211:レナパーティの目覚め

とっても大きなふわふわ白金色の羊毛ベッド。
雲に包まれるように眠っていたレナが、目を覚ます。

「おはよう! ご主人様」
「レナ様」
「レーナ!」

従魔たちが、友達が、親しい者が、柔らかな声でレナを呼んだ。

「…………っ!」

レナの目から、とめどなく涙が溢れてくる。
そんな反応を予想もしていなかった従魔たちは、おおいに慌てた。

「「っちょ、レナー!?」」
「ご主人さまっ、大丈夫……!?」

あっという間に、ハンカチやとっておきのお菓子がレナの元に集まる。
癒しのぬいぐるみ代わりにと自らを差し出してきた獣従魔のカラフルな毛並みにもっふり埋もれた。
艶やかな赤、青、金の毛並みが、涙でしっとりと濡れる。

『どうしたんですかー?』

レナの夢見を知っていたハマルは、静かな声で問いかけた。

──夢の中のレナは、必死に祈っていたのだ。
大好きなみんなが笑顔でいられる未来を、どうかこれからも、と。

夢組織の子どもたちの悲しい事情に触れたことで、レナはなおさら、従魔たちを幸せにしたいと再認識した。
そのためにはさらに強くなり……トラブルをぶっ飛ばしていこう、こんにゃろう! と。

強気なところは女王様状態の時に伝えていたが、気持ちが落ち着いてようやく、レナの心に繊細な衝動が込み上げてきている。

「……みんなが、無事でいてくれて、本当に嬉しいの……! ……さっき笑った時の顔が可愛くて、それも、嬉しくてね……う、ぐすっ、良かったぁ……!」
「「レーーナーー!」」

クーイズが飛びついた。

「「よく頑張ったね」」

レナの耳に片方ずつ口を寄せて、クーイズがそう言ったので、レナは目を丸くする。

(私が、言うつもりだった言葉……先に言われちゃった。……大人っぽくなったねぇ)

青と赤の髪色の二人のクーイズも、随分と背が伸びて、目に見えて成長している。

「「いい子いい子〜」」

レナの頭をそっと抱えて、クーイズは撫でてくれた。
優しい接し方は、他でもないレナからきちんと学んだのだ。

レナは、幼い頃に戻ったような気持ちになってしまって、嗚咽をこらえきれなかった。

……レナが落ち着くまで、寄り添いながら、従魔たちは(主人に心配をかけて泣かせないように、もっと頑張る)と決意した。

しばらく、幼子のようなレナの泣き声が響き続けた。

「ううう……ひとりひとり、抱きしめさせてぇ〜……」
『『あらあら、レーナちゃーん! 甘えんぼね! 喜んで〜♪』』

泣きべそをかきながらレナが両手を伸ばすと、するり! とスライム状態になったクーイズが腕の中に滑り込んでくる。

『『いっちばーん!』』

ぎゅー! とレナが抱きしめると、腕の中で混ざって紫色になった。

「ブリリアントな輝きだね」
『ありがと♡』

モチモチと頬をすり合わせてから、クーイズがレナの腕の中から抜け出す。
羨ましがっている後輩たちの視線が突き刺さっていたのだ。

「リリーちゃあん……」
『はーいっ。ここだよ、ご主人さまっ。貴方の、側にいるよっ』

寂しくなり、青ざめたレナが手を彷徨わせかけると、リリーがひらりと手のひらに舞い降りて、バレリーナのように一回転した。
スカートの裾や乳白の髪が華やかに揺れる。

惚れ惚れするような一礼を披露した後、リリーは手のひらに座り込むとレナの指に抱きついて頬ずりする。
もう上品さのカケラもない。

『ああああご主人さまのっ指っうふっ! 大好き、だよ♡』
「私もだよおおお」
「いいなああああ」

上から、うっとりリリー、号泣レナ、ジェラシーシュシュである。

「ううー! ウサギ姿になれなくなったから、ご主人様の元に行くのが遅れた……ぐやじい!!!!」
「シュシュもおいでー」
「いっくうーーーーーーーーーーーー!!」

レナの膝に乗っかっていたオズワルドを、シュシュが倒れこむように踏みつけた。

『重い! スキル[|重力操作《グラヴィティ》]……軽くしたぞ、シュシュ。お礼は?』
「ありがとご主人様ご主人様ご主人様ご主人様ご主人様ご主人様ご主人様ご主人様ご主人様……!」
『主さんにだけお礼言ってるように聞こえるからな、それ!?』
「……オズは良いよねぇ、ずぅーっとご主人様のお膝に乗っていられたもんねぇー……?」

