212:できたてのお屋敷ダンジョン

廊下に出たレナたちはあっけにとられた。

お屋敷の! 廊下には! 豪華なレッドカーペットが敷かれている!!!!

言わずもがなキラのナイス案である。
精霊も聖霊も大賛成した。

護衛部隊は恐れ多さのあまり、レッドカーペットの端をちまちまと早歩きして移動していた。

「レッドカーペット一番乗りはレナ様で決まりですよね!!」と言った言葉がキラに気に入られて、クドライヤはぐーんと株を上げてしまい、マシンガントークに付き合うことになった。
なまじ返答が秀逸なものだから、いつまでも話が弾んでしまった。

と、そんな裏事情はさておき。

廊下の脇には甲冑が飾られていて、壁には絵画がかけられている。

「……ここダンジョンなんだよね? あの甲冑、動きそう……」
「ピンポーン!」

甲冑が動きを揃えて、レナに向かって敬礼した!

「キャーーー!? ホラーハウスじゃない!?」
「まさしく」

否定されなかった。

ルージュが満足そうに手を振ると、甲冑たちがぶんぶんぶんぶん!! と手を振り返してくる。

「中身はルージュ様の元従魔、ってことなんだね……」
『あらレナ様? わたくし、レナ様に嫁ぎましたのに。どうぞルージュとお呼びになって』

艶っぽい動きでレナの手を取り、見つめるルージュ。

レナは噎せたが、呼吸を整えて、おとなしく「ルージュ」と呼んだ。
薔薇の花のように華やかにルージュが微笑む。

(レナ様、何人手中に収めるんだよ!?)
(すんげー。びっくりー。次々にオトシていってますね。それも超重要人物ばかり。すんげええー)
(シヴァガン王宮にもファンクラブ、あるもんねー)
((会員でっす))
(知ってる。私もだもん)

護衛部隊が視線で会話をした。

キラがパン! と手を叩くと、廊下の燭台に白炎が灯る。
レナが白目になった。
いえい! とハイタッチしているキラとカルメンはひたすら楽しそうだ。

「不審者を照らし出します!」
『なんなら自在に動くしな!』
『そうなのですわ! わたくしの赤魔法適性の従魔たちが白炎に乗り移って、カンテラゴーストとなり、不審者を追うのです!』

▽キラキラセイレイトリオが止まらない!

レナたちは、即捕縛決定であろう不審者に、先に合掌しておいた。

「レッドカーペットにはやはり、マスター・レナが一番乗りでないと! さあさあ」
「はーい」

キラに急かされたレナが、ふっと笑って(だいぶ諦め笑いだ)足を踏み出した。

ハイヒールが、レッドカーペットに触れる。

ピチューーーン!(効果音)

「何!?」
「うぐいす張り、ならぬ桃糸雀《ピチュリア》張りの床なのです。侵入者が足音を忍ばせていても、この通り!」

オンオフも可能です、とキラが得意げに杖を振ってみせたので、レナが脱力した。

この廊下でピチュピチュと遊ぼう! と思っていた子どもたちは、音が鳴らなくなり、がっくりと肩を落とす。

「まあまあ、そんなに落ち込まないで……罠《トラップ》はまだまだありますから。ね!」

キラが杖を振る。

壁に沿って、影の魔物が駆け抜けていったので、まっさきに一番幼いミディが追いかけていく。

その後ろから、少年少女となった先輩従魔が追っていくのを、レナは優しい眼差しで眺めていた。

目からは滝のように涙が流れているので、同じく号泣させられたルーカが、つんとレナを小突いた。

キラの言葉通り、ダンジョンには罠《トラップ》がいっぱい!

