208:踊りじゃー!

一曲目が終わり、それぞれが次のダンスパートナーを探す。

「……パトリシア、その樹人族の彼女を預かりましょうか? 踊りにくいのでは」
「悪いねモスラ。花屋が萎れたお花を手放すのはありえない」
「それは失礼致しました。まあキラ先輩のエリクサーで頭の葉はイキイキしてるようですけど?」
「屁理屈言わねーの。別によゆーで踊れるわ。なに、そんなに私と踊りたいの?」

パトリシアの肩に担がれて[快眠]しているギルティアは穏やかな顔をしている。
それを確認してから、パトリシアはモスラとにやりと獰猛に笑いあった。
次は、ダンスバトルするつもりらしい。

キラが、うんうんいいですよと後輩びいきに頷いて、空中DJセットを出現させた。

「ミュージックスタート!」

ノリノリのサウンド。
従魔たちのテンションが上がっていく!

「オズワルド、ちょっとギルティアの体重軽くしてやって。これから動くから負担が少ないように」
「はいはい……スキル[|重力操作《グラヴィティ》]。踊りは辞めないんだ?」
「売られた勝負は買う」

パトリシアが力強く告げた。
オズワルドの横にいたシュシュが「押忍! いいね!」と満面の笑みで拳を振り上げた。

オズワルドがため息。しかし目はきらんと光った。自分はシュシュをルーカに渡して、レグルスを挑発する。
ダンスバトル!

大きな動きでそれぞれが軽快に踊る。
短期集中で激しく動いたパトリシアとモスラは、ぱしんと手を叩いてお互いを称えあった。

またダンスパートナーの交代。
それぞれレナ、リリーと手を取り合う。

「やあ、後輩よっ。踊る貴方は、一段と、魅力的に……見えたよっ」
「ありがとうございますリリー先輩。社交ダンスなどを嗜んでおりますので」
「社交ダンスって、激しいんだね……!」
「言葉の選択を誤りました」
「私もね、すごいんだよっ。ほら、スキル[軽業]っ」
「お見事です」

リリーがアクロバットな動きを披露して高く飛ぶと、モスラは丁寧に受け止めた。

「……目が赤いですよね」
「いいでしょー? ブラッディリリー、なの! 今だけ限定」
「こんなに美しいのに、限定とは勿体無いですね。しっかり見ておかなくては」

じいっ、とモスラが瞳を覗き込む。──引き寄せられるように。
赤と紅色が交わった。

妖精女王の器リリーは、虫種族を従える。
くらりと誘惑される感覚に、モスラが驚いていると……

「ご主人さまの真似、なの。女王様からの祝福だよ〜♪」

リリーが額に軽く口付けた。

「光栄です」

微笑むモスラは、自分の中の何かが作り変わったような感覚を覚えた。
芽吹きのように、新たな力が湧き上がってきている。
思わず胸を押さえる。

「いっけーシュシュ!」
「オッラーーーー!」

▽モスラの 背中に シュシュが ぶっ飛んできた!

「うわっ!? ……ルーカティアス! 淑女への扱いではありませんよ!? 投げ飛ばすなど!」
「あっははは。シュシュも同意の上だから許してー」
「幸運のおすそ分けだよ!! 押忍!」

▽シュシュの 頭突き!
▽モスラの額に |幸運の証(カーバンクル)が ぶつかった!

「な、なにを……?」

モスラが赤くなった額を訝しげにさすっていると、ルーカが「うーん、まだか。手強いな」と呟く。
行動の理由を話した。

「ブラッディリリーの虫種族への成長促進効果、幸運なシュシュからの念押しで、もう少しでモスラが進化できそうなんだよね。ダンスを頑張ったらレベルアップできるかも?」
「……!? 踊ります!!!!」

モスラはシュシュに心からの感謝の一礼、手を取って大胆なステップで踊り出す。
シュシュは楽しげに声をあげた。

リリーはマリアベルに掻っ攫われていった。

「妖精姫様あああギブミーダンス!!」
「いいよー」
「ッキャーーーーー!!」

女子たちの華やかな踊りを見ていたロベルトが、遠方からぽつりと一言。

「必死か」
「本当ネー」

ミディが、ばっと両手を上に上げた。
にっこりと見上げる。

「モスラがやってるようなの、やって欲しいノヨー! ロベルトおじちゃん」
「ああ、リフティングですか。高い高ーい」
「きゃっきゃっ」

ほのぼのと戯れている。

(このような保育の機会を経験するとはな……クドライヤたちに見られたら大爆笑されてしまいそうだ……)

