234:レストランに向かおう

ルージュのお屋敷が、営業開始となるまでは、ダンジョン[赤の聖地]と統一して呼ぶことにした。

スカーレットリゾートエテルネルージュ、とは長すぎてレナが噛むためである。

営業までに、要練習。

玄関先にみんながわちゃっと集う。

「じゃあ行ってくるね。みんなで朝ごはん食べててね〜……さみしい!」
「レナ、早い早い」

ぎゅぎゅっと抱きつかれたパトリシアが、苦笑してため息をつく。

「一日じゃん。そっちも気をつけて」
「ううなんかね、しばらくみーんなと一緒だったからー」
「気持ちはわかる」
「パトリシアちゃん、ちゃんと|流線型の剣(フランベルジュ)もってる?」
「このとおり、腰に。つーかほんとうにもらっちゃってよかったの?」
「うん。だってパトリシアちゃんと相性がいいみたいだし。剣も喜んでる気がするよ! もしも私が必要になったらまた貸して」

▽レナは パトリシアに [邪ヲ断ツ祝福ノハサミ]を贈った。
▽剣の擬人化なんて…… レナクラスチェンジのフラグが立った。

「ありがと。私は今日、クドライヤさんとお屋敷庭園のガーデニングの続きだから、変形させて剪定ハサミとしても使わせてもらうな。ギルティアが来るまで、あと少し、せっかくなら気に入りそうな環境に整えておくよ」

パトリシアは、魔王国からのクドライヤの到着を待つ。
その後、アネース王国トイリアから店番手伝いの少年も呼んで、大掛かりなガーデニングをする予定。

ほい、とパトリシアが、レナをオズワルドに渡した。

「ちゃんと交渉してこいよ」
「まかせといて」

昨夜、オズワルドは最後まで会議に付き合っていた。
そのとき精神的にひとつ成長したようで、今日は一段と瞳が凛々しい。

頑張ろうね、と言いながらレナが撫でたオズワルドの手首には、イラの呪いの跡がくっきりと残っていて、裏会議について知らないレナは不安そう。夢組織の子どもたちを穏やかに迎えられるかな、と。

レナを慰めるために「撫でていいよ」とオズワルドがいうと、ニコニコと獣耳を撫で始めてふたりとも嬉しいので、よし!!

「モスラとアリスちゃんも気をつけて」
「帰るだけだけどね。また明日ね!」
「キラ先輩がサポートして下さいますから、何も心配しておりませんよ」

にこりと断言できるモスラはえらいなぁ……と従魔の半分くらいがしみじみ思った。

「ハイハーーーイ! 私キラ! ダンジョンマスターとして初めての、でっかい異空間繋ぎ、頑張りまーす! 精霊の泉に大精霊シルフィネシア様を喚び出して、ラビリンスと接続するでしょ! そしてパトリシアさんトコの従業員くんをこっちに移動させるでしょ! からの、アリスさんとモスラさんをあちらに送るでしょ! んもぅ、大忙し! えいえいおー!」

キラがにぱっ! と弾ける笑顔で宣言すると、頭のうえの輪っかがキラキラキラキラ光った。
気合いの表れのようだ。

「みんなが精霊の友達でよかったねぇ。精霊……お友達いっぱいだね」
「希少な称号のはずだったんだけどな。ネッシーってば、うちの従業員とも波長があったらしくて仲良しになったんだって。あとアネース王国でこの称号持ってんのは、国王様くらい……私たち入れて、計五人?」
「国王級」
「それな」

また国王様もバカンスきたいとか言うのかなー……なんて考えて、レナはブルリと頭を振った。
ありえそうすぎる。

アリスとモスラはラビリンス転移後、もちろんバタフライ便でトイリアに飛んでかえるそうだ。
どうしても外せない商談があるらしい。

ちょっぴりごちゃごちゃしたけど、まとめ!

パトリシア、モスラ、アリス、キラがこっちで朝食。

レナたちは、悪魔食堂デモンズパラダイスでモーニングだ。

「「またね!」」

──レナは魔王国に向かうラビリンスのゲート・オープンを行いながら、しんみりと考える。

(これから、こういう風にバラバラに動くことが増えるだろうなぁ。拠点をかまえてときどきお出かけってペースになると、それぞれ自分に集中できてやりたいことも見つかるよね。サポートしてあげたい。別行動してても、私たちはレナパーティ、家族みたいなものだから。絆はここにきちんと)

レナはそうっと胸に手を当てた。

「どうしたの?」

眩しそうに目を細めて顔を覗かせたルーカを、気まぐれにわしゃわしゃと撫でまわす。
肩の長さの金髪がきらきらと乱れる。

「えっとね。新しい従魔のみんな、どんな子たちが推薦されるのかなって! イメージしてた〜」

(((超知ってる)))

「みんな、仲良くしてあげられそう?」

「もちろん(選んだから)」
「まかせて(教育するから)」
「楽しみだね(赤の信者をふやそうっと)」

「先輩たち、えらーい!! ちょっと心配してたけど、その頼もしい笑顔見てたら私の方が励まされちゃったよ。これはご褒美が必要だね? よーし、モーニングのあとデザートもいっぱい頼んじゃおう!」
「「いいねー! ぱふぱふ〜!」」

赤トンボの舞う、ラビリンスの道を、レナたちが歩いていく。

揃った足取りで、ここにいるみんなとの時間を大切にするように。

ラビリンスの赤い空は、レナのマントに包まれているようなので、従魔たちのお気に入りだ。

▽魔王国についた!
▽デモンズパラダイスに向かおう!

