195:VSラズトルファ

<こちらは白淫魔ラズトルファのお部屋。
あららー……ルーカティアスさんは足を負傷。原因は小石。んもぅ! 困りましたね。マスター・レナが側にいないので悪運がやってきているようです。
頑張れ、幸運カーバンクルのシュシュさーん!>

キラの脳内ナレーションにより、ルーカの腹筋にもダメージが入った。散々である。

▽シュシュは 残念なものを見る目で ルーカを眺めている。

「大丈夫! こうしちゃえば」

ルーカは半獣人姿になった。獣の足になり、ブーツを脱がなくても小石に悩まされなくなった。根本原因を解決……たぶん……した。

「ご主人様が揃えてくれた赤の衣装ぉ……」

シュシュはジト目でルーカを眺めている。

「ごめんなさい」

「早くここを制覇して、ゆっくりとブーツの小石を取ったらいいよね!」

シュシュは「押忍!」と拳を振り上げた。

怪訝な顔をしていたラズトルファが、スッと表情を消した。
そして華やかな笑顔になる。

「ん?」

シュシュが警戒する。

「肩の力を抜いてよ。可愛いお嬢さん」

ラズトルファがそう言うと、シュシュは心地よい脱力感を感じる。
(なに?)
ラズトルファが手を軽く上げて、ゆっくりと歩み寄ってきた。
一気に距離を詰める!

翼を大きく広げてシュシュと自分を包み、二人だけの世界を作り出した。
簡単に詰め寄られて、腰に手を回されたシュシュが驚愕する。
至近距離でラズトルファはシュシュに囁きかけた。

(ーーなるほど。白淫魔の[誘惑][魅了]ね。それに称号各種をつけて、シュシュをたぶらかそうとしているのか)

ルーカが冷静に観察する。
足が縫い付けられていて動けないのだ。
[影縛り]だな、と昔を思い出しながら確認した。
この魔法を操っているのはメデュリ・アイ。

夢組織はルーカを足止めしてまずシュシュを口説く作戦らしいので、まあ物理攻撃ではないならと、見守ることにした。

その間にじっくりと子どものステータスを視ていく。
子どもたちはルーカが仕方なく動かずにいるのだと思っている。

「君はとても可愛らしくて、目が釘付けになった」

ラズトルファが甘く言って、シュシュと目を合わせる。
異性を恋に落とすの効果がある、のだが……あまり手応えを感じられない。
シュシュの登場シーンを思い出し(恋愛体質じゃない女の子の場合、魅了が効きにくいんだよな)と内心で舌打ちした。
(それならさらに言葉を重ねて口説くまで)

「あどけない表情で見られていると胸が高鳴る。怖く思っているのか、眉をしかめているけれど素直なところも魅力的。その不安を他ならぬ俺が取り除きたい。どうか心を預けてみせて……」

眺めていたルーカの顔色が悪くなっていく。
甘ったるい口説き文句が恋愛恐怖症ルーカへのメンタルダメージとなったのだ。

「桃色の柔らかい髪に白の肌、うっとりするような苺色の瞳」

(ご主人様が与えてくれたシュシュの容姿!)

「なんて可愛らしいんだろう」

(知ってる! シュシュは可愛い! 完全同意だよ!)

