232:従魔の裏会議

キラの能力で、眠るレナの上はプラネタリウムのようになっていて、あとの半分はサイバールームのようなかっちょいい内装に変化している。

テンション上がるぅ! ……とは、能天気な幼従魔たちの感想。

ツッコミをする者? 寝てる。

ウィンドウがずらりと並んだ。
クーイズのなんとも明るい「ぱふぱふ〜!」とともに自己紹介だ。

<シヴァガン王国宰相、サディス・シュナイゼです。本日は魔王ドグマ様の代役を務めてまいります>
<アネース王国国王、アレサンドラという。よろしく頼む>

「ではでは、精霊の皆様方もよろしくお願いしまーす!」

ゲホゴホっと重役たちが噎せた。
たち、ってなんだ! と、叫びたいところを我慢だ。

『アネース王国のー ラチェリにいる大精霊 シルフィネシアだよー♪ みーんなー! ネッシーって呼んでねっ』
『住所はレナパーティ、白炎聖霊のカルメンという。そうだな、我々をカルメンと親しく呼びたければ挑んでくるがいいさ。白炎とともに迎えてやろう』
『スカーレットリゾート・エテルネルージュにてレナ様と同棲しております、ルージュと申しますわ。また遊びにいらしてくださいましね。すてきなお土産を期待しています』

▽クセが つよい!!

全員が仲良くする、というのは今回の目的ではないので、サクサク議題を進めていこう!

キラが星の杖を振ると、ウィンドウの左端に小さめのサブウィンドウが表示されて、箇条書きで議題が表示される。

合計みっつ、凝縮してまとめた。
意外と少ないのは、もうそれなりに夜も更けてきているから、幼従魔が眠そうなのだ。

キラが人差し指を上げる。

「ひとつ。アネース王国ラビリンスと、こちらのダンジョンの泉を繋いで行き来する、その許可をください! アレサンドラ国王様〜」
<簡単に言ってくれるものだな……>

国王の苦笑がそれは重々しい。

<無茶なお願いごとだ>
『そんなことをいわないで〜』

国王のうしろに、パッ! とシルフィネシアが現れる。
先ほどは背景がラビリンスだったはずなのだが?

──なんだと!?

大精霊にまとわりつかれている国王はがくんと顎を落として驚愕しているし、宰相サディスは眉間にぎゅっとシワを寄せた。

二人がウィンドウ越しに目配せして、あらためてレナパーティを眺める。

▽主人が寝ている。

▽つまり従魔が自重しない。

▽やばい!!!!!!

あらためて、いかに王国の重役であろうとも、この場の主導権は圧倒的にあちらなのだと理解させられた。

遠方なので威圧も魔法も届けられず小細工できないし、いざとなればキラはぶちっと通信をきって、自分の気ままに物事を進めるだけなのだろう。
この場で行われるのは、承認のお願いつまりは連絡なのだ。
けして交渉ではない。
むしろ連絡するだけレナパーティの温情というレベルである。

宰相たちにできるのは、その連絡内容をちょっと常識的に修正することくらいだ。
なお、元の議題がアレなので、ちょっと……が世界規模の大改定であるが。

<シ、シルフィネシア様。今の移動は一体どうやって……!?>
『んーとね、キラがこうやって場をつないでくれているとー なんかするってとおりぬけられる 道ができるのよー。水がながれる抜け道みたいなものかなー? あっ、ウィンドウって湖面のようだよねー。おもしろーいっ』
<……その移動範囲とは、アネース王国内もしくはあちらのダンジョン限定ということでしょうか?>
『そうねー。いまのはとくに アネース王国内だからかなー。 シルフィーネたちは アネース王国のみんなの信仰心で存在しているからー その範囲はとくべつなのって、おねえちゃんにきいてる。とくべつだからとくべつなのね〜♪ こないだあちらに行ったときには、キラの召喚術があったからこそだし〜』
<…………!? あの外出は……え……精霊召喚など聞いたことがございませんが!>
『いってなかったっけ? てへ♪』
<レナたちと話してたのよー、としか…………その召喚術、この世界のどこにでもシルフィネシア様が喚ばれてしまうということですか!?>
『お友達のレナたちのそばだけよー。だーいじょうぶ、なんかね、わたしとあちらを繋いだのって精霊の友達だからだもん〜』

