230:温泉入浴(男子たち3)

「そういえば君たち、仲間内での恋愛は?」

▽ロベルトの広範囲攻撃!
▽ルーカは逃げ出した!

「ちょっとみんなと一緒に遊園地で遊んでくる!! あっ」
「そんなに急ぐと転びますよー」

ルーカが見事なタイミングでつるんと足を滑らせたので、クーイズがぬるりと受け止めた。

「ふー、助かった。ありがと……」
「せっかくならこのまま大理石滑り台いっちゃいましょう☆ [ダンジョンメイキング]」
<スライムボディでぬるぬるコースターだぜ! YAaaaHUuuu!!>
「っぎゃーーー!?」

▽ルーカは滑り台で運ばれていった……
▽スライムスライダー!!
▽ロビーで脳内アラームに悩まされていたレナは、ホッとした。

「ルーカには逃げられてしまったか……。彼の考察があるとレポートの助けになったのだが」
「いても使い物になりませんよ。恋愛感情は視れないそうで」
「……トラウマは根深いようだな。女性恐怖症ならば、レナ様も無理に直そうとはしなさそうだし」
「それにしてもまた仕事ですか?」
「できればオズワルドのことを詳しく知りたい」

温泉に浸かりながら、ロベルトとモスラが腹の中を探りあい話している。

遠方の波立ち温泉でサーフィンしていたオズワルドは、自分の話題だと思って、ムッとした顔になった。隠れて噂話されるのは好きじゃない。
[|重力操作《グラヴィティ》]でサーフボードを浮遊させて、大人たちの方にやってくる。

「……なに?」
「オズワルドの恋愛感情についてのレポートを頼まれているんだ。気になっている女子はいないのか? 従魔のみんなは可愛らしいだろう?」
「はあぁ?」

オズワルドは牙を剥いて威嚇、ため息をついて、断言した。

「ない。友だちとして好き」
「番の予感は?」
「ない」
「なんなら雄とか」
「焼き雪豹にしてやろうかコラ」
「そうですか」

ふむ、とロベルトがオズワルドを眺める。じーー。睨んでくるばかり。
ちらり、とモスラの方を眺めた。

「君は? というか前から気になっていたんだ。これほど大人数のパーティで年頃の男女ばかりだろう。なぜ浮いた話の一つもないのだろう? と」
「皆等しくレナ様の大ファンだから信仰に忙しくて」

モスラの返事も断言だ。

「なるほど……納得はできるな。レナ様のことは好き?」
「好きです!!!!!!!」
「落ち着いて」

ざばあっ!! と立ち上がって拳を握り力説するモスラを放っておくといつまでも赤の信者として語り続けられそうだ。それではロベルトが茹だってしまう。

「みんなレナ様のことは好き、と。ではレナ様を恋愛対象としてみている?」
「んー? 分かんない」

オズワルドは首を傾げて悩んでしまった。初恋もまだなので。
お湯の中のシルエットを眺めて「残念」とロベルトは頷いた。

「なにが残念、だよオイ」

オズワルドが雪豹耳をつねる仕草は、主人によく似ている。
これはレポート記載案件としてチェック。

「君は? モスラ」
「レナ様の結婚相手の理想像として『愛想よく甲斐甲斐しく尽くし、いついかなる時でもレナ様を笑顔にすることを考え、レナ様とともに過ごす時間をなによりも大切にするもの』というものがありまして」
「…………うん」
「レナ様とともに過ごす時間、これは大事です。遠方に住んでいて執事業で忙しい私は彼女の隣にいてあげられないので、恋愛感情を抱く資格がございません」
「…………そうか」

ロベルトはこめかみを押さえた。
わらわらと遊園地から従魔たちがやってくる。

「なになにー、レナ様の話ー? 結婚相手の条件〜? 『従魔全員となかよく眠れる』は大前提だよね〜! もうレナ様はゴールデンベッドじゃないと眠れませんものー」

「「あと『従魔全員よりも強い』も条件なのなっ! デートの時にレナを完璧に守れないとお話にならないもーん」」

「マスター・レナは結婚はしたいとは仰っていましたからね。ご両親が築いたような温かい家庭を持ちたいと……だからお相手は『従魔全員とたのしく過ごせる』も条件で御座います! マスターは私たちを子どものように大事に思っていますから〜♡」

盛り上がる従魔たち。
ロベルトが遠い目になるのは仕方がないことだろう。

(レナ様は……一生、結婚できないかもしれないなァ……)

