221:シアタールーム

お屋敷に入っていくと、玄関はエントランスホールとして綺麗に飾られている。
日本の高級リゾートホテルそのまんまのイメージだ、とレナは思った。

待合用の机と椅子を見て、淫魔ネレネのお宿♡の家具を思い出し(あ。ルネリアナ・ロマンス社の最高級家具……)と勘付いてアリスを振り返る。

にっこり笑っている、そういうことなのだろう。
キラと異空間を通じてなにやらやりとりがあったに違いない。
お金はじゃぶじゃぶあるので問題ない。

それよりも椅子の脚などの金装飾に嫌な予感しかしない。カルメンの方は振り返らないけれど。

さらにそれよりも!!
問題は!!

中央には赤の女王様を模したオブジェがででんと鎮座しているのだ。
台座には、バラの花束がぐるりと捧げられるように置かれている。

「待って待って待って待って理解が追いつかないほんと待って」

レナが崩れ落ちた。

「いや、明らかに私とわからないように顔とかはフィギュアみたいに精巧なわけではないし、従魔たちはすごく可愛くデザインされていて大満足なんだけど、オブジェとして素晴らしいとも思うんだけど、そもそもオブジェって何!?」

「レナが言葉を噛まずにこれだけ長く語るとは……これは本気で驚いているね。いや成長している? とりあえず赤の経典に記載を……」
「ルカにゃんお叱りしますよ!」

レナがルーカの頬をツンとつねる。

ルージュはその様子を見てクスクスと笑った。
一番大きな影の魔物を小突く。

『なんだかあなたとのやりとりを思い出すわね』

影の魔物のおそらく首の下あたりを、コショコショとくすぐっていると、影はとろけるようにその姿をゆらゆらとブレさせた。

(私が従魔と触れ合っている様子もあんな感じにイチャイチャと見られているんだろうか……?)

客観的に自分を見たようで、なんだか冷静になったレナ。
そっとルーカを解放して、頭を撫でることに専念した。

(上等!)

なにも解決していない。

キラがレナの顔を覗き込む。

「このオブジェいかがで御座いますか! マスター・レナ♪ だって大好きなあなたの帰ってくる場所ですもの。ここがマイホームって明確に表現しておきたかったのです」
「キーラぁー……許した」

レナ、あっけなく完敗。

「やったー! それに、私たちのものだってこうして指標があると、訪れた人がそのように認識しますよね。だったら土地の名義が正式変更されるのも結構早いんじゃないかなぁ、ってそういう期待もあります!」

抜け目ないキラの思惑に、レナは毎回度肝を抜かれる。

そんな様子を見てアリスが笑った。

「レナお姉ちゃんもたくさん苦労してきたと思うけれど、やっぱり黒い世界とかを見た経験、少ないと思う。だってみんなが大事に守ってきたから、まだまだレナお姉ちゃんは考え方が綺麗なんだと思うなぁ」

「あー……なんかアリスちゃん、日々商業活動お疲れ様です。呪いの魔道具収集もありがとう」

「うふふ、どういたしまして。でもねさっきの発言悪い意味じゃないよ。やっぱりそんなレナお姉ちゃんが好きだからこそ、みんな守りたくなるんだし」

レナがムズムズと頬をかく。
ほんのりあたたかい。
照れていると自覚する。

「好きってたくさん聞かせてもらえると嬉しくなるよね? エヘヘ」
「『ご主人様大好き!!』」
「わーーーい! みんな好き好き〜!」

レナと従魔たちがひしっと抱き合う。

従魔の人数が随分多くなったから、順番にレナがハグして、撫で回していく。

平和な日常が帰ってきたなぁ、とみんながとても嬉しくこの雰囲気を楽しんだ。

お気づきだろうか、ま・だ・玄関だということを!

それだけ、レナパーティは触れ合いに飢えていた。

「まずは会議の内容共有だよね」
「はいマスター! シアタールームに参りましょう」

恐るべき場所が存在しているらしい。
キラが作るシアタールーム、絶対にクオリティに妥協がないだろう。

(リゾートなら娯楽としてシアタールームはあり得るんだろうか……? マイホームとしては贅沢品みたいな? キラのシアタールームって半端ない気がする。というかそもそもここはダンジョンで?)

レナは少々混乱しながらも、従魔たちを連れて先頭に立つ。
案内のためルージュとともに歩くキラの、後をついていく。

床にはレッドカーペットが敷かれていて、レナがハイヒールパンプスで歩くたびにカーペットからバラの花がぶわっと出て来る。
天井からは光の粒子が降り注ぐ。

とても綺麗!
だけれど視覚疲れを起こす光景でもある!