シュシュの顔がぱあっと明るくなったので、ラズトルファが手応えを感じた。
先ほどとは別のダメージがルーカに蓄積されていって、口元を押さえてぷるぷる震え始める。

「君のような可憐な存在をただの戦いの道具にしようとしているだなんて。魔物使いの主人は酷い奴だよね」

「ご主人様はこの世の最高にして至高。何を言っているの……?」

シュシュの目がスッと暗くなり、ドス黒いヤンデレオーラが溢れ出す。
ラズトルファが(くそっ[魅了]が効かなかった!)失敗を悟った時には、

「スキル[衝撃覇]ぁ!!」

腹に重い一撃をくらっていた!
数メートルふっ飛ぶ。
シュシュの怒りは収まらない。

「ご主人様の素晴らしいところを教えてあげる。
朝起きてとろんとしている表情をご主人様の腕の中から見上げる瞬間は従魔の幸福。ご主人様のぬくもりは優しい太陽の如し、花園のようないい香りを纏って、黒真珠の瞳と髪は従魔たちが一番好きな色なの可憐な鈴を転がしたような声で名前を呼ばれたら生まれてきた喜びを実感するほど高まるほんと好き大好き耳から震えちゃうご主人様の歩く姿は自然に目で追ってしまうほど軽やかで美しくその後に覇道ができあがるのご主人様の後にってところがポイント彼女の意思で伝説が始まるそんな魔物使いの従魔になれただなんて幸運でたまらなくてしびれちゃう」

晶文呪文のような長ーーい好意を息もつかず紡ぎ続けるシュシュに、ルーカが待ったをかけた。

「戦闘に集中しようね?」

「そうだった。みんな悔い改めたらいい!! 光魔法[|聖(ホーリー)・ジャッジメント]!」

「ちょっっっ」

作戦も何もあったもんじゃない! とルーカが天を仰ぐ。
シュシュから発される光がまぶしくて、全員が腕で目を庇った。
光が収まると、ルーカの[影縛り]が解けている。

(あ。自由に動ける。そうか、強い光で影がかき消されたんだね)

ちらりと子どもを横目で見ると、涙を流していた。
心が痛くなる。

(この子はサイクロプス。巨大さを誇る種族の中で比較的小柄だったためずっと笑われいじめられていた。その幼少期がトラウマで、一人旅を始めてからも誰かを心から信用することができずに孤独に生きてきた。

この子はスケルトンホース。死んだ悪人の怨念が、飼っていた馬に乗り移って魔物となった。元主人の記憶と内側から湧いてくる怨嗟の声に苦しめられている。

この子はメデュリ・アイ。過去の恋愛で、好きになった人を石に変えてしまうことが数回。どうやらかなり運が悪いらしい。恋人を失い続けることに絶望し、自分がメデュリ・アイであることを嫌だと思っている)

ルーカにはすべて視えてしまう。

(その者の人生を背負う覚悟もないまま、一番覗かれたくない部分を探る……失礼なこととは思ってるけど。敵として現れた以上、思考や能力をリサーチしておく必要があるんだよね)

ふっきれたルーカは強い。
[影縛り]は慣れているから、この子どもたちのものなら今後も問題なく抜け出せそうだ、とシェラトニカの技量と比較した。
猫耳が伏せたので、ふるふると頭を振って気持ちを切り替えた。

気になったのは、ラズトルファたちは魂が黒いわけではないということ。
その種族の特性にあわせて生きていれば、世界の判定は白かグレーとなる。

(難しい問題だよね)と小さなため息。
<全くでございます!>脳内でキラが同意した。

「ッッあーーーーー! 嫌なこと思い出した! 最悪の気分。悪いけどそこの女の子、もう甘く勧誘はしてあげられない」

「上等!!」

顔色が悪いラズトルファの睨みを、シュシュはまっすぐに見つめ返す。

(魂がグレーだからかな。すぐに何もかも改心とはいかなかったけど、子どもたちはみんな自分を見つめ直して迷いが生まれている)

ルーカは一人頷いた。

「シュシュ。白淫魔ラズトルファは精神干渉が得意だよ」

「了解。スキル[自由の翼]ァ!!」

シュシュがおたけびとともに魔力解放、バサァ! と光の翼を生やした。
ラズトルファが唖然と「天使族……?」と呟く。

「ほんっと、最悪で最低な気分だ」

「そのひねくれた性根、正してみせる! 押忍! 正々堂々シュシュと勝負だよ!」

(ねぇ作戦はーー!?)

ラズトルファに飛びかかっていくシュシュの後ろ姿を見ながら(まあ臨機応変にやろう……)とルーカは諦めた。

ラズトルファは青い髪の子どもを呼んで対応する。

「俺はひねくれた性根? そーだけど? その通りに動くさ。御愁傷様」

一対一を簡単に覆されたシュシュが唇をへの字にする。
(不満!!)