この条件を全て満たすものなど化け物以外いないだろう、と結論づけた。

藤堂レナの人生設計レポートはサディス宰相に報告する予定である。
きっと設計など無意味なくらいに幸運に振り回されることになるのだろうが。

「ルーカティアスさーん? マスター・レナの将来計画について、ご希望はー?」
「ああ、そういう物言いだったら彼も問題ないのか? 参考になるな」

遠くからルーカの蚊の鳴くような怯えた声が聞こえてきたので、獣人たちは全力で耳をすませた。

「『レナこそ世界で一番幸せになってくれなくちゃだめ』」

(従魔検定が厳しすぎる!! まるでSSSSSSSランククエストだ)
ロベルトは、きゃっきゃと壮大な恋バナ(?)をして盛り上がっている男子従魔たちを、実に生あたたかく眺めた。
いつの間にかまた赤の女王様信仰の話題にそれていってしまったので(おいおい)と思いながら、

「ん?」

ひとつ、気づいたことがある。

「君たち従魔は、主人の結婚に肯定的ではあるのか。結婚なんて嫌だ! とか拒否する可能性も想定していたのだが」
「「だってレナが、結婚して子どもほしいねって言ってたしぃ〜」」
「じゃあ応援しなくっちゃねー」
「主さんの夢だもんな」
「そうか」

従魔たちは、従う者として主人に尽くそうとしている。
ではその根底にある[従魔契約]がもしもない場合だったら?
(彼らはなにを感じるのだろう?)

──ばっしゃーん!! と激しい温泉ウェーブが全員をかっ攫った。
ランダムイベントで実装していたとアナウンスするのをキラはうっかり忘れてしまっていたのだ。うっかり!!

全員が絡め取られて洗濯機のような渦巻き滑り台をたのしむことになった!

「「楽しかったー!」」
「つーかれたぁ〜……ぐぅ……すやぁ……」
「寝るなハマル。髪を乾かせ、短くなったからすぐだろ」
「髪が伸びたオズがあんなイジワル言うぅ〜〜! ボクより髪が長いって見せつけてくるぅー! うわぁんクーイズ先輩〜」
「ちゃっぽん合体、紫ジュエルだよ! うりゃ[ドライヤー]!」

ゴッ──!! 温風に少年たちがぶっ飛ばされて、転がって笑っているうちに、髪の毛がふんわりと乾いた。
余波を受けてさらに温められたロベルトは瀕死である。

驚くべき手際で髪の手入れと肌のケアをすませたモスラが、ぴしっとエルフ縫製「温泉浴衣」を着て、いち早く支度を終えた。

ロベルトの屈強な体を軽々と担ぎ上げて「涼しいところで休ませます。あと魔王国へのレポートについて協力(オハナシ)します」とひと足早くにこやかに脱衣所を出ていった。
キラが「私も協力しまーす!」と後を追う。

オズワルドとクーイズは、眠りかけのハマルを着つけた後、影の魔物とともに脱衣所を去ろうとする。
ちらり、と鏡台にうなだれる背中を見つめた。

(……ルーカ、のろのろだな。浴衣は着てるけど、髪拭くのと順番逆じゃないか? 襟元濡らして、ほんと大丈夫か?)
(色々メンタルダメージ大きかったかなー? しゃーない。クーイズ先輩がドライヤー待機ついでに見といてやるからさ、先行っといでー)
(いいのか?)
(アイスの支度をお願い♡ 我らは苺とオレンジとミルクとミントと〜)
(全部用意しとく)

