207:新たなステージへ

ラビリンス[青の秘洞]のように青く色づいていた食堂が、キラとルージュの魔力で満ちて、昔の様子そのままに修繕されていく。
柔らかな照明が灯った。

傷みが激しかった家具や割れた食器などが白銀の光の輪に包まれると、みるみる新品のように時を戻していく。
ルージュが『この食器の装飾の欠けは従魔がうっかり削っちゃった思い出』と言うと、キラはウインクしてその状態で時を止めてくれた。

新しくも懐かしい、二人が望む「お屋敷ダンジョン」に作り変わった。

罠だらけのスチュアート邸を連想したモスラがくすりと微笑む。

「ただの修繕では無いことを証明致しましょう! 全てはダンジョンマスターの思うままなのです」

キラが指を鳴らすと、食器棚から自動でシャンパングラスが出てきて、そこにシャボンフィッシュが入り液体になる。

「[|命水創造(エリクサーメイキング)]!」

全員に杯を配った。
先端に星がついた光の短杖を振り、ロマンチックにグラスを届ける演出。

グルニカのグラスには転がっていってしまった義眼が入っており、ゲラゲラ笑っている。

「イヨッ! ダンジョンマスターさんありがとー☆」
「どう致しまして」
「お礼にいいことを教えてアゲルネ。この屋敷に、まだ元従魔の魂が残ってルヨ。ほーんの僅かにネ! 君らなら、この情報も有効活用できるんじゃナイ?」
「なんと……! いかが致しましょう、マスター・レナ」

思わぬ朗報に全員が驚く。
誰よりも驚き、胸を痛めたのはルージュだ。
死霊術師(ネクロマンサー)に使役されてしまった自分の配下の魂を想った。

「せっかくのパーティですもの。みんな呼びましょうよ。出来るわね? キラ」
「仰せのままに!」
『レディ・レナ、ありがとうございます……!』
「ええ。元従魔の気持ち、うまく制御出来るわよね? ルージュ」
『もちろんですわ』

レナの言葉に、キラとルージュが頷いた。

キラが瞳を閉じて集中……このお屋敷をダンジョンとして構築している膨大な情報の中から、元従魔の魂の痕跡を探し出す。

拾い上げた魂にほんの少しエリクサーを注ぐ。
やり方は、シャボンにドラゴンの魂を入れたネッシーから教わった。

ぶわっと水蒸気が地下から湧き上がってきた。
影のような、大きな魔物が形作られる。

「自由に話したりはできません。しかし怨霊となっていたほどの熱い感情が、ここに現れましたよ」

ルージュが影の前に。

『ああ……またこうして会えるなんて。キラ様、ありがとうございます。みんな、今から宴が始まるのよ。私たちがあの日、火事で成し遂げられなかったお祝いの続きを……ともに踊ってくれるわね?』

元主人の言葉に応えて早くも踊り出したように、影が大きく揺れた。
ふふ、と微笑んだルージュの瞳には涙が滲んだ。

「照明はあのステンドグラスの光がふさわしいかしら!」
「さっすがマスター・レナ、素晴らしい演出となりますねっ」

レナがはつらつと告げると、キラが快諾、光の杖を振る。

魔物使いと従魔が描かれたステンドグラスのカラーが、部屋中に広がった。
色が影の魔物たちに映る。

ルージュが「ありがとうございます」と震える声でお礼を言って、ドキドキする胸を押さえた。

彼女とレナが、赤い光で照らされる。
これはキラの気を利かせた演出。

レナが自らのグラスを高く掲げた。
みんなが同じ仕草をする。

「お誕生日おめでとう、ルージュ」

あの日の続きを。
──幸せな未来がやってきたのだ。

辛い時間を挟んだが、ルージュと従魔、そしてよりたくさんの仲間たちとパーティを迎えることができた。

薔薇のように華やかにルージュが笑うと、涙が溢れて、影の魔物たちに吸い込まれていった。

我先にと涙を受け止めるように影が動いたのは、主人を慕っている従魔らしい行動だったというか、まるで今のレナパーティを見ているかのようなドタバタ感だった。
笑い声が溢れる。

ぐいっと杯を傾けて、みんながエリクサーを飲み干す。
元になった水も大精霊シルフィネシアに作られているので、回復効果バツグン!

『再生を』
『回復を』
『創造を』
『『『さあ願いましょう』』』

ネッシー、カルメン、ルージュが声を揃えて言う。

「[ダンジョンメイキング]!」

キラが宣言した。
ぶっちゃけフライングである。

<従魔:キラがスキル[ダンジョンメイキング]を取得しました!>
<ギルドカードを確認して下さい>

世界の福音(ベル)がのんびりと、ちょっぴり投げやりにレナパーティの脳内に響く。
できるだけ急いだのだが、それでもキラに先を越されてしまったのだ。
(立派な神候補でしょう?)とキラが不敵に世界に宣言した。

天井が高く、高く、空間が上に伸びていく。

そういえばこの屋敷にきた当初は屋敷内が広々と作り変えられていたことを、レナたちは思い出した。

床が白銀に輝き、鏡のような一枚床となって、二メートルほどみんなを上昇させた。
キラがまた杖を振ったのだ。

((そうかー、これが従魔なのかー……レナ様……マジでしっかり従えていて下さいね))

▽ロベルトとマリアベルの 信仰心が向上した!(業務必要過程)

カルメンがパン! パン! パン! と軽く手を叩き、リズムを刻む。

ネッシーはうずうずとステップを踏んだ。くるりと回ると、新緑の髪がふわっと広がる。

「ダンスには広い場所が向いています。それにルージュ様たちの思い出の場所に影響を与えないように……空中にダンスステージを整えました☆」
「キラ先輩すっごーい!!」

「よくできました」
「あーんマスター♡ BGMも張り切っちゃうんだから!」

レナにとって馴染み深い、地球でお気に入りだったアニメソングが流れ始めた。

精霊に捧げる祈りの踊り、のはずなのだが?

『『こ、これは!』』

ネッシーとカルメンが同時にハッと反応する。
大精霊・聖霊のお気に入りの音楽だったようなので、捧げものとして最善の選択だった。

彼女たちはレナパーティとともにいる時に、日本文化にだいぶ侵されていた。

もちろん従魔にとっても馴染み深い曲だ。
朝、ダンスレッスンでよく踊っている。

▽レッツダンス!
▽それぞれが近くにいる者と手を取り、踊り始めた!

女の子たちのスカート、大人のマント、長く綺麗な髪がひらひらキラリと揺れる。

タン! とタイミングを合わせて靴音を鳴らす。
二人ペアがお互いの位置を入れ替えるようにジャンプ、着地! 十点!!

シャボンフィッシュが弾けて、超速ダンシングマッチョマンの種を芽吹かせた。
十点! 十点! 十点!!!!

パトリシアが悪戯っ子のように、にししと笑い、キサとロベルトに苦笑される。

▽まだまだ踊るよ!
▽踊るほどに屋敷がダンジョン化されるよ!

 

 

 

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