大変な情報ですぞ! とアレサンドラ国王が見つめてくる視線がきッッつい…………と宰相サディスは思う。

だって現場でサディスティック仮面として活躍していたのだからなんてことはないんだけどもなんかちょこっとは知っているのだ、うん。

<もしもそのリゾートの湖面で移動した場合、大精霊シルフィネシア様の活動範囲はどれくらいになりますか? 本日の議題はそこかと思いました>

宰相がサポートをする。

『どうなのかしらー? キラ』
「ダンジョンの敷地内のみがシルフィネシア様の活動範囲となります。ジーニアレス大陸のどこかに行ってしまいアネース王国に帰って来なくなる……なんてことはございませんよ!」
<……一安心ですね……>

アレサンドラ国王が、ほーーっと深く長く息を吐く。せめてレナパーティの周辺であれば、ギルドカードも冒険者ランクAに更新されているというし、防衛期待できる。

あらあらだいじょうぶー? いいこいいこ〜と大精霊の癒しをいただいてしまった国王は、体力が回復して、心がいっそうしんどくなった。

(エリクサー現象ですね……よく分かりますよ……)

宰相の目がすうっと細くなり、頷く。同情だ。

『おやすみのときにレナたちと遊びたいんだ〜。ねぇねぇー おねがーいっ』
<確かに最近、ライブや国内の精霊催事などで働きづめですからな……我々としても、シルフィネシア様のリフレッシュになるなら協力したいのですが、何せ大陸を挟んだ国家間の移動になりますから、とてもむずかしく>
『むぅ。かってにいっちゃってもしらないんだから〜!』
<承認いたしますのでぜひ国のものに逐一連絡をして頂きたく!! 行き先と帰りの時間と何をなさってきたかどうかお知らせを!! どうか!! よろしくお願いします!!!!>

これはあくまで業務連絡なのである。

そしてレナは寝ている。

アレサンドラ国王はまだ、成長した従魔と精霊たちを含むレナパーティへの対応に不慣れであったのだ。
宰相サディスはデスクの下で、そうっと手のひらを合わせた。合掌。

▽ダンジョンの泉から 大精霊シルフィネシアが 現れることになった!

『わーい! わーい! パトリシアたちも連れていこうっと〜』
<国民の移動も可能なのですか!?>
『レナのお友達げんていかな〜? そのときのれんらくはするよー』
「もしもそれは不可能ならば天帝ヴィヴィアンレッドバタフライのモスラが天空を送迎いたしますから、その申請だけ受け取っていただければ」
<てんてっ!?!?>
「進化いたしました」

アレサンドラ国王はウィンドウ越しにあのおそろしい身内贔屓執事を見て、ぞわっと鳥肌を立て、巨大バタフライの飛行時準備の手間をてんびんにかける。

<絶対に、シルフィネシア様湖面移動の際には国にご一報くださいませ。それならば、精霊の友達の移動だけで……あれば……>
『ありがとー!』

ギュギュっと抱きしめてくれる大精霊シルフィネシアの行動に心ときめかせてしまうのは、どうしてもアネース王国民のサガなのだろう。
先ほどは杞憂がしんどくて余裕がなかったが、一旦決断をしてしまったからには、やっと大精霊に癒されることができたようだ。
ハミングするような歌声はとっておきの『ありがとう』のご褒美。

そちらの番ですぞ、とアレサンドラ国王が宰相サディスを眺める。

宰相は重々しく頷く。
キラがウインクして、指二本を立てる。

「ふたつ。こちらで更生する予定の、夢組織のメンバーについて……我々従魔がきちんと選定したーい!」

ガッ!! 従魔たちが拳を天に掲げた。

威圧感が、すごい。
ウィンドウ越しだというのに、空気で締め上げられるような錯覚を宰相が抱くほどだ。
それくらい、レナパーティという組織が崩壊することを従魔は警戒しているのだろう。

この更生について、きっかけとなったイラの呪いが残る手首を見たオズワルドは、苦笑した。
たしかに呪縛かもしれない、これがあるから主さんはよけいに張り切るんだし、と思う。

