216:条件、のむ?

「完全会員制リゾートがよろしいでしょう。制限がないと、様々な者を呼び込むきっかけになってしまいますから。会員は皆様が選び、ギルドカードに似た会員カードを発行するなど、いかがでしょうか」

▽宰相が たたみかける!

「商人も同席していますし……ね」

アリスが反射的に「はいっ」と手を挙げてしまった。
緊張しながらも、レナたちの役に立てそうなので、瞳は輝いている。

「サディス宰相。この話は初耳でしたけれど……会員カード魔道具開発については、アネース王国所属の魔法使いにツテがあります。それにマモン様との会談により、こちらの研究部のグルニカ様の協力も得られるようになりました!」
「……ええ、そうでしたね。話が早くて大変助かります」
<さらに、私がカードに[テレフォン]機能を付与すればとっても便利ですね! ワーォ! 通知し放題! リンリン♪ リンリン♪>

レナにとっては話が早すぎて置いてきぼりを食らっている。
言っていることは分かるが、すぐに納得して飲み込めない。
相談内容が特濃である。

キラの技能について宰相は頭痛を堪えた。

「……淫魔のお宿♡系列店であれば信用もありますし、すでにシヴァガン王国に連携制度がありますから、最もスムーズに開業許可を出すことができます。あの建物の所有者名義をレナパーティへと、できるだけ早く書面に記したほうが良いでしょう」
「あの……サディス宰相。色々と考えて下さってありがとうございます。一点、質問が」

レナは申し訳なく思いながらも、この提案に、ちょっぴり抵抗を感じていた。

(ルルゥさん、ネレネさん、ララニーさん、ごめんなさいっ)

とても快適に淫魔のお宿♡を利用させてもらっている、それは事実だ。大のお気に入りである。
しかしあのどぎついピンク電飾がレナを悩ませている。

「系列店扱いなら、外観やコンセプトも、淫魔のお宿♡に似せなくてはいけないのでは……? ピンクの電飾とか。ど、どうでしょう……!?」
「ああ、それについては強要致しません。皆様にお任せ致します。淫魔のお宿♡最大規模の最新リゾートとして、新たな空間を作り上げることを期待しています」

レナが、ひとまずほーっと息を吐いた。

ピンクに輝く外観になってしまえば、自分たちのマイホームとしては落ち着ける気がしないし、上品なお嬢様風のルージュも難色を示すだろうと思ったのだ。

(……いや、案外SMに馴染みそう……? やめておこう。触れるな危険!)

レナがぶるっと頭を振った。

(アリスちゃんとキラが乗り気、ってことは、この交渉は最も良い展開なんだろうな。私だけでは判断できなかったから、二人がいてくれてよかった……。リゾート、リゾート……。リゾートかぁ……)

レナがチラリと従魔たちを見ると、首を傾げている。
リゾート、というものがぴんとこないのだろう。

「可愛いね!! んん〜〜〜!」

レナが最高に癒された。
でれっと相好を崩している。
手が寂しかったので、とりあえず近くにいた従魔たちを撫でた。

「キラー。リゾートのイメージを、従魔のみんなに見せてあげてくれる? その上で、今後について意見を聞いてみたいの」
「承知致しました!」

キラが地球ネットワークから取得した様々なリゾートPR動画を、複数のウィンドウに映し出した。

露天風呂がある古き良き旅館や、プール・屋上庭園などがある賑やかな大型系列リゾート。大食堂でのバイキングに、各部屋に凝らされた豪華な内装など。
目にも楽しい動画が流れていって、従魔たちはワクワクと目を輝かせた。

宰相は珍しく口を半開きにして動画を見ていて、ドグマは言うまでもなく耳と尻尾をそわそわと揺らしている。

「ねぇ! ご主人様! あのお屋敷が、こんな風になるのー!?」
「楽しそうっ。いろんな部屋に、泊まってみたいな」
『大食堂があってー、みーんなでご飯を食べるのもいいよねー?』
「大切な友達を呼んで、宿泊って、すごく楽しい空間になりそうだね!?」
「風呂場も大きいからリゾート向き、ってことになるのかな? キラのダンジョン能力で露天風景とかも……なんでもできるな」

