199:夢組織の反撃2

精霊の魔力が夢組織のメンバーに巡り、それぞれの動き方が変わる。

ギルティアは千切られたツルの残骸に魔力を注ぎ、大量の蕾を芽吹かせた。
精霊の[鼓舞]とともに「おらああああ!」と叫び、急速成長させる。
赤と黒の花弁の、異様な|魂喰い花(ギルティア)が咲いた。

「スキル[花鑑定]……まったくの新種かよ!?」

パトリシアが驚愕の声をあげて、眉をしかめる。
新たな芽吹きにさすがに栄養を取られすぎたのか、もともと枯れかけていたギルティアの頭の葉がピキピキひび割れ始める。
樹人族の生命力の象徴なのに、今やみすぼらしい。

「その妙な力……なにか知らないけど、嫌な感じがする。
株の大元にも悪い影響与えてるみたいじゃん……? せっかくいい方向に[品種改良]しようと思ってたのにさ。私[魔改造]のスキルも持ってるからめちゃくちゃ得意だぜ? 頼ってみてよ」
「うるせぇ。もう体力じゃ勝てないから言葉で勧誘しようってか? 冗談じゃないな!
あたしたちは、あたしたちらしい道を生きるんだ!」

ギルティアが叫ぶ。

「水魔法[クリスタロスドーム]」
「スキル[氷結]」

「はあ? 関係ないね!!」

ロベルトたちが作りかけた氷の環境も、ツルの強烈な一撃で粉砕した。
しなやかにツルが蠢く。先ほどとは段違いの攻撃力だ。

「今のあたしには氷も寒さも効かないぜ? ざまーみろ!」

ギルティアがにいっと皮肉に口角を上げる。
(うぐ……っ)
しかし虚勢をはる裏では、心臓がジリジリ焦がされるような熱を自覚して焦っていた。
(良くない力……か、そうかもしれない。でも、質の悪いエネルギーですらやっと与えられた活路なんだ!!)

「スキル[|魂喰い(ソウルイーター)]!!」

ギルティアが全てを喰らい尽くそうとする。
心臓への負担が大きく、目の焦点がブレた。

(根こそぎ持っていかれる……ッ)

パトリシアたちの魔力が急激に底を尽きかける。
ふらついて尻餅をついたパトリシアの周辺には、植物の種が散らばった。
しかし手を伸ばす気力もない。

ギフトにより、意識を手放さなかったキサがはっと気づいて、種を水球で包んだ。

▽発芽!!
▽超速ホワイトマッチョマン!!
▽スーパーシャイニング!!!!!

マッチョマンの清らかな生命力をもりもりもりもり吸い込んでしまい、うぷ、とギルティアが口元を抑える。
そしてやっと視界のブレが収まり、子どもたちまでぐったりしていることを理解して、青ざめてスキルへの集中を切った。

今回は、マルクの「ギルティアが生気を吸い取りすぎたら、意識を失う」ストッパーが発動する予兆が一切なかった。
ギルティアが精霊魔力で変質したためである。
(うそ……仲間を殺してたかもしれない。これまで以上に気を付けないと……!)
恐ろしさに、ギルティアが小刻みに震えた。

「た、助かったぁ……ありがと、キサ」
「まだまだ油断できないな」

さすがにロベルトも顔が真っ白だ。
極限に耐える訓練をしていなければ気絶していただろう。荒い息を整える。

「……この氷の世界でも砂漠の植物が動けるなんてたいしたもんだと思うよ、えーと、ギルティア。でもさ、私だってそういう可能性を秘めた植物の種を持ってるわけで。仲間もいるわけで!」

