20:村へ

レナたちは様々な食材を集めつつ、のんびり旅を続けていた。
たまに草原脇の林にも入って、木の実集めもしている。

食べて大丈夫な食材かは、【状態異常耐性】持ちのスライムがまず[溶解]してみることで確認していた。
毒があればピリリと舌?に感じるらしい。
魔物味覚では、毒は美味しいスパイスになるとのこと。

「…あ。真っ赤なサクランボっぽい果実を発見ー!
クレハ、イズミ。毒味をお願いしていいかな?」

『『あいあいさーー!』』

毒味、などと言っているが、スライムも嬉々として了承しているので、けしてご主人さまが鬼畜なわけではない。
リリーが果物を木からもいで来て、スライムボディにポイポイっと放り込む。
くるくるとボディを巡回した果実は、溶かされて消えていった。
美味しかったのか、スライムがくるりと一回転して飛び跳ねる。
これは、レナも食べてOK!の合図だ。

▽野生のサクランボ(仮)を手に入れた!×50

「…前に狩って保存しておいたジンギスカンのお肉、ちょっと痛んで来たねぇ。
色がだいぶヤバそうかな?新しく狩りますか…!」

『『よっしゃ、出陣じゃあーーーっ!!』』
『うふふふふふ』
『かしこまりましたー、レナ様ー』

マジックバッグはとても便利で、大量に物が入るし、さらに荷崩れもしないのだが、時間経過はするらしい。
痛みやすい生肉は、必然的に定期的な狩りが必要となる。

痛んだお肉を山盛り状態にして草原に放置し、それを狙ってやってきた肉食魔物を、ゴールデンシープ号が軽やかに撥(は)ねていく。
クラスチェンジして素早さも体力値も上がっていて、さらに[鼓舞]の応援もあるので威力がもうすごい!

肉食魔物の中にレナも食べられる種類がいたので、地道に草食魔物を狩るよりこちらの方が効率が良いのだ。
痛んだお肉も無駄にせずにすむし。
何より、主人は長時間暴走シープに乗っていられない。

▽進撃ヒツジの 肉を 手に入れた!
▽レナと従魔たちが レベルアップした!

「…おはようー」
『おはよー、レナ様ー』

『レナ!今日の朝ごはんは鳥肉だよーっ?』
『ぷくぷくスズメ3羽おちてたの。普通のコウモリは1匹』
『…解体済み!』

「わ。みんな、朝早くからありがとうねー!
でも前に狩ったヒツジ肉が痛んじゃうから、先にそっちから食べようか?
鳥肉は明日にしましょうね」

『『『わーい!つくねがいいなー!』』』
「はいはい。ふふっ」
『…にゃむぅー……』

ハマルの[周辺効果]を半径5Mくらいの円状に設定しておいて、そのまま[快眠]をかけて朝まで眠ると、起きた時には、ついでに眠らされた獲物たちが回収出来るシステムが出来上がっている。

あわれな獲物たちは深く眠ったまま、スライムに溶かされていくのだった…。

『『スキル[溶解]ーー!』』

▽ぷくぷくスズメの肉を 手に入れた!
▽コウモリ肉は スライムのおやつになった。
▽レナと従魔たちの 体力が 全快した!

つくね、などと言っているが、ナイフで肉を細かく叩いて香草とまぜ、串に刺し、それをフレイムの火で炙(あぶ)った”亜種つくね”のことである。
明日のごはんも楽しみだ。

旅はとても順調である!

***

ガララージュレ王国から出来るだけ遠ざかるため、レナたちは数日をかけて、反対方向に休まず歩いてきていた。
国境からの距離はだいぶ離れたので、ようやく少しは安心できるだろう。

途中にあったいくつかの村はスルーして来たが、そろそろ調味料が欲しくなってくる。
日本人生活が長かったレナは、贅沢だと思いつつも、やはり塩がふられたお肉が恋しかった。
魔人族になれる従魔たちにも、塩の旨みを体験してもらいたいと考えている。

少し大きめな村の近くまで来たので、主人はリリーに村内の偵察をお願いした。
悪人がいないかの確認をしてもらうのだ。

「…ここの村に入ろうかな、と思うの。
村の人たちの魂を、確認してきてくれる?」

『…ん!まかせて、ご主人さまっ』

姿を消したリリーが村中を飛び回り、【フェアリー・アイ】で人々を丁寧に視ていく。
発動した[心眼]により、キレイな魂を持つ人は白く輝き、悪人は黒く濁(にご)って視えるらしい。
ひととおり村を視まわったリリーは、少し驚いた様子でレナの元に戻り、肩にふわっと腰掛けた。

