シャボンフィッシュたちみたいに縦横無尽にたゆたわせるなんて絶対にだめ! 危ないから! 焦げ死ぬから!」
『チッ』

相当な不満顔だ。
カルメンは、ネッシーがたくさんの部下を持っていることが、聖霊として羨ましかったのだろう。

でもレナだって、白炎の火の玉がお屋敷を徘徊するような事態は避けたい!!

「白炎以外にも、技能、何かないの?」
『土人形とか?』

カルメンが、お屋敷の土を握って、手のひらを開くと、小さな茶色の小人ができあがっている。
リリーが細工して、さらに形を整えて、表面を滑らかにする。
クーイズが飾りの真珠を埋めこむ。
白炎で焼いて、完成。

▽この世界に サンドクッキー・モムが 誕生した!

「あああダンジョン土だから魔物が出来ちゃったァァ!?」
「私がいちばんに作って褒められるつもりでしたのにー!?」

ふっとんできたキラが、レナにへばりつき、わーんわーんと泣く。

「おかえりなさいマスタァァ」
「ただいま」

まさかこんな挨拶になろうとは……
そして足元にハマル、腰にキラ、頭上にカルメンと囲まれているので、レナは動けない。

つんつんとハイヒールパンプスのつま先でハマルをつついて、ようやく退いてもらった。

「”たくさん褒めてあげなくちゃね?”」
「あ、キラ、ちゃんと聞いてたんだね?」
「もちろんですぅ! マスター・レナの御声はすべて録音済みで御座いますから! 永久保存!」
「ワーイ……」

キラの頭を撫でて、頬をムニュムニュ遊んであげると、にぱっといつもの笑顔が戻ってきた。

銀の瞳がキラキラ輝いて、レナを映している。
こちらも、やわらかい表情をしていた。

「フラワーショップネイチャーの従業員くん、連れてきたんだよね?」
「はい、おまかせくださいませ!」

キラがくるりと振り返って、メガホン片手に叫ぶ。

「パトリシアさーん! クドライヤさーん! リオさーん!」

ガーデンの薔薇のアーチの向こう側、花壇の緑に埋もれるように、薄茶色の髪と、灰緑色の髪をレナは視た。
リオという少年はどうやら、まだ背が低いので、隠れてしまっているようだ。

レナが瞬きすると、透視ができた。
後ろ向きに立っているリオ少年は、キラの大声に驚いて転けている。
クーイズと同じくらいの背丈、淡い若草色の髪のえりあしがふわふわとカールしている。

(ルーカさんと目の共有したままだったの、つい忘れて、そのままにしてた)

ちょいちょいとルーカを呼んで、感覚共有いったん切りますか、と話した。

最初からリオをジロジロ視るのは、パトリシアの判断を信用していないことにもなるから。

レナの肩から頭をのぞかせるようにして、ルーカが耳を寄せた。
頷かれると、金色の猫耳がくすぐったい、とレナは笑う。

目を合わせてから、瞬き。
視界がシンプルになった、とレナは感じた。

「ありがとうございました。また必要なときにはよろしく」
「役にたてたなら何より、ご主人様」

ルーカの髪をわしゃわしゃ! と思い切り乱してやると、彼は、けらけら楽しそうに笑うのだった。

「っえええぇぇえぇぇ……!?」

そんな驚きの声が聞こえたので、レナが前をみると、リオ少年とやらが口をパクパクさせている。
どうしたんだろう、とレナは思って、すぐ理由に気づいた。

(ああ! ふつう、こんな風に男性が頭を撫でられてたら、驚くか〜。でもふつうよりも従魔と触れ合う方が大事なので)

笑いながら猫耳が嬉しそうなので、レナたちはこの距離感でいいのだ!

びっくりした? それはもう、とパトリシアとリオ少年が話している。
声は穏やかで、二人は仲がいいみたいだね、とレナはホッとした。

「おかえりレナ。この子、従業員のリオ。ほら挨拶したら?」
「はいっ、店長。リオです、レナ様」
「様じゃなくていいよ!?」
「だって大精霊様が……」
『レナさまとお呼び〜♪』
「このように」
「うぐぅぅ」

レナは諦めた。
諦めって大事だ。
もー普段からレナ様と呼ばれ慣れているし。
もーーーー、とは思うけど。

リオはめったにいないような、可愛らしい容姿の少年である。
白く柔らかそうな肌に、ふんわりカールした淡い若草色の髪、大きな瞳は水色で、きれいに笑う、たとえば砂糖菓子の人形みたいだ。