ここぞとパトリシアがどどんと構える。

「奪え!! 壊せ!!」

ギルティアの指示でツルが蠢くが、最後の子どもはロベルトに捕まって首輪をつけられた。
戦闘経験が段違いなのだ。
気持ちの切り替えも、動き方も上手。

ギリギリとギルティアが歯噛みする。

「あいにくとこの氷塊上の移動も得意分野なのでな」
「発芽!」
「[|氷の槍(アイスジャベリン)]!」

「[|棘棘(トゲトゲ)]ー!!」

氷を砕くように、ギルティアの棘棘のツルががむしゃらに打ち下ろされた。

白炎に包まれたイラの、鏡色の影が溶けていく……。
もう死んでしまうか、と目を細めたレグルスの前で、しかし驚くような変貌を遂げた。

鏡色が変色していく。
溶けて消え去るわけでもなく、黒く炭のようになるわけでもなく……妙な生々しさをもった赤黒い色が、白炎の向こうに浮かび上がった。

(なんだ……!?)

レグルスは、懐に庇っていたオズワルドを慎重に解放する。

「レグルス……?」
「今一度、戦闘体制になれ、オズワルド。……あいつは虫系統の魔物だ、おそらく変態している」

オズワルドは耳を伏せたが落ち着いて頷き、レグルスの横に並んだ。
ミディに声をかけて、気遣う余裕も見せている。

(たしかに魔王様の息子の器だ)とレグルスが感心した。(……いや、自分で努力して成長したんだ)と思い直し、ポンと一度オズワルドの頭に手を置いた。

イラに庇われた子どもたちは、白炎の変化を唖然と眺めていて、動きだす様子はない。

「ーー[|鬼化(オーガブースト)]」

白炎の中から小さな掠れた声がした。

レグルスとオズワルドが感覚を研ぎ澄ませて、イラの動向に集中する。

反射鏡が溶けきると、白炎が勢力を弱めて、鎮火する。

「イラぁ!? なにその姿……!」

子どもが叫んだ。

繊細な鏡色の少年だったイラ。
今や、恐ろしい鬼の紋様が全身に浮かび上がり、柔らかな印象の顔を禍々しいほどに変貌させていた。
額のツノがぐんと長く伸びている。
白目が黒くなり、瞳孔は赤く、口を開けば牙がのぞいた。

彼から吐き出されたのは、怨嗟の声ではなく、緩やかなため息。

「……よかった。まだ、おれには仲間を助けてやれる力が残ってた……」

鬼化しようとも、信念は見失っていないようだ。
じわっと、庇われた子どもたちの目に涙がにじむ。

「「イラーー!」」
「……二人とも、下がっていてね。おれ、まだこの力を使いなれていないから、どうなるのか分からない。まずラズ兄と合流して、逃げて」

子どもたちは躊躇う。

「あとでもう一人も助けるつもりだから、早くっ!!」

イラは言い捨てると、獣の俊足で向かってくるレグルスとオズワルドに一人きりで対峙した。

(さっき、頭の中で祝福の鐘が鳴った。まだ倒されない)

イラにも攻撃手段が生まれていた。

「[怨嗟の糸]」

イラの指先から赤黒い糸が放出されて、ふわりふわりと周りを縦横無尽にたゆたう。
あまりに異様な蜘蛛糸である。

レグルスとオズワルドは(触れるのは危険)と考えて、まず、燃やそうとした。

「「炎魔法[オーバーフレイム]」」

糸は燃えて、細かな毒の灰となる。
敏感な獣の目と鼻を刺激した。

「ンッ!? スキル[|重力操作(グラヴィティ)]」

足元に毒の灰が溜まった。
オズワルドたちの動きを一時的に止める。走ればまた毒が舞ってしまうだろう。

イラが振り返り大声をあげる。

「何してる、動け!!」

子ども二人は震えながら魔道具を使い、戦線離脱した。

「ちっ、逃したか。……まあ、あちらにはルーカたちがいるからな。望ましい結果となるだろう」

「ミディ、足元を洗い流してくれ」
『オッケーナノヨー!』

ミディの水が、毒の灰をまとめて洗い流した。
大きな揺れで、部屋の壁が一部崩れていたので、その穴に水を流し入れてお掃除。

この会話の間に、蜘蛛糸はするりするりとオズワルドたちに付着した。
締め付けるわけではないが、粘ついていて、服に染み渡ると、肌を這いずるように痕をつけていく。

「しまった……! くっ、ヒリヒリするな。それに毒のせいか気分が悪い」
『ヤァー!? マズくなっちゃうぅー! もー! 何するのー! 食材魔物は味が命ナノヨー!?』
「俺には毒が効かないから前線はまかせろ」

