225:大浴場2

脱衣所は浴場のとなりにきちんと作られている。
コンセプトはリゾートの温泉入浴なのだ。

先ほどとは違う扉から(さっきはキラが業務用扉のようなところから直接浴場に案内した)まずは脱衣所にレナたち女の子が入る。

サロンのように並ぶ鏡、10種類ほどがズラリと並ぶ化粧水コーナー、フカフカのタオルは淫魔のお宿♡系列製品、ロッカー、そして魔法陣がいくつか。

「至れり尽くせりぃ!」

レナは感嘆の声を上げる。
これまで経験したどんな入浴所よりもすんごい豪華な脱衣所だ。
それが、まさかのマイホームに設置されている。
まあロビーしかり、大浴場しかり、非常識な豪華さは今更ではあるが。

「すっご……これってレナの故郷式?」
「えーとね、パトリシアちゃん。故郷の施設にはこんな感じのとこは確かにあるから、参考にして、キラがもーっと豪華にしてくれたと思うの」

鏡を縁取るきんきらきんの装飾をレナが呆れた目で見ながら、答える。

「もうここそのものが国宝というか世界の財宝庫よね……|緋々色黄金《ヒヒイロカネ》とスライムジュエルを踏むなんて!って戦慄してた時もあったけれど、いっぱいあるとさすがにその意識は薄れてくるわ……」
「アアアリスちゃん、しっかり!? 目から光が消えてるよ!? そうだよね商人だもんね……でも意識が薄れるだけでモノの価値はきちんと押さえてるのがえらい」
「バイヤーですもの。でもこの|緋々色黄金《ヒヒイロカネ》を流通させる気は起きない」
「アリスちゃんにこんなに言わせるなんて!? すごいよカルメン!?」

急きょ流れで褒められたカルメンは、目をぱちくりとさせた。

『まあ我々は偉大なる白炎聖霊であるからな!! 賞賛を浴びるのは飽きるほど当たり前なのだが、なぜだろう、レナにそう言われると悪い気はしないのだ』
「褒められて悪い気になったらそれはもう重症だよカルメン……」

レナはちょこっとずつ定期的に褒めてあげることにした。

それよりも、キッズコーナーで遊ぶうちの子たちが可愛い!!!!

「キャー! おっきなぬいぐるみ、これ、乗れるやつナノ!?」
「ポニーみたいだね」

レナがミディをひょいと、ポニーの等身大ぬいぐるみに乗せてあげる。
ぱかぱかと安全な速度で歩き出した!

「キャー! キャー!」

はしゃぐミディはこれに夢中だ。
服を脱がすのに苦労しそうだなあ、とレナは思いながらも、あまりの可愛さに顔がにやけてしまう。

(男の子たちに、ちょっと時間かかるよーって言っといてよかったー)

「見たことがない化粧水がこんなにたくさん! うわあぁ!」
「キサさん、それってミレージュエ大陸産なの。こっちではまず手に入らない、プリンセスが使うようないいものだよ?」
「素晴らしいのじゃ! えーと……」
「どうかアリスと」

二人は交友を深めている。
キサの花が香るような微笑みを、アリスは惚れ惚れと眺めた。

「アリス。この、瓶の中に花びらが入ったものは?」
「ロマンティックリリーの浸透化粧水です。お肌の奥にまで美容成分が入り込んで、もちもちプルプルのお肌になれますよ」
「手の甲に試してみても!?」
「ええ、ぜひ。手伝いましょうか?」

営業トークのようなアリスの語り方は、つい癖が出てしまっているのだ。いつの間にか敬語になっている。
百合の香りがふわりと広がる。

リリーとシュシュが魔法陣をつついている。

「なんだろ、これ……?」
「キラ先輩が、危ないもの、置いてるわけが……ないの! 入ってみたら正体がわかるよ」
「その心意気やよし、リリー! 押忍!」

赤と青、2種類の魔法陣に二人が足を踏み入れる。

丸い魔法陣を光が縁取って、円柱型に魔法効果が現れた!
リリーには涼しい風、シュシュにはあったかい風。
乳白色と桃色の髪が、ふわふわと宙に揺れる。

「「おもしろーい!」」

(そして貴方たちは可愛い!!)

レナが崩れ落ちた。
床に膝をついて、ニコニコとリリーとシュシュを眺める。
ドライヤーが楽になりそうだ。全員分をクレハドライヤーで乾かすのは外出時のみになりそうで、ちょっと寂しいけど。

「早く着替えようぜ」

実に正論。

パトリシアがレナの脇に手を差し入れて、立たせた。
すぐにふにゃりと膝が折れる。

くすぐったいぃ! と笑ってしまっているのだ。
全くしょうがない主人だな、と言ったパトリシアの目は半月型で、

「おりゃああ!」
「アヒャヒャヒャ、やめてー!? そこはくすぐったいからまじで本当にぃ! ふあはははッ!!」

くすぐり攻撃により、レナが床に転がって足をバタバタさせた。
床は柔らかな布素材なので(最高級吸水じゅうたん)レナも寝っころがり方がどこかくつろいでいる。
ヒーヒーぜぇはぁ肩で息をしているけれど。

「ミィもいーれて!」
「お?」

ミディがパトリシアの手の下に滑り込んでくる。
新たな遊びだと思ったようだ。

「「いーれて!」」

リリーとシュシュはレナに抱きついてくる。

「いいだろうまとめてくすぐり大王の餌食にしてくれるわーッ!」

▽パトリシアの 柔軟な指先!

