200:反撃の反撃の反撃の反撃ィ!

「「スキル[夢吐き]」」

ハマルとマルクが、それぞれ蓄えていた夢で攻撃をする。
異次元の戦いが行われていた。

槍や弓が飛び、炎が飛び出したりビームが打たれたり、ロボット兵士が突撃したり鋼鉄の壁が防いだり。天井が崩れたり床が抜けたり。

「[シャドウ・ホール]!」

ここで、マルクが結界を張る。
イヴァンとタイミングを合わせた。

▽超巨大ねばねば納豆スプラッシュ砲!!
▽ガード!
▽夢は消え去った。ほのかな納豆臭とともに。

(なんだ、あれは!?)

レナの夢だ。つよい。
加工前の食物は[夢吐き]されると腐るので、より強烈な臭気であった。
あれをかぶってお縄、だなんて死ぬほど嫌だ。

(イヴァンのこの力がなくては、私たちはすでに倒されていただろう……その点は、奴にも感謝しなければならない。感謝したところでこれっぽちも喜ばなさそうだが)

そう、罵倒の方がご褒美になる。
しかしそんなもの、マルクが嫌だ。

一般的な感性に合わせて、心の中でイヴァンにお礼を告げる。
クオーターリッチの半身に、届いただろう。

ここで、マルクが体をくの字に折った。

(イヴァンの、変調……か!?)

体の内側がバキボキと折れるような錯覚を感じる。
脂汗を流して胸と腹を押さえたが、マルク自身の身体にはどこも異常はなく、精神的なものだと分かった。

(痛みが共通するとは……これは、たまったものじゃない!)

ぞくぞく、びくびく、と身体が跳ねるように震えた。
イヴァンの性質を思い出してゾッとする。

”マゾヒスト(極み)”

勝手にやってろ、と性癖を放置してしたことがまさかこんな悲劇を呼び込むとは。
そして[|悪運持ち(バッドラック)]の称号効果すらも共用してしまう可能性にも気付いて、頭を抱えた。

「マルク様!? 大丈夫ですか……きゃあ!」

崩れかけた天井の破片がマルク自分たちに降り注ごうとし、とっさにマルクはスイを庇った。

「[光結界]……!」

マルクの腕の中で、スイは必死に声を響かせて瓦礫を防いだ。
ほうっと息を吐く。
どきどきする胸を押さえる。

「ありがとう、スイ。実はだな、イヴァンと[感覚共有]してしまった影響で……」
「あ、あンの、イヴァンーーっ!」
「落ち着け。喉に響くぞ」

それに、罵倒を口にするスイが魅力的に見える……という大変恐ろしい体験をしてしまって、マルクの頭痛がさらに加速する。
頭を振って気持ちを切り替えた。
片手の甲に、燃えるような熱を感じている。

その熱に導かれるように、マルクは遠くのレナを眺めた。

(……!! なんと、強い、魂の輝き……!)

煌々(こうこう)と鮮烈な、赤い光。
血潮のような色彩に、生命のみずみずしさすら感じる。

あの光に一瞬、魅せられた。

「マルク様、危ないです!」
「っ!」

ハマルの[夢吐き]巨大パイ投げ(腐)が飛んできて、スイが結界でそれを弾く。
結界はすぐに割れてしまって、魔力が残り少ないことが分かった。
スイは青白い顔、前髪が汗で貼り付いている。

「ありが、と、う……っ……!?」

マルクはスイの表情をまじまじと眺める。
イヴァンの[観察眼][鑑定眼]が真実の鏡となり、マルクの瞳に現在のスイをまざまざと映す。

スイは憎々しげに顔を歪めて、恐ろしい形相で、レナたちをぎらっと睨んでいる。

(こんな表情を、する少女だっただろうか?)