レグルスが前に立った。

(あの[|鬼化(オーガブースト)]は……おそらく瀕死になると能力が倍増する種族スキル。また白炎で鏡蜘蛛を包んだ場合、力が増す可能性すらある……敵は命をかけて挑んできているんだから、ギリギリまで我慢して死に物狂いで反撃してくるだろう)

たらりと頬を汗が伝った。

(攻め方に悩むが……持久戦がいいはず。あの無理な強化は長持ちしない、倒れるまで翻弄する! これでいく)

レグルスが素早く走る。
イラは赤黒い糸を手繰り寄せながら、ギラリと目に覚悟の火を灯した。

(何かがおかしい……?)

ラズトルファを見下ろしながら、ルーカが猫耳をひくひく神経質に揺らす。
悪運に見舞われる前兆のような、とても嫌な予感がしていた。
鼻をすんっと鳴らす。

[感覚共有]の瞳でレナと光景を共有して……あちらの事情を把握。頷きを一つ。
紫眼を細めて、ラズトルファのステータスを覗き視る。

(レベルアップと精霊による強制能力補正……! うん、これは油断ならない)

たとえ首輪をつけていてもね……と、ルーカはラズトルファの首元を見る。
従属の首輪が、喉を締め付けていた。

ラズトルファはぼんやりした意識の中、脳内に祝福の鐘を聞いた。
頭がスッキリしていく。
精霊魔力が身体にめぐった。
これは通常の魔力とはあまりに性質が違うため、首輪に吸い取られなかった。

冷や汗で前髪を肌に張り付かせながら、ラズトルファはにやりと口角を上げて、ルーカを睨むように見上げる。

「なァ、赤の宣教師とやら。視えてるんだろ。この展開は予測できていたのか? 導きの予定に含まれていたのかよ!? 俺たちは、希望を掴んだぜ」
「予定にはなかったけれど、乗り越えたらいいだけだから」
「ふーん……。じゃあ、これは!?」
「!」

部屋の隅の空間が歪んでいる。
(誰かが合流しに来たみたいだ)
ラズトルファは、イラかギルティアだと予想したが、そこからは、子ども二人だけがぽいっと投げ出された。
驚いたが、ルーカがそちらに気を取られたので目を細める。

「うわっ! なになに、追加参戦!?」

シュシュが「押忍!」と構える。

ラズトルファはなんとか手を動かして首輪に触れた。

「天使族の魔法なんざで、囚われてたまるかよ……!」
(しまっ……!?)

ルーカが急いでラズトルファの腕を押さえたが、予定外の魔力を注がれた首輪は、効力を半分以上失ってしまった。
(こんな芸当ができたのか!? 天使族系統から意図的に魔力を注がれると、この首輪の魔法は効力を失う。天空の里にいたことがあるらしいからね……このような性質だと、知っていた?)

