194:VSイラ

「「炎魔法[オーバーフレイム]!」」

髪の毛先を白く染めたオズワルドとレグルスが床に炎を走らせる。
イラの[|鏡隠蔽(ミラージュ)]で隠されていた罠が現れた。
鏡が白炎により溶けたのだ。

「金属の足枷に仕込み槍。大したもんだな」

「獣が駆けたら罠で足を負傷していただろう」

オズワルドとレグルスが冷静に分析する。
その金属すらも白炎でどろりと溶けていた。

(どれだけ高温の炎だっていうの……!? あんなの、みたことない。おれ、他のみんなを守れるかな……鏡しか能力がないのに……)

鏡蜘蛛のイラがゴクリと喉を鳴らした。
自分の前に三人の子どもが立っている。
攻撃特化の子たちはイラを守る作戦なのだ。

(弱気になったっていいことない。それに瀕死になったら鬼蜘蛛血筋の復讐能力にも目覚めるかもしれない、ってメデュリ・アイの子が言ってたし……うん……どんな手を使ってでもここにいるみんなを守りたい。やる)

「みんな、いくよ!」

「「「はい!」」」

イラの声で子どもたちが動いた。
陽動だ。

相手の能力は炎、そして獣人らしい素早さ。
そしてミディの能力が不明である。ここを明らかにしたい。

(プルプル食感の食用魔物ミディアム・レア……? 意味がわからないよ)

イラの困惑もごもっとも。新種激レア魔物だ。

▽ミディは イカゲソを切り落とした。
▽白炎で炙って イカ焼きを作って遊んでいる。
▽イラははげしく困惑している。

「スキル[|鏡隠蔽(ミラージュ)]」

子どもたちのサポートをする。
一時的に姿を隠した。

「「炎魔法[オーバーフレイム]」」

広間が焦げるような熱気に包まれて、子どもたちの姿が炙り出される……2名!
あとの一人は[暗躍] している。
オズワルドとレグルスが素早く見渡すが、見つけられない。

「スキル[|重力操作(グラヴィティ)]」

オズワルドは自分の半径3メートルに重圧をかけた。

「うっ!?」

背後で悲鳴がした。
振り返ると砂色の髪の子どもがうずくまっている。
オズワルドに伸ばしかけた腕には毒針が生えていた。

(この系統……王宮で見たことがある。スコーピオン種族だ。おそらく亜種だろうな)

子どもは口の中でなにか言ったようだ。
獣人でも声を聞き取ることはできなかった。

(スキル[仕込み刃(やいば)])

子どもの体から鋭い刃が螺旋状に飛び出した!
触れようとしたら蠢く刃がオズワルドの手を切り落とすかもしれない。

「チッ」

オズワルドが警戒している。

「きゃああああカッティングミィーー!」

▽ミディが 飛び出した! 魔物化!
▽デリシャスクラーケンの ボディプレス!

[重力操作]によりドスンと重みが増したイカが、刃の間にみっちり挟まる。
切り込み入りのイカ状態。
レナがいたら「醤油を刷毛で塗って炙り焼きたい」と表現したかもしれない。

▽子どもは 身動きが取れず 目を白黒させている。

「……捕縛」

オズワルドが首にアクセサリーを押し当てた。
なんとも言えない初捕縛であった。

(こいつの能力は諜報部に向いてる。推薦するならそこだろう)

オズワルドが冷静に分析しながら、ぐったり脱力した子どもを壁際に置く。
さすがに丁寧に運んであげる余裕はないので腕を掴んで荒っぽく放った。

「ミディ。ダメージは大丈夫か?」

『このくらいならオッケーナノヨー。うふふ……ドキドキしちゃうネ……♡』

【☆4】[超再生]ギフトによりミディの切れ込みがきれいにふさがった。

(あの子! シーモンスターだったのか!)

