201:目指せ終結!1

現在、精霊が屋敷に魔法をかけていないので、廊下はけして広くない。
マルクが[|夢の世界(ドリームワールド)・反転]によって強度を維持しているのみ。

その廊下にみっちり詰まるようにして、巨大羊が闇色のバクを押して通るオラオラオラオラオラアアアア!!!!!

圧に耐えきれずに両側の壁がえぐれていく。
レナパーティが侵入時に通った道なので、罠は全て解かれている。

壁が崩れたことで、各部屋での戦闘を浮き彫りにしていった。

「っは……!? なんっ……だよ、アレ!?」

赤黒い精霊魔力により疲れ切っているギルティアが、唖然と声を出した。
戦闘途中に、突如壁が崩れ落ちて金色のモコモコが通り過ぎていったのだ。

(それに、あの黒い塊……バク、だったか!?)

ぎゅ、と唇を噛みしめた。

キサたちも、通り過ぎた金色と赤の覇光に目が釘付けになったが、ギルティアが油断した一瞬の隙を見逃さない歴戦の戦士がひとり。

半獣人型になり、氷の爪でツルを切り裂いた。

「た、助かったのじゃあ!」

ギルティアがやっとツルで捕らえていた人質のキサを、ロベルトに解放されてしまった。

「しまった!? ちくしょう!」

ギルティアがギッと睨み、喉の奥から低くうなる。

赤黒い帯をゆらゆらと纏った。
いや、新たな力というよりは今まで見えなかったものが浮かび上がるように現れた、とロベルトは推測した。
ギルティアが棘棘のツルを叩きつけてくる威力が変わらなかったためだ。

「それ……精霊の魔力、か?」
「そうかもな。だったら、なんだよ!」

パトリシアの問いに、ギルティアが意外にもきちんと返事をした。

子どもたちはもう捕えられてしまったのだ。
となると、あとは自分の怒りのままヤケクソに攻撃するのみ。
言葉遊びひとつにも、憤りをこれでもかと込める。

「質の悪い栄養が植物に注がれているところなんざ、見たくないな……」
「じゃあ、あたしの前から消え失せやがれ!」
「花職人にはポリシーってものがあるんだよ。アンタはエゴで動いてる、それはこっちもおんなじだぜ」

ギルティアが棘棘のツルを高く掲げて、叩きつけるモーション。
パトリシアは|波状の赤き剣(フランベルジュ)を構えた。

「この武器には、レナの祝福の力がある……悪いものを浄化するらしい。というわけで、そのエネルギーの供給、断ち切らせてもらう!」
「しゃらくせえぇ!」

▽ギルティアと パトリシアの 一騎打ち!

ロベルトとキサは、いざとなったら助けに入るつもりでまずは見守っている。

樹人族と花職人の戦いだ。
この二人にしか分からない意地があるのだろう、と思った。

パトリシアが足に風をまとい、驚くほど鮮やかに動く。
ツルの攻撃を避ける時、フランベルジュでなめらかに切り飛ばした。

ツルの切り口からは、内包されていた赤黒い精霊魔力がぶわっと溢れ出て、空気を穢す。
顔を顰めて息を止め、一気に走り抜ける。

ギルティアが帯のように纏う赤黒い魔力にも、一閃!

すると、実体のない精霊魔力が断ち切られて、霧散してしまった。

「ーーはああ……!?」

ギルティアが驚愕の声をあげた。
内臓を焦がすようなおそるべき熱は感じなくなったが、ドッとおしよせた倦怠感に膝をつく。
舌を動かし声を出すこともできない。

(スキルを発動できない……そんな……こんな、バカな……!?)

