213:帰還

シヴァガン王宮にレナパーティーが降り立った。
赤のマントを風になびかせながらの堂々たる着地。

そのインパクトは絶大で、またしてもファンを増やした。

影蜘蛛の重役たちが現れると、流れるように宰相の執務室に案内される。

執務室に向かう道すがら、前方から小さな人影が走りこんできた。

「レナお姉ちゃん! パトリシアお姉ちゃん! ……モスラーー!」

金髪を揺らすアリスは、涙声で友達の名前を叫んだ。
それぞれにぎゅっと抱きついて、やっと無事を確認すると、ホッ……と肩の力を抜いた。

「お帰りなさい、お帰りなさいっ」
「ただいま帰りました」

(ただ待っているだけ、っていうのも辛いものだよね……アリスちゃんも頑張ってくれていたんだ)

モスラに抱えられるアリスを眺めながら、レナが友愛の微笑みを浮かべた。

廊下の角から、経済部のマモンが現れる。

「お帰りなさいませ。皆様が外出している間、アリス様はずっと安否を祈り続けていたのですよ。ただ祈って待っているだけでは気が済まないようで……商談など、皆様の利になることを努力されていました」

レナが目を丸くする。

「さすがアリスちゃん」
「ええ、そう思います。|緋々色黄金《ヒヒイロカネ》の取り扱いについて、シヴァガン王国とスチュアート家を中継したよいお話を皆様に告知できますから……また、後ほど」

レナパーティが一斉に、バッと視線を逸らした。
バツが悪そうな顔で。

「……おや。……新たな商談が必要なようで……」

顔を引きつらせたマモンが、声だけは冷静に告げて、フッ、と苦笑をこぼした。
アリスに相当してやられたようだ。

当のアリスも何ごとかと詳細を聞きたげだったが、まずは、再会の喜びを噛みしめることに一生懸命である。

モスラがアリスを抱き上げたまま、みんなで一緒に移動した。

マモンは手を振って見送り──史上最年少商人の後ろ姿に、敬意を払った一礼をした。

***

レナパーティは、宰相の執務室前で一旦止まる。
黒紫の瞳をしたレナが、パチリと瞬いた。

影蜘蛛たちが不思議がる。

「どういたしましたか?」
「……中がカオスというか……」

影蜘蛛たちが眉をひそめる。
自分たちの分身の影蜘蛛と通信して……青ざめた。

「少々お待ちを……」
「いえいえお気遣いなくー!」

じーっと扉を見つめて、中の様子をしっかり再確認したレナは、もう怖じ気付いた様子もなく、バーーン! とドアを開けた。

▽ド真ん前に 宰相!!

「お待ちしておりました」

いつも通りの冷静な対応だ。
ただし、レナとの距離が近い。近すぎる。レナの視界は宰相のスーツで埋まっている。まったく匂いがしないのは影蜘蛛の特徴といえよう。

全ては、後ろの残念な光景を見せないための措置であった。

「こんにちは」

レナは宰相を見上げる。
仮面姿をイメージして笑ってしまわないかな、と不安だったが、それ以上に彼の疲れた様子に同情した……。

「キラ」
「はあーい☆」

▽キラが 手をパッと開く。
▽シャボンフィッシュが 飛び出した!

▽宰相の 口に入り込む! エリクサー・ヒール!
▽宰相の体力が 全快した。
▽宰相のメンタルが ダメージを負った。

「…………………………ありがとう御座います」
「どういたしまして! 私と宰相様の仲ではありませんか〜♪」

キラがトドメを刺した。

そうこうしている間に、宰相が隠したかった後方も落ち着いたようだ。
後方の魔王のテンション、といった方が正しいだろうか。

魔眼で視てしまっていたルーカが、オズワルドの後ろで笑いをこらえてぷるぷると震えている。

しょんぼり魔王が、蜘蛛糸で縛られて、正座していたのだ。

おそるべきインパクトであった。

そしておそるべき持ち直しの早さ!!!!

獣耳がピン! と立ち、蜘蛛糸を引きちぎって駆け寄って来る。

「おお、帰ってきたかお前たちよ!! 我は今か今かと訪問を待っていたのだぞ!! 夢組織の残党を捕らえた土産話をしてやろう!!」

元気!!
がうがうと吼えるように話す魔王ドグマは満面の笑みだ。

これまで、武勇伝を話そうとすればそれと関連したお説教をされて不貞腐れていたので、やっと自慢できる対象がやってきて嬉しいらしい。

ドグマはレナの頭を大きな手でわしっと掴んで、一旦停止。
強い力で撫でたら許さん、と従魔がギラリと目を光らせている。

「立派な働きであった。ご苦労!」

一国の王が冒険者に向ける言葉としては、最上級といえよう。
従魔も宰相も、満足そうに頷いた。

「あのさ、早く主さんから手を離してくれる? 髪が乱れるし、力加減をもし誤ったら大惨事だから。ね!」

オズワルドがレナの隣に立ち、じろりとドグマを見上げた。

「ふはははははははは!!」

▽ドグマの注目が オズワルドに移った。
▽ぐりぐりと息子の頭を撫でくりまわす。

「成長したぶんが縮んだらどうすんの……!? あのさぁ!」
「よく頑張ったな、息子よ!」
「……っ」

そう言われると、オズワルドはぐっと黙ってしまった。
はあ、とため息をついて、レナを横目で見る。

(ごめん主さん。俺が父様の相手しとくから、そっちで話進めてて)
(了解)

