223:温泉水とラミアの里

「交渉は私たちにおまかせ下さいますか!」
「だめです」

キラがとても可愛いポーズで言ったが、レナは一刀両断、スパンと却下した。
従魔可愛さにイイヨイイヨとほだされていいところではない。
危ない。

しょんぼりしているとレナがつい頭を撫でてしまうので、なんだかんだキラは全てが役得である。
従魔になるとこんなに幸せ!!!!
▽レナパーティはいいぞ。

この辺は何もかもがご褒美になるマゾヒストに似ている性質かも? と、キラはハマルとアイコンタクトをとり、なんとなく絆を深めた!

「通話には、私も混ぜてね。だって、キサの大事なお姉さんなんだもん」
「レナ様……!!」
「大丈夫だよ。レーヴェさんたちと話すのは、負担にならないから」

レナがにこやかに言って、感激しているキサの手をとり、ウィンドウの最前列に立った。
キラがうんうんと頷きながら、電波を操って通信を繋げる。

キラにだけ認識できる電子の糸を手繰り寄せてつなぐ……というイメージだろうか。

「接続完了。では、キサさんが呼びかけてみて下さいませ」
「レーヴェ!」

久々なのでドキドキしながら、キサが大好きなお姉さんの名前を呼んだ。

すると、ウィンドウにラミアの里の様子が映る。

▽お風呂場!!

「ひいっ」

ルーカがしゃがんで目を押さえた。
難儀なやつだなぁと呆れながら、オズワルドが「映像、問題ないみたいだよ。みんな服着てるから」とルーカに教えてやる。
ルーカはやっと顔を上げることができた。

「姫さ……キサやないの!」
「レーヴェぇ!」

キサもレーヴェも涙ぐみながら、ウィンドウ越しに手を合わせた。
女性の手と、少女の手は大きさが違うが、ラミアの鱗のような緑と紫のネイルが、彼女たちの血縁を表していた。

相変わらず美しいラミアの族長レーヴェは、艶やかな唇をゆっくりと弧の形にして、優しく微笑む。
キサと似ている……いや、キサがラミアの女性らしくなったのだ。

涙腺がゆるいレナは誰よりも早く号泣している。

キサが、そっとレナにハンカチを渡した。

「ど、どないしたん? キサ……なにか大変なことがあったの?」
「うん、ちょっとね、お願いがあって」

大変なことは夢組織とか夢組織とか夢組織とか確かにあったけれど、今起こっている問題ではないので、キサは今回の目的をまず話すことにした。

「あのね、レーヴェ。実はレナ様の王国を築くことになってな」
「まあ、ありえそうやね」
「……ちょっと待ってちょっと待ってちょっと待って!?」

レナがフルフルと首を振る。

「ごほん! レーヴェさん、実はですね! 諸事情でリゾートホテルを開業することになりまして」
「ふむ? リゾートホテルとは」

レーヴェは優雅に瞬きをして、レナの説明の続きを促した。
そもそもリゾートホテルという印象がピンとこないようだ。

キラが気を利かせる。

「将来予想図はこのようになりまーす!」

サブウィンドウにスカーレットリゾートのPV映像が流れる。

巨大化したお屋敷に、空中庭園、流れるプールとウォータースライダー、豪華な寝室に豊かな食卓、|緋々色黄金《ヒヒイロカネ》の温泉浴場!
浴場の様子はラミアの里とよく似ている。

レーヴェが衝撃のあまりピキンと固まり、このPVは初めて見た(情報更新されていた)従魔たちが「なにこれ!?」「えー! めちゃくちゃいいー!」「「遊ぶー!」」と大はしゃぎだ。

キサも目を輝かせていて「凄いのじゃ! ねぇレーヴェ!」と振り返った。

▽無邪気なキサの笑顔!
▽ラミアのお姉様たちに大ダメージ!

