22:強欲な王族たち/小都市トイリアへ

「ねぇ、お父様。お母様。
…まだお義兄さまを探すのですか?
ここまで見つからないと、もう生存は絶望的ではありませんか。
最初に探していたジュエルスライムも、人喰い大クマに襲われていたのでしょう?
お義兄さまとて同じなのではなくて」

「…うるさいっ!
いいから探すんだ、シェラトニカ。真剣にな。
ルーカティアスにはまだまだ利用価値がある。
☆7スペシャルギフトの【魔眼】は絶対無くしてはならない力なのだ。
諦める訳にはいかないっ」

「そうよぉ…。
それに、ルーカは見た目がとても良いものー。
どこの高貴な国の姫君だって欲しがる最高の餌なのよぉ?
婚約の申し込みだって、すでに沢山来てるんだから!逃がせないわー。
[麗人]称号の効果で姫君を魅了させてぇ、他国をいいように操りたいわねぇー」

…王子ルーカティアスが逃亡してから数日が経った、ガララージュレ王国の王宮広間。
そこでは王族たちが、それぞれ自分勝手な理由で言い争っていた。

義妹のシェラとて義兄を真剣に探していたのだが、あまりに見つからないので、手抜きしていないかを両親に疑われている。
シェラが捜索を頑張っているのは”確実に死んだことを確認したい”からであり、王たちとは全然理由が違ったのだが……だからこそ、きちんと捜索していた。
疑われたことに不満げな顔だ。

王子の生体も死体も見つかっていない現状が、どんどんと王たちを焦らせている。

ルーカティアスは優秀なスキルとギフトを持っていたが、反抗しないようにと、レベルを10までしか上げさせていなかった。
軍隊の多くを捜索に投入しているし、逃げ切ってはいないはず…となると、魔物に殺られて死亡している可能性が正直高い。
…しかし、確実に死亡がわかるまでは諦めきれない!

正妻の実の娘がシェラトニカ。
元側室の息子がルーカティアスである。
側室は息子の従属に反対したため、彼を産んですぐに殺されていた。

拗ねたように、シェラが実の父母を見上げながらつぶやく。

「…私だって綺麗なのにー…。
ねぇ、お父様、お母様。
[魅了]のスキルも【魔眼】も、私だって持っていますわ!
この国には私がいるから。
お義兄さまがいなくたって、もういいでしょう?」

ルーカに良く似た金髪紫眼。
姫は15歳にしてすでに美しく育っていたが、その瞳は、容姿にはおおよそ似つかわしくない憎悪に染まっていた。
いなくなってなお、両親の注目を集める義兄が憎いし、そちらにばかり気を向ける両親だって許せない。

「何を言っている…?
確かにお前は優秀だが、それとこれとは話が全然違うだろう!」

的を得ない娘の発言に、父は眉を顰めながらやや不快そうに返答する。
子どもを能力と利用価値でしか見ていない人物なのだ。

…母だけは、女として娘の気持ちを何となく察したのか、薄く笑っていた。

「うふふっ!
シェラは、相変わらずいじらしくて可愛いわねぇ…。それにとても美しい、さすが私達の娘よ?
でもねぇ。物事の判断は正しくしなくてはダメ。
…顔の造りのことだけを言うなら、側室の息子の方が整っているわぁ」

「~~~~~ッッ!!」

「あら、怒らせちゃったかしらぁ。
でも、ルーカの方が見た目が良くたって、それを利用したらいいじゃない?
あなたは将来この国のトップになるんだから。
感情に振り回されずに、利用できるものは全て使いなさい」

「違いないな!
そんな事よりも、シェラトニカ。早く捜索を続けなさい」

「……そんな事、ですって?…いやですわ」

「「!」」

…我儘姫シェラトニカの顔は、暗い怒りに歪んでいる。
彼女にとって何よりも大切な”自分自身の美しさ”。それが貶されたことに、とんでもなく強い怒りを感じているのだ…。

…たとえ、実の父母であっても、自分の容姿を貶すことは許さない。
天井知らずのプライドは、深く傷付けられている。

「捜索はもうしませんわ。
…だって、お義兄さまは死にましたもの」

「…何を言っているんだ!
逃がして数日の段階でアレを諦めるなどできない。許さんぞっ!?
いいから[遠視]を使えッ」

「そうよぉ。
お願い、シェラちゃん…!
ルーカを取り戻すことは、国の、しいては私達のためにもなるんだからね?
探してちょうだいな」

「…嫌だって言ってるじゃないッ!!
“影縛り”!」

「「ッ!?」」

シェラが感情をあらわにして叫んだ瞬間。
黒魔法の”影縛り”が発動され、影が両親の身体を這(は)いまわり首を絞めあげる。
首締めを確実にきめるため、スキルではなく、より自由に扱える魔法を冷静に選んでいた。

従属の首輪へ何度も魔法をかけていた姫のレベルは、両親よりも高かったのだ。
お得意の”影縛り”で一度囚われれば、王たちとて振り払うことなどできない。

「もう、何も言わせないから…!」

憎しみに満ちた目で、姫は実の親を睨みつけている。
顔を赤黒く染めて苦しんでいる様子を見て、口元だけでニヤリと満足げにわらっていた。
…彼女にとってこれは、正しい制裁なのだ。

