222:休憩もしなきゃね

▽会議鑑賞が終わった。

「ふわあぁ、すごかった……! 大迫力!」
「笑いすぎてお腹が痛いんだけど……くくくっ……!」
「会議の資料で笑っちゃうって、そうないですよねぇ」

もはや慣れた手の動きでルーカの背中をさすりながら、レナが苦笑いする。

「キラのテロップの秀逸さったら!」
「お褒めに預かり光栄で御座います♡ このために生きていると言っても過言ではないですからね!!!!」

どどんとキラが言い放った。

キラの背後に、和風の波がざっばーん! と現れたので、レナたちはまた笑わされてしまった。

「この後、ご飯を食べてー……そして会議で未確定の内容を、どうするか、相談しよっか……」

レナが電子ウィンドウを見つめながら、うーん、と唸る。
ひとつふたつみっつ、とやるべきことを数えて指を折って、悩んだ。

ふと、少しよろけてしまった。

「わわっ」
「おっと」

全員が手を差し伸べたのは言うまでもない。

▽はたして、勝者は!?

「ありがと、パトリシアちゃん」
「ん、いいよ。……それよりもさ、レナも疲れがたまっているみたいだから休憩しようぜ。色々と決めることはあるけど、それって、期限が決まってるもんではないだろ? レナが真面目なのは知ってるけどさ。倒れたら従魔が全員、王宮に乗り込んで、夢組織のやつらの首絞めかねないぞー?」

レナがぴたっと動きを止めて、そーっと従魔のほうを振り返り見てみた。

顔に「休んでくださいねご主人様?」と書かれている。

オズワルドやレグルスでさえも満面の笑みなのが、迫力満載である。

レナは体の力を抜いて、ぐったりとパトリシアに寄りかかった。

「休みまーす……」
「そうしな」

パトリシアがレナを抱えて、ぞろぞろと食堂へ。

「料理も私たちが致しましょう」
「食材はたっぷりあるしね。レナお姉ちゃんは休んでて」

「モスラ、アリスちゃん。いいの? ヒエッ……笑顔がとっても綺麗だね!! 了解! よろしくお願いしまーす! 楽しみだなー!!」

またまた迫力ある笑顔で「休んでくださいね、ご、主、人、様」と強調されたレナは、大人しくVIP席(ハマルの金毛ソファ)に座った。

主人をダメにする金毛ソファは相変わらず、あたたかくて、ふわっふわで、心地よい眠気を誘うのだ。

『寝ちゃいますか? レナ様ー』
「もうちょっと起きてるぅ……だってね、料理してくれてるみんなを見ていたいもん」

レナがふにゃっと相好を崩して、エプロンを身につけている従魔たちをのんびり眺めた。

「可愛すぎか!!!!」

心は荒ぶらざるを得ない。

それぞれ、着るエプロンに個性がある。

リリーやシュシュはフリルがついて可愛らしいもの。
モスラは腰巻の長エプロン、ギャルソンスタイル。
キサは民族衣装の上に割烹着のようなかぶるタイプのエプロンを着ている。

そして!
ひときわ注目を集めているのは!

「パトリシアちゃんひゅーひゅー! かーわいいよー!」
「レナー……囃すなっ!」

メイドドレスを着ているパトリシア。
赤い顔でダンっと足踏みすると、あまりの力強さに、少し高さがあるヒールが砕けた。

「わっ!?」
「さっきのレナみたい」

ルーカが支えて、パトリシアに「その服装セットは港街グレンツェ・ミレーの一般服屋で買ったやつだから、耐久性はないから気をつけてね」とアドバイスした。

アリスがサッと最高級品「Mダンシングパンプス」をパトリシアにプレゼントする。
転けないように魔法補正があるのだ。

「……ルーカがメイドドレス着た方が似合ったんじゃねーの? つーか絶対そうだわ。そのギャルソン服と代えてやろうか? そうしよう! 脱げ!」
「お断り。あーあ、レナがせっかくパトリシアに贈ったものなのに……かわいそうなレナ……」
「いやらしい言い方するんじゃねー! ちくしょう……!」

パトリシアはルーカの手をばしっと払うと、今度は堂々と立ってみせた。
フン、と鼻を鳴らすと、ルーカがくすくすと声を漏らす。

キサが通り魔のようにパトリシアに化粧を施していく。見事な手際!

モスラが最後の仕上げにと、フリルカチューシャを頭につけてあげた。

▽メイドパトリシア 完成!
▽パトリシアは やけくそで覚悟をキメた!

ロングスカートを優雅に持ち上げて、スチュアート家仕込みのお辞儀を披露してみせる。
スカートの裾さばきも見事だ。
シンプルなフリルと白黒の色味は、意外にもパトリシアによく似合っていた。

レナが盛大に拍手する。

「ブラボー!! 可愛よパトリシアちゃん! あああ可愛いよ!!」
「そうかよ、ありがとッ! ……はあ。もうなんか諦めた。この格好で配膳でもしてやろうか? レナお嬢様」
「うんお酌して〜!」
「おっさんかよ」

パトリシアが足音も立てずに歩いてみせて、レナにフルーツジュースを運ぶ。

このあたりの作法も、教育係がよかったのでしっかりと身についていた。
披露する機会があってよかったね、とモスラとアリスがメイドの背中を見て、にこやかに頷いた。

パトリシアはぞわりと鳥肌を立てた。
もし落第判定だったらどうなっていたことやら……と。

▽さあ今夜のメニューは!
▽滋養強壮! エリクサーで煮たお鍋!

