202:目指せ終決!2

イラを奪還して、全力で逃げるラズトルファ。
向かう先は、まずギルティアのいる方向だ。
ラズトルファとイラのグループは[トライ・ワープ]を仕込んだ魔道具を使ってしまったため、この屋敷が解放された時にすみやかに移動できるよう、仲間との合流を考えた。

(あの魔物使いパーティの規格外な実力は分かった……。きっと精霊を絆してこの屋敷を解放するだろう)

その時、ともにひっそりと脱出できるのが最良、とわずかな希望にすがって、折れそうな心を鼓舞する。
赤黒い精霊魔力による応援も、もはや途絶えている。

(通り過ぎてった、あの黒い塊がもしもマルクの獣型だって言うんなら……金色の敵に押されていたように見えるし、勝機はない。
そこまでは深追いしないように気をつけなくちゃいけないな……。……そういう打ち合わせ、だもんな)

ラズトルファはむすっと顔を顰める。
腕に力を込めると、あまりに軽くて繊細なイラがいるので、慌てて丁寧に抱き直した。

壁の崩壊部分を見つけて、ラズトルファは翼を身体に巻きつけるように畳み、細身の体を滑り込ませる。

マルクが[|夢の世界《ドリームワールド》・反転]で屋敷強度を保っているとはいえ、それ以前にいくつで欠けていた箇所に関しては、風穴が開いたり天井が崩れたりと、みるも無残だ。

「ラズ兄ー! ちょっと乱暴すぎるぅ」
「イラが揺さぶられて呻いてるじゃんっ、もっと優しくしてあげてよー!」

ラズトルファの肩や腕にしがみついているゴースト種族の子どもたちが、きゃんきゃんと文句を叫ぶ。

「うるせぇー! これでも必死にやってんだ、ちょっと黙ってろ!」

甲高い子どもの声は好きではないラズトルファはイライラしながら怒鳴りつけるが、イラを心配する子供たちがいっそう不安がるばかりだ。
舌打ちを一つ。

「あのね、僕らなら、大丈夫だから」
「頑張ってしがみつくから、イラを助けてラズ兄……!」
(……そーかよ!)

ラズトルファが決断する。
顔を俯かせてイラの首輪を噛み、外してやった。

「スキル[エンジェルヒーリング]」

柔らかな光がラズトルファを包み、天使の旋律が流れ出した。

清らかな魂を持つものにはひたすらの祝福を、黒い魂を持つ者には罰となけなしの施しを。

イラの外傷がみるみる癒されていく。
火傷跡のように引き攣れていた皮膚もなめらかに回復した。

しかし黒い魂を持つ子どもたちは、涙を流しながら苦しみ始める。

(ああもう、うるせぇ! 早く終わらせてやる。 泣き声が耳障りだ)

ラズトルファはさらに魔力を込めた。
光がいっそう強くなり、イラと子どもたちはビクビクと身体を跳ねさせる。
その振動を、ラズトルファでさえ痛ましく思った。

(これだから正義なんてものは嫌いなんだよ。……つーか、思ったよりは回復が早すぎるな? 痛がっているにしてもまだマシみたいだし……なんなんだ?)

今の様子をラズトルファは不思議に思ったが、これさいわいだぜ! とそれなりに回復したら魔力供給を切った。
しがみついていた子供たちがほうっと息を吐く。
ラズトルファの肩がぐっしょり涙と鼻水で濡れてしまったので(うげぇ……)とぴくぴく顔を引きつらせた。