グッ!! とオズワルドとクーイズがグッジョブサインを交わした。

獣二人を見送って、脱衣所の扉を閉めると、クーイズはくるーりと振り返って、苦笑した。

ルーカは髪の水気をのそのそとタオルで拭いている。
タオルの隙間からは、へにょんと折れた猫耳のさきっぽが見えている。
尻尾もまるで元気がない。

「つかれた……」

ぽつりと一言。

クーイズは入り口近くに体育座りして、ジッ…………とルーカを眺めた。
その瞳と、ルーカの髪の色は、そっくりだ。

バスタオルを膝に置いたルーカ。
意を決したように頭を上げて、鏡を覗き込んだ。
猫耳がびくっと震える。
二股の尻尾は逆立った。

目を逸らせないようだ。

適当に拭いたからウェーブしてしまった長い金髪に、自分を睨むような紫の瞳、ぐっと引き結ばれた口元は、血筋を思い知らせるには十分すぎるものだった。

衝動的に手がハサミに伸びる。

──ジャキン!!
──そのとき息もしていなかった。

「なーにやってんだ」

クーイズに頭を抱き込まれて、やっとルーカは「はっ、はっ…………げほっ」と呼吸を始めた。
「もー」と困ったように言いながら、クーイズは肩をトントンと叩いてあげる。
切られた金髪が、クーイズの手の甲にも当たらないくらい短くて(やっちまったなー。こう行動に現れたかぁ)と悠長にかまえていたことを反省した。

「……ああ、僕は……」
「ルーカ! しょうがない後輩だよ! まったくもー! プンスカ!」
「ありがと…………ん? あれ……?」
「レナの教育は魂まで刷り込まれてるみたいだね。んでもさ、ここで『ありがと』は笑っちゃうぜ!」

ケラケラ! クーイズは笑った。
カラ元気のような、とルーカは猫耳を立てて聞いてみたけど、瞳をクーイズの腕が塞いでいるから、しっかりと見ることはできない。

[心眼][千里眼]などを発動しても良かったけど、そうすると自分の中の恐ろしいものまで直視しなくてはいけない予感がした。逃げ切ったはずの祖国の手が、まるで自分の中から湧き出てきたようで。金縛りにあったように硬直する。

ルーカの手から、クーイズがハサミを奪う。

「我らがそのざんばらの髪、整えてやるからさ。そしたら改めて、ありがとうって言いなよ? どういたしましての準備はできてるぜ!」
「うん……」

まだ呆気にとられたままで、ぼんやりとルーカは頷いた。
ざっくりと束の髪を切ってしまったので、このままではあまりに不恰好だ。

クーイズの髪の紫が、つやつやとしたスライム触手になって、ルーカの髪を首元でまとめる。
切ってしまった長さに合わせて、毛先を傷めないように横一直線に[溶解]した。

残りの金髪がばさっと床に散らばった。
黄金の絨毯のよう。

「できた! ふふん、スライムジェル効果で髪の毛ウルツヤなんだぜっ。アフターケアもばっちりのなんてよい先輩〜〜♪」

ふんふん、と鼻歌を歌いながら、クーイズはドライヤーで髪を乾かしていく。
肩口でそろえられた金髪がさらさら舞って、ようやくルーカは鏡を見ることができて、長髪に隠されずに首元で光る赤い輝きを、夢中で眺めた。

「クレハ、イズミ、あのさ、僕は、とんでもないことをしてしまったのかな…………」
「どーかな。レナは泣くかもね?」
「う……」
「お前も泣くんかーいっ!?」

ルーカもすっかり幸せ者になったなぁ、とクーイズは感慨深く思う。
泣かないやつは救われる希望がみえないから泣けないのだと、そう知っているから。

体からきらめく宝石を生み出しているみたいだから涙は素敵なもの、とクーイズは思うのだ。
レナの涙もルーカの涙も、救われるから好きなのだ。
(そう、救ってもらわなくちゃね。もうすぐ幸運が来るはずだよ?)

紫髪の触手が、ルーカの頬からこぼれ落ちた涙を拾う。
するとジュエルスライムだからなのだろうか、真珠に変化させてしまった。これにはびっくりした。
(セルフ[鑑定]するルーカの心境が楽しみかもね! にしし)

思いながら、クーイズはよしよしとひたすら慰めてあげた。

「しょうがないやつだな、ブラザー。まったく可愛い後輩だよ!」

──ありがとう、どういたしまして、と穏やかに声を掛け合う。

<脱衣所に入っても大丈夫ですかー?>
「いーよ!」

キラ放送にクーイズが返事をすると、バン!! と脱衣所の扉が開けられる。

▽騎馬戦状態のレナが現れた!!
▽一喝!!