「フン」

舌打ちしたラズトルファがぐいと頭を少し上げて、ルーカに顔を近づけた。
(今の首輪の制約くらいじゃ、それなりに動けてしまうみたい)とルーカが悔しがる。

ラズトルファの作戦を確認しようと脳内覗いて……固まる。
過去の恋愛記憶が……アハーーーン♡

「ーー淫魔を押し倒したりして、どうなるか分かってんの? さっきあんだけ弱点曝け出しといてさぁ」

ラズトルファの姿が揺らめいた。
[幻覚]スキル。
目は丸みを帯びて口元には優雅な笑み、とても女性的らしい容姿に変わった。
ピンクの髪の色が赤、紫、青、緑、黄色………と変化していって、

「ここか!」

輝くような黄金となった。
青ざめるルーカの反応を観察して、手応えを感じる。

これまで磨いてきた技術をフル活用して、恋愛恐怖症のルーカがとても嫌がるような、妖艶で媚びた笑みを浮かべてみせた。

「こーいうのが|嫌い(スキ)なんだ?」

リップ音を聞いたルーカはぞわぞわぁ! と尻尾の毛を逆だたせて、肌には蕁麻疹が浮かんだ。

ラズトルファは、今使える魔力を総動員!!

「スキル[夢枷]!」

目の前の妖艶な金髪美人がシェラトニカと王妃を連想させ、首輪がトラウマをえぐり、確実に心を傷つけた。
そこから逃げて甘い夢にとらわれていい、と[夢枷]で気絶を誘う。

レナと[感覚共有]して慈愛に包まれているルーカの心は負けなかったが、あまりの負荷に一瞬だけ意識が途切れてしまった。

「うらあっ!」

ラズトルファがルーカを突き飛ばすように起き上がる。脚で蹴って遠ざける。

「スキル[エンジェルヒーリング]」

距離をとりつつ、回復。
首元を重点的に。

天使族の魔力を注入され続けた首輪は、壊れる。

(あいつらが、自分たちの保身を考えず全種族に平等な魔法をかけるわけがないだろ! 天使族だけはこの首輪を壊せるようになってんだよ)

「ざまーみろ! スキル[光の矢]……」
「オラアアアア!! [スピン・キック]ぅぅ!」
「はあ!?」

▽シュシュが飛びかかってきた!
▽光の矢を 蹴破った!

ラズトルファはあわてて避けたが、シュシュが首に腕を回してラリアット。

「ぐえっ!?」
「そ・の・す・が・た・やめてよね!」

ぎりぎりと首絞めをくらって、ラズトルファの集中がついに途切れて[幻覚]が解除される。

「よし」
「うるせー!」

天使の翼とコウモリのような膜が合わさった翼をばさっと広げて、ラズトルファはシュシュを吹き飛ばす。
シュシュは[自由の翼]で抵抗、体勢を整えた。

「あのねー! ひとの心を傷つけて弱らせて攻撃するの、戦略のひとつだと思うよ、生き残るための手段にする種族もいる。
でもシュシュは好まない! 仲間が痛めつけられるのは絶対にいやッ!!」

翼を輝かせて主張するシュシュに対して、ラズトルファの翼は赤黒い魔力を帯び始めた。
瞳は剣呑になる。

「あっそ。俺はお前みたいなタイプ、大嫌いだから!!」

ここでやっと、転移してきた子どもたちがラズトルファに縋り付いた。
彼らは魂が黒いゴースト種族、よって、天使族の輝きをまとうラズトルファになかなか近寄れなかったのだ。

「ラズ兄ーー! イラがね、死にそうなの……!」
「助けてぇっ!」

「は? イラが!? ……分かった、こいつら片付けて向かうぞ。お前らも体力戻ってきてるだろ? 手伝え」
「「うん!!」」

ルーカがぷるぷる頭を振る。

「ごめんね、シュシュ。この落とし前はこれからの働きで返すから……期待していて」
「うん、ルーカ! 貴方は今とっても幸せなんだから、過去を引きずらずに、ちゃんと立ち直れるって信じてるよ。押忍! ご主人様、最高ーー!」
「そうだね……ありがとう。赤の女王様万歳ーー!」

鞭はレナに渡してしまったので、ルーカは代わりに魔剣を手にした。
ガララージュレ王国の宝物庫から持ってきた物だが、今では柄に赤のリボンを巻きレナパーティカラーに染まっている。

(僕の過去も現在も、きっとこれからも、赤き栄光とともに!)