ぐにょんと変形する道だったり、ダミーの扉だったり、動く家具だったり、それはもう大変なことになっていた。

そして館内の景観の美しいこと。

レナがかつて見た宮殿の夢から、ハマルが家具を[夢吐き]したのだという。
ハマルも随分成長したため、かなり大きなものも難なく取り出せる。

……とはいえ、家具のない殺風景な部屋もまだある。

「アリスちゃんに家具の手配を頼んだら、張り切ってくれそうだね」
「そうだな! アリスもレナたちのために手伝いたいって、いつも言ってるもん。相談してみよう」

レナとパトリシアが話すと、モスラが「ありがとうございます」ともう一人の主人の喜ぶ顔を想像して、にこりと微笑んだ。

庭に出ると、植物が生き生きと育っている一角がある。
荒れていたであろう庭がこのように整っている理由は……と、レナがクドライヤを見上げた。

「ご名答。察しがいいですね」
「ありがとうございます」

レナが丁寧にお礼を言うので(ホントいい主人だな)とクドライヤも気分良く返事をした。
ひらひらと手を振る。

(また、こーいう緑の再生の方法も教えてやんないとな……)

クドライヤはそっと、抱えたギルティアを見下ろした。
少女の種族を思い出して(……名前も与えられないうちに放り出されたなら、樹人族の生き方を何もかも教えられていないはずだ)と、そっと遠い目をして考える。

知らないからこそ、知れば変われることがある。

ギルティアの未来を、ともに導く覚悟をして、クドライヤは「よしっ」と肩に力を入れた。

立ち止まっていたため、クドライヤが小走りでレナパーティを追いかける。

レナの驚愕の声が聞こえてきたので、くっ、と喉の奥で笑いを噛み殺した。

緑に囲われているのは、あまりに澄んだ青の泉。
水面はきらきらと輝いている。

(すんごい既視感!)

▽しかし レナは引き下がれない!
▽ここにあるものは もうどうしようもない!

「ここが、シルフィネシア様を喚《よ》ぶための『ラビリンスの泉』で御座います!」
「だよねーーーー!?」

叫ぶようにレナが返事をした。
キラは、いたずらが成功した子どものように「わーい」と小さくバンザイ。

「普段はプールとしてお使い頂ければと思います。もちろん、水には私がエリクサーを少量混ぜておりますので、浸かるだけで驚愕の回復効果!
泳げば泳ぐほど健康になれる!
泳いで、疲れて、回復して、さらに泳いで、レベルアップ♪ 素晴らしい無限トレーニングで御座いますね!」

「待って! このお屋敷にフィットネススタジオでも作る気なのかな……?」
「なんと! 素晴らしいアイデア! さすがマスター・レナ!」
「いやいや待ってぇぇぇ」

▽待たれない!

すでにこの泉には、ネッシーが置いていったシャボンフィッシュが何匹か泳いでいるのが見えている。
お屋敷ダンジョン計画は、バリバリ進んでいるのだ。

▽まだまだいくぜ!

場所を移動して、お屋敷の南館へ。

「こちらが大浴場! カルメン様が大理石を白炎で焼き、|緋々色黄金《ヒヒイロカネ》の浴槽を創り上げて下さいました」
『感謝せよ、レナ!』

カルメンが、呆然としているレナの首に腕を回して、ふわりと纏わりつく。

「ここにお湯を張って入浴すれば、あーら! お肌がツールツル♪」
「この金ピカの浴槽を踏んづけるの!? ねぇ!?」
『まぁ踏まれるのも悪くはないかと』
「カルメン……待って……目がやばい」

レナが危険を察知した。
[サディスト]の称号が反応しかけたのだ。ということは、扉を開きかけている(五分開き)。

カルメンの肩を掴んで、ガクガク揺らすレナ。
聖霊への扱いの雑さに、魔王国役員は震え上がった。

「しっかり!!」
『おや? なんのことだ……? 我々はただ、新しい計画に興味津々なだけだ。見よこの純粋な好奇心の輝きを』

前後に揺さぶられながら、カルメンがギラリと目を光らせたので、レナは思わず顔を逸らした。

その視線の先には、偶然にもハマルがいる。
なんという偶然《うんめい》。

ハマルはこてんと小首を傾げて、とても可愛らしく微笑んだ。
頬をうっとりと染めて。

「レナ様ー。ボクが[夢吐き]で用意したシャワーなどもあるんですよー。この大浴場ー、気に入ってくれましたかー? とーっても頑張ったんですー」
「もちろん! 感激した! だからそうだね……浴場の話はもう終わっておこう。えらいえらい! とっても素晴らしいものを作ったね〜!」
「えへへー。抱っこで拘束してくださーい」

……自ら話を逸らしたつもりだったが、これはこれでマゾヒストたちにうまいこと誘導されたのではないかと? 思うレナであった。

いつの間にか、トンデモ浴場についての話を終わらせてしまっていたのだから。

▽細かいことは気にするな!