「ルーーカさーーん!!」

▽ぐわんぐわーん! と脱衣所にレナの叫びがこだまする。

ビリビリと耳をやられた獣人たちが、へにょりと項垂れた。
レナがころりと騎馬の上から転げ落ちて、下敷きになろうと滑り込んできたハマルをふんずけてしまい悦ばれた。

「うあ……大声効く……つらぁ……」
「わざと威力増しただろキラ!! ぐあぁっ……」
「はあはあご主人様のお声がとっても大きくシュシュの中に入ってきてはあはあハッピィィマイライフ……! がくっ」
「シュシュ生きろ、これから主さんのありがたいお話があるぞ!」
「生きるッ!!」

てんやわんやである。

状況を説明しよう!
ロビーで頭痛に悩まされていたレナが「脱衣所に行きたい、とても歩けないから連れてってぇ……」と気分が悪そうに言うので、誰が連れて行くかでそうとう揉めて、結局レナを担ぎ上げて全員集合というわけだ。

クーイズに支えてもらってなんとか椅子から落ちずに済んだルーカの元に、レナがふらふらと歩み寄る。

「大丈夫でしたか?」
「レナの一声にトドメを刺された気分だよ……」
「でも泣き止めたから良かったじゃーん?」

クーイズがルーカの目から腕を離して、笑顔でルーカの背を押した。

ルーカがぱちっと目を開けると、圧倒された。太陽みたいな魂の輝きに包み込まれているよう。

(眩しっ)瞼を半分おろして、ルーカはあらためてレナを見上げる。
ごきげんに獣耳が揺れた。

「はー……レナの笑顔ってすんごく安心するんだよね……」
「サービスしちゃいますよ!?」

レナは頑張って、にぱっとカラ元気で笑ってみせた。
すると不安のアラーム音のなごりが、ついに消えた。
レナ、ガッツポーズ!

「……何かありましたか? ルーカさん」
「昔を思い出したんだ。長い金髪、紫の目、青白い顔……」

ルーカは素直に謝った。

さらり、と短い金髪に触れたレナは、悲しそうな顔になった。
ルーカはそれからだんまりになってしまって、レナの笑顔がなくなったことで、またアラームがチリリと鳴る。

「おいで」
「…………」
「無理して意地はらないの。スキル[従順]おいで」
「ちょっ!? レナ強引……!」

手を広げたレナに、ルーカがおそるおそる縋りついた。
主人の側にいる従魔は、どんどんと安心していく。
呼吸が深く、寝息のようにすらなる。ルーカはとてもリラックスしているということ。

「……あのさ」
「はい」
「なんか、髪が長いの、似合うってみんなに褒めてもらえて嬉しくて。それなのに、一人きりで鏡で自分を見てみたら……恐ろしいもののように、感じたんだ。……ライアスハート王家の……ッ」
「よしよし。全部言わなくていいですよー。報告じゃありませんから。あなたの気持ちが楽になることだけ、相談とか、そんな感じで聞かせてほしい」
「……相談」
「はい。ご主人様におまかせですよ!」
「……従えて〜」
「私の可愛い従魔ネコマタヒト族、ルーカさん、大好き!」

ぐりぐり、ルーカはレナの肩に頭を擦り付けた。
ぐりぐり! レナもルーカの頭にぐりぐり返し。

……くすくすくすっ、となんだか笑い始めてしまった。

あとはいつも通り。

「大好き〜!」
「好き好き〜!」
「ねーえ、従魔仲間みんなで癒し合えばよくないー?」

レナを中心に、みんなが集まる。
ようやくルーカの体がぽかぽかと温かくなって、心を蝕んでいたネガディブな記憶を追い払った。

***

「猫耳が生えて、しっぽが二つになって。髪まで長くなったのは、今のルーカさんには、まだ早すぎたのかもしれませんね。私たちは成長が急すぎるんです。心が追いつかないこともある。だから、みんなで足りないところを補い合って上手に生きていきましょうよ。拠点ができて、もう少しだけのんびりと毎日を過ごせたらいいですよねぇ」

「……そうだね。ねえ。……また髪をすこしずつ伸ばすよ。だってこの金髪はレナのお気に入りなんでしょ?」
「うん! 切っちゃった金髪と涙の真珠でどんなアクセサリー作ろうかってリリーちゃんと盛り上がっちゃうくらいに!」
「ウヘヘ、いい仕事、しちゃうのだよ!……後輩よっ! えへん!」
「えーとね? 恥ずかしい…………まあいいや。これからも大切にしてね、ご主人様」
「そうする」

にこにこと笑いあったレナとルーカとリリーは、机に広げた宝飾素材をあれやこれやと話し合った。
もちろんキサやアリスも話に加わる。

クーイズとオズワルドが「アイスーー!!」と空中浮遊させたアイスボックスを運んできて、おいしい氷菓を楽しんだ。

 

 

 

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