「さあ、導いてあげましょうっ!」

「引導を渡してやるよ、宣教師!」

モスラの目の前で、イヴァンが蘇った。

(最悪の気分です)

モスラが歯を強く噛みしめると、ギィィと異質な音がした。
噛む力も肉体も強靭な証である。

イヴァンが隠し持っていた「爆弾(ボム)」がモスラを弾き飛ばし、その隙に起き上がったのだ。
肩の肉が少し弾け飛んだが、そこはもともと融合した死肉だったため問題なく治せた。

立ち直ったイヴァンは相変わらず落ち着いていて、いっそうモスラが怒りを募らせる。

「[シャドウ・ホール]」

マルクと同じタイミングで結界を張った。
そうしないと、今後は効果が二割減ってしまうのだ。
そうなれば、モスラの拳でいとも容易く破壊されてしまう強度といえる。

<モスラさーん! マスターからの情報です。ナイトメアとイヴァンは仮死状態から復活して[クオーターリッチ]と変化致しました。もはやヒト族では御座いません>
(……! 厄介そうですね。しかしアンデッドならば尚更、銀のナイフが効くのでは?)
<そのはずですよねぇ? 心臓の位置を貫いたのに、なぜでしょう……グルニカ様が嘘を言う理由はないしー>

モスラが睨む中、イヴァンは胸の中央にざっくり刺さったナイフを掴んで、容赦なく引きずり出す。

「実に、たまらないな……ッ」

痛みにゾクゾク震えて愉しんでいる。

モスラが最低のゴミを見る目でイヴァンを眺めた。
視界が不愉快だが、行動を把握するために観察していなければならない。苦行である。

ナイフをぽいぽいっと捨てるイヴァン。

「あいにく心臓の位置は移動させている。体のどことは言わないが、これだけ教えておいてやろう」
「……っそうですか」
「なぜ、とは聞かないのか?」
「会話する時間が無駄ですので。」
(どうせ気まぐれなのでしょう)

「しょうがない、俺から告げよう。紅い瞳で射殺さんばかりに全身を眺められる……とてつもなく快感だと!」
(最ッッッッッ悪!!)

モスラが思わず、喉から低い獣のような唸り声を漏らした。

別にそれは好まないな、などとイヴァンは言っているので、”レナ様カラーの瞳で””嫌悪たっぷりに睨まれたい”という合わせ技の嗜好だったらしい。

ご主人様過激派信者のモスラとキラがとても静かな殺気を覚えた。
けして外には出さない。
変態が悦ぶだけなので。

結界の中でイヴァンが息を吸い込む。

「させません!」

モスラが弾丸のように駆け出す。
そして足場が崩れた。

「…………ッ!?」
「ああ、そうだ。俺は運が悪いので、屋敷倒壊の影響をとても受けやすいと言えるだろう」

結界に包まれたイヴァンと、モスラが瓦礫とともに下の階の一室に落ちた。
落ちながらイヴァンは短めの晶文を唱える。

モスラが顔を険しくしかめた。
拳の一撃ではイヴァンを包むこの結界を破れないだろう。

ーーであれば、結界ごとぶっ飛ばすまで。

「ふッッ!」

▽モスラの 右ストレート!
イヴァンが結界の中でシェイクされる。

もう一階下に落ち込む。最下層だ。

(……なんだ? ここは)
モスラはたくさんの粘つくような視線を感じた。
この場には誰もいないというのに。

(キラ先輩……何か分かりますか?)
<あちら側に使役されている精霊が、この屋敷で焼け死んだ従者たちの名前を呼んだのです……。この異様な空気は、元主人を慕っている死霊のものと推測できます>
(……不穏ですね。死霊術師(ネクロマンサー)がこの状況を利用しないはずがない)