「いただきまーす!」

大きなテーブルに、鍋がいくつも並び、小皿に掬ってみんなが食べる。

こだわって作られた農家の野菜はとても甘く、エリクサーで煮ることによって舌で蕩けるほど柔らかい。
にんじん、キャベツ、大根、レタス、トマト……など、四季折々の野菜が揃っているのは、さまざまな気候の土地から取り寄せたためだ。

そして、レナが大好きな海鮮と鶏肉。
イカ!!!!!
イートミィ!!!!!
濃厚な出汁がじゅわっとでて、スープを風味豊かにしている。

締めはパスタ。
旨味がつまったスープで煮て、ラクレットチーズをたっぷりかけると、みんなが至福のため息を吐いた。

「この世の天国……!」
「ほんとそれ」

ほわんっと立ち昇る湯気を吸い込んで、影の魔物たちは心地好さそうに揺れ、ひとまわり大きくなったようだった。

「……ん? もしかして。美味しそうな湯気がご飯になったりするのかな……?」
『そのようですわ。あら、不思議』

レナが疑問を呟くと、ルージュは目を柔らかく細めて、影の魔物たちを慈しむようになでる。

『ええ、喜んでいるみたいです。良かったわね』
「そっかぁ。そうやって楽しんでもらえるなら、なんだか嬉しいね。これからもっと料理するのに気合が入るよ」
『このお屋敷のキッチンを使って頂けると、この子たちも喜ぶと思います』

ルージュのお願いする視線に、レナは「分かった」と笑顔で答えた。
大人数での食事はにぎやかで好きなのだ。

『我々は食事はできないようだが。フフ、どうするレナよ?』
「どうするってカルメン……お食事、してみたいの?」
『うむ』
「そうなんだー。ルージュも、元々人間だから食事をできたほうが楽しいよねぇ……なにか、精霊の食べ物への対応方法ってあるのかな?」

注目がキラに集まる。

「大精霊シルフィネシア様に聞くのがよいかと!」
「そうしよっか」

あまりに気楽に決まる大精霊の呼び出しに、ロベルトが食後の紅茶を|噎《む》せた。

キラの輪っかがピカッと光り、なにやらさっそくアクセスをしている様子。
チ、チ、チ、と星の杖を軽く振る。

「……んー。あちらの状況を聞いたのですけれど、アネース国王と話し込んでいるみたいですね。忙しいからすぐには電話に出られないって」
「そっか。また今度聞いてみようか……」
「せっかく国王がいることですし、いつでもこのお屋敷にアクセスできるようにお願いして☆ ってついでに言っておきました♪」
「キラーーーーーーーー!!」

暴走が過ぎる。
キラのよくないところが全面に出ていた。

「そういうことは国家とかいろんな人を巻き込むので、打診だけにしても、みんなで決めてからにしようねー!?」
「はあい、善処します」

とりあえずそれで……とレナは唇を尖らせながら頷いた。
ニュアンス的にどう考えているか、測りきれない。
キラには何度も注意しているので、しつこ過ぎるかな、とさじ加減が難しいのだ。
子育ては調整の連続なのである。

食後のデザートのケーキをつまみながら、みんなが楽しい時間を過ごす。

「お風呂、行こうかな」

レナがルージュを眺めると『道案内しますわ』と立ち上がった。

「せっかくなのでラミアの里の温泉とか、引けたらいいですよね?」
「キラーーーーーーー!!…………行動前に相談できて、えらいっ」
「わぁぁい!」

キラがぴょんぴょんと飛び上がって喜んだ。
この教育方針が良さそうだ。
褒めて伸ばす!!

電子ウィンドウを展開して、通話準備はすでに万端。
早い、早すぎる。
報告文がどんどん増えていくので、ロベルトの心臓がばくばく鼓動している。

ラミアの里、と聞いて、キサが頬を染めて反応する。

「もしかしてレーヴェたちと話せるということか!?」
「その通りで御座います。マスター・レナのご許可があれば」

▽キサの [魅了]!

目を艶やかに潤ませて、着物の袖をそっと口元に持って行き、レナを見上げて、「……お願い」か細い、香る吐息とともにおねだり。

「パーフェクト!!」

▽レナは従魔の魅力にめろめろだ。

(ちょろい……そんなご主人様が好き……!)

主従揃って溺愛スイッチが入っていてゆるゆるなのは、激闘のあとの癒しタイムなので許されてもいいだろう。
いいのだ!!

「心臓ぶっ壊れるかと思った……はぁぁキサ美しくて可愛いよぉ〜。大好き! 温泉が引けたらもちろん嬉しいし……うん、通話して相談だけでもしてみよっかぁ」
「やったのじゃー!」

弾ける笑顔にころりと代わるキサの様子は、年頃の少女らしい。

(この魅力にきっとレーヴェさんたちもメロメロになっちゃうよねぇ)

レナは勝ちを確信した。

「せっかくなのでカット&ペーストで一度きりお湯を頂くよりも、土地を要求しましょうか。モスラさん、アリスさん、どう攻めます?」
「土地の名義を頂きましょう」
「となると……真っ先にキサちゃんの高画質通話で心を揺さぶるでしょ。それから本題に移ろう」
「キラ先輩はどれくらい土地の名義が得られていたら、空間魔法を発動できるのですか?」
「仮名義でもいいですし、温泉を運ぶだけならば、温泉の水源に握りこぶしくらいの大きさの抜け穴があればこのお屋敷の浴槽は満たされますよね。移動となると、人が通れるくらいの土地が必要ですが」
「それを望みそうですよね、ラミアの皆様」
「積極的に攻められそうね」
「「「よし」」」

「なにを相談しているのかなご主人様も混ぜてーーー!?」

なにも知らずにこの三人の会話が完結してしまうのは怖い!! と思ったレナが割って入った。
▽修羅の園へようこそ!

とても上手に説得されて、会話のカンペが出来上がり、ラミアの里に通話することになったのだ。

 

 

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