イラが鋭く観察する。
そして捕縛された子を悲しげに見つめた。
できれば取り戻し、もしも奪われてしまったらせめてあの子の今後が良いものになるよう精一杯の|悪あがき(・・・・)をしたいと決意を新たにする。

(慎重に動いていたら一瞬で壊滅させられる。でも作戦なしに飛び込んでいっても相手は高火力。おれの指示で……みんなのこれからが決まる。どちらも両立させたい……させよう)

イラの瞳が強く輝く。

(雰囲気が変わった)

オズワルドが警戒した。
レグルスは向かってきた2名の相手をしている。

獣人の身体能力を生かして動いているものの、子どもはゴースト種族のようで物理攻撃がすり抜ける。
もう一人はレグルスが炎を使うと飲み込んで、同じ攻撃を返してきた。

「くっ! じれったいな!」

「敵は首元を狙ってる! 気をつけて」

イラが叫ぶ。
子どもたちはレグルスと距離をとった。
唯一大人のレグルスを一番に警戒して、抑えている間にオズワルドを殺すつもりだったが、そのオズワルドが驚くべき実力を見せて、暗殺者として生きてきた猛毒スコーピオンを捕らえてしまったのだから、近接戦は不利なだけだ。

子どもが下がったのでレグルスとオズワルドが踏み込む。

「遠距離戦はおれたち、得意なんだよね」

イラが魔力丸薬を噛みつぶして、全身に魔力をみなぎらせる。

「[|鏡の世界(ミラーワールド)]!」

部屋全体がイラの魔力に覆われて、鏡化した。
何重にも自分たちの姿が映り、体感を狂わす精神負荷効果がある。
ぐらりとオズワルドたちがふらついた。
炎魔法を使おうとしたが、

「[|合わせ鏡(ペルソナ)]」

イラの方が早い!

オズワルドたちの前に等身大の鏡が現れる。
そこに映る自分が、鏡から飛び出してきた。

「「なっ!?」」

「「こんな技能を見るのは初めてだな、鏡蜘蛛特有のものか。……ッ!?」」

「「っきゃー! 面白いノヨー♪」」

まったく同じ言葉を話し、レグルスが口元を押さえると同じ動作を返してきた。

「[|合わせ鏡(ペルソナ)]は攻撃したら同じ動作を返してくるからね」

イラが忠告し、

「付与魔法[炎耐性][炎耐性][炎耐性][炎耐性]……!」

子どもがサポートした。

((しまった!))

「「炎魔法[オーバーフレイム]……」」

炎を纏ってみると、相手も炎を纏う。
もちろん白炎となっているのはレグルスとオズワルドだけだが、何度も[炎耐性]を重ねがけしているので鏡の偽物は溶けなかった。
そして|合わせ鏡(ペルソナ)の炎の熱さに(反映は本物だ)といったん手を引っ込める。

(よし! 警戒してる。よくやったねウィスプ)

イラが内心でホッと息を吐いた。

(この[|合わせ鏡(ペルソナ)]は本来攻撃魔法まで反映しない。あくまで動きと、幻覚の炎までが限界。
ウィスプが|合わせ鏡(ペルソナ)に取り憑いて、炎魔法を再現してるんだ。
バレちゃいけない)

イラは無言でオズワルドたちを見ている。
なにか策がありそうなふりをしているのだ。

(ほぼ負け戦だよ。……分かってるよ。この三人はとても強い。でもおれたちだって諦めたくない。逃げ切りたいんだ)

レグルスがペルソナに強烈な蹴りを食らわした!
もちろん同じ動作が返ってきて、足への痛みに眉をしかめる。
しかし(自分よりも威力が低いと感じる。動作は同じでも、俺が鍛えてきた体よりも脆いということか)と活路を見出していた。

オズワルドは後ろを向いた。
そして「スキル[シャドウ・ナイフ]」ナイフを前方に飛ばす。
つまり、ペルソナオズワルドの攻撃はイラたちの方へ。

「えっ!?」

イラが驚きの声を漏らして、慌てて避けた。

「狙いがズレたか」

(冗談じゃないよ! どうしてそんな奇策を思いつくの!?)

イラの心の疑問に答えるならば、主人に教育されたからである。

(ペルソナの攻撃魔法は幻覚だから、当たってもすり抜けてた。
でも避けておいてよかった! だってすり抜ける様子をみせてたら幻覚だってバレちゃうし……。おれが避けたナイフが壁に吸い込まれていったのは[|鏡の世界(ミラーワールド)]の効果だって思ったみたいだね)