***

「「おはようございます」」

レナと宰相がぺこりと頭を下げる。

魔王国からやってきたのは、魔王、宰相、ノア、グルニカの四名。

「おはよう……」
(魔王様が……おとなしい……!?)

レナは驚愕の目で魔王をしげしげ眺めてしまった。

相変わらず威圧感のある長身はかわらないが、いまはどことなく猫背気味で、黒紫の獣耳がしゅんと伏せていて、目つきがとろんとしている。
喋り方にも覇気がない。いやあっても困るけど。

話しやすい……こんなこと初めてだ……とレナは感激した。

「父様は朝に弱いんだよ。主さん」
「ねー? 子犬っこみたいー」

オズワルドが意味深にそう言って、隣のハマルがなにやらVサインしている。

宰相がため息をついた。

(なるほど朝に弱いところを強化、と。したたかになりましたね)

くあ、とドグマが大あくびした。

「グルニカの脳にはそれなりの規制をかけてあります。暴走して行動することはないでしょう」

こちらも抜かりない。

夢組織戦でグルニカが自由に動いていたのは、緊急事態だったからなのだ。
いまはまだ、魔王国宝物庫からカンテラを盗んだ罰を受けている。

ホッ、とレナパーティは安堵の息を吐く。
だってモーニングは美味しく食べたいから!!!!
お行儀のいいグルニカ、大歓迎だ。

「みなさま、成長なさいましたね。とてもすてきです」
「「やっほーノアお姉ちゃん!」」

きらきらした目で上目遣いに見上げてくるノアの前で、クレハとイズミが、混ざって、紫のクーイズになってみせる。
するとさらに少し成長して、身長が5センチ伸びた。

「わああ! きれい……!」

うっとり告げるノアに「ブリリアントな輝きでしょ?」と宝石スマイル。
パチンとウインクをした時に目の端からこぼれたほんの小さな真珠を「あげるね」とプレゼントした。

ノアのちいさな手のひらに、ころんとふたつ、真珠のまろやかな輝き。

「クーイズ先輩っ。あのね……これだけもらっても、困ると、思うの。アクセサリーにしちゃおう……!」
「いいじゃんリリー」

後輩リリー、まるで止めない、勢いは加速させる。

「はいこれ、ルーカの、長い金髪を……細く編んだもの。ブレスレットの鎖になーれ。付与魔法[光沢付与]」
「ブレスレットの留め具はこのハーフハート型を使うと似合うと思うのじゃー。せっかく二つあるのじゃし、ムフフ、二つを合わせたら真のハート形になる仕様! では、妾が持っているので。壮絶耐久なめるでないぞ」
『つまり我々が待望されているわけだ! 燃えよ白炎』

▽キサの手のひらで 白炎のきらめき。
▽アクセサリーの鎖が |緋々色黄金《ヒヒイロカネ》になった!
▽金髪の悪運→幸運+30
▽真珠にかけられていたサンクチュアリが解かれた。

「みんなまってよ、真珠まで燃やすところだったからね!?」
「「『あーー』」」
「舌ペロリ、じゃなくて、次は気をつけようね」

「君もいい加減そこじゃないと思うぞ、ルーカ……。そもそもこんな道端でトンデモアクセサリーを作るんじゃない!」

ロベルトが苦言を呈する。

ほんの一瞬のできごとだったし、宰相の娘の前だったので、止める隙がなかった。
ノアはぽかんとしている。

宰相がロベルトに目配せする。

「これをしっかり見ていたのはひとりですね。狩ってきます」
「モーニングまでには戻りなさい」
「承知いたしました」

ロベルトが立ち去った。

レナパーティが目立つ容姿で目立つ人数で目立つことをしていても、魔王国の中ならば、サポートが手厚いので、問題なく過ごせる。

ありがたく思うとともに、あとでシュシュが覚えたての[エンジェルヒーリング](武闘派)を使ってあげようとシャドーボクシングを始めた。|お茶係《キラ》がいないから。

「はい、ノアお姉ちゃんどうぞ。とってもいいことあるといいね!」
「キラキラ、綺麗、でしょっ。シンプルだから、可愛いあなたを、引き立ててくれるはずだよっ」

「せっかく二つあるのじゃから、想い人に♡ 贈ると♡ いいと思うのじゃ♡ 妾はそのような乙女の恋物語がとても好きなので、その後を聞かせてくれるのを楽しみに待っておるぞ!」

「ひゃああぁ……!」

ノアがあわあわしながら最高級ブレスレットを受け取る。
恋を願われて赤くなり、このブレスレットの価値を考えて青くなり、忙しい。

困って、父を見上げる。

「もらっておきなさい」
「は、はい。あの、片方はお父様に……」
「……………………気持ちだけ受け取ります。ノア、あなたが贈りたいと思う異性が現れた時に、それを贈りなさい。レナパーティが望むのはそのことのようです」

「う、うちのキサがすみません!!」

親子愛に感激して泣いていたレナが、キサとともに頭を下げる。

(まずい。キラがいなくなって、なんかそのぶん、他のみんながハッチャケ始めてる気がする。なんでぇ!? うちのパーティのハッチャケトラブル数値は固定なの!?)

▽そうだろうなー。

横では、寝ぼけた父親に寄りかかられたオズワルドが「重いっ!」と脛蹴りをキメている。

「レストランに入ろう!!!!」

▽まだ入店すらしてない〜〜!!

レストランの厨房の窓から、外の様子をうかがっていた大悪魔ニスロクは、団体の良心レナを眺めて、ホッとした。

(新作デザートをサービスするとしようか)

▽モーニングを食べよう。

 

 

 

 

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