ウサギ型になれなくて出遅れたシュシュは、光が消えたジト目でオズワルドを見下ろした。やばい。とても天使とは思えない。

『……レグルスとルーカも同様だぞ』
『巻き込むんじゃない!』

オズワルドと反対側にいるレグルスが吠える。
が、レナの側は離れない。
本人は(主人の情緒に寄り添い支えるのは部下として当然だ!)と思っているからだ。

「オズの方が踏みやすくて」
『おいこらシュシュ』
「多分[|重力操作《グラヴィティ》]すると思ったし」

オズワルドが、はあ……とため息を吐いた。

シュシュから順番が代わり、オズワルドもレナにしっかりと抱きしめられ撫で回された。
なんだかんだオズワルドも、もはやこのあたたかい手が恋しい。

次は、近くにいたレグルスが撫で回される。
ゴロゴロと喉を鳴らさんばかり。
必死で堪えている、というような感じがみんなにダダ漏れである。

従魔たちはその光景を見て、どくんと胸が高鳴り、確信した。

レナが主人として強くなったことで、以前よりさらに彼女に魅せられていると。

そこんとこどうなの? と言う気持ちと、お前も一緒にいただろうがシュシュの嫉妬被害に遭え! という気持ちを込めて、オズワルドがルーカを眺める。

ぎょっとした。
金色のとても美しい長毛種の猫が、紫の瞳からぽろぽろと涙を流しているのだ。

「こっちの子も泣き虫よね〜? あらあら!」

紫クーイズがヒト型になり、ルーカを抱っこして、よしよしとあやすように撫でて、にやっと笑う。

『ええ……不本意。感覚共有、切るの、ずっと……忘れちゃってる、から。っ……それだけだって』

こみ上げてくる嗚咽で喋りづらそうにしながら、ルーカがにゃあにゃあと抗議した。

しかし、クーイズに喉を撫でられると、猫科の快楽にはあらがえないようで、クテンと身体の力を抜いておとなしく抱えられる。
二又尻尾がゆらゆら揺れた。

「『にゃあ〜〜……!』」

今度はルーカの感覚が移ったレナが、一緒に心地良さそうに鳴いて、レグルスの赤い毛並みにふわっと倒れ込んだ。

びっくりしたレグルスは、タテガミのような幻覚の炎を首の周りにブワッ! と纏った。
羞恥に燃え悶えている。

コショコショ、とルカの首元をくすぐるクーイズのいたずらが止まらない。
「好きだよブラザー」と、意識朦朧としているルーカにそっと囁いた。

「こらこら」
「あっれーパトリシアお姉ちゃん。だって、面白いでしょ?」

パトリシアは、ひょいと金色猫をクーイズの腕から攫った。
ちぇ、と言いながらもクーイズはひらひらと手を振り、穏やかに微笑んで見送る。

(……よかった。感覚は変わってないや。いつも通りにルーカに触れられた)