オズワルドが追加で投げたナイフを、イラたちはちょこまかとかわす。

「「ねぇ! 初めまして」」

ミディが楽しげにペルソナと手を振りあっている。

「「わああ! 同じ仕草だー!」」

つい好奇心を優先させてしまう幼いミディに、オズワルドとレグルスが注意しようと口を開く。

「「ねえ! アナタも美味しそうネ……?」」

口を閉じた。
ミディは妖しい笑みを浮かべている。
人型ミディに、にょろりとイカゲソ尻尾が生えた。もちろんペルソナにも。

「水魔法[ウォーターナイフ]」

スパァン! とミディのセルフカッティング!
ペルソナの水魔法はただの幻覚だが、ミディの姿を映して尻尾の先がちょん切れた。

先端から、チロリと赤い炎が覗く。

「「あれれ?」」

ミディが自分の尻尾を見る。炎なんてない。
ペルソナを見る。炎があわてて尻尾の中に引っ込んでいった。

((なにか、仕込まれている!))

レグルスとオズワルドが確信した。

「付与魔法[硬化][硬化][硬化]……!」

子どものフォローが、確信をさらに高めてしまった。
獣人二人が目を細める。
しかし、今のペルソナたちは鍛えられた獣人の体よりも硬いだろう。

「「オズワルド。やるぞ」」

「「ああ」」

レグルスとオズワルドが向き合った。
イラたちは防御姿勢をとりながら、怪訝そうに眺めている。

「「「「おおおおおおおおーー!!」」」」

▽レグルスと オズワルドの 全力パンチ!
▽お互いの拳が ぶつかった!
▽大ダメージ!
▽粗茶(エリクサー)を飲む! 回復!

▽ペルソナは 粉々に砕け散った。

唖然とイラが光景を眺める。

「……同じ硬度のペルソナをぶつけ合って、壊したの? なにそれ!?」

「「俺たちの主人ならこうすると思った」」

レグルスとオズワルド二人の声が被り、お互いに顔を見合わせてから、拳をコツンと合わせた。

鏡の破片となったペルソナから、炎が顔を出している。
ミディペルソナに乗り移った!

「なにっ!? 魔法の威力が増すのか、ミディの見た目のまま自由に動き出すのか……!?」

「「ミィ?」」

警戒するオズワルドたちとは違い、ミディはまた無邪気に手を振る。
ペルソナは同じ仕草を返した。まだ動きが反映するようだ。
しかし顔がニヤリと歪む。

「そのうち自由に動き出すぞ!」

殺気を感じ取ったレグルスが警告した。

<そのうち、ということはまだ反映状態でございますねーーーー!?>

「「!?」」

「「あっれー? キラ先輩の声ネー!」」

<ミディアム・レアさん、訓練です! 今から私が行う環境変化をうまく利用して下さいませ。さあ♪ ご機嫌なリズムに合わせて♪ hey! yo!>

▽キラが割り込んできたーーーー!
▽[投影]
▽鏡の床に 海を映した。

「「活用……んー? ヒラメいたノヨー!」」

▽ミディが イカ姿になった。
▽海に潜る!

(どういうこと!?)

イラが大慌てで記憶を探る。身内にいる魔物の特性を思い出した。

(もしかして[シー・フィールド]の効果……!)

その通り。陸生のシーモンスターが、地面を海のように泳ぐことができる能力だ。ミディのもう一つのギフト。

ここは建物の内部だが、イラの[|鏡の世界(ミラーワールド)]の中でキラが投影をしたため、世界の判定を勝ち取った。
キラに聞けば<なんとなくこうすればいいって[|理(ことわり)の理解]で把握したんですよねー!>と答えるだろう。

ミディは大海(ゆか)をゆうゆうと泳ぎ、ザブーン! と浮上。
そのついでに敵を二人転ばせた。
せっかくなので[束縛技術]で締めあげる。

ペルソナはというと、床を泳ぐことができなかったのでぺしゃんこになっていた。
海の映像の中にただの鏡が張り付いている状態だ。
床に叩きつけられた炎はフラフラと飛んで、捕らえられているウィスプの中に戻っていく。
本体の魔力は回復したが、動けない。

「小細工してたみたいだが、終わりだな」

「…………」

イラは何も話さない。
言葉から弱点を知られることだってある。

(まさかペルソナがこんなに早く破られるだなんて。絶体絶命だ)

ぎゅっと眉を顰めて、昔のことを思い出した。

ーーイラが鬼蜘蛛のコミュニティで暮らしていた頃、鳥種クモカリドリが縄張りを侵食してきたことがあった。
蜘蛛と鳥は激しく戦い、森の一部を壊し尽くした。
後ほど魔王国の樹人族たちが森林再生を行なったほどだ。

