220:お屋敷にただいま!

レナパーティが異空間をくぐり抜けて出た先は、お屋敷の門の前だった。
赤く鮮やかなスカーレットローズが咲き、アーチ状のガーデニングがレナたちを出迎える。

「いい仕事するじゃんね。クドライヤおじさん」
「パトリシアちゃーん。そこはお兄さんって言っておこう?」

レナが苦笑する。

パトリシアが庭の花の調子を見ながら、みんなで少し歩む。

(……お屋敷まで、まったく距離が縮まらないように感じるのはなぜだろう?)と、みんながキラを振り返った時だった。

『ばあ!』

▽バラの中から 影魔物が飛び出した!

「うわっ!?」

パトリシアが驚いて、|流線型の剣《フランベルジュ》を構える。

影の魔物たちは「きゃーー!?」と悲鳴をあげるように揺らいで、お屋敷まで一目散に逃げていった。

「驚かしちゃったねぇ」
「私よりもレナの方が冷静みたいだな……うう、先輩冒険者として悔しい。んでもレナ、あれで動じないなんて、たくましくなったなぁ!」

パトリシアがレナの頭を撫でて、ついでにバラの花を一輪、レナの髪に飾った。
嬉しそうにレナが笑ってピースをすると、シュシュが鼻血を出した。

キラがシュシュにハンカチを渡しながら、みんなの前に出る。
ぴかぴかと頭の上の輪っかが光っている。

「お屋敷の警備体制をせっかくなら見てもらおうと思ったので御座います!」
「なるほど」

キラが指パッチンをキメる!

「これからはお屋敷までの距離が普通に進むはずですよ」
「了解。ちなみにそのテクニックのタネは?」
「基本的には空間魔法です。そしてダンジョンメイキング技能の一つ、罠設置ですね!」

ロベルトとレグルスが遠い目になった。

((これを報告かぁ……))

耳がやんわりと伏せる。

「あれ? ロベルトおじちゃんとレグルス、元気ないノヨー。どうしたのー?」
「ミディ……大人になると色々あるんだよ」
「その通り」
「フーン! あのね、屈んで?」

ロベルトとレグルスが大人しくその通りにしてみると、ミディが頭を撫でてあげた。

「大人って大変なノネー! いいこいいこ! 頑張って生きてる!」
((頑張って生きてる))

まさかそんな褒められ方をするとは……と、獣人の大人二人は顔を見合わせた。

「うん。レグルス、生きているな。これからもしっかり生きろ」
「……そうですね。上官命令を頂戴いたしました」

ラミアの里での一連の出来事が思い返されて、二人は苦笑いした。
レグルスの顔は、わずかに赤い。

「激写なのじゃー!」

ぱしゃり! とライトが光り、おさまると、キサがにんまり顔でロベルトとレグルスを撮っている。

手にはパンドラミミック本体。
そういうことだ。

ロベルト、レグルス、ミディはぱちくりと目を見開いて驚いている。
この直前の雰囲気を、見事にキサは撮ることができていた。

「いやー素晴らしい手腕ですねキサさん! 珍しい表情をよく撮れたものです。お見事! アングルもいいですし、ナイスな後輩で御座います!」
「フフフフ! 妾は綺麗なものが大好きなのじゃ。とくに照れて赤くなった顔、恋の顔など……くぅぅ! 乙女心がうずくのじゃー!」

キサが力説する。

「そういうの、推しっていうらしいですよ? マスター・レナの故郷の言葉なのです」
「推し!」
「推しシチュエーション、推しワード、推しキャラ……などなど」
「妾の推しは圧倒的にレナ様なのじゃ! きゃー!」

キサがレナを激写しまくる。
まさにキラの後輩カメラマンのようだ。

「うわ、ちょっ、キサ、まぶしっ、ストッ………………ふああああああ」

▽キサの 魅了!

「なんという手腕。スキルを使用してまで主人の艶っぽい照れ顔をとってみせるだなんて、キサ、恐ろしい子……!」
「はあはあはあ、その写真現像するんだよねぇぇ? シュシュにもちょーだいね!」
「シュシュ、恐ろしい子! 知ってた」

レナの撮影会はあっという間に混沌とした騒ぎになってしまった。

発端であるレグルスたちはもはや置き去りである。
庭の隅で穏やかに、ミディに頭を撫でられて、三人だけが癒されているところだ。

「シュシュも魅了の魔法使いたいなぁ……」
「主人さんへの悪用しかしないだろ、やめとけ! 絶対にやるなよ!」

シュシュの涎を拭きながら、オズワルドが律儀にツッコミをするのだった。

ばちっ、とオズワルドとキサの目があう。

「……う……」
「んんんん〜〜?」

キサがじり……じり……と詰め寄ってみせると、オズワルドは冷や汗を流して青くなった。

「その頬を赤く染めてやろうかぁ!?」
「「キャー! キサってば赤の宣教師みたーい! 行っちゃえゴーゴー!」」
「あっははははは!」

いつものおふざけモードが始まっただけなので、オズワルドはほっと胸を撫で下ろした。

(このレナパーティの雰囲気が好きだから……色恋沙汰とかで揉めたくないんだよな。キサの恋愛衝動みたいなもんが収まってよかった……。……というか犬科と蛇の相性は悪いだろ、本来)