「リリーちゃん…?」

心配そうに声をかけるレナ。
主人を安心させるように、リリーは耳を軽く撫でる。

『ちょっと、驚いただけなの。
ビックリさせてごめんなさい。
あのね…この村の人たち…全員が、とってもいい人みたいだよ。
ここで買い物していっても、全然大丈夫だと思う。
悪い人がいなさすぎて、逆に、ビックリしちゃったんだー』

「!そっか、良かったぁ…!
今まで、悪い人にたくさん会ったからね…。
これからは、善い人たちに出会っていきたいねぇ」

『『そうだねー!
ルーカだけはいい人だったけどー、他の人達は…お察し?』』

『クスッ!
ご主人さま、日ごろの行いがいいもん。
きっと、これからは大丈夫だよー!』

「ありがとうっ」

主人が巨大ヒツジを乗りまわして草原を蹂躙したことは、従魔たちの中では無問題らしい。

村に入る時の姿は、レナがローブ+造りの荒いシャツ+スカート。
スライムは主人の胸元に隠れることになった。
姿を消したリリーが、魔人族ハマルにヒト族風の[幻覚]をかけ続けることで、珍獣対策をする。

たとえ普通のヒツジに見えるよう魔物ハマルに[幻覚]をかけたとしても、モンスターと一緒にいるレナが「魔物使い」だとバレて騒がれたら困るし、ガララージュレ王国の近くに魔物使いが現れたと、あとで政府に勘付かれたくないのだ。

ハマルの輝く白金の髪は、[幻覚]により真っ黒に染められた。
シャツとズボンを着用してもらい、裾をギリギリ引きずらない長さのローブを羽織ってもらう。
フードを被れば顔も隠せるだろう。

「ううー。首がスースーするよぅー」

「ごめんね、ハーくん。
また大きな街についたら、モコモコしたマフラーか何かを買ってあげるから。…少しの間だけ我慢してくれる?」

「はーい。レナ様ー」

黒髪ハマルは美幼児ではあるが、元の姿に比べたらだいぶ目立たなくなっている。

…久しぶりの人族との接触に緊張したのか、レナは喉をゴクリとならして、深く呼吸した。
自然に見えるよう気をつけながらゆっくりと歩き、ハマルと共に村へと向かう。

***

村の建物はほとんどが木造りの民家ばかりだった。
住民たちだけが利用しているらしいごく小さな商店が、4軒ほど隣に並んで立っている。
それぞれ、生鮮食品・衣類・日用品・農具を扱っているようだ。
商品のイラストの描かれた看板が店先に揺れていた。
全ての店が青空市場状態だが、生鮮食品店だけは日光により商品が痛まないよう対策しているのか、板で壁がつくられており影ができている。

村の門の前で軽く一礼したレナたちは、生鮮食品店へとまっすぐ向かう。
旅人の姿が珍しいのか、遊んでいた子供たちはローブ姿の2人を見て楽しそうにはしゃいでいた。

控えめな声で、店主のふくよかな女性に声をかけるレナ。

「こんにちは。
旅の者なのですが…調味料を見せて頂けないでしょうか?」

「あら!可愛い旅人さんだこと。保護者さんはどこかなー?」

まさかの、レナ本人がさっそく子供扱いされている。

「わ、私は成人しています…!」

小柄で童顔なご主人さまは、この世界ではそうとう幼く見られるようだ。
17歳女性はラナシュ世界では立派な成人なのだが…レナの年齢を聞いた店主さんは、信じられないという顔をしている。
まじまじとお客を見て、スライム虚乳(きょにゅう)に目をやりようやく納得してくれた。

▽レナは、心に 深い傷を負った…

リリーが、固まっている主人の肩をトントンと2回連続で叩く。
相手はこちらに悪い感情を持っていないよ、または、嘘をついてないよ、という合図である。
こうして悪意対策をしよう!と、先ほど皆で決めたのだ。

店主がジロジロとレナを見ていたのは、純粋に、一見子どもにしか見えない彼女を心配しての事なのだろう。
視線があまりにも無遠慮だったのは、普段、ほぼ家族同然の村民としか触れ合っていないからかもしれない。

「ええと…。
私たち、頼りなく見えるかもしれませんが、身を守る術は一応持っていますよ…?」

「…あら!
ごめんなさい。気を使わせちゃったわねー。
ムキムキのむさい旅人だったら、たまーに村にも来るんだけど…貴方たちはあんまりにも華奢だから。
おばちゃん心配しちゃったのよー。
どうか、許してくれるかい?」

