205:目指せ終決!5

レナが作りあげた[テンペスト]の白炎柱。

その柱は、高く雲を突き抜けて輝かしい光を発し、遠く離れたミレージュエ大陸からも視認できるほどであった。

大陸の人々は何事かと光り輝く方を見る。
アネース王国ラチェリの|赤の信者《レナファン》たちは、大精霊シルフィネシアがレナたちの助太刀に行くかもしれないとラビリンスライブで聞いていたので、五体投地で光を拝んだ。
アネース王国の王族も同様に最敬礼をした。

ガララージュレ王国ではアンデッドたちに不調が現れた。
動きが緩慢になったり、下級アンデッドは倒れてしまったり。
もともと弱っていたシェラトニカはおしろいも不要なぐらい顔を真っ白くしながらも毅然とした態度で「美容の時間」と私室に退き、ギラリとした目で化粧品を選別してブドウ色の濃い口紅をひく。

「早くなんとかしなさいよぉ……モレック……!」

もはや遠く離れてしまって魔力の繋がりも薄いが、シェラトニカは彼が動くと信じて……信じるしかなく、完全には縛りきれない破戒僧の名前をイライラと口にした。

グレンツェ・ジーニ港と魔王国の間の街道脇で、紫髪の男性が倒れている。
上に、動かなくなったアンデッド従者が二人、のしかかっている。
なんとかズリズリと這い出てきたモレックは悪態をついた。

「はあ〜〜……なんだってんだ、急に動かなくなったって困りますよ!? もーー!……主人であるシェラトニカ様が死んだのでしょうか?…………。いや、アンデッドが溶けてないからそれは違いますかね。……ぎええ! 首輪締まってる締まってる!?」

ジタバタと暴れている。

「イヴァンを探しに行けってこと? ぶっちゃけ嫌だ。だってあの光の柱が指標っぽい……いやそれは無理無理。無駄死にするつもりはない」

全てモレックの独り言である。

「……んでもシェラトニカ様が泣くとこ観たいんだよなぁ……それにはあの広範囲無差別爆弾野郎をぶつけるのがいいし……んー。イヴァンがあの場所を脱したら、連れ帰ることを爪先くらい考えてやりましょうかね。[トライワープ]と晶文がありますし、あいつどうなるかなー。さあ、運命の行方は、っと」

モレックはにたっと下品に|嗤《わら》うと、「ひたすら動かないし、くっそー!」と文句を言いながら、アンデッド従者をずりずり引き摺ってその場を後にした。

シヴァガン王国の者たちは、白炎柱から発される巨大な魔力を近くで感じてざわざわと肌を粟立たせた。
空気が緊迫していたが、魔王の遠吠えが聞こえると、安心して肩の力を抜いた。
獣人が耳を澄ませると、遠くから清らかな鈴鳴りの歌声と力強い太古の歌声がハーモニーとなって聞こえてくる。
その贅沢なライブは心地よく不安を癒していった。

シヴァガン王宮では、宰相の執務室のドアが激しく叩かれる。

「サディス宰相! おかしな光が遠方に見られますが、何かご存知ですか!?」

どこか疲労した様子の宰相が現れたので、役員たちが度肝を抜かれる。
(あの宰相に何があった!? 髪も乱れているし……何があったァ!?)
宰相はいつも通り冷静沈着な声で事態を説明する。

「レナパーティが夢組織の拠点に向かったでしょう。あの光は、精霊結界を破った証です。事態は解決に向かっています。……そのようにトリックルームで会合致しました」
「ご連絡をありがとうございます!!」

キラキラした尊敬の眼差しで見つめられた宰相は、自分の胃が荒れに荒れていることを自覚した。おくびにも出さないが。
涙目で駆けてきたノアを抱き上げると、執務室の窓から光を眺めて、深い安堵の息を吐いた。

閉めた扉の向こう側から「赤の女王様万歳!」などと流行り文句が聞こえてきたので、ガンとガラス窓に額を打ち付けてしまって、ノアに心配された。

『実に見事なものだな!!!!』

ワクワクと目を輝かせる魔王デス・ケルベロス。
がうがうと吠えるたびに、興奮して口の端から紫炎が漏れている。
クドライヤ・ドリュー・リーカは驚きを通り越して呆れきった白い目でお屋敷をぼうっと眺めていた。

