235:レストラン会合

奥の一室に通される。

もちろんほかのお客に注目されまくり、ポロリとフォークを落とす者、咀嚼していた肉を詰まらせた者、スープをだらだらこぼしてしまった者などがいて、妙な空気をレナパーティは居心地悪く感じていたのだが、カンカンカンカン!! と鍋の底とお玉が打ち鳴らされる。

キィーンと鼓膜を刺激した。

「はーい! 団体様いらっしゃいまぁせー! デモンズパラダイスへよぉこそ!」

厨房にいた悪魔たちが、にぱっ!! と凶悪な笑顔で出てくる。

コウモリの幻覚が舞って、テーブルの上を飛び回った。
驚いて飛び上がったお客たちは緊張を解された(強制)。

「本日は団体予約でもうかる予定だからね、みなさんにもデザートサービスだぁよ! ソレッ!」

黄金の杯が配られて、そこに盛られたクリームブリュレが、ぼうっ! と赤い炎で炙られる。
こんがりと表面が焦げて、甘くてしあわせな香りが立ち込めた。

ほわっ、とした湯気を鼻から吸い込むと、気持ちまであたたかくなる。

「いいもの使ってますね。エンジェルビーンズ」
「サディス宰相! 今日はたくさんの注文、誠にありがとうございまぁす!」

(まだ注文をしていませんが……まあレナパーティのみなさんはたくさん召し上がるでしょうし、店の雰囲気が良くなるならば、乗っておきましょう)

「追加注文。幸運にも今レストランにいらっしゃる皆さんに、アイスクリームを」
「かしこまりやした!」

悪魔的料理長がパチンとウインク、するとお客たちが「おおおおお!!」と盛り上がる。

「騒がしくするかもしれません。ご容赦願えますと幸いです」

宰相が周囲に軽く会釈をする。

「もももちろんです!」

誰がこの影蜘蛛に文句を言いにいけるというのか。
激しくうなずいている。

ちなみに一番騒がしくする可能性がありそうなのは、ドグマである。

どうぞどうぞ、と店の奥までの道が開けられた。

レナは苦笑いしながら中央を進む。

「わーい! 歓迎されてるノヨー!」
「みなさーん、ありがとー。歩きやすいよー」

ミディやハマルたちが無邪気に手をふると、大人たちはでれっとしながら手を振り返してくれた。

▽全員が 席に ついた。

「奇跡的にここまでトラブルが起きませんでしたね……!」
「あの程度ではもうトラブルとは認識しないんですね……さすがレナ様です」
「っあーー!? おかしな認識されちゃったあああ」

▽宰相からのカウンター!

「お、お父様。レナさんたちが、トラブル体質などの称号をえてしまったら大変ですから……!」
「心配ありがとうノアちゃん。でもね事後なんだ〜」
「えええっ」

お辛い思いをしましたね、といたわってくれるノアに、なんと返事をしようか、レナは困った。

そんなとき、料理長が現れた。

皿をたくさん運ぶため、大人数用のカートを押している。

「おはようございまぁす、みなさま。まずはクリームブリュレとアイスクリーム、でしたね」
「ここにいる者のサービスは頼んでいませんが」

宰相が言いながら、レナを眺める。

(食事前にデザートを与えすぎにならないでしょうか?)
(食べましょう! 食べましょう!)
(承知致しました)

宰相が「では」と承認の頷き。
料理長はホッとした表情で、配膳する。

「先ほどサディス宰相が空気をよくしてくれたお礼ですよっ! アイスクリームにはフルーツが飾ってありますからねぇ」

テーブルに、黄金の盃がズラリと並ぶ。
美しい盛り付けに、レナたちが目を輝かせていて、それを眺めた料理長も満足そうだ。

もちろんスイーツの見た目だけではなく、味にも自信がある。

「天空産エンジェルビーンズが香るクリームブリュレ、ベリーアイスに飾り切りフルーツを添えて、です。お召し上がりくださぁい!」

レナたちにウズウズと熱く見つめられた宰相が、ため息ひとつ、場の最高責任者であるドグマを小突いた。

「……ん? おはよう……」
「じゃなくて、父様。もう食事なんだってば! 食べていい?」
「食え」

オズワルドのサポートで、許可をもぎ取った!