「天使族なら攻撃力はそう高くない。回復能力が尽きるまで、叩き潰せ!」

『うん……!』

サイクロプスが大きく腕を上げた。小柄とはいえ三メートルはある。
シュシュのような可憐な女の子を攻撃するのは抵抗があるらしく、全力が出し切れていない。
先ほどの[|聖(ホーリー)・ジャッジメント]も効いている。

「できない……」

涙を流して腕を下ろした。
誰かに嫌われることが彼のトラウマだ。シュシュのまっすぐな瞳に射抜かれて震えている。

(ちッ! こいつはまだ仲間になったばかりだからブレやすいな)

「じゃあガードでいい」

ラズトルファがそう言うと、サイクロプスはホッとしたように腕をクロスさせた。
シュシュの蹴りをただ受け続ける。
強靭な肉体を持つサイクロプスは倒れない。
傷はラズトルファが癒した。

(攻撃こそ最大の防御っていうんだけど。まあ本人の意思だ、盾を任せている間に俺が仕留める!)

「スキル[光の弓]」

ラズトルファがシュシュに矢を向けた。
放つ!

「光魔法[サンクチュアリ]」

「なに!?」

ほとんどの結界を通り抜けるはずの、天使族の[光の弓]が弾かれた。
ラズトルファがルーカを睨む。

「サポートは僕も得意なんだよね。それに攻撃も得意。[器用裕福]だからさ」

空間全体に雷が轟いた。
魔人族の間を縫うようにイナズマが走り、光で目を焼いて、罠を壊し尽くす。

「きゃあ!」

もっとも痛がったのはメデュリ・アイの女の子だ。
第三の目をぎゅっと押さえている。

獣人の瞬発力を生かしてルーカが駆ける!

『させない!』

スケルトンホースが[ロックオン]スキルでルーカを捉えた。

『でも対象が急に小さくなったら?』
<判定勝ちで御座いますね!>

ルーカが消えた。

『え!?』

振り回した骨のしっぽの下から、小さな子猫が顔を出し、また半獣人となる。

『しまっ……』
「スキル[雷剣]」

後ろに下がって子どもが安全距離を確保したが、ルーカは魔剣を抜いて間合いを詰めた。
雷はスケルトンの関節を焼き、動きを鈍くする。
しっぽを切り落とした。

噛みつき攻撃をひらりとかわして、後ろから首にアクセサリーを押し当てる。
従属の首輪が発動した。

(うえ。やっぱりこの魔道具って気分が悪いけど、君たちの未来がドン底なわけじゃない……頑張ってね)

魔人族の姿に戻ってぐったり倒れた子どもをルーカは[サンクチュアリ]でおおった。
究極の[|浄化(パージ)]を施す聖結界の中で、魂がグレーの子どもはうめき声をあげる。

「スキル[瞬発]……次。早く終わらせよう」

ルーカがまた駆ける。
シュシュに手を伸ばそうとしたサイクロプスを[感電]させ、一時的に動きを止めてサポート。[厚い皮膚]でダメージは少なかったが、シュシュのチャンスとなった。
[スピン・キック]を繰り出す。
バランスを崩したところで小さな兎型になり、口にくわえていたアクセサリーを首に押し当てた。先ほどのルーカの真似をしたのだ。
シュシュが人型に戻ってラズトルファに拳を突き出してみせて、ラズトルファは顔をしかめた。

ルーカがメデュリ・アイの元に着く。

「スキル[感電]これで…………え?」

アクセサリーを首につけようと伸ばした手を強引に掴まれる。
というか捕まった。
嫌な予感がぞわぞわと肌を粟立たせて、ルーカが一瞬ピキンと固まる。

「かっこいぃぃぃ♡」

ザーッと顔が青ざめた。

<あちゃー……メデュリ・アイ氏の目がハートですねぇ……本当に女難というか……>

キラの脳内アナウンスがすごく厳しい。

「よし! 恋に落ちたメデュリ・アイはめちゃくちゃ強い。行け!! ヤレ!!」

▽ラズトルファ先生の恋愛戦術指南。
▽メデュリ・アイは興奮している!