「……わかってたけど、こうなることは、わかってたけど。あのさぁ!」
「すんげーっすね。もう意味わかんない」
「鑑定してなくても目を焼かれそうな光だわ」

みんなで「「「赤の女王様ばんざーい」」」とローテンションで言っておいた。
この後の処理が大変なのは確定なので、驚愕の叫びをあげる元気は後のためにとっておくのだ。社畜の鏡である。

魔王が再び、意気揚々とのびやかな咆哮をあげた。

──白炎柱は最後にピカッと赤色になり、一瞬で消え去った。

──赤の伝説・中章の1節として、後世に長く語り継がれ大人気となる、革命的な光景であった。

***

レナが生み出した白炎柱にはみんなが圧倒的に魅せられた。

従魔は尊敬をいっそう募らせる。
大精霊・聖霊はとても誇らしげ。
夢組織の者たちの瞳は、白炎柱の光を映して輝いていた。

(その輝きを覚えていて……いつか自発的に瞳がきらきら光る日がきますように)

レナが心から祈る。
夢組織の痛みや辛さを、この戦闘でたくさん知ったのだ。

微笑むと、称号効果で高飛車女王様スマイルになってしまった。

キラが最後に赤いエフェクトを投影して、フィニッシュ!

「赤歴史の締めはやはりこうでなくてはね! きゃーマスター・レナ〜!」
「従えてええええええ!!!!」

従魔たちの大声援!

ライブ慣れしているネッシーが、レナと手を繋いで腕を上げさせると、黄色い歓声があちこちから響いた。
キラから配布されたサイリウムやら応援うちわがぶんぶんぶんぶんと振られる。

夢組織の疲れ切った脳には歓声がぐわんぐわんと痛烈に響く。
ぐおお……とラズトルファとスイが頭を押さえた。

イヴァンの首がきつく締まる。
スイを助けろ、と首輪に施された契約が主張する。
”夢組織のメンバーを助けろ”と、彼女がかつて口にした願いをそのままに。

げほげほとイヴァンが咳き込んだ。
「きったね」とグルニカが嫌そうに一瞬手のひらを口から離す。

イヴァンはその手に噛みつき、食いちぎった。
グルニカの腕の縫合部が、清らかな光で弛緩していることを[観察眼]で見抜いていたのだ。
それにアンデッドである彼女は光を浴びて体調を崩している。

「あっ!?」

グルニカが睨んだが、イヴァンは瞳を通してマルクと[感覚共有]する。
スイの側で、気絶していたマルクが緩慢に口を開くと、イヴァンの声が放たれた。

『……夢組織のメンバーを死んでも守ること、それがスイが俺に施した契約。その通り、逃してやろう』

スイはどうしたらいいか分からずに黙って震えた。
服が汚れることを構わずマルクの顔を抱きしめて、瞳に浮かんだ六芒星の向こうにイヴァンを見る。

イヴァンは半死体の内に隠していた仕込み杖を発動させた。
肩の片方が内側からぶくっと膨らみ、嫌な光とともに小爆発をおこす。

スイは悲惨な光景から目を逸らさなかった。
屋敷で発見したあの杖は呪いの魔道具だったため興味を抱いたイヴァンから取り上げていたのだが、まさか体内に隠し持っていたとは、彼女も予想外だった。
術を発動したイヴァンがみるみる衰弱していく。
それと引き換えに、杖は”願いを叶えた”。

──スイたちに[トライワープ]を。

「……なるほど、これは興味深い現象デス。このように生命力を奪われる魔道具か、ふむ、大変な苦痛でなかなか好み」

「何言ってるの!?……そこ、逃げっ……ごほっ!」

スイが枯れきった声で、血を吐きながらもイヴァンに命じた。

「”汝、闇の領域に足を踏み入れテハナリマセン……
我は境界を操る者デス……我は|現世(うつしよ)と|幻世(げんせ)を別ける者、デス。|現世(うつしよ)は楽園、そして地獄ナノデス……」