真っ先にドグマの口にアイスを丸ごとつっこむオズワルド。
よし最高責任者が口をつけたぞ!

「いただきまーーす!」

レナたちが意気揚々と、スプーンでアイスをすくい、ていねいに口に運んだ。

「ンンンン美味しいいい!!」
「ふああぁ、とろけます〜しゅわあって口の中でなめらかに広がります〜」
「ハーくん、食レポ、上手になったねっ。……ん、甘〜いっ」
「濃厚だね」

スプーンで5回くらいすくうと、あっという間になくなってしまう。
上品な分量のアイスだった。
もっと食べたい〜、とミディは言ったが、ごはんの後にね、と隣のノアが諭してくれた。

「ノアお姉ちゃん」
「はう……かわいい……その呼び方、どきっとする」
「そーナノ? なぜ?」
「えっ」

どきっと。
キサが隣ににじり寄ってきた。

「ノアお姉ちゃん、ノアお姉ちゃん、ノアお姉ちゃん〜! きゃあ〜!」
「どきっとについて話し合おうではないかノアお姉ちゃん! なんだ!? 恋煩いか!?」
「えええええ」

左右をロックオンされたノア。
父親に助けを求めるも(そちらのお子様を静かにさせている役割はまかせます)とスパルタ眼差しで語られてしまった。

「クリームブリュレを焦がしても?」
『せっかくなので我々がこなそう!』
「カルメン、おだまり!! クリームブリュレが灰になるでしょう!? オズくんとレグルス、火力調節しながらそうっと炙って……」
「「[フレイム]」」

ぽうっと灯った小さな火種に、ほんのり白が混ざった。
料理長は唖然と、その魔法を眺めている。

(なんなんだあの火力!?)

白炎だ。

『大満足だ』
「もーー。カルメンが張り切りすぎるとびっくりするんだからね……? 制止を聞いてくれたのは、えらかった」
『飴と鞭!!!!』
「はいはいいただきまーす」

はしゃいでいるカルメンを無視して、レナと従魔たちが白炎ブリュレを味わう。
なにやらぐんぐん体温が上がっていくぞ!

「レナ、ステータス上昇効果を視認したよ。二十時間、全ステータス一割増し、炎魔法強化」
「カルメーーーン!!」

レナのしつけはまだまだ先が長い。

▽料理長が席についた。

「あれっ。いつの間に椅子がひとつ増えて……?」
「忍ぶのは得意ですので」
「ロベルトさんいつの間に。おかえりなさい。……じゃあもう一人いらっしゃる予定の……政府関係者って……」

レナが料理長をまじまじと見る。

尖った耳の先だけ紫になったふしぎな褐色の肌、白銀髪をていねいにコック帽子の中におさめて、汚れのない制服を着ている。
悪魔族らしき翼膜にとんがり尻尾。
中年男性だ。

料理。政府関係者。悪魔っぽい。

「大悪魔ニスロクさんと察しました!!」
「おおー。推理力がすばらしいですね。ええ、経済部のマモンとは仲良しですよぉ。以後よろしくおねがいしまぁす」

にやり、という表現が似合う笑いかた。
口が頬までにーっと裂けて、鋭い牙が覗いた。

眼光が鋭く、レナをよーく探ろうとしている。
まるでウサギを眺める狼。

レナはまるでびびらない。
きらめく眼差しで、ニスロクを見つめる。

「美味しいお料理ごちそうさまです!」
「いやあ嬉しいなぁ。モーニングはもーっとはりきって用意していますからね!」
「やったーー!」

豪気な少女だ、とニスロクは安心して、レナに、にいっこりと満面の笑顔を向けた。
この時点で悲鳴をあげて倒れる子どももいるというのに。

「起きた!!!!」

起きがけにグオオオオン!!!!と咆哮をあげるドグマ。

──これに慣れていたら俺なんてへっちゃらだわな、とニスロクは納得した。

とっさにルーカが[サンクチュアリ]を作ったので、ほかのお客の迷惑にはならなかったが、結界内に声がこもってよけいに耳に響いた。
耳のいい獣人にはとてもきつい。

「寝かしてハマル」
「おっけースキル[快眠][快眠][快眠]〜」
「……ぐうぅ」
「今日はここにいてくれさえすればいいから。父様」
「おとなしくしててね〜。ヤッホー魔王椅子だ〜」

