214:依頼成功報酬・交渉

「何か、新たな依頼成功報酬を考えていらっしゃるようですね」

宰相がため息まじりに冷静に尋ねた。

もう、目が諦めきっている。

レナパーティーならば、あまりにも理不尽なことを押し付けようとはしないだろう……この上なく変な要求はされるだろうが……と考える程度には信頼しているので、話を聞いてくれるらしい。

レナがにっこり笑った。

「話が早くて助かります」
「宰相様、大好き!」

レナの後ろから、いよっ! と合いの手を入れるキラ。
金色猫がレナの膝の上で、ぶるりと震えた。笑いを堪えている。

宰相は眉間のシワを深めた。
キラの言葉の一撃がどこかであるだろう……とあらかじめ覚悟していたため、まだダメージは少ない。

「よかったな!!!!」

ドグマがバシン! と宰相の背中を思いっきり叩く。
これは予想外だったので、物理的ダメージにより、宰相は若干|噎《む》せてしまった。

戦慄するレナパーティをよそに、当のドグマは「仲が良いのはよいことだ!」とご機嫌に言い切り、宰相の隣の椅子にどかっと豪快に座った。

早く離れたくなったオズワルドが、ささっと移動する。

「父様……俺、こっち側だから」

レナの近くに座っていたハマルに「獣型になって」と頼むと、ハマルを抱えて、その椅子に座る。
『しょーがないから先輩が甘やかしてあげるぅー』というハマルのからかいもサラリと聞き流す。

「なんだ……反抗期か、オズワルドよ」
「いや、むしろ反抗期が過ぎた後、みたいな感じだから。ちゃんと理由がある対応だし、前よりマシな態度だと思うけど」
「そうか。反抗的でないならばそれでいい! そうなのか、これも成長か!」

(いいんだ……)

ドグマはあっさりとオズワルドへの執着を手放した。
この辺りのあっさり加減は、野生由来の獣ならではの価値観であろう。

「オズワルドは、藤堂レナ様の従魔ですから。魔王ドグマ様」

宰相が念を押した。
これからの交渉で、ドグマが軽率に父親心を見せないようにするためだ。

「我が引き合わせた!!」

どどんと胸を張るドグマは大変誇らしげである。
服のボタンが複数ふっとぶ。

宰相は無視して話を始める。

「当初、お約束していた依頼成功報酬について、まずは確認致しましょう。
報酬2,000,000リル、シヴァガン政府の高度治療施設利用権、冒険者ランク[A]に昇格、『特別保護域SS区スウィーツパラダイス』への立ち入り許可……その他応相談。お間違い御座いませんか」
「はい」

レナが迷いなく頷く。

机の上に、キラが電子ウィンドウを立ち上げていて、そこには依頼契約時の文章が一字一句間違いなく表示されていた。
パンドラミミックのキャパシティは無限容量なのである。

当時の契約書類をきちんと机の上に広げていた宰相は、電子ウィンドウの鮮明な画像と照らし合わせて、一瞬ひくりと口の端を引きつらせた。

「……付加報酬も考えると、あらかじめ相談していましたからね。──では。お聞かせ頂けますか? 皆様のご要望を」

宰相が、スッ……と目を細めた。

レナの背筋が伸び、表情も真剣になる。

「はい。依頼成功報酬として、あのお屋敷と周辺の土地の所有を望みます」

この答えは予想外だったのであろう。
宰相が刮目《かつもく》する。

「渡してやればよいではないか……」
「黙って下さい」

余計なことをドグマが言う前に、宰相が口を塞いだ。
もちろん蜘蛛糸でぐるぐる巻き。

ドグマの頭だけが毛糸玉のようになっている。
オズワルドが片手で顔を覆って、なんとも言えない感情を耐えた。

「皆様は、あの廃墟をご所望なのですか? 意外だと感じましたが」
「とっても綺麗に改装済みなんですよ」

なるほどレナパーティならやりかねない、と、宰相がくいっと眼鏡をかけ直す。

レナは畳み掛ける気満々である。

対抗するつもりで、いつぞや使用した赤仮面を自らに装着した!

▽眼鏡 VS 赤仮面!