「ウッ!」

レーヴェが崩れ落ちたため、ウィンドウから一瞬姿が見えなくなった。
そして映った背景の温泉では、他のラミアお姉様たちが倒れ伏している。

「大丈夫ですかレーヴェさん……ねぇ、キサ、素敵に成長したでしょう?」
「レナ様、それ、トドメやね!?」

赤くなった顔を扇でそっと隠して、レーヴェが苦笑しながら再び映った。

そしてまじまじとウィンドウを再確認し「あらあら、まあまあ」と呆れた声を出す。
画面の下の文字を見て、噎せた。

「げほっごほっ……! ……ダンジョンて! 何事なん? もしかして……どこかのダンジョンをレナパーティが占領したんか? あかんよ、有益施設の略奪なんて、各国から目の敵にされてしまうで……?」
「してませんー! あのー、レーヴェさん、その発想に行き着いて納得してるってことは、私たちのパーティのイメージってそんな感じなんですか?」
「もちろんやけど?」

レナががっくり項垂れた。
一部では「進撃の赤の女王様と配下たち」と噂されているのは知っている。
そして女王のイメージは「最凶魅惑のサディスト」なのである。

レーヴェはくすりと笑った。

「まあ、半分本気で半分冗談や。レナパーティの皆さんはとっても強いから、事情があれば占領くらい容易くやるだろうけど、優しい子たちやもんなぁ。その反応……どうやら別の事情があるんやろ?」
「そうです」
「分かりやすく言うと、ダンジョンを創造したので御座います!」
「あらまあ」

宰相様の眼鏡やったら割れてしまいそうなところやで……とレーヴェが目をぱちくりと見開いて呆気にとられて呟いた。
ごくん、と唾を飲む。

「……みなさんなら成し遂げられるんやろうな、そんなことも。おめでとうさん」
「ありがとうございます。ステキなマイホームになりました!」
「奇想天外は相変わらずやねぇ」

レナが苦笑して、頷いた。

「それで、お願いってなんやろか?」

レーヴェは本題に誘導してくれた。

レナが「おっと」と姿勢を正す。
この辺りは、大人の判断に助けられた。

「あのね、レーヴェ!」

▽キサの 魅了!

「ぐッふ……! なぁに? キサ」

▽レーヴェは かろうじて平常心を保った!
手強い。

「このリゾートには温泉施設があるじゃろ」
「そうやね?」
「何かに似てるって思わなかった? そう、ラミアの里の温泉と!」

キサがふわっと両手を広げる。
小さな[クリスタロスドーム]が完成した。

美しい水面からの光に照らされるキサの姿を、レーヴェが目を細めて眩しそうに見つめる。

「ダンジョンマスター・キラ先輩の空間魔法と、白炎聖霊カルメンの|緋々色黄金《ヒヒイロカネ》、大精霊シルフィネシア様の泉をつなぐ力によって、お互いの温泉を『結びたい』のじゃー!」
「──並べる名称が仰々しいわ!!」

レーヴェがさすがの貫禄でスパァン! とキレよくツッコミした。

ロベルトが後方で小さく拍手をしている。レーヴェのツッコミは勇敢であった。

「なんやて!? 結ぶって!?」
「そうなのじゃー。温泉をつなぐとな、こっちで大好きなラミアの温泉に入浴できてハッピー!」
「大好きなラミアの……」

(レーヴェさん抜き取るのそこなんだ……親近感あるなぁ……うふふ……)

「それにいずれは、レーヴェたちが簡単にこっちに遊びに来れるようにもなると思うのじゃ!」
「なんやて!!!!」

レーヴェが驚愕の声を上げて、がばっと前のめりになったところで、レナが慌ててキサの口を覆った。

「い、いいすぎだよキサ。まだ不確定要素だからね」
「……あら、なんやそうなん」
「尽力はします。でも確実じゃないことを約束するのはフェアじゃなさすぎるので」
「そうやね」

明らかにテンションが下がった様子のレーヴェだが、大事なところはしっかりと把握していた。

「レナさんが尽力、ね。覚えておくわぁ」
「は、はーい」

かるーく蛇睨みされたレナは、迫力のあるレーヴェの笑みに、へらりとした微笑みを返した。

「して、具体的に。ラミアの里には何をして欲しいん……? 何を望んでいるの? はっきりさせましょ」
「では説明いたしますね! マスター・レナが! こちらが図で御座います」