「良いご縁があったんだねぇ。リオくんが、お花を買いにきたんだっけ?」
「そう。そんでネッシーに気に入られたんだよなぁ」

縁だなぁ、としみじみ言って、レナとパトリシアは、リオを眺めた。

お姉さん二人に見つめられて、リオはちょっと気恥ずかしそうにしている。

ご両親は? と聞きそうになって、レナは口をつぐんた。
パトリシアのように、遺族で一人暮らしという可能性もある。詮索しないほうがいい。

スッとルーカがレナの横を通り抜けた。

「どうぞよろしく」
「ルーカさん?」

なぜかルーカが、リオに握手を求めた。
珍しいな、とレナは驚きながら、背中を眺める。

「……はい、よろしく」

リオの声はちょっぴりたどたどしく。
なぜ? と気になって、感覚共有を切ってしまったことを、ちょっとだけレナは後悔した。

(もしかしてルーカさんが魔眼でじーっと見てて怖い? 敵じゃないからそんなにしなくてもいいはずだけどなぁ)

もしも敵意を持っている相手なら、モスラあたりが勘付くだろう。
パトリシアのことは従者仲間(たまにスチュアート邸のメイドをしているため)として大切にしているのだから。

「ぷっ、あははは!」

ルーカが笑い出す。
レナはぽかんとしてしまって、でも主人としてやるべきことは。

「こーら。年下の子、からかわないのっ」
「ごめんごめん。実はね、前にこの子と会ったことがあって」
「え? ルーカさんが?」

レナはキョトンとした。
アネース王国在住のリオと、ルーカが会った機会、想像できるのは、ガララージュレ王国から逃亡してしばらく後、ルーカが別行動していたタイミングだ。

「ルーカさんのこと助けてくれたの? リオくん」
「ちょっと、まるで僕がお世話になったみたいな言い方……」
「ラチェリで再会したときにボロボロになってたの誰でしたっけ?」
「なつかしいなー」

ルーカが気まずそうに目を逸らす。
クス、と微笑んだのは、リオだ。

「確かに、助けたのかもしれません。トイリア近郊で、ぼくは散歩をしていたんですけど、ふらふらのかわいそうな旅人がいたので、お菓子を分けてあげました」
「ルーカさん……」
「ルカ坊よ……」
「ルーカ、ってば、クスクスクスッ」
「ルーカ〜、酷く情けないねー?」

仲間からの言葉が、同情しながらも生あたたかい。

ルーカは猫耳を伏せさせて、頬をかいた。

「そんなこともあったっけね?」
「ありましたよ? まだ他の話します?」
「……やめとく」

僕ら、楽しい縁ができてよかったね、とルーカが笑顔で言う。

リオは眩しそうに見上げて、はい、と頷いた。

(なんか仲良さそうで良かったけどさ。これ報告する?)
(いや……いいだろう。従業員と従魔が知り合いだった、というだけのことだ。トラブルの元ではない)

ロベルトとクドライヤが目で会話して、脱線しまくっている話を戻そうとする。

「顔合わせ完了で良かったです。リオとはさっきまで一緒に作業をしていましたけど、土いじりが上手ですよ。パトリシアさんの指導がいいですし。[精霊の友達]称号があるため、シャボンフィッシュにも懐かれています」

クドライヤが、リオに目配せする。

リオはタクトのような杖を振るう、すると動きに合わせてシャボンフィッシュが新芽を撫でた。
緑がみずみずしく湿る。
画期的な水やりである。

「すごい!」
「ええ。色々な常識を破壊された数時間ですね」

クドライヤがなんだか疲れている。
キラが「ソイヤッ」と樹人の頭の葉にエリクサーをぶっかけると、シャキンと葉が伸びた。

「さっきからこれで回復! 回復! 回復! 無限に働けますね!」
「ヤケクソのように言うな……っと、クドライヤお前、もしかして、酔っているのか……?」

若干、顔が赤みがかっているのだ。
彼も毒に耐性があり、これまで酔ったことはなかったのだが。

「樹人を酔わすらしいよ、濃縮エリクサー」
「蜘蛛にコーヒーが効くのと似た理由か……」

ラナシュ世界の新情報がどんどんと明らかになっている。
むしろレナパーティが作り上げている?

▽そんなこともあるよね!!!!

レナパーティはガーデンを楽しみながら歩いた。

シャボンフィッシュが舞う中で、葉もツルもうつくしい緑色を誇り、花の蕾が風に揺れる。

カーテシーローズや、スカーレットフラワー、パトリシアが以前作り出してブランド化した品種が咲き誇っている。
外来種になるため国家外でばら撒くことはできないのだが、ここはレナ領ダンジョンなのだし、例外としてもいいだろう。アネース国王からも許可を得ている。

鳥や、魚の形などに剪定された樹木。
使用したのは[邪ヲ断ツ祝福ノハサミ]。

従魔たちが寄っていって、しげしげ眺めている。

「ちょうどいいや。水魔法が使えるみんな〜、私たちがいないときに水やりできるように、やり方教えるから手伝ってよ」
「「はーーい!」」

イズミ、キサが手を挙げた。
ミディは遊ぶことの方に夢中なので、いったん二人で水をやる。

シャワーの細やかな水が、虹をつくった。

それを眺めながら、レナが目を細める。

「これからは、理由に合わせて、こうして少人数で組むことが増えそうだね。旅もいったん落ち着いたから、お出かけってかたちになるだろうし。出先によって、人選(パーティ)組むかんじ?」