キラがぴかっと光り、自分の存在感をアピールする。

「さてマスター・レナ! このとっておきの2大スポットですが……例えば、ネッシー様を喚ぶついでにラビリンス及びアネース王国とも繋げてしまおうだとか、ラミアの里から温泉水をここに沸かせて空間を繋いでしまうだとか、そのようなことを計画しておりますが」
「初耳」
「そう、今言ったので御座います。マスター・レナのびっくりした顔、とっても可愛らしい〜! や〜ん! 激写で御座います!!」

キラが何度もレナを連射する。
フラッシュが眩しい。

「あ、あのねキラ。もしかして……もう、空間を繋ぐ力があるって言いたいの?」

レナが黒紫の瞳でキラを見つめる。
キラがくねっとして照れた。

「正しくは、マスター・レナが所有している土地同士を繋ぐことができる、です。マジックバッグの異空間共有に近い理由で御座いますね」

キラは大真面目に、レナを見つめ返した。

元機械特有の冷たい鋭さを放つ瞳が、これだけは絶対に成し遂げたいのだ! と強く訴えかけてくる。
レナはハッとした。

(ただの思いつきじゃないんだね……。キラには、キラなりの、確固とした考えがあるみたい。成し遂げたいこと、なのかぁ……)

「様々な国の重要地点が、この土地で繋がる。つまりマスター・レナがいる場所こそが、ラナシュ世界の中心になるので御座います!!!!」
「すっごーーーーーい……」

レナは遠い目で、ただただ、賞賛を送ることしかできなかった。

「あまりに現実味がないんだけどね? あはは……。でも、キラは成し遂げるんだろうなーっていう気がする……」
「はい。もちろんです!」
「おそらく、そうなんだよね」
「はい」
「キラ、それが心からの望みなんだね?」

レナはキラの手をとって、しっかり目を合わせて従魔の望みを尋ねた。
返事は早い。

「はい! 私の望みは、マスター・レナとともに栄光の道を歩み、遥かなる高みに立つレナ様を側で見つめることですから」

(予想以上にすごい主張が返ってきた!?)

「──わかった」

レナは動揺したが、ぐっと閉じていた口を開き、言い切った。

遥かなる高みだとか、そんなのは目指してはいないけれども、従魔との生活を守るために強く、強く、強く、鍛錬を重ねていけば、いずれはそのような立場になるであろう事は、その黒紫の目に視えていたからだ。
きっと未来のレナの姿となるのだろう。

(従魔の望みを叶えるために)

その理由は、レナを強くする。
時に困難に遭い、立ち止まってしまいそうな時にも、レナの手を引く確かな後押しとなるだろう。

「他の何者も手を出せないくらいの高みに到達すれば、何もかも、思いのまま。平穏な暮らしが約束されておりますよ。マスター・レナ」
「んもーー。そうだといいなぁ……」

レナは泣き笑いだ。
不安の涙は、そっとキラの指に受け止められた。

「マスター・レナの望みは、いつか絶対、叶うに決まっています。最強になり平穏な暮らしを。大丈夫。貴方は誰よりも世界に祝福されているのですから!」
「……世界よりも、もはやキラに祝福してもらう方がすごく重要な気がしてきたよ? ありがとう」

キラがぱちくりと瞬きして、レナを見る。

そして、ぱあっと顔を輝かせた。

「そうです! 私はこの世界の神になるのですから!」

杖を振ると、キラの頭上に浮かんだ光の輪が、輝きを拡散させた。

そしてキラは満足げに頷いて、レナに相談を持ちかける。

「マスター・レナ。先ほど申し上げた『別の場所とこのお屋敷をつなぐ条件』を思い出して頂けますか」
「私が所有している土地と土地を繋ぐ……だよね?」
「その通りで御座います。つまり! ネッシー様がいるアネース王国のラビリンス、それから、ラミアの里にそれぞれ相談をして、土地をマスター・レナとの共有名義にして頂くのがいいでしょう」
「そ、そういうことかー!?」

レナが頭を抱える。

(キラの望みは叶えてあげたいけど、国の土地……それも、超重要な秘境を、個人の共有名義になんてしてもらえるの!?)