劣勢なのは鬼蜘蛛であった。
クモカリドリ=蜘蛛狩り鳥は全員が生まれながらに[スパイダーキラー]の称号を持つ。

鬼蜘蛛たちは、クモカリドリに死を恐れない突撃をかけて、一矢報いようと団結した。

「やめてよ……死なないで!」

その作戦に抗ったのが鏡蜘蛛(ミラースパイダー)のイラ。
親は鬼蜘蛛だが、突然変異した希少種であった。

イラは[|鏡隠蔽(ミラージュ)]や[|合わせ鏡(ペルソナ)]のスキルで味方をかばった。
クモカリドリは予想外の技能に攻めあぐねて、しかし鏡の隙間から姿をのぞかせていた鬼蜘蛛をついばんだ。傷が重なって、鬼蜘蛛たちを緩やかに殺していった。
未熟なイラ一人では全員を庇いきれなかったのだ。

クモカリドリの群れが『効率が悪い』と他の蜘蛛を探しに飛び立った時、生きていた鬼蜘蛛は数体だけだった。
イラの背に強い衝撃があり、鏡が全て割れた。

「……お前は仲間を殺し、鬼蜘蛛の誇りも穢した!」

「鬼蜘蛛が強烈な一撃をくらった時、[呪い]が発動する。あのクモカリドリの群れを呪って根絶やしにするつもりだったのに……その復讐も叶わなくなった」

「鬼蜘蛛一族が消え、クモカリドリのみが悠々と生き延びるなど。恥もいいところだ」

「「「イラのせいだ」」」

その言葉はこれからずっとイラを苦しめることになる。
種族禁忌、一族見殺し、この評価がイラに重くのしかかった。
ラナシュ世界の善悪の秤は「種族の倫理観に基づく」。

疲労していた鬼蜘蛛たちはイラを殺す魔力を惜しんで、罵倒してからその場を去った。
後には、鬼蜘蛛の死骸と、立ち上がる気力もなくしたイラが残った。
死に間際におそろしい形相となった鬼蜘蛛の背の模様をぼんやりと見つめて、イラが涙を流す。

「だって、守りたくて……でも……それはおれのワガママで。みんな無駄死に……」

背中の流血によって体温が下がり、イラは(このまま死ぬんだろう)と思った。
なにが正解だったのかわからないまま、目を閉じた。

瞼の裏には夢のような空間が広がる。
藍色の空間に、星のような輝きが広がっていた。
死後の世界ではなく、ドリームワールドという空間だと、現れた男性が教えてくれた。
イラはその手を取ったのだ。

そこまで思い出すと、イラは動き出した。
まっすぐにミディを目指す。

『ミィ?』

「「炎魔法[オーバーフレイム]!」」

オズワルドとレグルスがイラを足止めしようとする。
イラは燃えることを構わずに突き進んできた。

「ーーッ」

「「イラぁ!?」」

子どもたちが悲鳴をあげた。
一人が回復魔法を使おうとしたが、イラが鋭く睨んだので口をつぐむ。
覚悟を知って震えた。

イラが魔道具をミディに押し当てると、衝撃でミディが壁までふっ飛ぶ!

「「ミディ!」」

オズワルドが[|重力操作(グラヴィティ)]でミディを軽くして衝撃を弱めた。
しかし目を回しているようだ。[超再生]するとはいえしばらく動けないだろう

イラは子どもに何かを握らせた。

そしてさらに前に進む!

「得意なのは後衛じゃなかったのか?」

レグルスが対応。
イラの前に炎の壁を作って牽制しながら、捕らえるべく駆け込んだ。

「[反射鏡]」

「!」

新たなイラのスキルを警戒するが、

「何をやっているんだ!?」

鏡はイラに向けられている。
つまり反射した炎をすべてイラが受け止めた。

「「イラぁーー!?」」

イラの背後にも[反射鏡]が展開していて、炎の威力をさらに高めている。

(致命傷だ)

レグルスがイラを警戒しながらも、オズワルドを引き寄せて視界を封じた。
魔人族が死ぬ瞬間を見せないように。

(おれの望みは守ること、どんな手を使っても……っ)

イラの命が燃え尽きようとしていた。
最期の望みをどうか、と強く願った。
魂が輝く。

 

 

 

 

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