227:大浴場4

温泉に浸かりながら、レナがまったりと話し始める。
みんなはそれを聞いた。

「始まりはどうしようもない理由で旅に出ることになった」

軽やかに鈴が転がる声で語られる、えげつない思い出話。
レナは遠くを見る目で、温水プールで遊ぶ可愛い子たちを映して、口元をほころばせた。
ずっとこのように過ごしてきたから、我が子可愛い! と思うのはもう条件反射のようなものだ。
そのきっかけ。

「私は、レベル1から草原に放り出されて……弱っちいへっぽこのままわけもわからず道を進んで、鞭なんてがむしゃらに振り回して、スライムを見つけた。クーイズは初めての力になってくれた。だから元気をもらってね、ひどい出発でもう心も体も死にそうだったんだけれど、少しだけ生きることができたの。それからはリリーちゃんと出会い、ルーカさんと出会い、ハーくんと出会い……力を貸してもらえたのは、まさに延命って感じだった。戦闘力も、精神的な支えとしても。それがなかったら私、きっととっくにくじけてた」

ほうっとレナが息を吐くと、それはどんな形になろうか迷ったのかもしれない。
モヤモヤと迷ってたゆたう。

じれったくなったカルメンがいじって白炎の火種にしてしまった。
ぼうっ! と一瞬強烈に燃えると、緋々色黄金となって落ちてくる。

四人娘が大慌てで手を差し伸べて、拾った。

『出会いがあってよかったなァ、レナよ! 我々との出会いの気持ちも聞きたいものだが?』
「はいはい。もう! 順番にね」

嬉しいよ、と言って[白炎聖霊の司祭]の称号をセットしてあげると、カルメンは満足したみたいなので、いったん放っておく。
ルージュがクスクス笑った。
レグルスだけが役職的に気が気じゃない。

「……魔物と従属契約をしたってことは、野生の世界から魔物としての生き方を変えてもらったんだよね。私と一緒に生きてくれる従魔たちを、絶対に死なせたりしたくないって、そんな気持ちで歯を食いしばって、トラブルから全力で逃げた。時には真正面から踏んづけて駆け抜けていったっけ。それも全部、従魔のみんなやお友達と相談してね。そうしたら『できる!』って思えたもん」

レナはアリスとパトリシアと、手を繋いだ。

パトリシアの手は大きくて指が長くて、日々力仕事をしているので節がすこしゴツい。
アリスの手は小さくて繊細で、でも会計仕事をするため皮が厚くてペンだこができている。

スチュアート邸での『悪者退治だいさくせん!』を思い出してクスクスと笑った。

泥棒たちを庭のトンデモフラワーで追いまくったり、お屋敷のトラップの数々についてレグルスに話すと、肩を震わせて笑いを堪えている。

お湯にぷかりと浮かんだたわわな白い果実も、ぷるぷる震えていて、セクハラすべきかレナはちょっと迷って「あとで」にした。

「運命に手のひらで転がされてるみたいにひたすら旅をして、こんなに遠くまでやってきちゃった。感慨深いよぉ。まだ一年も経ってないんだよ? それなのにギュギュッと思い出が凝縮されてて、すごく充実した人生を送ってる! あはは」

運命はレナパーティをとうてい扱い切れていないので、概念ですらレナパーティの大きすぎる器に転がされているようなものだ、と言っておこう。

「お膳立てされていた道じゃない。さっきも言った通り、私は弱くて職業は不利って言われてる魔物使いで、環境はいつ死んでてもおかしくないようなもので。応援してくれる従魔とも一緒に成長したんだ。幸運にも[レア・クラスチェンジ体質]の恩恵を受けられたけど、ここに辿り着くまで死ななかったのは本当にラッキー以外の何物でもなかったよ……!」

強くなればなっただけ、また別の脅威がトラブルとして舞い込んでくる。
これからもそのようなことは続くだろう。
レナたちが注目を集めてしまう限り。

レナは名声には興味がないけれど、時としてトラブルの原因にもなる従魔たちを手放す気はない。
どんなに地位が高い強者が求めてきたって、従魔本人が望まなければ、その旅立ちを絶対に阻止するだろう。
だって、魔物使いのご主人様なのだから。

レナが首を横に振る。

「まだまだ、私本人は未熟で弱くて、みんなの力を貸してもらえるけれど、私が攫われでもしたら終わりなんだって、夢組織と戦ってわかった。もっともっと、強くなりたい。守りたいものを、守れるように。できることは、なんでも頑張りたい。好きな人に幸せでいてほしいから!」

ざばーん! とレナが立ち上がって、拳を握って力説する。
この拳の小さいこと。
頼りないな、と思って、まだまだまだまだ頑張るの! とレナは目標を限りなく高く定めた。

「……レナはそれ、幸せ?」
「もちろんだよ! だって好きな人が笑ってるのって幸せでしょ? パトリシアちゃん、アリスちゃん、レグルス。笑って!」

レナは即答した。

ここで恥じらいを見せていては女がすたる!