マルクが夢の世界をたどって初めて出会ったスイは、人形のように無表情な子だった。
それから「一緒に外に出よう」と誘うと、可憐な涙をはらはらと流した。
草原に逃亡してからは、ほんわかとした微笑みに何度も癒されたものだ。
彼女が笑って過ごせる世界は素晴らしいものだと信じて、この道を選んだ。

(それなのに、私は、どうして……スイにこんな表情をさせてしまっているんだ……これまで、何度、泣かせた?
……。……分からない。それほど、最近ではスイのことを見ておらず、ただ道を歩むことに夢中だったのか)

手の甲がちりちりと熱を持つ。
たまらず、スイの顎に指を添えて、上を向かせた。

「……マルク様?」

桃色の瞳がまっすぐにマルクを見上げて、見開かれると、あどけない綺麗な顔。
その目尻から、溜めていた涙がはらりと流れた。

(ああ、私は、また泣かせて、しまって……)

ぐらぐらとマルクの芯がブレ始めた。
魂を根底から揺さぶられるような、衝撃であった。

(……まさか、イヴァンによって気付かされるなんて)

この時、別室のイヴァンがモスラのアッパーを大歓喜で受け止めた。
ダメージを共有したマルクが、胸と頭を掻き毟るように抱えた。

「ぐ、ぐああああああッ!?」
「マルク様ーーーー!?」

スイは回復薬を飲ませようとして、ハッと気づく。
これは白淫魔のラズトルファが作ったものだ。半アンデッドとなったマルクには毒となる可能性が高い。

「ど、どうしたら」

スイの視界が潤んで、泣いている場合じゃない! 声も使えなくなる! と顔をぐしぐし擦り、目の周りを真っ赤にして、レナパーティの様子を横目で見た。
なにやら床が一部抜けて、さらに天井も倒壊しかかっているので、従魔はレナを守るために動いている。
やはり魔物使いの主人本人は弱いのだ、と確信した。

スイはあらためてマルクに視線を移した。
手の甲には火傷の跡のような模様が浮かび上がっている。
レナが放つ、赤の覇光にそっくりな色合い。

「何を、したの、貴方がた……!!」

腹の底から出た、低い声。
何かをしたのはイヴァンなのだが。

「これは、呪い? ……許さない。
正義の味方を気取って、私たちを成敗しようとしておきながら、自分たちだって、悪とされる力を使っているじゃありませんか!
それとも、魂が黒い者たち相手ならどんなに傷つけてもいいと思っているんですか?
そうなんでしょうねっ!」

スイが叫ぶ。
声にすることで、いっそう憎さが増す。

痛烈に責める声は、レナたちに罪悪感すらも抱かせた。

レナパーティの身体が内側からカッ! と熱くなる。

(〜〜〜〜カルメン!?)
(しっかりしてくれ、|白炎聖霊杯(カンテラ)の司祭よ。我々と並んで歩む其方が、その程度の干渉で弱っていては困る。不安か? 己が進んできた道が、信じられないか)

レナが深呼吸する。

「ーーいいえ。だって、私の従魔たちはこの世の何よりも可愛い笑顔で、ずっと後ろをついてきてくれているもの。それを信じて、守るのだわ」
(それでいい!)

カルメンは満足げに告げると、また気配を消して、レナパーティの動きをそっと見守った。
レナたちの勝利を疑っていないのだ。
彼女の出番は、まだ先。

(……ありがとう、カルメン。スイの声って、やっぱり、すごく特別なんだね)

レナは、スイが改心した場合に手にできる未来はどんなものだろう、と思い描いた。

たくさんの人の心に響き、導くことができる声。
使い方さえ間違えなければ、人を幸せにできるであろう力だ、と確信した。
この能力は、魔王国にも歓迎されるだろうと。

手の中にある首輪のアクセサリーを、ぎゅっと握りしめる。

(なんて顔、してるの……)

スイと精霊は、今にも泣きそうに顔を歪めて、レナパーティを睨んでいる。

「スキル[同調][七色の声]……『”スキル[鼓舞]”!!』」

血を吐くような精霊の叫び。

夢組織の全メンバーに精霊の魔力がぐわっと巡った。
濃縮された赤黒い魔力は、おそるべきエネルギーとなる。

魂にダメージを与えながら、身体の急激な回復を促した。

マルクがよろけながら立ち上がって、スイを引き寄せる。

「スキル[|夢の世界(ドリームワールド)・反転]」

クレハとイズミの物理攻撃[火炎放射][鉄砲水]を消し去った。
もう崩れてしまうであろう屋敷全体を夢で包み込んで、組織の誰かが瓦礫に埋もれて死んでしまうことのないように、配慮をした。