イヴァンが指令に従い晶文を唱え始めたが、不発。
鏡石により言葉遣いが強制的に綺麗になるので、一字一句間違ってはいけない晶文とは相性が悪すぎた。

イヴァンは逃げることも防ぐこともできない。
グルニカの脚が容赦無く振り落とされる。
頭を踏みつけた。

「こんのやろうー!」

足裏から太く鋭い仕込み針が飛び出して、脳を貫通した。
グルニカはアンデッドの扱いをよくわかっている。
イヴァンの思考は(この構図はとてもいい!)を最後に断絶させられた。

「仕込み罠を持ってるのはお前だけじゃナイんだよネ! [黒炎放射]」

グルニカが墨のように黒い指をパチリと鳴らすと、イヴァンが黒炎に包まれた。

「────!」

転移の光に包まれながら、スイの目がこれでもかと見開かれている。
最後に注視したのはイヴァンの首輪だった。

そしてマルク、スイ、ラズトルファ、イラ、ゴースト種族の子ども二人が、この食堂から姿を消した。

「首輪がかけられていなかった者たちが転移の範囲みたいね……キラ! すぐさま外部に連絡をとれる!?」
「お任せ下さいませ! しかし、敵のワープ先が分かりませんね……ルーカさーん」
「はいはい。っと、ロベルトさん、もう手を離してもらっていいですよ」

ルーカがそう言うと、魔力遮断の魔法手袋をつけたロベルトの手のひらが顔から離れた。

人間が燃やされる様子を幼子と若者たちに見せまいと、ロベルトは氷の壁で従魔の視界を覆い、特別な目を持つルーカの視界は自らの手で塞いでいたのだ。

「……我が国の研究部の者が、申し訳ありませんね」
「お気遣いありがとうございました」

ルーカが苦笑してひらりと手を振った。
(この手袋の魔法付与効果は要注意)と抜け目なく考えながら。

氷の壁の向こう側から戻ってきたレグルスが「だめだ。転移を防ぐ手段はなかった」と言ったのを確認して、ロベルトが肩を落とし、氷を溶かす。

イヴァンを灰にしたグルニカは、てへへと頭をかきながら、手に持ったランタンを振ってみせた。

「ゴメンネ? 刺激が強かった? んでも、あのアンデッド野郎は灰になるまで燃やしてやったし、その灰もこの魔道具に収納したからネ! オッケー上出来。あとで墓場でこいつの怨念の浄化、しよーっと」

イヴァンの件はいったん片付いたようだ。
怨念はグルニカが見張ってくれているのだという。
大精霊シルフィネシアも、むむむと眉を顰めながら、かつて自分たちを苦しめた宿敵を監視している。

「おまたせレナ。僕のクラスチェンジの福音《ベル》、聞いてたよね? よろしくね」
「……ええ。いいのね?」
「もちろん。レナこそ大丈夫?」
「私を誰だと思っているの? オーーッホッホッホッホ! 体が作り変わる熱にも耐えられるって、お互いを信じましょう。私も一緒に立ち向かう。これからも頼りにしてるわ」
「まかせてご主人様!」

ルーカのしっかりした返事を聞いたレナは、ギルドカードを取り出してタップした。

【ネコマタヒト族】……詳細は不明。

心臓がどくどくと鼓動し、まったく新しい魔力を全身にものすごい勢いで巡らせる。

幼い魔物たちはこの衝撃によく耐えてくれていたなぁ……とルーカとレナは感心した。
[感覚共有]で二人の荒い呼吸が重なる。
ふうっ、と熱っぽい息を吐いた。

ともに負荷に耐えたレナのレベルが上がる。
この恩恵を求めていたのだ。

ルーカは容姿が変化した。
蜜のような金髪が腰まで伸びて、猫科の尻尾が二つになった。

「「ネコマタだー!」」
「でもそれだけー?」

先輩従魔たちは無邪気にからかう。

「まあベースがヒト族だからね。寿命がヒト族のままだから、容姿が大きく成長することはなさそうだ。その代わりステータスはなかなかのものだよ?」

「名前:ルーカティアス
種族:ネコマタヒト族
職業:魔法剣士 LV.30
装備:ロングコート、髪リボン、マント、従属の首輪、ブーツ、Mバッグ、魔剣+5、M服飾保存ブレスレット(紫)
適性:白魔法[光、雷]