パッと、従魔たちがレナを振り返る。
ちゃっかり聞いていたらしい。

さみしげな顔をしている子もいるけど(ずっと縛り付けておくのは、教育ではないよね)とはるか異世界に放り出されて成長したレナは、思うのだ。

ちなみにさっき号泣済みなので、今は涙をこらえられている。

「拠点ができたこと、すごく嬉しいね。帰ってきたら、いつでも、おかえりって迎えてね。みんなに会えるのがすごく楽しみだから、ご主人様レナ、うきうき超速で帰宅しまーす!」

ぴし! と敬礼。
レナは笑顔だけど、やっぱり目尻に涙がひとつにじんだ。

「はいこれ。超速帰巣本能マッチョマンの種」
「アアアアアア!?!?」

▽レナは ごつい種を 受け取った!

「帰巣本能!?」
「ふたつセットで、引かれ合うんだよ。双子なんだよな。んで、片方はこのお屋敷のガードマンにするから……もう植えてある。門のとこに薔薇あったろ」
「そうなんですかクドライヤさん!?」
「そうなんでーす」

クドライヤが思いっきり目を逸らしながら、しかしはっきり頷いた。

「すごく有能なんですよ。ほんと。能力だけなら諜報部に欲しいくらい。ほんと……樹人としては複雑なんですけど……」

だんだん顔に影がかかっていく。

樹人として努力して取得した、ツル鞭やらまきびし技能、面白がって教えてみたらすぐに取得されてしまい、しかもお花ビッグマッチョという強烈なものを見てしまったので、落ち込んでしまったそうだ。

ちなみにゴツクテデカイお花マッチョマンに|乗れる(・・・)という恐ろしさを、レナは、まだ勘付いていない。

ぽん、とパトリシアがクドライヤの肩に手を置く。

「大丈夫、どちらかというと花人だから別種……?」
「パトリシアさんなにも大丈夫じゃないから!! 樹人も花咲かすし!!」
「落ち着けよ酔っ払い」
「レナライズレナライズ」
「ああ……」
「ああ、じゃないですよー! 今回は私関わっていませんからね。パトリシアちゃんの魔改造技術の集大成ですよ! 私もびっくりしてるもん!」

クスクス、と小さな笑い声。
口元を押さえて、リオ少年が笑っている。

「あ、ごめんなさい。会話がとっても楽しくて」
「エンターテイメントにしてんじゃねー」

パトリシアがかるく小突く。
リオの笑いはなかなかとまらない。

和やかな雰囲気で、パトリシアはいい従業員を得たなぁ……とレナは嬉しくなった。

「さすが赤の女王様なのですね。アネース王国の演劇でも大人気で、モデルご本人に会える日がくるとは思いませんでした。実はファンなんです!」
「待って!?!?」

知らぬ間にレナファンクラブの輪が広がっている……

「アネース王国にも演劇されているの!? 魔王国だけじゃなくて!?」
「シルフィネシア様のライブで話題になって、ラチェリの住民の噂話で尾ひれがつき、従魔モスラさんの人気も凄まじいですし、吟遊詩人がやってきてクラーケン討伐について語るものですから、旅の演劇団と王宮演劇団が競うように赤の女王様伝説シリーズを布教しています」

どれだけ尾ひれがついているのかわからない。

レナがそう呟くと、リオのお気に入りだという四冊の絵本を渡された。

【赤の女王様とドラゴンと呪術師】【赤の女王様と夜のおやしき】【赤の女王様と精霊様】【赤の女王様とクラーケン】

<称号:[物語の主役]を取得しました!>
<ギルドカードを確認して下さい>

「もーーー! というか私、これからその布教経由でいつの間にか称号取得していくんですか? なんて危険な!」

レナがヤケクソで、ギルドカードの称号効果を眺める。

・[物語の主役]……事件が起こったときに、大事になりやすい。まわりからの協力を得やすくなる。良くも悪くも、この力をどう使うかはあなたしだい。あなたの物語だ!!
行動が世界の基礎情報に反映されやすい。

「はいきた持ってるだけで効果発揮するやつ!」

レナが天を仰ぐ。

「癒されたい……」

つぶやきには即座に従魔が反応する。

「はい粗茶!」
「はい[エンジェルヒーリング]!ぎゅー!」
「はい、モフモフする?」

「するーーーーーー! みんなとモフ気分!」

▽ハマルが 巨大化! 十メートル級羊!
▽みんながモフンと埋もれた。

「スキル[従順]おひるねタイムだよ〜 ぐぅ……」
「従え、てぇ、ぐぅぐぅ……」

▽三十分 眠った。
▽完全快調!

▽大精霊たちが帰還した。
▽ガーデナーたちが通うことになった。

▽特別地域SS区スウィーツパラダイスに向かおう!
▽参加従魔は?

 

 

 

 

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