<各メンバーがどのように過ごしているか……教えましょう>
「あ、いえ、時短で。こちらに送られてくる可能性があるメンバーだけでいいです」

キラがぴしゃりと遮る。
真剣な気持ちでこの場にいるものの、眠そうな後輩もいるので。睡眠大事。

「ミィも……新しい子のこと……一緒に選ぶノヨー……あふぅ。問題児は、だめだモン。……くぅ」

ミディがモニョモニョ言って、ふにゃふにゃの拳を「えいえいおー」とつきあげた。

膝に抱えているレグルスは、苦笑い。
自分が問題児だった自覚があるから、よけいに、ミディの言葉の真髄がわかるのだ。

これからリゾートダンジョン調整や白炎聖霊杯探しなど、やることがグンと増えるというのに、もしも手を焼くものが来たらレナが倒れてしまう。

「というわけです! イイ子がイイな!」
<分かりました。メンバーリストをそちらに表示していただくことは?>
「可能です。その悪魔文書でいいですよね?」

宰相の手元にあった紙を、キラが的確に言い当てて、ウィンドウに映し出した。

夢組織の名前と各種族、ステータス、過去、現在の性格が書かれている。
これらはきっと国属の魔眼使いたちが入念に視たのだろう。

痛々しいですな……とひとりごとのように呟かれたアレサンドラ国王の声音が切ない。

このメンバーが事件を起こしたことは事前に伝えられている。

ダンジョンで更生するというならば、そこに大精霊シルフィネシアを外遊に行かせるアレサンドラ国王が知っておかねばならぬことだ。

ルーカがポツリと言う。

「レナなら……境遇が壮絶で救いづらい子ほど、癒してあげたいと思ってしまうかもね。それから、迎えなかった者たちのことをくわしく知れば知るほど、ずっと気にかけるだろう。僕は実例をもって、そう予想するね。だからレナへはメンバー一覧表ではなく、迎える者たち限定のステータス開示にして下さい」
「さーすがルーカティアスさん、冷静さとネガティブの合わせ技〜!」
「ええーぃ、ポジディブパンチ! ふあぁ……」
「リリー、威力がよわよわ」
「「眠気なんかに、負けないモン……」」
「リリーとミディが寝ちゃう前に、決めよう。ご主人様の負担少なめでご主人様が触れてもいいご主人様にちゃんと笑顔を返すようなご主人様ご主人様ご主人様」
「落ちつけシュシュ」

従魔たちがわいわいと、しかし普段からは考えられないような真剣な目でブツブツ呟きながら画面を凝視して吟味する様子は、なるほど打算的で、レナにはちょっと見せられない。
…………
……

「きーめた!」
「この子たちを勧めてください」
「後ほどレナが魔王国に行ったときに、さりげなく。お願いしますね」
「こちらの更生は頑張るから。だから、シヴァガン王国でも更生努力してほしい」

<尽力いたします>

ひとの心を完全に変えられるなんて確約はできない。
宰相が尽力を告げたのは、最大級の肯定の返事であった。

・ジレ……[煉獄火蜥蜴]

・アグリスタ……[スケルトンホース]

・マイラ……[シルクゴースト]

・ギルティア……[|砂漠の魂喰い花《デザートギルティア》]

宰相が頷く。

ギルティアはもともとクドライヤ・パトリシアが手助けする予定だったのでダンジョンに呼んでくれるなら助かる、ほかの子はまだ幼く性格的にも制御しやすいだろうと納得した。

「みな、心の底で『変わりたい、救われたい』とつよく願うものたちです。何卒よろしくお願い申し上げます。首輪付きで送るので、無茶な破壊行動をすることはございません。……更生が難しそうなメンバーの情報は、できるだけ伏せる。そうですね。とくに、まだ更生することそのものに迷いがある傷が深い者……スイとマルクは、入念に更生させるまで望まれても会わせません。罪量奉仕作業で己に向き合ってもらいましょう……」
「罰、ということですね」
「どんな事情があれ、他者を率いている責任は大きいのです」

……承認が得られたので、幼従魔たちがふわふわフラフラとしながら、レナの元に集っていく。
一番のベストポジション、レナの腕の中に潜り込めたのは今日はリリーだった。

「えへへぇ♡」

幸せそうな微笑みとともに、すぐ熟睡。
シュシュはレナの背中にくっつき、ミディはすぐに寝返りをうってしまいロベルトの生体ふとんになった。ひんやりぬめり。

「おまえもいっといでー」
「え? 僕はまだまだ大丈夫だけど、クーイズ……」
「まだ子猫ジャン!? 進化後でいろいろ不安定だよねってレナに心配かけたばっかなんだからさー。ほらいっくよー、さっさと子猫になーれ!」
「のわあっ!?」

クーイズがよっこらせとルーカを持ち上げてぶん投げると、風船のようにかろやかにゴールデンベッドに飛んでいく。
仕方なく子猫姿になると、レナの頭の上あたりで金毛に埋もれながら丸くなった。
……やはり、すぐに快眠してしまう。

「手助けありがと、オズ!」
「ん」

コツンとクーイズとオズワルドが拳を合わせた。

(また……比較的常識人がいなくなってしまった……)
(あの子は……もしかして!?)

宰相が遠い目になり、アレサンドラ国王はハッと勘付く。

キラはぱっちりと目を開けて、指を三本立てた。

「さあみっつめ」

 

 

 

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