ばっちりキラに録画されていて後に鑑賞会が開かれるし、この屋敷再生が終わればまっさきにマリアベルが口を滑らせるとはまだ知る由も無いのであった。

ロベルトの黒歴史も赤歴史に昇華させてしまえばいいじゃない!
大丈夫、誰よりも赤歴史を積んでいるものがここにはいる。

「おおー、案外踊れてるじゃん、レーナ。なに、運動音痴は卒業なわけ? あれはあれで可愛げあったのにな。なんかあっても私や従魔が守るしさ」

パトリシアがレナとゆったり踊る。
音楽のリズムを無視しているが、もともとのセンスを生かして綺麗な動きにレナを導いてくれた。
レナがハイヒールの踵を高らかに鳴らす。

「この靴が成長したのよ。勝手に踊るから、私は身をまかせるだけなのだわ」
「なーるほど! レナクラスチェンジ……ね、ププッ。踊ろうぜ!」
「よろしくてよ」

レナたちは踊りながら、時々ギルティアを気にかけて眺める。
今は羽根のように軽い彼女は、パトリシアが動くたびにフワフワと肩から少し浮いて、また同じ体勢に収まる。
痩せっぽちで小柄なギルティアは、女性のパトリシアの肩幅でも問題なく支えることができている。

くるりとターン。

「生命力が戻ってよかったわ。頭の葉がイキイキしているわね。……みんなが、明るい未来に行けるといいわね。縁があった夢組織の子たちのために、私は願うわ」
「うわーお。レナが祈ってくれるなら一億人力じゃん!? 勝ったも同然。やったね!!」

パトリシアがからから笑った。

長めの二曲目が終わり、三曲目。

軽快なミュージカルソング。

『夢を〜信じて〜♪ 光りかがやくほうへ〜♪ ラララ〜』

ネッシーがメゾソプラノで高らかに歌い、ルージュはソプラノ、カルメンが重みのあるアルトでハーモニーを奏でた。
ド贅沢!!!!

お屋敷の貴金属が|緋々色黄金《ヒヒイロカネ》に変わっていく。

鏡の床が回転しながら、上昇していく。
影の魔物たちが、壁にのびやかに張り付いて、歌に合わせて縦横無尽に踊った。
ルージュが目を細めて愛おしげに眺めて、手拍子。

「かなりダンジョンエネルギーが溜まってきましたね! つまりは赤の信仰心な訳ですが」

キラが満足げに呟いて、空中でひらりと光の杖を振る。
キラを中心に、ぶわっと光の魔法陣が広がってお屋敷の隅々まで行き届いた。

魔力が浸透して、お屋敷が淡く輝きながら再生していく。

折れた柱が元どおりになり、床板が修繕され、土埃はゴミなのでダンジョンエネルギーとして吸収。
あとでこの素材でレナ様像を作ってもいいだろう、とキラが企む。

気絶していた子どもたちの口にはシャボンフィッシュが入り込み、エリクサー効果で傷を癒す。

「ハマルさーん。踊りましょー!」
「はーいキラ先輩ー。いいよー」

降りてきたキラは、クーイズと踊っていたハマルを誘った。
クーイズは「「オッケー行ってきなー!」」と双子状態になって、快く送り出してくれた。

ハマルを眺めながら、キラは夢喰いヒツジの毛並みに似た『金色もこもこクッション』を創造して、夢組織の子どもたちを包む。
そしてハマルにお願いして[快眠]を子ども全員に施してもらった。

「キラ先輩、とっても優しい〜。そっかー、手を繋いでるとなんとなーくお屋敷の構造とかー、干渉の方法とか分かるねー。ダンジョンマスター、すごいねー!」
「生きた取扱説明書(トリセツ)って思ってもらえたらだいたい合ってます☆ ハマルさん、どうかこれからたくさん助けて下さいませ」
「おおー。キラ先輩はー、レナ様とルージュお姉さんのためにー、ここを快適な場所にしたいんだよねー? ボクの[夢吐き]にお任せだよー。ふふーん」

▽キラと ハマルの 相談完了。

これから、とんでもない[夢吐き]ダンジョンお屋敷が創られるのだろう。
やったね!!!!