賑やかな笑い声が脱衣所に響いた。

そう、ここは脱衣所だ。

「パトリシアお姉ちゃんまで目的忘れて遊んじゃってるよ……」
「そうだな。まあレナ様が楽しそうならそれでいいけど」

レグルスがタイミングを見計らって、レナが本当に苦しそうになってきたら、仲裁してとめに入る。
呼吸が苦しくなっているか、レナの喉の動き方と息の乱れを、仕事での経験を生かして計ったのだ。
パトリシアは友達思いだけれど、つい調子に乗ってしまうようなところはある。

(うーん、進行がままならなくて全員ちょっとずつ問題アリなんだろうけど、レナお姉ちゃんが愛されてて、幸せな環境にいるならよかった……)

レグルスたちは従属のきっかけが「のっぴきならない事情により仕方なく」だったと聞いていた。
だから心配もあったのだけど、みんなの雰囲気を見ていると安心だね、とアリスは微笑んだ。

(さすがレナお姉ちゃん)

「レナ様ー! この化粧水すごいのじゃ! ほらほら肌にとろみが!」
「あっちょっキサ、待っ、冷たっ! そのヌメヌメする手はひゃあああ!」

たまたまガードフリーだった太ももに冷たい手をえいやっとされたレナは、悲鳴をあげた。

脱衣所だってば!!!!

「服、脱ぎましょう?」

アリスの笑顔で、全員が反省した。

「とはいえアリスよ、妾たちの着替えは一瞬で終わるのじゃ」
「あ、装飾保存ブレスレットがありますものね」

キサが誇らしげに「レナ様に買っていただいたブレスレット」を見せると、白くて細い手首を彩るマーメイドパールの宝飾品に、アリスの目が釘付けになった。
経験により、一瞬で材質の「ヤバさ」を知る。
アリスの[鑑定眼]ギフトくらいでは全てを視破れないウルトラレアな逸品だろう、と見当を付けて、小さく感嘆のため息。
友達のものまで勝手に全て覗き見することはない。

「素敵な品物ですね」
「ありがとうアリス!」

キサは嬉しそうな笑みを浮かべた。

「もう一度崩れ落ちていい? パトリシアちゃん……」
「いいから脱げ。ってアリスの目と私の手が言ってるぞ?」
「ごめーん!」

パトリシアが指をワサワサと動かして見せると、レナはあっけなく脱いだ。

「変身!」

▽赤のブレスレットがゴージャスな光を放つゥ!
▽ヒューーー!

▽レナはバスローブ姿になった。

「あれ? 全裸じゃないんだ」
「心の準備というものがあるのよパトリシアちゃん……」

レナはバスローブの襟を押さえて、何やらガクブルと震えている。

毎度のことなので、従魔たちはもう気にしていない。

「ご主人様の裸体、素敵だよ!」

と言って、自分たちも変身!
こちらは容赦なく全裸になり、タオルもまとわずに、浴室にわくわくと走り込んで行く。
シュシュのうさぎ尻尾がおしりのあたりでピコピコ揺れる。
今だけ見られる秘部だ。

成長途中の胸が、ぽよぽよと揺れる。

揺れる!!

レナはその擬音「ぽよぽよ」をはっきり聞いたような気がして、幼女たちのポテンシャルに恐れおののいているのだった。

しずしずと通り抜けて行くキサのたわわな胸元がメンタルを追撃する。
泣きっ面におっぱいだ。

レナは胸元を押さえながら、未来が見えない淀んだ目で、ブツブツ願望を唱える。

「まだまだこれから、まだまだこれから、まだまだこれから……だよね……!」
「か、かわいそうに」

察したパトリシアたちが、同情の憐れむ目でそっ……とレナを眺める。

「早く風呂場に行きなよ、レナ。普段入ってるメンバーならそんなにダメージもないだろ?」
「ダメージ……」
「パトリシアお姉ちゃんの発言……」
「アリスもレグルスも私を責めるな。失言だとは思った」
「みんなの善意もお察しも何もかもが刺さるよ!!」

レナが頭を振ると、ペチペチっと三つ編みビンタになった。
カルメンが当たりに……いや多分絡みにきた。うん。

「ばくにゅう!」
「やめなさいレナお姉ちゃん。カルメン様にそんなこと言うのは」

アリスが額を押さえた。

カルメンは少し考えてみる。

レナとシルエットを合わせてみた!

褐色肌と白肌が混ざり、凹凸はうまいことはみ出て……

▽ジャーーーーン!
▽擬態爆乳!

『愉しいか? ん?』

「レナお姉ちゃん生きて!!!!」
「死ぬなレナ!!!!」
「カルメン様お戯れが過ぎます!!!!」

サディストかマゾヒストかわかったもんじゃない。
ということは中和されて普通の感性なのではないだろうか。
いやそれはない。
カルメンは常にどちらかに振り切れている。

『あらあら、まあまあ?』

影の魔物たちのお世話をしてきたルージュが、一足遅く脱衣所にフワンと入ってきた。

レナとカルメンの究極合体、戦慄するパトリシア・アリス・レグルス、騒ぎを聞きつけて戻ってきたびしょ濡れ幼女たち。

なんという光景だろうか。
これもまた、赤の教典の一説に記載されてしまうのだ。

 

 

 

 

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