全身を複雑骨折していたイヴァンが劇薬を食べ、気が狂うほどの痛みとともに回復。

なおこの痛みはマルクも半分経験したのでとんだとばっちりであった。
うっとりと痛みに酔いしれながらも、イヴァンの口の動きはなめらかだ。

「スキル[|融合遊戯(キメラメイク)・アンデッド]」

最下層の床に黒い靄がにじむ。
どろりと人の形になった。
靄に、屋敷の灰が混ざっていく……悲劇の実体化。

「ざっと50人、それに魔物の灰もあった。大規模な集団だったのだな。ふむ、まあ役に立ちそうだ……」

イヴァンが杖を振り、人型を融合させかけ、途中でやめて元に戻す。

「そうだ、アンデッドの人数は多いほうがいいと言われていたな。精霊は信者が多いほどに力を増すのだから、と。失念していた」

ピシィン!! と上階で鋭い鞭の音が響くのを、モスラとイヴァンが聞いた。
ぐわんと屋敷中に広がるような異様な少女の声で、

『スキル[鼓舞]!!』

二度目の、血を吐くような絶叫。

お屋敷が揺れる。
そしてモスラの目の前のイヴァンは、赤黒い精霊魔力を纏った。

「心臓が燃やされるような痛覚、ああ、実に新鮮でいい……ッ!」

昂ぶる変態をモスラは出来る限りスルー。

(キラ先輩。あの蘇らされたアンデッドは言わば術者の配下、復讐の範囲に入りますか?)
<ラナシュネットワークに接続中……接続中……入りません!>
(承知いたしました)

「スキル[風斬]!!」

最下層にナイフのような風が吹き荒れる。
アンデッドたちはズタズタに切り裂かれた。しかし灰と靄に分かれたあと、また人型を再形成した。
イヴァンがスキルを再使用する必要もないようだ。そうなると魔力を削ることもできない。モスラの方が損である。

「くっ……!」
<そんなに自分を不甲斐なく思わないで、モスラさん。相性ですから。
それに、アンデッドを一掃したことで一時的に精霊の動きが止まって、その隙にマスターたちが反撃しましたから! えらい! 凄いんですよ〜!>
(ありがとうございます)

キラに励まされて、モスラは俄然やる気を取り戻したようだ。

「今度はこちらから行くぞ」

ゴーストとも見まごうアンデッドたちがイヴァンを守るように前に出る。

(警戒すべきは、毒や精神干渉、アンデッドを盾にしつつのイヴァンの遠隔攻撃などでしょう……それに、術者の[復讐]と精霊の[鼓舞]の強化)

モスラが瞬時に計算する。
この手強い敵をどうするか。

「従魔で執事、|完璧な(パーフェクト)モスラ事、従魔レッド!!」

モスラがいきなり口上を高らかに話した。
奇策は得意なのだ。
にっこりと微笑み、薔薇のオーラを纏う。

「レナ様が大切に慈しんで育てた従魔の一撃。受けてみたいと思いませんか?」

マゾヒスト魂に電撃が走った!!!!!!!!

反撃を企んでいたイヴァンの動きが、ピタリと止まる。
手の火傷跡がチリチリと甘い熱を持ち、被虐的な欲望に思考を支配されてしまう。

ーーそれは、きっと、とてもキモチイイ。

「まさか、レナ女王様の尊い制裁を[復讐]に使用しようだなんて致しませんよね?」

マゾヒストへのダメ押しをしてから。
モスラは紅色の瞳を見せつけるように見開いて、正面からダッシュ!!

「あーっと、アンデッドを攻撃しようとしたらすり抜けてしまうだなんて運が悪くて辛いですね〜ッ」
「判定、モスラさんのおっちょこちょい!」

ノーガードの相手に、全力のアッパーをぶちかました。

手を広げてまでご褒美を受け止めたイヴァンは、満足げな微笑のまま上の階の天井に突き刺さった。

ナイトメアのマルクは、半身であるイヴァンの助力と暴走により大混乱中。
各場所で、実にカオスな戦闘が繰り広げられていく。

 

 

 

 

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