「庭づくりはまかせて!」
「資金運用はまかせて!」

わいわいと従魔が騒いで、アイデアが出揃っていく。
パトリシアとアリス、アネース王国の友達も頼もしい。

こうなると、レナは、従魔たちの喜ぶ顔をもっと見たくなる。

「リゾート、開業しちゃう?」
「『<しちゃうーーー!>』」

幼児と少年少女が、歓声を上げた。

レナはふわりと友愛の笑みを浮かべて、宰相に向き直ると、瞳を瞬かせて、こっそりと苦笑を口に刻む。

(完全会員制リゾート……法律を欺くための建前、って感じだな。私たちが自由に友達を呼べる持ち家、それって10年後と変わらないんだから。本当にありがとうございます)

「では、先ほどのご提案通りに進めて下さい」
「承りました」

宰相がレナにペンを渡す。

レナは悪魔《デーモン》文書に自分の名前を記入した。
日本語で書くつもりでペンを動かしたら、手は勝手にラナシュ文字を描く。

(ここは日本ではないんだよなぁ)と改めて世界の違いを確認して、(この言語翻訳能力は[勇者召喚]のせいなんだっけ……?)と、ふと考えた。

▽契約が 締結された。

「なんと素晴らしい!!!!!!」

レナがペンを置いたとたん、魔王が立ち上がり、元気いっぱいに吠える!
ガオォォン!!

よく見ると、椅子がお尻に張り付いたままだ。
朱色の蜘蛛糸がこっそりとドグマを椅子に固定していたらしい。
レナが契約を終えるまで、是が非でも騒がないように、メッセージ(物理)を送っていたのだろう。

(待て、ができた魔王様は、とても偉かったのかもしれないね……)

レナが生暖かい目で、そびえる活火山のような大男を見上げた。

オズワルドの長ーーいため息がこぼれ落ちた。

悪魔《デーモン》文書を即座に複数コピーして、小さな朱蜘蛛に受け取らせる宰相。
朱蜘蛛たちは、部屋の隠し扉から出ていく。
重要な関係各所に、書類を届けに行ったのだろう。

「これにて問題なく、レナパーティの皆様はあのお屋敷に住んで頂けます。店舗兼住居、という扱いですから。本日の午後からは居住可能ですよ」
「本当にありがとうございました!」

レナがぺこりと頭を下げた。
それとともに、カルメンやキラが同じ仕草をする。

古代聖霊と、|小世界の神《ダンジョンマスター》に、頭を下げられてしまうなど、もんのすごいストレスである。

カルメンの含み笑いを受け流して、キラがいたずらっぽく差し出したエリクサーを、宰相が一気飲みした。

見る見る間に宰相の頭痛が回復して、頭がスッキリしたのは、もはやドラッグのごとき効果である。

ひたすら純粋元気によろこんでいるドグマにはエリクサーを与えてはいけない。これ以上の元気は毒だ。

「この取引後であれば、ダンジョンマスターとして最大限、力を発揮できますか?」

宰相がキラに尋ねる。

「そのとーりー!」

キラが人型になり、ピカッと頭上の輪を光らせた。
頬をぷんすかと膨らませながら。

全知全能の神を目指しているため、自分から改善できないことがあると、とても悔しく思ってしまうようだ。

杖をひと振り。
お屋敷の現状外観をホログラムでテーブルに映し出してみせて、宰相を驚かせて魔王を楽しませた。
腹いせである。

「大丈夫だよ、キラ。私たちと一緒に、貴方も確実に成長できるはずだから。ゆっくりと頑張っていこう。鍛錬だけじゃなく、楽しい思い出もいっぱい増やそうね」

レナはキラを手招きして、隣に呼び寄せてから、手を掴み優しく声をかける。
キラは頬を赤く染めて、エヘヘとはにかむように笑った。

一瞬で心が落ち着いたようだ。

(さすがですレナ様)
(私の可愛い従魔たちが元気になるポイントくらい、主人が一番分かっていないといけませんからね!)