にいっ! と嬉しさを思いっきり込めた笑顔で、三人はレナを見上げた。

「んん〜〜! 幸せゲージが振り切れたー!」
「ほんっと可愛いやつだよな、レナは」
「分かるー。ここまで好意を示してもらったら、協力しようって思わない人っていないよね? あ、レグルスさんが顔真っ赤」
「い、一生貴方の騎士であります、レナ様……!」
「のぼせた?」
「言葉遣いおかしくなってるよレグルスさん」

レグルスが一呼吸するたびに、口から漏れ出る息がハート形になるので、おちゃめな仕様にレナは大歓喜したし、パトリシアとアリスは笑いをかみ殺すのに必死だ。

(魔王国の諜報部って勝手に宣誓して良いんだっけ……?)
(白炎対策本部だよパトリシアお姉ちゃん。だからカルメン様がいる限りレグルスさんがレナパーティを優先したって良いし、従魔であることも権利として認められてるから)

二人は祝福のゆるーい笑顔で、レグルスを眺めた。
感激したレナに抱きつかれて、ぼわっ! と炎の赤色の髪を逆立てている。
もうズギュンと心に矢が刺さって生涯抜けそうもない。

レナの長い黒髪がお湯をたゆたって、レグルスの肌をいたずらにこすってこそばゆいようだ。もぞもぞしている。
それからレナはレナで、触れ合いを愉しんでいた。

「なんという魅惑のレグルスボディ……! すべすべなめらか、ウッ凹凸が芸術的……抱き枕にしたいくらい……抱きつき心地が良すぎる……!」
「俺のコンプレックスでもあるのですが……いえ、コンプレックスでしたけれど、レナ様がお好きなのでしたら、それで良いです」
((出た、従魔の常套句))

パトリシアとアリスが「あるある」と頷く。

「良いなあ、おっきいお胸……いいなぁァァ」
「差し上げますよ」

俺はもうレナ様のものですし、というレグルスの小声の告白をレナが拾う余裕はなかった。

「う、ぐわあああああッ」
「レナーーーー!? 死ぬな!」
「生きて! ここにきてメンタルダメージでやられたら旅の努力が台無しだよ! ほら脚に力入れて、ふざけていると大理石で頭打って本当に死んじゃうからね!? 立つ!!」
「ハイアリスチャン……」
「容赦ねぇ……」

レナがショボーンと浴槽で正座していて、暴れた影響で髪がブワワッと広がっているので和風幽霊のようだ。
てへ、とか弱い笑みを浮かべる。

……ぷっ、とみんなで噴き出して、それから笑い出すことになった。

真面目なレグルスはあわあわしていたら、パトリシアに肩を組まれて巻き込まれていた。

笑いすぎたレナが、目尻の涙を拭う。

「これからもこんな風に生きたいな! ひょんなことから従魔に出会って、結んだ縁を大切にしてさ、幸せに生きられるように、主人として友達として何かしたい。そう考えていたら、きっと私、いつの間にか長生きしているような気がするんだー」

レナがなんでもないようにさらりと言ったことは、誰にでも口にできることじゃない。
本心から呟かれたこの言葉が、いったいこれからも何人の心を救うのだろうか。

レグルスは心臓部に拳を当てて、レナへ頭を下げていた。

パトリシアとアリスがレナに手を差し出す。

「その生活に彩りを添える、ユニークな花はいかが? フラワーショップ・ネイチャーです!」
「その生活をより豊かにする、数多の魔道具はいかが? バイヤーのスチュアート商会です!」
「よろしく!」

しっかりと握手をした!

ざばーん、と引っ張り上げられる。

「考えること難しすぎ、私たちちょっと大人になりすぎだよ。ちょっと子供返りしに行こうぜ!」
「何その提案めずらしすぎる」
「子供扱いしてくれたっていいのよ? レナお姉ちゃん」
「……了解。子供のアリスちゃんのお友達の私は、子供だね? ってことは、レグルスも子供ね!」
「レナ様!?」
「おいで私の可愛い従魔!」
「がうっ!……ハッ!?」
「あはは!」

レナたちもみんなで温水プールに向かった。
途中で水着姿になる。

大理石の上ではしゃいだら危ないよ!
でも子供だからちょっとはしゃいじゃうのは、いまは仕方がない。

レナがすっ転びかけた時、大理石の床が盛り上がって、もうそれごと滑り台になってしまった!

▽ダンジョン! ダンジョン!
▽改造! 改造!

カルメンとルージュがふーーっ! と息を吹きかけると追い風が起こって、びゅーん! とすごい勢いで滑っていく。

「きゃーーーーっ!」

▽女の子たちが合流した!

「いーれーて!」
「いーいーよ!」

「仰せのままにいいいぃ! キャーご主人様キャアア水着姿可愛いいい!」
「シュシュ、鼻血鼻血……! リリーちゃん舐めないの!? それ血だけども!」

ちょっぴり世話も焼きながら、あとはめいっぱい、プールで遊んで温泉に入ってのぼせた!

▽女の子の入浴完了。

 

 

 

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