そして腰を屈めると、スイの耳元で今後の指示をする。
満身創痍になりながら、なんとか気力を振り絞って、伝えた。

「…………スイ、サポートは頼んだ。お前の声ならば、私を、動かすことができるだろう」
「……ッマルク様!?」
「今から獣型になる。手綱を取れ。ここから、全員、助け出そう……。声を届けて、みんなを集めろ。屋敷を出るぞ」

マルクはなんとかそれだけ伝えた。
今、マルクはもはや、自分が歩んできた道を信じきれていない。
足元から崩れ落ちそうだったが、まずは何よりも、全員の命を助けようと動き出した。
(全てを振り返るのは、それから、だ……)
どうか意図を汲んでくれ、と思いながらスイを眺めた。

スイは、瞳をすっ……と細めて、マルクから顔を逸らし、レナパーティの方を見た。
桃色だった瞳は赤黒く染まっている。

「……承知いたしました。マルク様がご提示なさった道を、私が、必ずや手を引いて歩いてみせますわ!」

自分の声に、スイは鼓舞される。
どうしようもなく、その言葉のままに。
夢組織がこれまで歩んだ道を、がむしゃらに突き進もうとしている。

「…………ッ……!」

マルクは(違う、きっと、もう……そうではないかも、しれないんだ……そんな顔をしないでくれ)と語りかけようとしたが……
溜め込んできた悪夢が、彼の弱った心をあっという間に包み込んだ。

(……っ! これは、私が、積み重ねてきたことへの、落とし前……罰……なのか……ッ。ラナシュ、世界。やはり、敵か……それとも……なにか……ああ……)

マルクの絶望も後悔もわずかな希望すらも呑み込んで、黒い|ケダモノ(・・・・)が現れる。

どろりとした悪夢の靄(もや)を纏っている。
ぼた、ぼた、とヘドロのような黒い液体が、身体からは滴り続けた。
血の臭い。しかし黒色なのは、身体が半アンデッドと化しているからだ。

異様な姿の、|夢の支配者(ナイトメア)・バク。

ずんぐりとした身体を、むくむく大きくした。
約3メートルの高さになる。

体を包む靄の中で光るのは、これまで取り込んできた悪夢。
その瞬きの中で、ぎょろりと一番強い光を放つものが”目”だ。
片方は血のような紅、もう片方は六芒星が浮かんだ黒。

「大丈夫です、マルク様。スイが導きます」

スイは気味悪がる様子もなく、バクの姿のマルクに触れた。
手は靄に沈む。ねっとりとした感触で、スイの手を濡らした。

出会った時のような柔らかな毛並みに触れられないことを残念に思ったが、「これも未来の道のため」と、スイは自分たちの夢をしっかり頭に描いた。
……つもりだったが、その未来はぼんやりと霞んでいたので、

「だ、大丈夫です……! 不遇されていた私たちこそが、心穏やかに笑って過ごせる未来を、今ここから手に入れるのですもの」

希望を言葉にして、自らを励ます。
スイの頭の中が白くすっきりと晴れわたっていく。

スイが手綱にしたのは、精霊を繋ぐ光の鎖だ。
精霊は今や、バクの黒い靄に巻き込まれていた。
ぐったりと、項垂れている。

<早く助けなくては、消滅してしまう……そんな気が致しますね>

キラのアナウンスを聞いたレナが、動き出す。
従魔たちに「最終対戦」を指示。

「うわぁ。あれ、もはや物理戦になるよねぇ」

ハマルが舌舐めずりして、脚に力を込める。
物理的狩りは大得意だ。

「よっしゃー! クーイズ先輩、……いけそうですかー?」

ハマルは興奮を抑えて、クレハとイズミに語りかける。
しかし、少し震えた先輩たちは、すぐには返事を返せなかった。

ーーハマルドライブ状態になるには、紫のスライム盾が必須だ。バクの黒い靄は有害かもしれないから。
ーークーイズは手を取り合い、そっくりな顔を見合わせた。情けなく眉尻が下がっている。

その隙を狙い、スイが仕掛けてくる。

「スキル[同調][七色の声]……アンデッドよ、現、きゃあ!?」

▽スイは マルクの声を 真似ようとした。
▽地下から 毒水が噴き出す!
▽バクを 打ち上げた。

「な、なに!? もう……!」

<あっ。説明しましょう! 鏡蜘蛛イラと対戦中、ミディアム・レアさんが毒の粉を洗い流しました。その水が地下に送られて、モスラさんの風により噴出したので御座います!
偶然真上にナイトメアがいるとは、なんと幸運な!>