「はい。気にしていませんよ」

「ありがとねっ!
えーと。調味料だったね」

レナが大人な対応を見せると、店主はやっと安心したのか笑顔になって、店の最奥から何やら大きな箱を持ってきてくれた。
調味料がまとめて収められているらしい。

「旅人さんだったら、多めに買いたいだろう?」

ちゃめっ気たっぷりにウインクをされる。どうやら、ストック分も売ってくれるようだ。

箱にみっちり詰められているガラスの容器には、それぞれカラフルな調味料が入っている。
ほとんどはサラサラした粒状のもの。
いくつかは、トロリとした液体の入った瓶もあった。

「ピンクの粒が砂糖。水色が塩だねー。
ちょっと高価なのになると…これは、火ネズミの火袋を精製した赤トゲカラシ。
液状のは、蜜アリが集めたチューレハニー!
蜜アリはその土地だけで咲く特別な花の蜜を好んで集めるから、チューレハニーはこの辺り限定の特産品だよ」

「すごーい!」
「…美味しそうなのー?」

「あら。そっちの子はやっと喋ったわねー。
また可愛らしい声だわぁ」

「んー。
お姉様の方がお喋り上手だから。ぜんぶ、お任せしてるんだー」

「ちょ…ハーくんっ……!?」

怪しまれないよう、ハマルには「レナ様」呼びを禁止していたのだが…予定していた「お姉ちゃん」ではなく、バッチリ「お姉様」と発言されている。
思わず顔を引きつらせるレナ。
聞く人が聞けば、彼女が特殊な目で見られそうな名称なのだ…。

お姉様(笑)は顔を青くさせていたが、さいわいにも店主の女性には「育ちがいいのね」と良心的にとらえられたらしい。カラカラと明るく笑っている。
ドギマギしていた胸を、主人はようやく撫で下ろす。

「…まあ、いくら防衛手段があるとは言え、こんな子たちが2人きりで旅だなんて、事情が無いわけないと思っていたけどねー。
お姉様とは、またずいぶん高貴な呼び方じゃないかい?
あ、深い事情は聞かないよ。
それに、ここに貴方たちが来たことも無闇(むやみ)に言わないから、安心なさいね。
ただこれからは気をつけなさい。
…悪どい奴らはいるもんだから、前にも事情持ちの旅人が村に来たことはあったんだ。
…弟分をしっかり守ってあげるんだよ、お姉ちゃんっ!
調味料の値段、おまけしとくから」

盛大にお察しされている。
バシン!と強めに背中を叩かれたレナは、冷や汗ダラダラ状態でなんとか笑ってお礼を言った。
オトナなのである。

どうやら店主は、人攫いなどの悪人から逃げてきた上流階級の子たちかも…?と想像したらしい。
まさに当たらずしも遠からず。
ダナツェラで捕まっていたら、レナとスライムは実際に売られていたのだ。

トントン、と肩が2回叩かれたので、店主は本当に今回の訪問を内緒にしておいてくれるのだろう。
丁寧に頭を下げる。

「お言葉、肝に銘じておきますっ…!割引も、ありがとうございます」

“事情もち”について、わざわざこちらから突っ込むことは避けた。

「頑張りなさいねー!」

言葉の足りないレナのお礼にも、お察し名人の店主は明るく笑って返してくれる。
本当に、今回はいい人に巡り会えたようだ。

良かったー…と、感動したレナが頬を染めている。
やたら彼女は感動しやすいように感じるが、それだけ、この世界でしんどい思いを沢山してきていた。

真剣に商品を吟味しはじめる。

「そうですねぇー。
まず、お砂糖を2瓶と、チューレハニーを1瓶下さい。
あとは…お塩の瓶を皆さんの生活に支障がないぶんだけ、全部譲ってほしいです!
お金はこれで足りますか?」

日本人なレナさんはお塩が大好きっ!
マジックバックに入れておけば、瓶同士がぶつかって割れる心配もないし、ストック用にも、と大量に注文していた。

気持ちを切り替えた彼女は笑顔で、店主に小さな銀の硬貨を1枚だけ差し出している。
今持っている全財産の1/5だった。
これを譲ってくれたルーカ先生によれば、銀貨5枚で宿にだいたい一週間泊まれるだけの価値があるとのこと。
ハマルをテイムしたことにより、宿なら最高のゴールデンベッド野宿で代用できるし、それよりも調味料が欲しい。

小さな村でこれだけの調味料がストックできているなら、値段の相場はそこまで高くないはず。
期待した目でレナは店主を見つめている。

…一方の店主はアゴが落ちんばかりに口を開いていた。えっ?