「こんなに情熱的に求められたの初めて!」

業務的事情で首輪をつけようとしていただけだ。
しかし字面がどう足掻いても不穏になるのが申し訳ない。

「うわあああああッッ!?」

ルーカが手を振りほどく。
メデュリ・アイの目がギラギラと青緑色に輝き始めた。
今、彼女と相思相愛になると石化させられるだろう。そんな気がする。

「待って!!」

「是が非でも嫌だ!!」

ルーカが子猫になって[瞬発][雷の毛皮]で逃げる。

「可愛い!」

恋する乙女は本当に強かった。ネコミミヒト族だろうが子猫だろうが気に入った者の姿はとことん受け入れるのだろう。
片思いされた方はたまったものじゃない。

(なんとか首輪を取り付けたい、というか彼女が追ってこないように無力化したいー!)

切実である。
部屋の中で子猫が駆けながら、ルーカとキラは脳内作戦会議を始めた。

シュシュが[光の鎖]で絡め取られる。

「教えてみせてくれる? 俺たちを納得させられるような話」

ラズトルファは底が見えない目でシュシュを見つめた。

([自由の翼]の効果を理解してないのかな?)

もう[魅了]などは一切シュシュには効かない。
おそらくラズトルファは問いを投げかける余裕があると判断したのだろうが。
シュシュは……話してみることにした。

「誰かに助けてもらわなきゃ抜け出せないことがある。シュシュたちはその手助けをするつもり!」

「ここから抜け出せって? 抜け出した先は元通りどころか牢獄だろ。最悪の提案だ」

「あなたたちが真面目に奉仕作業に取り組めるなら政府が補助してくれるって」

「どう信じろっていうわけ?」

ラズトルファが馬鹿にしたようにため息をついた。

「ここにいるやつらは以前、政府にも種族仲間にも助けられなかった。捨てられた。だから互いに傷を癒しあってなんとか生きてる」

「よそに迷惑をかけながら?」

「かけてない。集ってるだけだ」

「かけてる! シュシュは……夢組織のナイトメアに誘われた。その時すごく苦しんだ。仲間にも迷惑をかけちゃったよ……」

「来てしまえばよかったのに」

「そしたらシュシュを心配してくれた人たちを裏切らなきゃいけない。ひどく悲しませる!」

シュシュの声は力強い。

「みんなこの現実で生きてるの! 大地を歩いて日を浴びて、傷つくこともあるけど、それって現実で生きているからだ。夢を見てる自分にも体がある。体は現実にあって、絶え間なく呼吸をしている。夢の世界だけじゃ存在できない!
そしてその体を癒して支えてくれる、心配してくれる人を置いて行けるわけないじゃない!」

「それ、俺たちにとっての地雷だからな!?」

ラズトルファが心底嫌そうに言う。

「心配してくれる人がいなかった奴らによくそんな綺麗事を言えたもんだよ。ド下手」

「そんな人に出会いたいって夢を見ながら現実を生き抜くんじゃないのー!?」

シュシュの叫びは一瞬ラズトルファを震わせた。
”そんな人”を求めて様々な恋愛を経験しながらも、満たされずに、夢組織に逃げてきたことを痛く自覚させたのだ。

「もういい」

「言葉で理解できないなら拳で語り合うまで」

シュシュが「[衝撃覇]ァ!!」と気合を入れて足を踏みならし、光の鎖を粉砕した。
天使族にあるまじき荒技にラズトルファが顔を引きつらせる。
(蛮族かよ)

シュシュの拳を、ラズトルファの[ラファエルの加護盾]が受けとめた。

▽大乱闘!

主張を耳にしたメデュリ・アイは迷ったように足を鈍らせる。

(こんな風に、短絡的な恋愛結婚をいつまでも求めているから、心から心配してくれる運命の人に出会えていないのかなぁ……ううん、私が”恋人を石に変える可能性がある”メデュリ・アイだから避けられがちなだけよ……うん……)

「きゃっ!?」

▽キラの分身体が 足払い!
▽メデュリ・アイが 転んだ。
▽捕縛!