「お義兄さまは私が逃がしたんですよ…?いらないから」

「なっ…!」
「グ…なんですっ…て…」

「いらないもの。私より綺麗な存在なんて、許さないわ。
私の美しさが世界で一番だし、他の人も、綺麗な私を何より一番に愛しているのよ…!
…お父様とお母様は嘘をつきましたね。
私よりお義兄さまの方が綺麗、だなんて。そんなのダメです」

完全な妄想である。
シェラやルーカより美しい容姿の人間など、探せばいるだろう。
しかし現実から目を逸らし、願望を無理やり現実にしようと義兄を逃がした少女は、理想を邪魔する者の排除をもうためらわない。
必要なのは、自分を綺麗だとひたすら褒めてくれる存在だけなのだ。
嘘つきな両親など目ざわりなだけ…。

自分勝手で残忍な両親を見て育ち、周囲から恐れられ甘やかされまくった姫は、とてもおそろしい存在に育っていた。

王族会議のためと、広間に従者(たにん)を入れていなかったことが決定打となり、王国の王と正妻は実の娘の手によって、この日、命をはかなく散らすことになる。

シェラトニカの頭の中には、世界のベルが高らかに鳴り響いていた。
…はたしてそれは”福音(ふくいん)”と呼んでよい物だったのだろうか。
…………。

<☆新たな適性職業を確認しました>
<職業:ダークプリンセス>
<ギルドで転職の申請をしてください>

「闇のお姫様?…ふふっ。悪くないわね」

新たな悪の王国の産声が聞こえてきていた。

***

アネース王国の国境検問所はたくさんの人々で賑わっている。
レナたちも列に並んでいたが、魔物連れなので、前後の人たちからは少々距離を置かれていた。
まあ、魔物をペットにしている人もいなくはないし、商人の荷馬車を魔物がひいていたりもするので、魔物を扱える子なのかなー?と肯定的にとらえられてはいた。
従魔がおとなしかったのが良かったのだろう。

この門を通り抜けたら、すぐ目の前が、目指している小都市トイリア。
とても過ごしやすい街だとアイシャから聞いている。

ガララージュレ王国が近くにあるので、生涯トイリアに住む予定はないが、もしも目立たずに暮らせそうな治安のいい国なら、王都の方に家を買おうかと検討もしていた。
そこまで離れたら、さすがに再びガララージュレ王国に狙われることも無いだろう。

“魔物使いでも暮らしやすい国か?”をきちんと知りたかったので、ここではギルドカードを偽らずに”魔物使い”のまま入国することにする。
変にカード偽造をして捕まっても困るし、とも考えていた。
相手のスキルを視れるルーカ先生がいないので、門番が[看破]スキルを持っているのかは分からない。
変に目立つことはできるだけ避けたい。
アネース王国は大国なので、しっかり入国審査をできる人たちが門の警備をしているだろう。

ギルドカードのステータスより下の情報は”クローズ”してある。
そうすれば従魔の種類は知ることが出来ないし……と、リリーに軽い[幻覚]をかけてもらって、ハマルは「居眠りヒツジ」風、スライムは「ミニスライム」風の見た目にしていた。
これすらも[看破]される恐れもあったが、明らかにレア種な見た目の従魔をそのまま連れて入国するのは、さすがに躊躇われる。
従魔にまで注意がいかないことを祈ろう。
リリー本人には、いつものフェアリー姿ではなく蝶の姿になってもらう。
もし種族を聞かれたら「モスラ」と答えるつもりだ。

草原で色々狩って、採って、マジックバッグの中身は十分に潤っている。
只今の手持ちアイテムは…

・ヒツジ肉×5
・ウサギ肉×5
・トリ肉×13
・香草Mix
・ぷくぷくの骨×4
・塩×6瓶
・砂糖×2瓶
・チューレハニー×1瓶
・野生のベリーMix
・殻付きくるみ×30
・モモりんご×10
・着替え一式
・普通の鍋
・普通のナイフ×1
・ジュエルスライム製の宝石

この通り。
普通に食事を作る分には全く問題がない、むしろ、そうとう豪華なご飯が作れそうだ。
お米の国出身者のレナとしては、もしトイリアに米があればそれも入手したいと思っている。
あとは…もっと質の良いお鍋と、フライパンなどが欲しい!
ベリージャムを作る際にフレイムの火で加熱したら、火が強すぎたのかさっそくお鍋の底をコガしてしまったのだ。

学生カバンの中には、ラナシュでは質の高すぎる水筒やらスマホやらが入っていたので、これもマジックバッグに放り込んでおく。
すぐ使いそうな着替えなどを代わりにカバンに入れておいた。