レナは黒紫の瞳でなんとなくオズワルドの意思を読んで、頷いた。

宰相に勧められて、レナパーティはテーブルに着く。
小さくなれる従魔たちはそれぞれ魔物型になった。

レナの膝の上には、長毛種の金色猫が座り、黒紫の瞳で宰相をしっかり眺めた。

まずはお疲れ様でした、とみんなで健闘を讃え合う。

「こちらの報告から申し上げます。魔王ドグマ様がおっしゃった通り、夢組織の残党であるマルク、スイ、イラ、ラズトルファ、ウィスプ、マイラは捕らえました。現在は地下牢におります。彼らは反省していておとなしいですが、無罪放免というわけには参りません。これから更生の相談を致します」
「分かりました。あの、彼らの怪我などは……」
「治癒を施しております」

レナが胸をなでおろして、宰相にお礼を告げた。

あの悲しい子どもたちのことが、やはり気がかりだったのだ。
規則通りの措置ですから、と宰相は冷静に返事をする。

「夢組織は全員捕縛、ですね。よかった。私たちは、捕縛した|砂漠の魂喰い花《デザートギルティア》と子どもたちを、聖霊対策本部の皆さんにお任せして地下に届けてきたところです。全員、怪我は回復させています」

レナが代表として話す。

「それから……|死霊術師《ネクロマンサー》の青年の灰は、グルニカ様が管理されるとか……。地下室に隔離結界を張って厳重管理する、って聞きました。彼女のことは、ロベルトさんが見張ってくれています」
「承知致しました」

宰相が(良かった。打ち合わせ通りに事が進んでいる)とそっと安心する。
グルニカが万が一にも暴走しないよう、ロベルトに見張りを言いつけてあったのだ。
死霊術師《ネクロマンサー》も灰になっていれば扱いやすいので、最良の結果であった。

夢組織については、まずは数日間様子見をしてから更生内容を話し合う、と決めた。
その相談の席には、彼らの心の傷を知るレナパーティも呼びたい、と宰相が話した。

「断ることもできます。これ以上の負担を強要はしません」
「参加させて下さい」

レナが言いきる。

「あの子たちのことが気になります。深入り、しちゃいましたからね。それにオズくんとも縁ができちゃって」

宰相がオズワルドを振り返る。

魔王ドグマに、服の袖を捲られてにおいを嗅がれているところだった。

「妙なにおいがするな?」
「あのさぁ……野性の本能、効きすぎ」

オズワルドが呆れたように言う。

「鏡蜘蛛(ミラースパイダー)の奴が、俺を呪ったんだよ」
「それにしては気配が濁っていない」

じい、とドグマが眺めている息子の腕には、血の手形のような、明らかに不穏な模様が浮かんでいるのだが。
さすがだな、とオズワルドは父を見上げて感心した。

「”捕まえた仲間を助けてあげて”……って呪いだから。まあ、そんな極悪なもんじゃない。スキルはともかく、願い自体は清らかなもんなのかも……って思ってる」
「お前はそのように動くつもりなのだな。オズワルドよ」

ドグマが穏やかな目で、オズワルドを見下ろす。
視線で褒められているようで、むず痒そうにオズワルドがそわそわと獣耳を揺らした。

「……そう。主さんたちも手伝ってくれるって。ありがと」
「もちろんだよオズくん」

レナがにっこり笑って、ひらひら手を振った。

「我も協力しようではないか!!!!」

ドグマが元気よく吠える!
声量が大きいのでみんなが耳を塞いだ。

宰相が重く頷く。

「承知致しました。タダとは申しません、王国からの指名依頼として発注し、報酬についてはまた相談申し上げます」

▽レナパーティが 口角を上げた!
▽宰相の 眉間のシワが 深くなる。

レナが虚空を見つめる。
すると……鮮やかな赤色がひらめき、カルメンが現れて、レナの首に腕を回して艶やかに微笑んでみせた。

──勝負《バトル》が始まる。
宰相が理解する。

「それでは依頼報酬についてOHANASHIしましょう」

レナが、えげつない覇気とともに笑みを浮かべた。

宰相は、眼鏡をくいっと位置調整する。
その端っこに、ぴきりとヒビが入ったのは、赤の運命のイタズラなのかもしれない。

 

 

 

 

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