ハマルがドグマの膝の上にひょいと座って「さあ始めよ〜」とかいう。

ニスロクが口をあんぐり開けて、魔王と宰相をキョドキョド交互に見てしまった。
ノアは「仲良しですね」なんてのほほんと言っている。

「そういうことにして進めます。オズワルド、ハマル、二人はドグマ様と親睦を深めていて下さい。最高責任者同席のもと、議題、チョコレートモンスター捕獲について」

(言葉選びがずいぶんとこんがらがっていませんかサディス宰相オオオオ!?)

宰相だって疲れているのだ。

ここには|お茶係(キラ)はいないし。
ロベルトにシュシュが絡んで、「覇ぁッ!」と[エンジェルヒーリング]を試しているけどあれは受けたくないし。

そっ…………とテーブルの下からルーカが差し入れてきた赤仮面は受け取るのを拒否した。

(私も成長の時なのかもしれません)

あの夢組織戦でずいぶんと久しぶりにレベルアップを経験したサディス・シュナイゼ、疲れた目をハッと刮目させて、瞳孔がほんの一瞬きらめいた。
メンタルの壁を乗り越えようとしている。

(大悪魔よりも怖いんですけどーーーー!?)
「アッッッ料理運ばれてきましたね! 俺、配膳しやす! どうぞ、どうぞ、お進めになって!」

ニスロクが甲斐甲斐しくテーブルセッティングする。

すでに人の配置が、予定とは入れ替わっているのだ。
素敵なテーブルコーディネートになるように、セッティングを変更する。手は抜かない。

それぞれの前にモーニングプレートと紅茶がうつくしく並んだ。

一皿のなかに、バターロール、ベーコンエッグ、ミートローフ、ベビーリーフのサラダがバランスよく盛り付けられている。
真ん中に追加のミニパンバスケットも置かれた。
これが紅茶代金に50リル足しただけで食べられるのだから、お得である。
レナはにこにこだ。

「紅茶はオレンジフレーバーです。爽やかな渋み、しっかりした旬の甘さを感じていただけます」

こんな風に、と紅茶カップに添えられていた薄切りオレンジを半分に折って、果汁を数滴、したたらせて見せるニスロク。

レナパーティみんなが真似してみると、ふわんといい香りが満ちた。

「あ。オレンジとチョコって、いい組み合わせですよね……」
「チョコレートモンスター捕縛の際には、ぜひ、デモンズレストランをご贔屓にして下さいませ」

なるほどそれが目的か〜! とレナがニスロクを眺めて納得する。
パチリ、と黒紫の目を瞬かせると、料理への情熱が視えた。

卸すほどの採取ができるかはわからないけど、ご贔屓に、というのはそうしようと思った。
ニスロクならば、きっと素晴らしいショコラコレクションを作ってくれるだろう。

「私もチョコレート大好きなんです〜」
「チョコ、高級品って聞いたノヨー。ノアお姉ちゃん、ほんとお嬢様なのネー」

ノアがほわわんと告げたので、レナはピンときて、流れるように宰相を視た。

「なるほどお嬢さんのためにもチョコレートモンスターはぜひ捕獲したいわけですね?」
「レナパーティからは『チョコレートモンスターを従属させたい』とあらかじめ聞いておりました。それだけですよ」

宰相がクールに返事をした。
それが第一理由なのだろうけど、この場にノアを連れてきたのは偶然ではないだろう。
ノアが「いいなぁ」と言えば、友達思いのレナたちはチョコレートを分けようと考えるにきまっているのだから。

「(貸しにしてしまおう)」
「(ルーカさん策士ぃ)」

▽地区情報を知ろう!