「…何してるのー!
こんな硬貨じゃ、普通の店ではまず買い物なんて出来ないよっ!?」

「ええっ!?」

怒られてしまった!しかし、この硬貨の何がダメなのだろうか。

「価値が高すぎるんだよ…!
…はあ。アンタたち、やっぱりそうとう上流階級の出身者だね…?
平民の店でこんなお高い硬貨をポンポン出してたら、怪しんでくれって言って回ってるようなもんだよ。
まったくもう。危なっかしくて、見てらんないねぇー…」

「ご、ごめんなさい」

どうやら、調味料のために差し出すには不相応な高い硬貨だったらしい。
先生の言う”宿”は、言わば、王都などの相場高めな宿を差していたのだ。
彼はそういった場所にしか泊まった経験がなかった。
首輪で常時縛られていたこともあり、平民の常識などはよく分かっていないのである。

レナはこの女性に市民相場を教えてもらえたからいいが…貴族常識しか持たないルーカ先生は、上手く街でやって行けてるだろうか?
まあ魔眼で思考を読んでいれば騙されたりはしなさそうだが。
だいぶマイペースな人なので、不安だ…。

そんな事をレナがぼんやり考えていると、言いすぎたと思ったのか、店主にすまなさそうに謝られる。

「大声で驚かせちゃって、こちらこそ悪かったよ。
…周りには気づかれてないね。
よし。
私が、ここで銀貨を細かい硬貨に両替してあげよう。
行商人と商品の取引をする時に、たまーにその硬貨を使うこともあるからね」

「!」

2回肩が叩かれたので、本当に良心からそう言ってくれているらしい。
それなら、不当にお金を盗られることもないだろう。
申し出をありがたく受けることに決めた。

「ご好意、感謝します…!」

いちいち疑っている現状に良心が痛むが、ここは異世界ラナシュだししょうがない。

「ただーし!条件はあるよ?
…アンタたちは危なっかしすぎるから、しばらく私の家で平民常識指導を受けていくこと!
これが受け入れられないって言うなら、いっそ、調味料も売ってあげないから」

「「えっ」」

…条件を付けられた!?

「乱暴なやり方だって分かってるけどね…。
こんな純粋そうな子たちに何かあったらと思うと、私もやりきれないんだよ。
お願い!
1日でいいから時間を作ってくれないかい。
それとも、その間だけでもここに留まるのはマズイ?」

「うっ」

…先を急いでいるのは本当である。
行き先のアテも予定も無いけれど、村に長居していてハマルに違和感を感じられたら困るし、調味料を手に入れたらすぐ発(た)つつもりだったのだ。

だけど申し出はとてもありがたいし、調味料が手に入らないのはすごく困る…。
まっすぐな店主の視線が、悩むレナを射抜き続けていた。
ハマルは「どーする?」と問いかけるようにのんびりとお姉様を見上げている。

「…い、一日だけなら。
一般常識を教えてもらえるのは、とてもありがたいですから。
ただ、明日の朝にはここを発(た)ちたいと思ってて…それでもいいでしょうか?
教えてもらう立場なのに時間まで指定してしまって、すみません」

「そうかい、良かったよー…!
こっちが言い出したことだから、そんなに頭を下げないでね?
うーん。
お姉ちゃんの丁寧すぎる言葉遣いも、すこし直した方がいいなー。
朝には発(た)つんだね。分かったよ。
この村には宿はないから、ウチに泊まっていきなさい。
なに。もう主人を亡くしているから家には私と子ども2人しかいないし、部屋に余裕もあるからさ!
余計な詮索はしないよう、子どもにも口止めしておくよ」

「…何から何まで、配慮してくださって助かりますー…!」

「あははっ!
お客さんには満足して帰ってもらうのが、商売人の喜びってね。
ま、今回は完全に私の自己満足なわけだけど。
店はしまいにするから、家までついておいで」

「はいっ」
「はーい」

レナとハマルは、生鮮食品店の店主の家に一晩だけ泊まる事になった。
リリーとスライムには窮屈な思いをさせてしまうかもしれないが、一晩なのでガマンしてもらおう。

▽Next!一般常識を 学ぼう

 

 

 

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