クーイズがそっと胸を撫で下ろした。

レナはやっと上体を起こして、ふにゃっとパトリシアを見上げる。
そんなレナの懐に、ポイっと金色猫が放られた。
レナは大慌てで、何とかキャッチ。

「ドジが発動しなかった……!」
『悪運も発動しなかった……!』

感動しているレナとルーカは、すっかり目が覚めたようだ。
パチパチ瞬きしている。

「よっこらせ」と、パトリシアがレナを横抱きで抱える。
お腹にはルーカも乗ったままだ。

「ホントよく頑張ったなー、レナえらい! ってことで、私のこと抱きしめてもいいよ。ご褒美になる? なんつって」
「パ、パトリシアちゃん〜!」

レナがパトリシアの無事を確かめるように首に腕を回して、抱きついた。
二人の間で、ルーカがむぎゅっと軽く押しつぶされた。

レナにも感覚が伝わるので、あっやばい……と思って身体を離す。

「はい。モスラ、交代」
「大切にお預かりしますね」
「それいけレナ! そのでっかい二歳児執事の澄ました顔、真っ赤にしてやれ!」
「モースーラー!!」

レナがぐりぐりと頭をモスラの肩に擦りつけた。
金色猫を抱えているので、抱きしめようにも手が使えないのだ。

モスラはレナの体温と重みを大切に包むように抱えて、幸福を噛み締めた。
頬が綺麗ないい色に染まっている。

「あああーいい子だねモスラ。すごく甘くていい匂いがするぅ……あっそうだ。進化しとく?」

レナの爆弾発言に、ルーカがぎょっと毛を逆立てた。

『このタイミングで!? レナ、落ち着いて!? モスラは進化したら、もっともっと巨大になるから、あとでね……! 外じゃないと!』

説得されたレナとモスラは、頷きながらも頬を膨らませていて、お子ちゃま二人となってしまっている。
ルーカがヒゲをへにょんと下げて苦笑した。

「レナ様。先に、進化先だけでも口にして下さい。レナ様のお声で、成長を祝福して欲しいのです」
「うんっ」

レナが、黒紫の瞳でじっとモスラを眺める。

「天帝ヴィヴィアンレッド・バタフライ」
「必ずやお役に立って見せましょう、レナ様! ラナシュの空は貴方のものです」

モスラがにっこりと微笑み、宣言した。

赤の女王様が世界中の制空権を獲得したといえる、歴史的瞬間であった。

天帝、の破壊力に魔王国が大騒動となるのは、もう少し後のことだ。

レナは……大泣きした。

『なんで!? 情緒不安定……! う、ぐずっ、もー……! レナの泣きが、移るよ……!』

余波を受けたルーカが、ミャアミャアと泣き崩れる。

「うぐぐぅ……だってぇ、ひっく、みんな立派になってすごいじゃないですかー!! 嬉しいよー!」
『まさかの感動泣き。いや、まさかというほどでもないけども……』

泣きながらも、レナの手が怪しく動く。

「この長毛金色猫も気持ちが良さそうだし。いい進化ですね、そりゃ! ……うひゃあ、くすぐったいー!?」
『感覚共有してるって言ってるのにからかうから、もう! っふひゃ!』

今度はルーカの笑い上戸が伝染して、レナと二人、笑いが止まらなくなってしまった。

泣き笑いのレナが、そおっと降ろされると、そこにキサとミディが駆けつける。

「「どぉーーん!」」

2人の女の子に押し倒されたレナは、再びハマルの金毛にふわふわと埋もれて、心地よさそうな息を吐いた。

「キサ、ミディ」
「レナ様、目が醒めるような赤色は其方にこそ相応しいのじゃ。凛として美しいその立ち姿、改めて、妾の目標となった」
「すごーいネー! 素敵だったノヨー! わーい!」

キサから流麗華美な褒め言葉をもらい、ミディからはどこまでもピュアな称賛が贈られる。

「「好き!」」

そしてレナが最も喜ぶ一言も。
ぎゅー! と乙女たちが抱き合った。

転がって天井を見上げると、ふわりと浮かぶ光がある。

「キラ……そんなところにいたんだね」
<ええ>

レナがまぶしそうに目を細めながら、真上に腕を上げると、光はヒト型になり、ひらりと赤のタスキの端を揺らしながら、キラが舞い降りる。

レナの両手に指を絡ませて、にっこり。

「マスター・レナ。私も従魔たちも、精霊も聖霊も大精霊も、全員がずっと貴方の心に寄り添います。従う者として、そして一人の友達として、貴方のことが大好きで……そうしたいと思うからです」

女王様のレナではなく、一人の女の子としてのレナに、キラは語りかける。

レナは主人として、従魔の人生を預かる覚悟をしている。
それを知っているから、キラは安心して、レナの弱いところを浮かび上がらせる言葉を贈ることができる。

やはり、レナは涙を浮かべた。
異世界に放り出されてしまった時と似ていながらも、怯えではなく愛情のみが濃く滲んだ、より透明度を増した清らかな涙だ。

キラが言葉を続ける。

「これまでの思い出は無くなる事はありません。私の中にすべて記録されていますから。これからの未来も、無くなる事はありません。全員で、さらに強くなって、幸せな未来へと歩いていけます。
この私が宣言します! それこそが赤の運命なのですよ!」