(……ッレナ! どうしてそういうことするの!?)
(ルーカさんが笑い上戸を発動すると、緊張してる私が適度にリラックスできるので)
(ああもうサディスト……! あ、ちょ、サディストって、サディスティックっ、仮面、にゃふふっ)
(そうそう。いい子いい子)

レナがルーカの毛並みを撫でる。

とてもいい笑顔で、赤の女王様が微笑む!

▽覇気!!!!

▽宰相に効いてる効いてるぅ!

「……建物を改装済みであれば、あの一帯を所有したいというお気持ちは、理解できます。ジーニアレス大陸のほぼ中心地で各種族の小国家へのアクセスもしやすく、理想的な場所ですから」

「ええ! そうなんです! なによりもですね、お屋敷精霊のルージュが、思い出深いあのお屋敷をぜひ私たちに管理してほしいって言っていて〜」

▽重要キーワード[精霊]
▽圧倒的な追い討ち!
▽宰相の眼鏡のヒビが広がる。

「お屋敷精霊ルージュは元・伝説の魔物使いでした。彼女の元従魔たちが、新種のゴーストモンスターとなり、改装後のお屋敷に住み着いています」

▽重要キーワード[新種のモンスター]
▽圧倒的な追い討ち!

「アネース王国のラビリンスと通じる、大精霊シルフィネシアを喚ぶための泉も出現していまして」

▽重要キーワード[他国の大精霊]
▽圧倒的な追い討ち!

「お屋敷の照明は白炎、貴金属に関しては全てが|緋々色黄金《ヒヒイロカネ》」

▽重要キーワード[白炎][|緋々色黄金《ヒヒイロカネ》]
▽圧倒的な追い討ち!

アリスの目が光った。

「さらに……お屋敷はもう、ただの建物ではありません。パンドラミミックのキラが管理する<ダンジョン:赤の聖地>に生まれ変わっています。
お屋敷精霊も大精霊も、あの場にいる限りキラの配下です。ラビリンスの上位互換、ダンジョンですから、続々と新種の魔物が生まれることでしょう」

キラが自分のステータスを宰相に表示してみせる。
称号[ダンジョンマスター]。
ワァオ!!

▽重要キーワード[ダンジョン][キラ]
▽圧倒的な追い討ち!

宰相のメンタルにクリティカルヒット!!!!

ダンジョン。
新種の魔物。
【☆7】[レア・クラスチェンジ体質]のギフトを授かった魔物使い、藤堂レナ。

この組み合わせは、やばい、やばすぎる。

(ラナシュ世界が……変わってしまいかねない……! いや、新世界が創造される、と考えた方がいいのだろうか!?)

さすがの宰相も顔から血の気が引き、思考が一瞬止まった。

「どうか前向きなご決断をお願いしますね。サディス宰相」

レナがせっつく。おらおら!

(ジーニアレス大陸、魔王国のすぐそばに爆弾を抱え込むことになる。……いやもう、とっくに事は動いているのだから……考える余地など……しかしこれは……)

宰相の身体がカッと内側から熱くなった。

驚き、レナを凝視すると、レナはなんと古代聖霊の頬をおもいきりつねっている。
カルメンが頬を赤らめながら(物理)ぱちりと宰相に瞬きしてみせた。

選択肢はもう一つきりなのだ。

宰相は盛大に顔を顰めた。

キラがここぞと差し出した濃縮エリクサーボトルを、一気飲みする。

▽宰相が内側から輝きを発した!
▽お肌がツルツルに! 目の下のクマもすっきり!
▽眼鏡のヒビも元どおり!

心の中で、赤仮面を装着した。

レナパーティとともに歩む覚悟を決めたのだ。

「皆様のご要望、依頼成功報酬として、シヴァガン王国政府が承りました。
お屋敷がある土地を、レナパーティの所有地として名義変更する手続きを開始致します。
魔王ドグマ様も賛成しているようですので……」

「大賛成だ!」

蜘蛛糸を取り払われてやっと顔が解放された魔王が、満面の笑みで、吼えるように同意した。

あまり深くは考えていないが、なんだか楽しそうだと野性の本能が告げていた。

喜ぶレナパーティを見据えて、宰相が静かに一言。

「ただし、名義変更に関して、ひとつ条件が御座います」

ラナシュ世界のお約束なのです、と人差し指を唇にそっと添えた。

 

 

 

 

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