体力:68(+10)
知力:79(+13)
素早さ:77(+15)
魔力:68(+15)
運:5[+-100]
スキル:[身体能力補正]、[瞬発]、[感電]+1、[雷剣]、[雷光]、[雷の毛皮]
ギフト:[魔眼]☆7
称号:麗人、制雷マスター、器用裕福、話題のイケメン、赤の宣教師、精霊の友達、調教師、笑い上戸
(従属状態・主人:藤堂レナ)」

レナがギルドカードを眺めて、片眉をぴくりと跳ね上げただけ。
(えらい! 凄い! いかすー! 頑張ったね!)
内心でたっぷり褒めておく。

メッセージを密やかに受け取ったルーカは、髪が伸びて解けていた赤リボンを拾い上げながら、嬉しそうに笑った。
せっかくなので三つ編みをしてみせると、レナも高笑いをした。

「さあ命じるわ、ネコマタヒト族ルーカ! ナイトメアたちが転移した場所を視るのよ」
「東に50キロほど離れた地点にいる。周囲は草原。……ナイトメアとスイはその場にとどまり、ラズトルファたちが移動を始めている」
「キラ」
「只今の情報を、外で待機中の魔王ドグマさんに伝えましたー!」

屋敷の外から力強い咆哮が聞こえてくる。
オズワルドが顔を引き攣らせた。

「魔王ドグマを……お使いに走らせる……だと……」

それを聞いたロベルトとマリアベルが顔を覆った。
ついに魔王までレナ様のパシリになってしまった。

魔王と宰相の業務内容がどちらも非公開なのが唯一の救いである。
さすがにレナが指令を出し重鎮が従ったと周知されたら、魔王国の威厳を損なってしまって大変よろしくない。

((政府の外聞を気にかけてくれるレナパーティが仲間でよかった!))

▽ロベルトと マリアベルの 赤の信仰心が 上がっていく!

「夢組織のメンバーのにおいの特徴を外部に伝達致しましたから、魔王ドグマさんなら嗅ぎ分けて見つけ出してくれるでしょう。捕縛は叶ったも同然ですね」
「私たちは今、チームだものね。何かあったときのために外で待機してくれているのが魔王様で本当に助かったわ。確実に成果を上げてくれると期待しましょう」

(父様の扱いをキラに理解されているし、主さんに魔王が試されている……)

オズワルドもロベルトたちと同じように手で顔を覆った。
ふぎゃ! と支えを失ったシュシュが落下して、オズワルドに文句を言った。

夢組織の者たちがいなくなった食堂は静かだ。
イヴァンが焼かれたすすけた臭いも、グルニカが開発したアンデッド式消臭魔道具で解決した。

リリーが赤い瞳を瞬かせる。
先ほど福音《ベル》が告げたリリーの進化先は【プリンセスフェアリー・ダーク】。
まだ進化させていないが、それは美しい妖精姿になるのだろう。

「……うん! このお屋敷には、もう、アンデッドの気配は無い……みたいなの。怨念も、夢の欠片も、視えないよっ」
「間違いないですねー」

ハマルも「夢が残留していない」ことに同意した。

その結果に、みんながちょっぴりしんみりとした。

あの組織がすがっていたものは悪夢だったが、本来ならば明るい未来を手にしたかったものたちの希望の成れの果てだったのだ。

「新しく夢を見直そうぜ。なっ!」

パトリシアがきっぱり告げた。
抱えたままだったギルティアの背中をぺちぺちと軽く叩いた。

「……鏡蜘蛛からも頼まれてるしな。捕らえた仲間の面倒をみてくれ、って」
「うっわオズ坊や、その腕呪われてるジャン。アタシが浄化したげようか?」
「グルニカは光属性じゃないから無理だろ、解剖の機会をうかがうのはやめろ。べつに……このままでいいさ。もともと、ここで縁があったやつらを気にかけるつもりだったから、やるべき事は変わんないし」

オズワルドの言葉に、みんなが頷いた。
柔らかな表情を、ステンドグラスから差し込む光が鮮やかに彩った。

 

 

 

 

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