キラは抜かりない。

「大精霊様の鶴の一声と、ラミア族の姫君を救った恩があるのですから、交渉の余地はたっぷり御座いますよ」

そのように[テレフォン]しておいたのだから。ね?
おっと、これはキラの秘密だ。

「このお屋敷に即アクセスできる、レナパーティとのコネが強化できるとなれば、向こうにも利益があります」

キラの自信満々の主張に、レナたちは苦笑しながらも、なるほど……と頷く。
確かに、レナパーティーの切り札は多いし、強い。

「これはお願いではなく交渉なんだね?」
「「「お任せ下さいませ!!」」」

キラ、モスラ、ルーカがにこやかに声を揃えた。
すごーく強いサポートだ。

「説得、頑張るのじゃ〜! すぐにレーヴェたちと会えるのならば、こんなに嬉しいことはないのじゃ……!」

うふふ、と顔を綻ばせるキサはあまりに美しい。
これは交渉勝ったな、とレナたちは確信した。

レーヴェたちはキサ可愛さに泣き崩れるであろう。
今のレナのように。

▽落ち着いて!

キラが電子ウィンドウを出現させる。
お屋敷ダンジョンの設計図だ。

「もう一つ、重要なことを。このお屋敷の所有権を正式に得ましょう! 建物の所有権は、ダンジョンマスターである私のもので御座いますが、この土地は、シヴァガン王国の管理地となっているのです」

オズワルドが王国の負けを悟った。

「そうなんだーそんなことがよくわかったねー?」

レナの乾いた声の問いかけをうけて、キラが、トントンと自分のこめかみを得意げに人差し指でつついてみせる。

「世界の情報にアクセスして確認いたしましたから!」
「すごくすごい」

レナは手で顔を被った
魔王国役員も思わず顔を覆ってしまった。

▽すごい!!!!

「この件は、シヴァガン王国に帰ってから、宰相様と魔王様にOHANASHIすると良いでしょう。とても大変なクエストをこなしたのですから……ねぇ……? 依頼報酬として追加要求いたしましょう! ぐいぐいと!」

キラがなんだかとても悪い顔で笑っている。
そしてモスラと目配せをした。

「そのためにはシヴァガン王国に見せつける必要がありますね。我々の要求を飲まざるを得ないと思うほどの、圧倒的な力を!」

大迫力の! B!! G!! M!!!!

***

お屋敷の上空に、赤い光の柱が出現する。

“ギャオオオオオオオオ!!”

片翼77メートルある翅を悠々と広げて、天帝ヴィヴィアンレッド・バタフライが飛び立った!

その背中には赤き装束をたなびかせる人影が多数。

全員、暴風にさらされることなく、優雅にマントをなびかせている。
驚くべき光景である。

モスラのギフト[大空の愛子]が、進化により更に強化されたため、風を自由自在に制御できるようになった。
ちなみに種族説明は、案の定、”史上初につき詳細不明”であった。

天帝の姿を、ジーニアス大陸のたくさんの魔物が目撃した。

雲1つない真っ青な空に、夜を映したような漆黒の翅、赤の輝きは途方もなく目立った。

遠く離れたところでは、あれは伝説のドラゴンだろうか!? と騒然となった。

もはやドラゴンよりも蝶々の方が強い。
これぞ[レア・クラスチェンジ体質]の醍醐味である。

シヴァガン王国の上空を3周、くるりと旋回すると、王宮の上でモスラはヒト型になり、身体能力の優れた魔人族たちが体勢を崩すことなく王宮の屋根に降り立った。

オズワルドの[|重力操作《グラヴィティ》]により、とても軽やかな着地であった。

▽さぁ交渉の始まりだ!

 

 

 

 

pixiv fanbox

 こちらにはイラストまとめ、創作裏話、ホームページ制作の記事を書いています。ぜひお楽しみいただけますように。
 100円ご支援いただけることは、書籍一冊買ってくださったのと同じ助けになります。
みなさまいつも応援ありがとうございます!