「…うわ、緊張するなー…」

ついにレナたちの検問の順番がまわってくる。
担当の門番さんは優しそうな中肉中背のおじさんだが、色々内緒にしたいことのあるレナは、ドキドキが止まらない様子。

『『レナっ、ファイトー!』』
『…ご主人さま。リラックス、リラックス~!』
『ふわぁ…。焦ってもー、仕方ないよー?レナ様』

「…そうだよね。よし!元気出そうーっ!
一番レナ、行きまーすっ」

『『『ひゅーひゅーー!』』』
『…レナ様の言動がー、ボクらよりも注目を集めてるのー』

「えっ」

彼女が魔物と会話できるのは従魔契約をしているからであって、周りの人たちからは、独り言の異様に多い少女…としか見られていない。
そんな子が、いきなりガッツポーズまでし始めたものだから、少し引かれていた。

キョロキョロと周りを見渡したら、さりげなく視線を逸らされまくり「ガーン…!」と落ち込むレナ。
おとなしく門番さんの方に向かう事にした。
トボトボ歩いてくる不思議ちゃんに、門番も苦笑している。

「やあ、アネース王国にようこそ。
元気なお嬢さん?
魔物たちと一緒にいるけど、そういう職業なのかな…。
ギルドカードの確認をさせてもらっていいかい?」

「…はい!
騒がしくしてすみませんでした。よろしくお願いします」

「うん。お預かりします」

門番はレナを怖がらせないように優しく笑いかけたあと、目を細めながらギルドカードをチェックし始めた。
…ルーカ先生が魔眼を使うときの仕草に似ている。
本当に、もしかしたら[看破]スキル持ちの人なのかもしれない。

カードには細工など何もしていなかったので、特に何を言われる事もなく返される。

「一応、連れている従魔の確認だけさせてねー。
お嬢さんの従魔はシープ、バタフライ、スライムが2体。計4体で間違いはないかな?」

「はいっ」

「うん。
嘘は言っていないし、貴方は魂のきれいな子のようだ。
手間をかけさせてごめんね。
…改めて、アネース王国へようこそ!
“水の乙女が歌う白の都”と言われる我が国を、どうぞ楽しんでいって。
景観よし、人よし、治安もよしだから、永住するにもオススメだよー」

「わあ…楽しみですー!」

門番の言った言葉からイメージしてみると、とても美しい街のようだ。
レナたちの期待も高まっていく。

「とりあえず、ここからまっすぐ歩いていったらトイリアに着く。
そこの観光案内所で、地図をもらうといいよ。
もうそろそろ日が落ちるから…。
アテが無ければ、宿についてそこで聞いて、早めに拠点を確保しておくことをオススメするね」

「!親切にありがとうございます」

「ははっ!
門番の規約として、伝えなければいけない事を伝えただけさ。
魔物も泊めてくれる宿はそう無いだろうし、部屋が埋まる前に早くいった方がいい」

「ありがとうございましたっ」

足取り軽やかに、レナたちは皆で門をくぐっていく。

魔物も一緒に泊めてくれる宿があるという情報はありがたかった。
宿で受付をする時だけ皆に魔人族になってもらおうか?と悩んでいたのである。
さすがに、馬小屋などに大切な従魔を預けたりしたくない。

少しだけ歩いたら、すぐにトイリアの入り口が見えてきた。
門からまっすぐ続く白石畳の広い道がまず目に飛び込んできて、次に両脇の清らかな水が流れる水路が印象に残る。
建物はそろって薄茶色のレンガ造り、メルヘンな赤屋根だ。
景観維持のためか、政府により建物の規格は決められているらしい。
ベランダに色とりどりの花が飾られていて、景色に彩(いろど)りを添えている。
とても美しく、また可愛らしくもある街だった。

街は夕焼けの色に染まっている。すぐに日が落ちるだろう。
その前に、と、レナたちは門のすぐ脇の観光案内所に急いで駆け込む。
魔物OKで空きのある宿を紹介して欲しい、と頼んだ。

「”淫魔ルルゥのお宿♡”という宿泊所なら、一部屋空いておりますが…」

なんだろう、怪しすぎる名称の施設だ…。
案内所の職員も宿の名前に思うところがあるのか、微妙な表情をしている。

だいぶアレな名称の宿だが、客層も悪くなく、内装やサービスもしっかりしていて、宿としてはランクの高い施設らしい。
ただ名前とハデな外観から新規客は寄り付かず、オーナー淫魔の知り合いばかりが泊まっているのだとか。
オーナーは魔人族の称号を持つ、淫魔サキュバスである。

値段もお手頃だと聞くし、なにより魔人族がオーナーなら少しは気楽に過ごせるだろう。
レナたちはこの宿に泊まることに決めた。
通信魔道具で、予約を取ってもらっておく。

「…お宿の予約も出来たし。
少しだけ冒険者ギルドに顔を出して、どんなクエストがあるか見て行こうか?
明日からは何か簡単な依頼を受けてもいいかもねー」

『『『『はーーい!』』』』

冒険者ギルドにトラウマはあったが、ダナツェラギルドがこの世界の普通ではないだろう。
しかし明日に回すと怖気付いてしまいそうなので、レナは、今日のうちにギルドを訪ねてみる事にした。

▽アネース王国、小都市トイリアに入国した!
▽Next!冒険者ギルドと宿屋に行こう

 

 

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