レナと宰相がアイコンタクトで会話をする。
レナは結構なドヤ顔である。

キラが成長を焦っている理由は、まぁ、他《・》にもあるのだが。

キラはキラで、ハマルとアイコンタクトをとると(お互いに頑張ろうね!)とウィンクしてみせた。

「「なになに。仲間に入れてよー」」
「『これからお屋敷作りを頑張ってまいりましょうね!』とハマルさんと打ち合わせをしたのですよ」
『そうそうー』

リリーやシュシュが興味を持ってしまい、キラたちに絡んだので、二人は理由の一部を話して、またパチンと片目を瞑ってみせる。

面白がったクーイズたちも参加して、部屋にはパチンパチンと可愛らしいウインクが飛び交った。

「どうしても両目を瞑っちゃうノヨー? あれれ?」
「ミディ。ウインクしようとするのではなく、片目だけでものを見るイメージを反復練習すると良い」
「ふーん! そーなんだネ! レグルス、イカ目玉食べル?」
「い、いや……それは……遠慮する……」
「なぜ、その珍味化に行き着くのじゃ……さすがに目玉はゲテモノだと思うぞ……」
「美味しいハズなノヨー!」

レナも振り返って従魔の会話に混ざりたくなったが、我慢して、まずは契約を終わらせようと宰相と向き合う。

レナの表情はとてもにこやか。
ルーカの笑い上戸の影響を受けたためだ。

膝の上でころころと笑い転げているルーカをつついて、気を紛らわせながら、レナは咳払いをした。

このゆるさに慣れきっている宰相は動じない。

「こちらが報酬の2,000,000リルです」
「はい。確かに」

机の上にズドンと煌びやかな硬貨が積まれる。
レナは恐れなく、それらをマジックバッグにぽいぽいっと放り込んだ。

(まぁ、これぐらいで動揺するはずがありませんね)

レナパーティーの潜在財力を知っている宰相は特に注目することもなく、次はエメラルドカラーの書類を取り出した。

「ギルドカードのランクアップについて。こちらの書類に、ギルド長がカード更新の魔法をかけております。ここにカードを置いて下さい」

レナは言われた通りに動く。

エメラルドの色素を吸収して、ギルドカードがピカッと光った。

更新されたカードには、ランクAと書かれている。

「確かに確認しました。……それと……ギルドカードがエメラルドカラーになってるんですけどー!? これってもしかして何か凄いことだったりします? しますよねぇ!?」
「魔王国本部冒険者ギルド長が認めたという証です。他国でも、このギルドカードを提示すると絶大な信頼を得ることができます。おめでとうございます」
「ひょえええええ」

レナは間抜けな悲鳴を出したあと、唇をぎゅっと噛む。

「信用と人の縁は、何よりの財産ですからね……!!」
「その通りで御座います」

レナと宰相が硬く握手をした。

これからも何卒よろしくお願い致します、というお互いの気持ちを込めて。

そしてレナに「医療研究機関」への立ち入り許可カードも渡された。

「それでは、成功報酬の譲渡は以上になります」
「お疲れ様でした」
「リゾートについての詳細な打ち合わせや、特別保護域SS区スウィーツパラダイスへの立ち入り日程は、また、これから相談して参りましょう。すぐに向かいたいわけではないでしょう?」
「はい。まずは今日の結果をお屋敷精霊のルージュに伝えます」
「承知致しました。シヴァガン王国からの外出の際は、くれぐれもお気をつけて」

宰相がレナパーティの後ろに視線を飛ばしたので、レナが振り返ると、護衛部隊が音も気配もなく立っている。
すごいな、と思いながらレナが小さく手を振ると、ぷっと吹き出して手を振り返してくれた。

「移動はまったく問題御座いません! すぐですもの」
「……どういうことですか?」

宰相がすっと目を細くして、キラを眺めた。

キラが光の輪を輝かせながら、宣言する。

「以前マスター・レナが、シヴァガン王国周辺で転んだ時、とても小さなラビリンスを発見致しましたよね。その異空間の名義は”藤堂レナ”ですので! ダンジョン<赤の聖地>とラビリンスを”繋ぎ”、一瞬で移動が可能なので御座いますー!」

──部屋が一瞬、静寂に満ちた。

宰相がぐっと眉間のシワを深めて、護衛部隊が青ざめてざわつき、ドグマが「それはよかったな! 早くて安全!」と無邪気に言った。

「そのような技能をお持ちだったとは……!」
「そんな苦悶の顔で見られても困りますよサディス宰相ー! 主人の私だって初耳ですからね!?」
「たった今目覚めた能力です☆」
「「今!!」」
『わーキラ先輩ー、タイミングに愛されてるぅー』
「ノンノン。タイミングは自らが調整するもので御座います。オホホホホ!」