キラの声は、予言のように不思議な響きとなって、皆の心に残った。

実際に、特別な周波数を出力していたのだ。
パンドラミミック[|黙示録《アポカリプス》ver1]として、世界の理《ことわり》にこの言葉を染み込ませていく。

できることはやっておく。
勝算は入念に積み上げるものなのだ。

キラが指を絡ませたまま少し力を込めて、レナの身体をぐいっと起こさせる。
羽根のようにふわんとレナが立った。

「わ、すごい不思議な感覚……!」
「オズワルドさんのサポートですねー。いやー便利な能力、ちょー羨ましいっ!」
『ちゃかすなよ、キラ』

オズワルドが小さく笑った。

みんなが起き上がったので、金色のベッドがみるみる小さくなる。

小柄なヒツジがトコトコ歩いて、レナのすぐ側でヒト型になった。
優しいタレ目に、ふわふわの白金髪の少年ハマル。

「レーナ様ー。おいでおいでー」

両手を広げたところに、レナが収まる。
ハマルの身長は、レナのお腹よりも少し上辺りだ。

「ハーくん〜……! あああハーくんの方が小さいのに、なんだか優しさに包まれているような感覚だよ……!」
「ボク、気持ちはとーっても大きいのでー。ん? 心がひろーいのでー。って感じでーす。これからもー、みーんなの事受け止めていくからねー。昼も夜も快眠させちゃうよー」

もうハマルベッドじゃないと寝られない高級|嗜好《・・》になってしまったのは全員同じなので、この申し出には揃って頷いた。
満足そうに「へへん」とハマルが笑う。

夢の中のレナにそうしたように、とんとん、とハマルが背中を優しく叩いた。
このリズムは、夢の中のレナの兄に、ハマルが教えてもらったのだ。

レナは懐かしい気持ちになったため、不思議に感じながらも、静かにハマルの体温を感じ続けた。

穏やかな空気が流れる部屋の扉が、外側から開けられる。

「レナ様。お目覚めですか」

ロベルトたちが入室してくる。
ひと足早く目覚めて、お屋敷のあちこちで眠りに落ちていた夢組織の子どもたちを回収してきていたのだ。

「「「お疲れ様でしたー!」」」

その後ろには、クドライヤ、ドリュー、リーカの姿もある。
ビシッと片手で敬礼。
反対の腕には、回収を手伝っていたため、各々が子どもを抱えている。

三人はいつも通りに取り繕いながらも、レナパーティを眺めながら冷や汗をかいていた。

お屋敷の外で、立ち上る白炎の柱やら、爆音などを確認していたし、魔王を使役する作戦に度肝を抜かれていたからである。

いつも通りに仲良しで穏やかなレナたちを眺めて、ようやくホッと安心した。

従魔数人が成長著しいことはともかくとして。
他にも色々ツッコミたいところはあるけれど、任務に集中するよう心がける。
余計なことを言いそうなグルニカとマリアベルの口も塞いでおく。

<回復したようで何よりですわ>
<こちらも準備が整ったぞ! レナよ!>

ルージュとカルメンがふわりと天井から降りてくる。

「準備……?」

レナが首を傾げると、ロベルトたちがサッと顔を逸らした。
精霊たちのトンデモ創造を、ひと足早く見ていたからだ。

レナは微妙な空気を魔眼で感知した。

ルージュ、カルメン、キラ、とゆーっくり顔を見渡していく。
にっっっこり!
これはなにかある!

<ダンジョンマスター・キラ、頑張っちゃいました☆ [お屋敷ダンジョン]創造完了です。さあ! 楽しんで下さいね!>
「ほあああああっ……!」

▽帰宅するまでが遠征だ!
▽帰宅路は一つ……お屋敷ダンジョンを通って魔王国に帰ろう。

 

 

pixiv fanbox

 こちらにはイラストまとめ、創作裏話、ホームページ制作の記事を書いています。ぜひお楽しみいただけますように。
 100円ご支援いただけることは、書籍一冊買ってくださったのと同じ助けになります。
みなさまいつも応援ありがとうございます!