子どもたちは安心したのか一気に脱力してしまい、ラズトルファの身体からずり落ちかける。
ラズトルファが焦っていると、鏡色の蜘蛛の糸が子どもたちをしっかり固定した。

「イラ! 目が覚めたのか」
「……うん。ラズ兄」

イラの声はか細くかすれて、わずかに頷いただけでも全身が痛むようで、腕の中でひかえめに震えた。

「黙って運ばれてろ。……ちくしょう、こんなになるまでガキ一人に攻撃をしかけやがって。やっぱりあいつら綺麗事唱えてても、信用ならねー!」

イラは困った顔で、ラズトルファを見上げた。

しかし外傷の説明をしようにも自分がまだ満身創痍であり、しんどそうに顔を歪めたラズトルファも体力に余裕がないことが分かったため、一旦口をつぐんでしまう。
怒りが動きの原動力になることもあるのだ。

(……呪いは弾かれずに、受け入れられたみたいなんだ。魔王の息子に、それを施すことができたよ。
だから……せめて魂がグレーな子たちは、手厚く助けてもらえるんじゃないかな。って、あとでラズ兄に言おう……)

けほっとイラが咳をする。

蜘蛛の糸で固定されてさらに安心したのか、ラズトルファにしがみついていた子どもたちは意識を失い、ぐったりと脱力している。
重さ全てがラズトルファにのしかかり、体力を奪った。

(静かになってせいせいした!)と強がりで考えながら、ラズトルファは自分自身に少しだけ回復魔法かけて、翼を広げて羽ばたく。

「──のわぁっ!?」

ラズトルファの真横を、光の閃光がぶっ飛んでいった。
避けられたのは間一髪であった。

「あれ……あのちびっちゃいのが[衝撃覇]とか言ってたやつ! 中心にいたウサギ、あれが魔物の姿か!?」

ラズトルファの呟きを聞いて、イラがとても驚いた。
草食動物の魔物たちは逃げ足は速いけど弱いんだ、と仲間の獣人に聞いていたためだ。

(やっと現れた天使族候補のカーバンクルをもつ魔物が、繁殖能力に秀でたウサギだなんて……皮肉だなァ。これから取り込みを図りたかっただろうに、天使族の清廉潔白なんてモットーとは程遠い。
桃色の髪と赤い目、翼を持つ者があいつらの祖先だ。
白い翼を持つものは天使族に、翼膜を持つものは淫魔族になった。
どんなに認めたくなかろうが、それだけのこと。だから淫魔との交配が一番上手くいく。
メデューサ一族が知ってる事実を突きつけたら、天使族のやつら、泡吹いて発狂するだろうなァ)

ラズトルファはすっと半眼になる。
鼻で嘲笑った。

シュシュのアタックで前の壁が崩れている。

「進路を開けてくれてありがとうよ! お嬢ちゃん!」

ここぞとシュシュを女の子扱いして、投げキッスまでしてみせた。

『むきーー!』

ラズトルファが通り過ぎる瞬間、シュシュが地団駄を踏んで悔しがる。

頭の羽根耳が天使の翼のように大きく広がっていてる。
綺麗なウサギだな、とイラがぼんやり見惚れた。

『まだまだ、逃さないよっ!』

ウサギ姿のシュシュの声はラズトルファたちには理解できなかったが、何を言われたのか、雰囲気でだいたい察した。

「全く、こっちはこっちで手一杯だってのに、鬱陶しいな!」

イラが蜘蛛糸でサポートをして、ラズトルファが必死に弾丸ウサギを避けながら、前に進む!

ギルティアがいた部屋はすでにもぬけの殻だった。

(くっそ! ギルティアが捕縛されたか? 殺されずに生き伸びているといいんだけど……)

シュシュがラズトルファを狙う!

『スキル[石頭]ァ!』
「あいつ絶対女じゃねぇーー!」

つっ込んできたシュシュをまた何とかかわした時、ラズトルファは後方に、さらに別の足音を複数確認する。
さらなる追っ手だろうと判断した。

もうひたすら前に進むしかない。
この行き先では、マルクたちと金色の敵と遭遇するだろう。

深いため息をつくと、ラズトルファは覚悟を決めた。
自分はそれなりに様々な経験をしてこの世界が嫌いだと結論を出したが、まだ遊ぶことすらろくに知らない子どもたちは、逃してやりたいと思ったのだ。

「あー……鬼が出るか、蛇が出るか!」

▽イヴァンが 現れた!