「私の勝ちだな。お疲れさん。今まで、よく頑張ってたよ」

パトリシアがそっと、ギルティアの首に黒いアクセサリーを触れさせた。
首輪がギルティアを捕らえる。

労わるように頭の葉を撫でられる、その感覚は、ギルティアが生涯で初めて知ったたぐいの優しさだった。

「これからは私に頼ってくれていいぜ。ツルを這わせても倒れない、ドンとそびえる大木のような花職人になってみせるからさ!」

ロベルトとキサがあまりのかっこよさに思わず拍手をした。

花職人の[緑の手]にどうしようもなく癒されながら、ギルティアはゆっくりと瞳を閉じて、意識を手放した。
頭の枯れきっていた葉に健全な養分が巡り、やっと新芽を生やし回復する。

「うん、救命完了。それにしてもさ、空気が悪すぎ……うええ……キサ、ロベルトさん、大丈夫? って、顔色悪いな。なんとかならないかなー」
「けほっ、こほっ。つらいのじゃー」
「悪性魔力ならば、光魔法の[|浄化(パージ)]などが効きそうだが」
<私もそう思いますね!!>

ナチュラルにキラが混ざる。

▽パトリシアが ひらめいた。

「よっしゃ! 青魔法[アクア]……咲き誇れ、超速ライトニングマッチョマン!!」

▽開花!
▽ウワーーーーオッ!!
▽光り輝くマッチョフラワーが 現れた!
▽マッスルポージング!

部屋から廊下に光が漏れるほどの超発光!
周囲一帯をしっかりと[|浄化(パージ)]した。

キサが「凄いのじゃー!」と無邪気にはしゃぎながら、ロベルトが悟りきった目で、お花を見る。

「さあ! これでオッケー。レナたちのところに助力に行くぞ、オラァ!」

パトリシアがギルティアを担ぎ上げて、男前に宣言。女だ。
ロベルトがキサを横抱きにして、子どもたちは結界で守られていることを確認、部屋を後にした。

***

イラと戦う、レグルス・オズワルド・ミディ。
ミディの水の攻撃が現状には有効だった。

[怨嗟の糸]を扱うイラの視界を塞いだり、足元に水を漂わせて動きを鈍らせたり、じわじわ体力を奪う。
イラの目は虚ろで、もう気力のみで動いていることがよく分かった。

(あと少し)

レグルスが生命の残量を見極める。
気絶したら捕らえるつもりだ。

(あの[怨嗟の糸]のせいで近寄れないのが痛いな。首輪をつけられない。投げつけてアクセサリーを展開することはできないらしいし……)

レグルスが考えていると、[怨嗟の糸]の端がふわりと寄ってきたので、オズワルドを抱えて後退した。

「ああもう、[|重力操作(グラヴィティ)]が使えたら……!」

オズワルドが悔しげに牙を剥く。
一度[|重力操作(グラヴィティ)]でイラを地に伏せさせたら、その衝撃でそれなりの傷を負い、[|鬼化(オーガブースト)]が加速したのだ。
イラの白い肌には赤黒い紋様がびっしりと浮かび、異様な形相になっている。

レグルスがチラリと、肩に抱えたオズワルドを見上げると、顔を顰めているものの獣耳はしょんぼり伏せており、あまりに痛ましい鏡蜘蛛に同情しているのだと気付く。

(世の中には虐げられている弱者もいる。平民以上の生活をしているとまず目に入らないが。オズワルドが最初に目にするには、この光景は衝撃的すぎただろうな……。
……鏡蜘蛛イラ。魂が黒い極悪人判定、とルーカが言っていた。それならば、瀕死にもならないくらいの一撃でもう仕留めてしまおうか)

「……レグルス」
「なんだ、オズワルド」
「もう少し、待てそうか?」
「!」

レグルスの雰囲気が変わったと、オズワルドは敏感に察していた。

(まだ、この光景を見続ける覚悟があるのか……そうか)

「分かった。問題ない」
「ん」
「最終的には必ず確保するぞ」
「もちろん。……何があったか過去は知らないけど、あいつ、心根はけして悪人じゃない、って気がするんだ……」
「…………。同意だ。これまで様々な悪人を見てきたから、根から腐っているか、なすすべなく魂が堕ちたのかは俺もなんとなく分かる」