「よかった……本当によかった……」

とても嫌な汗をかいているルーカが、メデュリ・アイに一言声をかけた。

「魔王国にはメデュリ・アイの人もいるしさ。生き方に不安があるなら相談してもいいんじゃない?」

「……その人なら、恋愛の仕方を知っているのかしら」

捕まったメドゥリ・アイはまだルーカに若干の好意を抱いているようで、ルーカは熱い視線からバッッッと目を逸らしながら(リーカさんに恋人がいたって話は聞いたことないなぁ)とこっそり考えるのだった。
まあなんとかなる!
少なくとも今よりはマシだろう。

シュシュとラズトルファは戦いながら声を届けあっている。
ラズトルファも、心の底では救いを求めている、とシュシュは本能的に感じていた。

(今はこの組織にすがって、これからは……ということは意識的に考えないようにしている。そんな気がする)

「あのね! 苦しくて助かりたくて手を取って、でもそれが正解とは限らないんだ。相性が良くなかったり……お互いに不幸になったり。現実ってままならない。
そんな時には次に進む決断をしてもいい。
チャンスは一度じゃない。
シュシュは知ってる! だから貴方たちにも進むことを勧められるの!」

「べき、とか正解、とかそのところを俺たちは覆そうとしてるんだけど?」

▽ラズトルファの [光の槍]!
シュシュはかわした。

「覆して他の人の幸せは踏みにじって、それで自分が満たされるわけない!」

▽シュシュの [スピン・キック]!

「それこそやってみなきゃ分かんないだろ」

「信じてみるのが怖いから、とりあえず今あるものだけでなんとかしようとしてるだけ!」

「うるさいな!」

シュシュの翼がだんだんと光を失い始めた。
まだ使いこなせていないのだ。
ラズトルファがニヤリと笑い、シュシュに詰め寄る!

「そこまで」

大跳躍した半獣人のルーカがシュシュを攫った。
通り過ぎざまにラズトルファに目を合わせていく。

「あーーーッ……!」

ラズトルファは髪を掻きむしった。

「な、何したの?」

「[テレパシー]で過去の詳細とその時にどう動けば最善だったか、改善点をすべて押し付けてきた。[|聖(ホーリー)・ジャッジメント]の補足みたいなもの。
そこから未来に向けて学ぶか、開き直るかは、彼次第だ」

「えぐぅい……」

シュシュは久しぶりにルーカの闇を覗いた気がした。

「……天使族のこと、思い出させやがって。
お前らのことめっっっちゃくちゃ嫌いだ!
俺は天使族の後継候補として、淫魔と天使の交配で生まれた。双子だった。弟は狙い通りに優秀な天使族として族長への道を与えられて、俺は不要だからと魔王国に送られた。白淫魔なんてめんどくさい種族に生まれちまったから、どこでも馴染むことはできなかった。
全部、この世界に弄ばれたせいだろ……ッ!」