▽さわがしいみんなは口に美味しいごはんが入っていて静かだよ。

「特別保護域SS区スウィーツパラダイスの特徴について。ティーリーフの樹が紅茶の香りを匂わせ、クランチロックの丘に、砂糖水の泉など」
「すでにクセが強い」
「まだまだいきますよ」
「まだまだ」
「転んだら甘いですからね」
「転んだら甘い」
「ついでにベタベタします」
「ええ……やだなぁ……サディス宰相、一緒に来てくれませんか?」
「それは…………緑魔法[パーフェクトクリーン]のために……?」
「そうです」

まさか衣服清掃のためにクエストに誘われるとは思ってもみなかった宰相、四秒停止。

(あの宰相がフリーズしてるうううう!?)

ニスロクの心のツッコミを視たルーカが、ゲホッと紅茶をむせて、感覚共有したレナが「オホホホ!」と一瞬高笑いしてしまった。

その笑い声で魔王ドグマが覚醒、おはようの咆哮がうるさいのでハマルが黙らせて、クーイズが[束縛技術]スライム触手で椅子にくくりつけた。

大わらわである。

(私が沈黙していてはいけない!!)

宰相の反省は至極ごもっともなのだが、ここまで決断させられるこの状況には、同情せざるを得ない。

「来てくれなかったら救いのヒーローサディスティック仮面を喚(よ)んじゃうんですから。助けてーって〜」

▽ホラ黙ってるからレナがこんなこと言っちゃう!

「サディスティック仮面様!?」

▽ノアが前のめりに立ち上がった!

「知ってるノー? ノアお姉ちゃん」
「はい、はい! それはもう! 華麗にタキシードを着こなして神秘的な赤仮面をつけて、えもいわれぬ蜘蛛糸さばきをしてみせる妙齢の男性なのですって! きゃーー!」

ノアが黄色い悲鳴とともに、一息で語る。
ピシリと宰相が固まった。

▽ほらそんなふうに黙ってたら大変ってば!

「はうぅ、王子様のようではありませんか? 私、そのご活躍を聞いてからときめきがとまらなくて。そんな素敵な方、ぜひお会いしてみたいものですわ」
「誰に聞いたノー?」
「イラくんです」

▽イラが 叱られる可能性 90%。
▽ドグマが 叱られる可能性 90%。

「そうだ! お父様、もしもレナさんたちの前にその救いのヒーローが現れたら、ええと、えへへ、優秀な蜘蛛魔人族だそうですから、政府に勧誘してはいかがでしょう!?」
「だめです」
「なぜ!?」
「私がレナパーティとともに向かうので、ヒーローは現れません」

▽レナは 宰相を仲間にした!

猫型になったルーカがレナの膝の上で、にゃあにゃあと笑い転がっている。

それはそれは長ーく深ーいため息が、宰相の口からこぼれた。

(まさかそんな話をしていたなんて……。ノアに……あの仮面が……認知されていた……。しかしあまりにもストーリーが前向きすぎる。なぜ、夢組織が敵を、肯定的に語ったのか?)

宰相はイラの様子を思い出した。
そして頭を抱えた。

(仲間を助けてもらえるように、と、いい子のように振る舞っている最中でしたね……!)

ということは。
とっても素晴らしい武勇伝のように。
あの夢組織戦が語られているということ。

イラから、ノアと魔王ドグマに。

魔王ドグマに!!!!

▽王宮中が、赤の女王様たち大活躍の話題でもちきりだぞ!!
▽夢組織が積極的に脚色しているぞ!!
▽宰相がいないぶん噂し放題だぞ!! わっしょいわっしょい!!!!

(しくじった)

きっと、王宮のレナファンたちが爆発的に増えている。
魔人族は刺激的なストーリーが大好きだから。

どこまで広まっているのか、どこまでトンデモナイストーリーになっているのか。

さすがの宰相も、このとき王宮にくだんの演劇団が滞在延長のために訪れてて、民衆にも広がっていくなんて、道端で仮面セットが売られる日がくるなんて、予想できるはずもなかったのだ。

▽チョコレートモンスターは従属予定!
▽二日後に狩りにいこう!

▽引き取る夢組織の幼児について聞こう。

 

 

 

 

 

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