いや、幸運というより、どちらかといえばマルクの悪運のせいである。

スイたちはびしょ濡れで、毒のせいで体調を崩している。
悪夢の霧も、ちょっぴり洗い流されてしまった。

スイがぷるぷる震えている。
唇を噛み締めて。

「やっぱり、ラナシュ世界なんて、嫌いです……!」

必死でしゃくりあげるのをこらえている。

「私たちはただ、穏やかに、生きることを許されたい……だけなのに……!」

「だったら、尚更。今のやり方、やめたほうがいいと思うのに……」

リリーのぽつりとした呟きを、スイが目ざとく拾う。

「幸せな貴方たちに、何が分かるっていうのですか!?」

「幸せを、分かっているんだよ。あっ、これシュシュにも言ったことがある」

今なら話せそうだ、と判断したリリーが、早口ではっきり告げる。
動けなくなっているクーイズをフォローするためにも、後輩は頑張るのだ。

「私ね! 以前、別の魔物使いに、捨てられて、苦しんでるウサギさんに……言ったことがあるの。
私たちは、貴方が心から望んでいる、幸せな生活を送っているよ。それを羨ましいと言うのなら。教えることが、できるよって!」

「……っ」

「知っているから、幸せを教えられるの。あの子は、改心して、レナ女王様の従魔になった」

リリーは言葉にポジティブな気持ちを込めて、心から伝える。

「貴方たちは、ゼロから、今までにないものを作りだそうとしている。それは、修羅の道……だよ?
もうすでにこの世に存在している、幸せの形を、望んでいるのに。
どうして、それを壊そうとしているの?
それが、世界から無くなって、新たに生まれてくるものって…………なに?」

リリーは[魔吸結界]を複数、自分たちの周りに展開した。
ナイトメアの悪夢が溢れて、黒い靄が忍び寄ってきていたのだ。
スイの返事は、ない。

「私は、とても恐ろしいものだと思う。魂の善悪が、反転した世界って。
貴方たちは、あたたかい未来を目指しているけれど……魂が黒い者たちって……そういうタイプばかりじゃないよ。強盗、略奪、殺人、そんなことをする過激な悪人が……たくさん、いる。
スイ、知らなさすぎるよ!」

スイが知っている世界とは、音の一族ベルフェアの里の塔の中。
そしてマルクとしばらく歩んだ草原に、いくつかの拠点。
出会った人といえば、マルクが呼び寄せた「似た者」たちと、魂が白い追っ手だけだ。

「取り返しがつかなくなってからじゃ、遅いの!!」

(邪魔、しないで)

リリーの宣言に、スイはそう反論しようとしたが、喉がひゅーひゅー鳴るばかりで、音にならなかった。

声が出なければ、スイはただのちっぽけな美少女だ。

(い、いや。しまっ……!)

バクが制御を外れる。
スイの心の動揺を悟り、手綱を握ったスイを引っ張り倒した。
この場にいる魔力が多い者を吸収しようとキョロキョロして……レナを標的に定めた。

「そうはさせないんだけどー!? おりゃあ!」

ハマルが魔物型になり、ぐんぐん巨大化する。

輝く白金色(スターライト)の毛並みは芸術品のように美しい。

マルクとハマル、同じ夢属性の魔物とはとても思えない。

『夢の支配者なのにー、悪夢に取り込まれちゃったんだねー!?
他人の声にばかり頼っているからー、自分を見失ってー、悪夢に負けちゃうんだよー。
ナイトメア、自分の気持ちはどんなもの? 貴方はいったい、どんな夢に焦がれて夢属性になったのさー!?』

羊のハマルの言葉は、異種族であるマルクには届かない。
いや、夢属性同士で届く可能性もあったのだが、マルクがあまりに変質してしまったので、世界は「別種族」と認定したのだ。

クレハとイズミは手を繋いだまま、震えて動けない。
ハマルの盾になるということは、混ざって紫スライム状態となるのだ。

(早く! 動きたいのにぃ……っ! ハーくんがもし、あの悪夢に体当たりして、毒や呪い状態になっちゃったらどうするの? それを防ぐのが、クーイズなのに……!)