獣人二人がすんっと鼻を鳴らした。

((それにしても、光景に怯まないミディは凄いな……))

「そおーれ! 青魔法[アクア]なのヨー! クルクルー!」

イラを包むように水が回転。
ミディがいつも野菜を洗う時に使うウォッシャブル仕様だ。

「早く救われるように、ミィ、頑張っちゃうんだからネー!」

無邪気にイラの未来を信じられるのは、ミディらしい生まれて間もない純粋さか、とレグルスは眩しそうに華奢な後ろ姿を眺めた。

ついに、イラが倒れる。

「静かになったノヨー」
「ミディ! 不用意に近寄ってつんつんするんじゃない」

無邪気過ぎるミディに、オズワルドがあわてて注意する。
レグルスが鼻を鳴らし「死ぬ直前のにおいだ」と告げた。

首輪をつけると魔力が急速に吸収される。
それはイラにとって致命傷となるかもしれなかった。
そしてまた[|鬼化(オーガブースト)]が始まる可能性もあったが……逆に、おとなしいうちに急いで回復させたらいい。
その方法に、オズワルドたちは賭けることにした。

幸運の赤い装束と、イラの良心を信じて。
キラにもらった「エリクサー」の小瓶をオズワルドが取り出す。

「そんな心配そうな顔するなよミディ。俺は何かあっても[限界突破]のギフトがあるしさ……」
「はぁーい……」

ミディとレグルスに見守られながら、オズワルドが黒いアクセサリーをイラの首に押し付けた。
その瞬間、びくんとイラの身体が跳ねて、赤黒い靄(もや)が噴き出し、オズワルドを突き抜けていった。

「ーーーーーッッ……!?」

通り抜けた靄は、鬼の形相になる。

<<<<スキル[呪い]を発動>>>>

……虫がざわめくようなガヤガヤした不快な音を放ち、ニタリと口を歪めて、消えていった……。

「やだあー!? オズ先輩!」
「っこの……!」

レグルスがイラを仕留めようとする。

ーーその時、目の前に白淫魔ラズトルファが現れて、イラをかっ攫っていった。
桃色髪の甘ったるい芳香がオズワルドの鼻をかすめる。

<白淫魔ラズトルファは[トライ・ワープ]が施された魔道具を使用しました>

キラの音声が現状を伝える。

「っそういうことか。くそ、あいつらめ……! オズワルド、動けるかっ!?」
「ちょっと、だけ、待って」

脂汗をにじませていたオズワルドが、少しためらってから、エリクサーを一気飲みした。
これでオズワルドが持っているものは最後だ。

逃げるラズトルファを見ると、腕の中が光を放っている。
イラが回復されたらしい、と知り、オズワルドは小さく息を吐く。

「レグルス、どうどう」

ぐるるるっと獣らしく喉を鳴らし殺気立つレグルスを、オズワルドがなだめた。

「[呪い]……はー。……やり口がアレだけど、あいつなりに精一杯だったんだろうな。
”捕らえたみんなをどうか助けてあげて”だってさ」

オズワルドが首にかけた「M|身護(みまも)りペンダント」は壊れていない。ということは、イラは殺そうとはしていなかった。
[復讐]などを使うこともなく、自分が受けた全ダメージを、この[呪い]……というか願いに託したのだろう。