キラがまた気を利かせて、新しいウィンドウを開き、ぱっと表示したのは、ラミアの里の断面地図。
げほごほっとレーヴェが噎せたのも無理はない。

せっかく洞窟の中に隠れている通路も隠し部屋も、なにもかもがここに暴かれているのだ。

各国の軍が喉から手が出るほど欲しがる機能だろう。

「呆れた……! それしか言えんわ……」
「すみません。外部流出は絶対にさせませんから」
「ん。信じるよ」

レーヴェが眉尻を下げて、少し消沈してレナに笑みを向ける。
レナたちがすでに情報を得ている以上、信じるしか、この場では選択肢がないのだから。

レナはできるだけレーヴェが安心できるようにと、キサと手を繋いで二人で一礼した。
レーヴェは微笑ましそうに光景を眺めた。

「では説明しますね。主題は、ラミアの里と繋がりをつくり、温泉水をこちらのお風呂場に分けてもらうこと。繋がりを作るには、ラミアの里に『藤堂レナの名義の場所』がなくてはなりません」
「ふぅん……なぁに、占領?」

試すように蛇みたいな目が細くなったので、レナは頑張ってレーヴェの顔を真正面から見つめ続けた。

「いいえ! 今回の場合は、ちょっと裏技があって。ラミアの里の大温泉には、|緋々色黄金《ヒヒイロカネ》に覆われた場所がありますよね。それはレナパーティがプレゼントしたものです。そして、キラ曰く、藤堂レナの名義の痕跡があるため情報利用できると……」

「レナ様が発芽させたマシュマロマッチョマンが白炎聖霊カルメン様の力で変態したものがラミアの温泉の|緋々色黄金《ヒヒイロカネ》ですから! それを繋がりとして利用できるので御座います! もちろん、一般人には見えない世界の構成情報ですよ?」

あの|緋々色黄金《ヒヒイロカネ》の衝撃のルーツを思い出してしまったレーヴェが「んん……」と呻きながらそっと目を逸らした。

パトリシアもそわそわと居心地が悪そうだ。マシュマロマッチョマン誕生についてはレナの力になったため嬉しいものの、それが温泉地にあると聞くとなんだか申し訳なさも感じてしまう。

「うちが『温泉水分けてあげてもええよ』って許可したらそれでいいん? 現状のままで効果が使えたらいいんやもんねぇ」
「そうなんです」
「お願いなのじゃ、レーヴェ〜!」

キサのお願いポーズにうるうる上目遣い!

((ああ、抱きしめたい))

レナとレーヴェの感情が被った。

「レナさん……ちょっと……あふッ……うちらの代わりに、キサのこと抱きしめてくれる……?」
「喜んでッッッッ」

レナがキサをそっと抱きしめると、女性らしい柔らかさがあり、めちゃくちゃいい匂いがした。肌はもちもち、髪はサラツヤだ。
レナがそう報告する。

「ええなあああ!」
「レ、レーヴェ?」
「ごほんっ! ……つい、久しぶりやから。レナさん、また『尽力』してくれるの楽しみに待ってますわぁ」
「は、はーい!」

レーヴェがにっこり微笑んで口にする。

「”ラミアの里の温泉水を、レナパーティの浴場に分けることを、許可します”」

ぱああっとキサの顔が輝いた。

「大好き!」
「うちらも大好きや。可愛い美しいキサ、ラミアの宝」

二人がきらびやかな笑顔を浮かべて、そんなお互いの姿を惚れ惚れと眺めあった。

「あ。妖精契約……しとけば、良かった?」
「いえいえ、録音致しましたので問題ありません〜!」

キラとリリーがこそっと話す。

「あんたたちって子は……フフ、もう。そんな用心深いことせんでも、約束を反故にしたりせんよ? 可愛らしい幼子やったのに、随分と急激に成長したんやね。あらあら……眼福やわぁ」

レーヴェがレナパーティを眺めてころころ笑う。
レナが「どうぞご覧あれ!」とウィンドウの最前列を退いて、成長した従魔たちを一人ずつ紹介していった。

「とっても可愛いでしょう!!」
「たまらんねぇ」

レナたちとレーヴェが「バイバイ、またね」と手を振り合う。

怖がって魔物姿になってしまった金色長毛種猫をレナが抱えて、小さな獣の手でバイバイさせたのが、レーヴェに二番目にウケていた。
一番目はラミアの宝・キサの笑顔に決まっている!!

「スムーズにお話が進んで、本当によかったね。じゃあお風呂に入ろうか」
「お湯を移動させましょう〜!」

▽レナパーティは浴場に向かった。

 

 

 

 

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