キラは自分のアップデートを、まだまだ、望んでいる。
いつかレナの夢で生きる人を、ダンジョンに出現させられるように。

(兄妹の再会を必ず叶えてあげたいのです)

さあもっと踊って! と曲を切り替えた。

……そして七曲目が、終わる。

床は高く、もう天井付近にまで上り詰めていて、すぐ手が届くところにネッシーの青の水面(みなも)がある。

▽お屋敷の再生が 完了した!
▽踊り疲れたレナたちは ぜえはあと 床に倒れ込んでいる。

『よーしっ。おやしきの再生、おめでとうー♪ おつかれさまー! じゃあ、私はアネース王国にかえるねー。またなにかあったら呼んでちょうだいな』

ネッシーが元気にぶんぶんと手を振り、歌の終わりの一礼をした。

すべてのシャボンフィッシュが群れとなり水面に吸い込まれていく。

ネッシーはカルメンに抱きついて、しばしの別れを惜しんで、キラとルージュと握手。
レナの懐にするりと入り込むとぎゅーーっと抱きしめて頬ずりした。

『だーいすきよ、レーナ♪ ほんとうによく頑張りましたー。あなたは精霊の友達なの。私たちはいつだって、レナのみかたなんだからねー。なんてきれいな魂のかがやきかしら、精霊だって魅せられちゃう! んーー!』

盛大なラブコールをしたあと、名残惜しそうに離れた。

『赤の伝説をラビリンスライブでも……えーと、布教しておくねー! まかせてー!』
「待っっっ…………!!」

レナがぷるぷると震える手を伸ばす。

『バイバーイ!』

▽ネッシーは アネース王国に帰還した。

無情にも立ち去ってしまった。
今後、尾ひれがついた赤の伝説がミレージュエ大陸に拡散することだろう。

レナががっくりと前に倒れこむ。
もふんっ! と金色羊毛に埋もれた。

『あふんっ♡』
「ハマル……なんつー走り込み……妙な声を出すなよお前……成長しても性根は変わらずか。はあ……」

オズワルドが律儀にハマルを注意して、頭を押さえた。

従魔みんなで大好きなレナを覗き込むと、くうくうと寝息を立てている。

「ご主人様可愛い!!!!」と数人が床に沈んだ。

「もう、限界の限界だね。休んで回復する必要があるだろう。夢組織を制圧、精霊を救い、お屋敷も再生して……ネッシーの繰り返しになるけど、レナは本当によく頑張ったよ」

ルーカが柔らかな眼差しでレナを視て、告げた。

「ご主人様すっごーい! ばんざーい!」

従魔たちが小声で歓声を上げる。
レナの努力を思い、涙目だ。

「みんなで休みたいところだよねぇ」
「大丈夫ですよ! サディスティッ……宰相様に連絡を取りましたから! しばらく休憩可能なのです!」

キラがパチーンと指を鳴らしてみせた。

王宮にて脳内音声の相談被害に遭った宰相は、とても混乱していたが、即行で休憩許可を出してくれた。
レナパーティの頑張りをとても良く知っているためである。

お屋敷の見張りは護衛部隊のクドライヤ、ドリュー、リーカに任せられる。

夢組織の残党は、魔王ドグマが回収するだろう。
魔王の威厳にかけて!! 絶対!!
……と、オズワルドが真剣に祈る。

ハマルがとーーっても大きく[体型変化]した。
視界一面が金毛という有様だ。

『さあみんなー、お眠りの時間だよー。拒否権はないでーす。おとなしく仲良く休みましょー』

ハマルベッドに慣れている従魔たちは、もっふーーんっ! と勢いよく金毛に埋もれていった。

疲れた体に、この柔らかな極上感触と温かさがたまらない!
子どもたちは早くも寝息を立て始めている。

パトリシアはギルティアをそっと置いて、ゆっくり隣に横になった。

「私が見ていますから」
「ありがとうキラ。そっか、睡眠必要ないんだっけ」

パトリシアも目を閉じた。

ロベルトとマリアベル、グルニカにとっては業務命令のようなものなので大人しく隅で眠りの体勢になっている。

キラが杖を一振り、照明を落とした。

『スキル[快眠]〜』

穏やかな眠りの魔法が一帯を包んだ。

キラと、眠りを必要としない精霊・聖霊がみんなの寝顔を眺める。
穏やかに微笑みながら、彼女らにしかできない話し合いをしたようだ。

 

 

 

pixiv fanbox

 こちらにはイラストまとめ、創作裏話、ホームページ制作の記事を書いています。ぜひお楽しみいただけますように。
 100円ご支援いただけることは、書籍一冊買ってくださったのと同じ助けになります。
みなさまいつも応援ありがとうございます!