そのことに気付いて、レグルスはなんとか頭を急速に冷やす。

「……魔王国の方針としては、そのような確約は困る」
「でもいい子なのネー」
「魔王国で仲間が助けられるなら、あの鏡蜘蛛はすんなり更生しそうだなって思う」

オズワルドの手首に現れた赤黒い五本の[呪い]の線。
それは、イラが縋った手形のように感じた。

レグルスが「ううう」と唸った。
諜報部隊としての常識と、自分の本心を見つめ直し、回答を出す。

「……あくまで仲間を助けようとする、その姿勢は、賞賛に値する。しかし、だからといって逃すわけにはいかない!」
「もちろん同意。よし、回復した、待たせてごめん」

引き離されてしまったが、そのままレグルスを行かせたらきっとイラたちを殺害するし、呪いの効果を知った時に、心が傷つくだろうとオズワルドは思ったのだ。

「「行くぞ!」」
「…………って、キャーーー!?」

ミディが驚きすっ転んだ。
すぐ横を、白い閃光が通り過ぎていったのだ。

「[覇]ァァ!! 待て待て待て待て待て待てぇぇーーーー! 逃さないよっ!」

シュシュだ、と気付いた時にはもう背中がとても小さく見えている。
進行方向の壁を己の蹴りでぶち破り、背中の天使のような翼はまぶしく輝いて、きらきらと名残の光が舞うと、部屋の毒を浄化していった。

あまりのことに、ぽかんと三人が一瞬固まった。

「[自由の翼]……使いこなしてたな……」
「そう。おそるべき成長速度だよねっ」

ルーカが登場する。
シュシュが破った壁を乗り越えて、部屋に侵入し、苦笑してみせた。

「まずは追うぞ!」
「「うん!」」
「ハーーイ!」

▽レグルスと オズワルドが 獣姿になった。
▽ルーカと ミディが またがる。

デス・ハウンドの背に揺られながら、ルーカは自分たちの経緯を説明した。

「鏡蜘蛛と共にいた子どもたちが白淫魔の前に現れて『イラを助けて』って言ったんだ。転移の魔法[トライ・ワープ]が施された魔道具を使ったんだろうね。そしてラズトルファがその子たちを抱えて、こちらに向かったというわけ!」
『そういえば……あの桃色髪のやつ、子どもを二人抱えてたな』
「だから負担は大きいだろうね。そんな中でまた転移を使わず飛んで逃げてる、ってことはもう魔道具は持っていないはず」
『それなら、追いつけそうだな』
「いった!?」
『……ルーカ、舌噛むからもう喋るなよ。悪運が……ってあんた、シュシュから離れたらダメじゃん!』
(ほんとそうなんだよね)

口元を押さえてこくこく頷くルーカ。
見事なフラグを口にして、舌の根が乾かないうちに、オズワルドたちが通り抜けようとした壁が修復しはじめる。

「ナイトメアの[|夢の世界(ドリームワールド)・反転]の能力で、屋敷の損壊があっても元に戻るんだ。しかしタイミングはランダムっていう仕様」
『一番ルーカと相性が悪い奴じゃないか!! ちくしょう。シュシュもレグルスも簡単に頭に血が登りすぎだ!』

思わぬ巻き添えをくらったレグルスが気まずそうに口から炎を漏らし、ぐあっと炎を纏うと、オズワルドの前に走り出た。

▽壁を壊した!!

『俺が行く道を開けてやる。それで、さっきのフォローになるだろう?』
「きゃー! あったかーい」

灼熱の火炎獅子に乗っていても、ミディははしゃいでいる。
白炎でなければ焼けないイカなのだ。

「みんなに守ってもらえて、僕って恵まれてるよねぇ」
『ルーカが死んだらどれだけ仲間が悲しむか自覚しろよ。主さんが泣き崩れるぞ』
「やだ、生きる。……生きて、たくさん恩返しするからね。よーし、役に立つぞー。宣教師の名において! 光魔法[|浄化(パージ)]」

目前に現れたアンデッドをルーカが昇天させた。

「それゆけ従魔レッドたちー! キャハー♪」

 

 

 

 

pixiv fanbox

 こちらにはイラストまとめ、創作裏話、ホームページ制作の記事を書いています。ぜひお楽しみいただけますように。
 100円ご支援いただけることは、書籍一冊買ってくださったのと同じ助けになります。
みなさまいつも応援ありがとうございます!