シュシュが目を丸くする。
天使族について不安を煽る、ラズトルファの思惑は正確に動いた。
ルーカが口を挟む。

「僕はどちらかといえばその弟さんの立場だった。
能力があるって判断されて……選ばれた。
でもそれって幸せとは限らないんだよね」

ルーカの目がギンっと病む。
それはもう病む。
紫の底が知れなくてラズトルファが気押されている。

ふう、とルーカのため息。
瞬きをしたらその暗さはなくなった。
瞳は黒紫色になった気がするが、先ほどよりも明るく見えて、ラズトルファは不思議に感じた。

メデュリ・アイが小さく悲鳴をあげる。
ルーカの過去を覗いてしまったのだ。

「どんっっっっっだけ不幸背負ってんのよー!?」

「視たとおりじゃない? まあそれ以外にも細々悪運はあるけどさ」

キラがルーカの情報遮断をこの時だけやめたので、メデュリ・アイは過去を知ることができたのだ。

「暗い過去を背負った超美青年……うっ……手を出しちゃだめと思いながらも、めちゃくちゃタイプ」

「ほら現在進行形でド悪運」

ルーカの目がまた病んだ。
鳥肌がたっている。
ラズトルファはこの情緒不安定な二人をどうしようか迷っている。

「えい!」

シュシュがポジティブキック!
ルーカのネガティブが吹っ飛ばされた。
ラズトルファは困惑している。

「ホラ、助けてくれる仲間がいるのは、最高についてると思うけどね? 僕の生い立ちの悲惨さと引き換えに手にした、極大幸運と言えるかも」

ルーカがそう言うので、ラズトルファが鼻で笑った。

「俺たちにとってはその大切な仲間がこの組織の奴らで?
お前はそれを壊滅させようとしてるわけで?
どの口が言ってんだよ!」

「このまま進んでゆるやかな崩壊を待つか!」

ルーカのいきなりの大声。

「それとも劇薬もとい赤の運命を受け入れて、全員で船を乗り換えるか!?」

▽ルーカ 説法の構え!

「称号[麗人][話題のイケメン][赤の宣教師][調教師]セット」

本気で改心させるつもりだ。
さらに遠くにいるレナはこの時、女王様シリーズの称号を総セットしているので、その効果の半分弱を受け取ったルーカが後光と覇気をまとう。もうしっちゃかめっちゃか。
オーダーメイド衣装と従属チョーカーの赤色が輝く。

にっこり美貌のスマイルで白淫魔ラズトルファでさえも一瞬魅了してみせて、目が釘付けになった時にシュシュが[暗躍]、(しまった!)と思った時にはシュシュがラズトルファの首にアクセサリーを押し当てようとしていた。
[光結界]で間一髪のガード、距離を取る。

「僕は、生きながら死んでいるような最低な幼少期を過ごしていたわけなんだけど。
ある時、従属の首輪が無効化される事件がおきたんだ。
僕がとった行動は……死んで人生を終わらせることじゃなくて、生きるために逃げ出すことだった。自分でも驚いたんだけど、あの時に死にたくないって考えたんだよ」

急な話だ、と夢組織の者たちはルーカの言葉に眉をひそめる。

「今思うと、それって、なにも大切なものがなかったからなのかなって。
自分以上に大切なものがなかったんだ。
今は違う。レナパーティの仲間が大切で大切で大切で……きっとみんなを守るためなら、僕は死ぬことを選ぶだろう」

「じゃあ、死ね!」

ラズトルファが言い放った。
頭にふと浮かんだのはイラの姿だ。

「悪いけど。もう僕一人の体でもないし、その願いは聞き届けられないんだよね」
<そうなんですよねー!>

キラが同意。
しゃらんらと赤い光でルーカを包む。
瞳の向こうにレナを感じながら、ルーカがくすりと笑った。

「まあ続きがあるから聞いて。
レナたちを生かすための交換条件なら、僕はよろこんで死ぬよ?
でも僕が死のうとするとレナは何が何でも助けにきちゃうだろうから、絶対に死ねないなーって思う。
ご主人様を守るために、僕は死ぬ気で、生きることになるんだろうなって。
僕が死ぬのは寿命を迎えた時までお預けだね。これからの人生がとても楽しみ」

ルーカが普通のネコミミヒト族姿に戻り、ブーツを脱いで小石をころんと出した。
子どもたちは捕縛済み、シュシュの監視があるラズトルファは動けないのだ。
再びブーツを履いたルーカは、ブーツの[駆け足]補正を生かして距離をつめる!

後ろにシュシュがいるラズトルファは前に進むしかない。
シュシュは「正々堂々勝負」が好きなので、ルーカとの一騎打ちを邪魔する気がないようだ。

ラズトルファが光の槍を手に勝負に出た。
ルーカは槍の弱点を正確に見抜いて雷で攻撃、槍を消滅させる。
体術でラズトルファを仰向けに転ばせ、キラが渡してよこした鞭で締めあげた。

「あとは君だけだよ。ラズトルファ。さあ……導いてあげましょう!」

女王様オーラをまとったルーカが友愛の微笑みを浮かべる。
まるで赤の女王様のような風格。

キラの赤のエフェクト!
シュシュが「キャーーご主人様の下位互換ーーもっとやってーー!」とわくわく応援している。

ルーカの手がラズトルファの首に伸びた。

 

 

 

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