「年長者を頼ってもいいのよぉ!?」

▽マリアベルが ハマルの頭に乗った。
▽[光結界]を展開!
▽バクの 頭突きに 耐える。

ほっ、とクーイズが息を吐いた。
目は見開かれて乾いていて、汗がたらりと頬を伝う。

二人の肩に手が触れた。

「「……レナぁ……」」
「何か不安なのね。私にしてあげられることは?」

レナから[友愛の微笑み]で見つめられた。
レナだって怖いはずなのに、いつも、真っ先に心配するのは従魔のことだ。

クーイズが毎日眺めている大好きな顔。
心配が、不安が、驚くほどすんなりと溶けていく……

((圧倒的な愛情で包まれているって、わかる。クーイズが、ずっとずっとずっと、はるか以前から欲しかったものを、もう手にしているんだよね……))
((望んだ未来は、もう、ここにあるの))
(分かる? イズミ)
(分かるよ。クレハ)
(……やれそう?)
(きっと。だって、後輩も頑張ってる)
(そうだね……もう手に入れている幸せを、手放したくないもんね)
((うん……!))

クレハとイズミは、まだ、クーイズのことを信じきれない。
でも、レナは二人以上に二人のことを信じてくれる、と知っている。
一人のクーイズになっても、きっと愛してくれるだろう。

頑なだった足が動いたので、クレハとイズミは振り向いてレナの腕にすがった。

「「……レナー、助けてくれる?」」
「もちろんよ。どうしたらいい?」
「「あのね」」
「初めて出会った時みたいな「好き!」って視線でたくさん見つめて」
「ぎゅーーって抱きしめて愛して」
「「大丈夫、ってレナに言って欲しいの! そうしたら、我らは、クーイズはきっと……」」

「絶対、大丈夫よ。貴方たちは、私の可愛い尊い素敵なウルトラスペシャル強ーい従魔だもの!」

「「レナぁーーー! 好きーーー!!」」

レナが、ぎゅーっとクレハとイズミを抱きしめる!
優しさに満たされた空間で、二人はまろやかに溶け合い、紫色のクーイズとなった。

「紫の髪に、金の瞳。とっても綺麗ね」
「……あ。レナのおかげで、この色彩も、大好きになれそうだよっ! あれ? でも、もうとっくに好きだったのかも……」

クーイズは、ルーカの金髪と紫の瞳を思い浮かべた。それから、楽しげに揺れる猫耳も。
ぽわっと心があたたかくなる。
ふるふると震えた。

「ーーよかった。やっぱり、レナのおかげ! レナパーティの栄光の赤い道のために、頑張るよん」
「期待しているわ」
「ういっす! あとでたっぷり可愛がってね♡ やーーん好き好き♡ それじゃ、いってきまーす」

クーイズはなめらかにとても速く走り、動き回っているハマルの体にするするっと登っていく。
頭に座った。

「いよっし! 気合十分」
『クーイズ先輩が元気になってよかったですー』
「お待たせしたね、ハーくん。マリアベルさんもありがとー!」
「どどどどういたしましてええええ」

羊の頭で盛大に揺られながら結界を張り、ケダモノと対峙し続けたマリアベルは倒れそうなくらい青い顔でピースしてみせた。

「まだまだかっちょいいとこ見せてね、マリアベルお姉ちゃん♡」
「さっすがレナちゃんの従魔、魔性で鬼畜だわぁ……」
「馴染ませながらちょっとゆっくりめに盾に変形するから。あと少し、結界でサポートしてね」
「ガッテン承知」

リリーが、レナの手を取った。
先ほどクーイズが抱きしめられているのを見て、自分の能力で、みんなが活躍できる方法を思いついたのだ。

「ご主人さまっ! 私のことも、助けてっ?」
「あら。望みを言ってごらんなさい。私、今はいつも通りの力が使えないけど……そのぶん、なんだって頑張るから」

レナは普通の鞭を揺らすと、肩をすくめて苦笑した。

「ご褒美を、ちょうだい? 先払いで」

リリーのおねだり。
夜な夜な行われる、甘美な[吸血]タイムを、今、欲しがった。

レナはサディスティック仮面への魔力供給と緊張で、目に見えてふらふらなのだが、リリーが今というからには理由があるのだろう。
愛情は平等に。
ご主人様は根性である。

「いいわ。ご褒美になるような働きを期待してる」
「んっ! 期待されるの、好きぃ♡ 信頼は、従魔への何よりの力になるのっ」

レナへの負担を軽くするため、リリーは妖精型に変化。
目が爛々と光る。

小さな牙が、レナの白い首筋に突き立てられた。
従魔にとっての|最強の動力源(モンスターエナジー)!