なにか、してのけたのだろう。
レナが困っていると、頭にルーカの声が響く。

「(ギリギリセーフ、って感じかな)」
「(ああ……それなら、まあ……)」
「(経験値やスキル取得期待値、印象操作をちょっとずついじって、キラはベストタイミングを図ったみたいだ。僕たちがラビリンスに辿り着いた時、ちょうど移動スキルを取得するだろう)」
「(恐ろしい子!!!!)」

「キラ。まったくもう……」
「えへ」
「身の安全には気をつけたんだよね。それはえらい」
「わーい!」
「本当に、貴方のことが大切なんだからね」

主従が絆を再確認し合うじつに美しい光景だが、宰相たちは、それを微笑ましく見守る余裕がない。

(出現したラビリンス、扱いを保留中でしたが……これもまた、事後会議が必要ですね。ラビリンスは異空間なのでシヴァガン王国の名義が刻まれていない、そしてレナパーティの所有になっているのは間違いないのでしょう……)

ひとまず空間移動は認めることになるだろう、と宰相はドグマと目配せする。

即座に返ってくる頷き、魔王の判断はオールオッケー一択。

歴代魔王もこんな感じだったので、影蜘蛛は動じない。
ただ、ため息が増えるだけだ。

レナたちが、もう帰っていいの? と様子を伺い始める。

「最後に。お宿♡の系列店となりますから、淫魔の従業員を新たに雇うことをお勧め致します。ベッドメイキングや清掃、来訪者への気配りなど、彼女らはおもてなしのプロです。皆様に助言できることも多いでしょう。淫魔ネレネの紹介であれば、不安もないのでは?」
「うーん……そうですねぇ。広い土地に移り住むので、家事のプロがいてくれるのほ助かります。お世話になったネレネさんたちもリゾートに招待したいとは考えていましたし」

考えてみますね、とレナは返事をした。

「リゾートの名称などすぐに浮かぶものは御座いますか。仮登録で構いません」

宰相が口早に問う。
それがあった方が、話が通りやすいのだろう。なくても強引に進めるだろうが。

従魔たちが、あれがいい! これがいい! と口々に主張する。
レナは決めかねている。

全員がピンときて、なおかつ「レナ様万歳王国!」とかじゃない名称がいいのだ。教信者がここぞと暴走している。レナは頑張って聞き流すのだ。

「エテルネルージュ、などいかがでしょうか。エテルネル、は不変。不変の赤、なのです!」

膨大なデータを頭脳とするキラのネーミングはさすがだ。

主従みんなが、思わず耳を傾けた。

「それいいね」

レナがみんなを代表して頷き、宰相を振り返る。

「では、そのように。スカーレットリゾート・エテルネルージュ……と致しましょう」
「初耳です。スカーレットリゾート!?」
「いかがでしょうか?」

宰相が命名したらしい。
レナはぽかんと顔を眺めた。

「問題ありません……いいと思います」
「ありがとう御座います」
「んもーー! 私に張り合っちゃったんですかー!? さみしんぼ!」

キラががんがんオラオラと宰相に絡みにいくのを眺めたレナは、この二人はもしかしてお屋敷で仲良くなったのだろうか? と面白く考えた。
余波を受けたルーカが、にゃふふと口を押さえる。

楽しそうな雰囲気を察したドグマも会話に混ざり、宰相が無表情になったので、護衛部隊が泡を吹きそうだ。

面倒を察したレナが、さっさと帰り支度を始める。

「なんだかとっても凄そうな施設になるんだなぁ、って言う感想ですかね」
『もうすでに破格だからね? レナ』
<そうであろう! 今後も我々に期待しているといい、レナよ!>

レナにはツッコミの声がかけられて、堂々としたカルメンの言葉が響き、もう色々と吹っ切れてしまったレナパーティは快活な笑い声を上げた。

▽交渉終了!
▽だいたい完全勝利!
▽お屋敷に帰ろう。

 

 

 

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