幼児たちが花びらに戯れて、ぴょんぴょこと飛び跳ねて遊んでいるのが、驚き疲れた心をそっっっっと癒してくれた。

「ジャジャーン! ここです! シアタールーーーム!」

大きな観音開きの扉をキラが開ける。

中は真っ黒な空間。宇宙のよう。

「こ、ここに入っていいの?」
「そうですよマスター・レナ。さぁ遠慮なく」

キラがレナの両手をとって、部屋の中に引き込む。

「わーっ!? わわわっ」

レナの体はふんわりと浮かび上がった。
バタバタと足を動かすと、キラがイタズラっ子の笑みを浮かべている。

「大丈夫、落ちたりしませんよ! ここはただ重力を調節して浮かび上がるようになっているだけです」
「重力」

レナはなんとなくオズワルドの方を見た。
目があったオズワルドは、ふうっと息を吐く。

「親の遺伝子を簡単に再現されちゃって、なんかもーキラの凄さに呆れるしかないんだけど。うん、すごい」
「ありがとう御座います! ダンジョンって設定とか結構細かくいじれて、パソコンみたいな感じで扱ってるんですよねー。ぶっちゃけ何でもできますよ」
「この空間であれば、って感じ? まぁ、俺が[|重力操作《グラヴィティ》]で活躍するのはきっと外での戦闘だと思うからさ。そっちはやらせて」
「はい、頼りにしています! オズワルドさん」

オスワルドが引け目に感じているわけでは無いようだ。

戦闘、日常、と技能の住み分けができているらしい。

レナは(自分の視線がおせっかいだったかな)と感じつつ、ほっとした。

自らの戦闘力を高めたいと考えている最中のオズワルドにとって、面白くない気持ちが芽生えていないかな、と心配だったが、杞憂で済んで良かった。

従魔のみんなが無重力空間でくるくると宙返りしてみせたり、アクロバットな動きを見せたり、手を取り合って空中ダンスを楽しんでみたり……とついついこの空間で遊んでしまう。

「はいそろそろ落ち着きますよー? そうですね……ハマルさーん! 羊姿になって、皆さんを誘って下さーい!」
『よしきたーボクにおまかせあれー』

ハマルがもふんっと巨大な金色ソファになると、みんなが勝手に集まって来る。
なんだか幸せな気持ちで、ハマルは『んふふー。触り心地さいこーでしょー?』と笑った。

みんながまとまって座る中、ルージュとカルメンは座る気はないらしく、空中にふわふわ浮かんだまま、レナパーティーと同じ方向を向いた。

キラが腕を横に動かすと、巨大なウィンドウが現れる。
真っ暗な中、白い画面が少々目に眩しかったので、みんなが目を細めると、キラは光量を調節した。

「……そういえばどうしてシアタールーム?」
「会議の内容を確認するだけなら普通の食卓でも問題ないですけれど、せっかくならその場の雰囲気まで全部共有できたらいいじゃないですか? ねっ。だから私、頑張っちゃいました!」

キラがクーイズにウィンクをする。

「「ぱふぱふ〜!」」

二人が高らかにサウンドして、手を挙げた。

ウィンドウが色付いて……魔王国での会議の様子が映し出された!
超高画質ぅ!
魔王の高笑いがこれまたすごい立体重低音で響いた。

レナとロベルト、レグルスがうつむいて額を押さえた……。

「さぁ! こちらのウインドウには、会議室での記録が流れます」

芝居がかった一礼をすると、キラは、もう一つ小さなウインドウを展開した。

「こちらの小窓には、会議で決まったことを箇条書きラナシュ文字で記していきますね。内容を照らし合わせながら、皆さん振り返ってみましょうそれでは参りますね」

キラが杖を取り出して、振るうと、動画が流れ始めて、上映会となった。

大きなテロップ!!

3Dサラウンド効果のBGM!!

驚いたときの様子などは、漫画みたいな集中線で面白効果をあげてくるので、みんな笑ってしまう!
頑張って笑いをこらえている魔王国所属員たちの努力が涙ぐましい。

全部キラの思い通り!
でも面白いからこれでオッケー!
それにためになる! いいね!

▽会議の様子を共有した。
▽今後のリゾート化計画の予定をきめていこう。

 

 

 

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