瞼を伏せていたリリーが、まつげを震わせた。
牙を離すと、首筋の噛み跡をぺろりと舐めて、最後のひとしずくまでも舌先で味わう。
レナを見上げた目は、ルビーのような赤色に。

『んー! 燃えて、きたあああああーー!!』

リリーの翅が赤色に染まっていく。
血潮のみずみずしさ。どくんとリリーの心臓が鼓動するたびに、鮮烈な赤の光を放った。

<ハイフェアリー・ダーク、ブラッディリリー……!>
『かっこいい名称、いただきなの! キラ先輩、名付け、ありがとう! いえいっ!』

優雅にくるりと一周舞って、リリーがピースサイン! いえいいえい!

「ほああああああーーーッ!?」

マリアベルの目が飛び出さんばかりに見開かれ、五体投地。
鼻血がたらりと鼻の穴から覗く。
『あっ、ちょっ、マリアベルお姉ちゃーん!?』「いっけね」とクーイズとギリギリ漫才を披露した。

『私は、シュシュみたいに……[|聖(ホーリー)・ジャッジメント]を使えないけど。別の方法で、暗い道を、照らすことができるもん』

リリーがビシッ! と指を突きつけて、スイに向かって宣言。
バクの体にしがみついているスイはぐったりしているが、リリーの声には執念で反応して、青白い顔を上げた。
リリーの表情も、女王のような威厳と慈愛に満ちている。

『救われるといいね。貴方も。どうか手を伸ばして』

リリーはハマルを見上げて声をかけた。

『クーイズ先輩ー! ご主人さまを、引き上げてくれる?』
『いいよん』

クーイズは紫触手を伸ばして、レナを巻き込むと引っ張り上げた。
レナはハマルの頭の上に、リリーは飛んでレナの肩に腰掛ける。

「貴方の作戦、教えて頂戴な。リリー」
『はぁい! ご主人さまは、クーイズ先輩を、癒す係』
「係? そうなの、分かったわ」
『マリアベルさん、お手手は、ここね』
「光栄の至りぃーーーー!!! はわわわわわ」

レナ、マリアベル、リリーが気合いを入れる時のように手のひらを重ねる。
そのままクーイズの盾に触れて、クーイズは仲間を信じてスライムボディを柔らかくして、手の侵入を許した。

核の宝石に、リリーたちが触れる。

『マリアベルさん、いい? せーのっ』
「『付与魔法[光沢付与]!!』」

▽クーイズの宝石が眩しく光り輝く……!
▽自分が作り変えられる衝撃に クーイズが耐える。

「えらい、えらい。大丈夫」

▽レナの声で クーイズはメンタル鼓舞された!
▽光を 我が物にする。

目も眩むほど美しい宝石の核は、高名な宝飾職人であるマリアベルですら見たことがなかった。

<従魔:クレハのレベルが上がりました!+1>
<従魔:イズミのレベルが上がりました!+1>
<<☆クラスチェンジの条件を満たしました!>>
<<進化先:ブリリアント・ジュエルスライム>>
<<進化させるには、種族名項目をタップしてください>>

世界の福音(ベル)が鳴り響く。

「キラ! オープンウィンドウ」
<はーいマスター!>

▽レナの目前にキラナビが現れた!
迷うことなくタップ。
クーイズのボディが熱を持つ。

『白炎の熱さに比べたらっ、なんぼのもんじゃーい!!!! もういーよ! レナ、ハーくん、いける!』

真正面からバクが突っ込んできている。
屋敷の地縛霊たちの悪夢も吸い込み、さらに巨大化していた。

「そうだ、思いついたわ。リリー」
『なるほどご主人さま、まかせて! スキル[幻覚]……ドラゴンに、なーれ!』

▽バクが ドラゴンの見た目になる。
▽ハマルの称号[ドラゴンキラー]が 発動!
▽足を踏み鳴らした。

『めえええええええええええ!!!!!!』

ドッガガガガガガガガガガ!!!!!!

バクに正面頭突き、そのまま廊下に押し出し、夢喰いヒツジが爆走する!!

 

 

 

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