軽めのため息を吐く。
どこからともなく取り出したブラシでキサに頬紅を塗られているが、警戒心をといたので、されるがままになっているオズワルド。この程度のハプニング、よくあることなのだ。

「頬が赤!」
「そうかよ……満足?」
「とっても可愛らしいのじゃ!」
「他のみんなにもさー、やってあげたら?」

▽メイクアップ戦士 キサの出陣!
▽瞬く間に化粧が施される!
▽だいたいみんな似合っている。

「女子はもっと可愛らしく! 男子は美しく! 化粧とはより艶やかに己を彩る魔法なのじゃ〜!」

キサが高らかに宣言する。

『あら、お化粧までして正装なさっていらしたのですね。もうこの場所をマイホームとして下さって構いませんのに』

ゆったりとした声が、レナパーティの喧騒を自然に遮って聞こえてくる。

お屋敷の玄関の方をみんなで振り返った。

『お帰りなさいませ』

ルージュが優雅に淑女の一礼を披露する。

相変わらずとても目立つ赤の髪。
長い黒のスカートを持ち上げると、真新しい白のエプロンが揺れた。

▽メイド服ルージュが 現れた!

『うふふ。このような従者の服装、初めてですわ。コスチュームプレイ、というのでしたっけ……』

ぽっと頬を赤らめて、一言。
熱を込めて。

『レナ様♡』
「……だめなこと覚えてる!? 圧倒的に意味が違っている気がする!!」

レナがバッ!! とキラを見ると、バッ!! と顔を逸らされた。

「いやーこの流れ、様式美で御座いますよね☆ ルージュ様のコスプレハマリは影の魔物たちにも大好評でして……主人が従者となったのならば、我らはもはや下僕であろうと、現在の立場にドキドキしているようですよ」
「精霊様だとご自覚ください、ルージュ!!」
『あらあら』

レナの必死の指摘に、ルージュはただただ微笑みを返した。
まるで修正する気がないらしい。
マゾヒストに目覚めし、元サディストといったところか。とてもタチが悪い。

「「レナ女王様がまた精霊を目覚めさせた〜キャー!」」
「カルメン様は放置プレイ〜、ルージュ様はコスチュームプレイ〜、そしてー、ボクは愛され鞭プレイが好き〜♡」
「クスクスクスクスッ! お、お腹痛い〜!」

わいわいとからかわれるレナは、真っ白に燃え尽きている。

そんなレナをさらに燃やし尽くさんばかりの、カルメンの登場。
首にするりと褐色の腕を回す。
炎で包むように、熱い言葉。

『精霊も聖霊も、お前に夢中のようだぞレナ様!』

無視。

『ああこの冷たい対応……ゾクゾクするなぁ!』

カルメンは悦んでいる。
レナの心に余裕がなく対応が遅れただけだったのだが、マゾヒストへのご褒美となってしまった。

「レナ様かっこよくきめて〜!」

ルーカの楽しげな一声。
長い髪とメイクのせいで、今の見た目は女子のようである。

レナはばさあっと赤のマントをなびかせた!

「|藤堂《とうどう》レナ、従魔たちとともに、只今帰還!!」
「『従えてぇーーーー!!』」

このやり取りをしてこそ我らが主従! とばかりに従魔たちが大きな声援を送った。
ついでにパトリシアとアリスも乗っかり、大歓声が庭に響く。

「オーーッホッホッホッホ!! ……もういいかなぁ?」

頬紅よりもさらに赤くなった顔のレナが、照れを誤魔化すように頬をかいた。

『偉大で優しく、強くて可愛らしい。そんなあなたがこのお屋敷を継いで下さった赤の運命に、心から感謝いたしますわ』
「ルージュ……」

レナが友愛の微笑みを浮かべる。

「ただいま」
『お帰りなさいませ』

二人の魔物使いの笑い方は、とてもよく似ていた。

「そして、赤の運命教への入信おめでとう……」
『嬉しいですわ!』

ルージュの手には輝きを放つ赤色の冊子。
キラが渡したのだろう。扱いは聖書である。

レナの手を取り、ルージュが進む。
その後を、従魔たち、影の魔物がともに歩む。
頼もしい友人と護衛官が、歩調を合わせる。

スカーレットリゾート・エテルネルージュが世界に名を馳せるのは、もはや確定した赤の運命である!!

▽さあ、ダンジョンを成長させよう!!

 

 

 

pixiv fanbox

 こちらにはイラストまとめ、創作裏話、ホームページ制作の記事を書いています。ぜひお楽しみいただけますように。
 100円ご支援いただけることは、書籍一冊買ってくださったのと同じ助けになります。
みなさまいつも応援ありがとうございます!