「さぁ行くぞ、彼方に!」
「はあーーーーー!?」

ラズトルファの頭のツノをがしっと掴むと、[トライ・ワープ]でともに消えた。

イヴァンが顔を向けていた方角を考えると、そのまま魔物使いパーティを追うつもりらしい、とラズトルファが気付く。
「別方向に逃げろよ!!!!(ピー)野郎!!!!」とラズトルファはブチギレているが、イヴァンが目指すものは安全ではなく、赤の女王様の罵倒なのである。
ついでに、今向けられた罵倒も大変心地よく受け止めやがった。実に先が思いやられる。

『うきぃーーーー! うわっ!?』

悔しげに叫んでいたシュシュは、モスラに丁寧に拾われた。

『ど、どうしたの?』
「ともに死霊術師たちを追いましょう。逃してしまって誠に申し訳ございません……!」

モスラのアッパーで天井に刺さったイヴァンは、目の前から従魔がいなくなったことにより、首輪の制限が解除され、なんと自由に行動できるようになったのだ。

心底悔しそうに歯噛みするモスラに、シュシュは共感を覚えた。

転移は特別な能力だと理解しているが、逃してしまって悔しいものは悔しい!
『押忍!』と小さなウサギの拳を振り上げる。

「死霊術師はレナ様の元に向かっているでしょうね」
『しばく』
「同感です」

モスラがシュシュのおでこをそっと指で撫でて、眉間のシワを労ってくれた。
お礼に髪を撫でてあげようか? とシュシュは考えたが、別の励まし方がいいと思った。

『この戦闘が終わったら、ご主人様にたくさん甘えて頭撫でてもらおうね!』
「最高です癒されますイメージしただけでも心が浄化されていくようです……さすがレナ様!」
『私たちのエネルギー源!』

「最先端の狂信者……」

オズワルドに騎乗したルーカがいつの間にか横に並び、笑いを堪えていた。

『って、モスラ! お前人型で走ってるのになんでレア種族の獣並みに速いんだよ!?』
「鍛えてますので」
『そういう範疇に収まってねぇ!』

『ほほう鍛錬でああなるのか。俺もまだまだ努力する!!』
『妙な張り切り方すんなレグルス! モスラの真似して特訓してたら一瞬で身体壊すぞ!?』

オズワルドが突っ込みに忙しい。

「それぞれに合った成長方法があるから、調教師の僕がまた指導してあげるねー」

ルーカがひらひらと手を振りながら言って、華麗に舌を噛む。
シュシュが近くにいるからと油断した。
悶絶していると、オズワルドのため息。

『黙ってろ、ルーカ』
(はーい……。あ、モスラもそろそろ進化しそうだな。シュシュの幸運の影響、リリーの覚醒による蝶々への成長促進、それに主人愛)

クスリと笑い、前を向いて黒紫の眼を瞬かせる。

「ーーあ。イヴァンがレナたちの所に着いたらしい」

『『『「殺す!!!!」』』』

「待て待て。落ち着いて。第一優先は捕縛だよ。
イヴァンは多数の同族を殺し、死体すらも弄んでいたから怨霊まみれだ。ただ奴を殺して放置すると、アンデッドが暴走するし、この世に未練を残したイヴァンの魂が怨霊化する可能性も高い。
だから捕らえて”鎮めの墓地”に送る……って相談していたでしょ?
まあどうにもならなければ殺害もやむをえないけど」

できるだけあのマゾ悪人を見ていたくないし、レナの視界から消したいし、とルーカのうんざりした声に全員が同意する。

「まずは、クーイズ、リリー、ハマル先輩たちを信じるのネー!」

ミディの言葉にルーカたちはうなずき合い、先頭のモスラの拳で壁を粉砕して、進んでいく。

 

 

 

 

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